薄毛や抜け毛でお悩みではありませんか?AGA(男性型脱毛症)は成人男性に多く見られる進行性の脱毛症です。
この記事では、AGAがなぜ起こるのか、その根本的な原因である男性ホルモンや遺伝との関係、そして専門医が行う詳しい検査方法について解説します。
ご自身の状態を正しく理解し、適切な対策を始めるための一歩として、ぜひお役立てください。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
AGAの根本原因|男性ホルモンと遺伝子の関係
AGA(男性型脱毛症)の発症には、主に男性ホルモンと遺伝的要素が深く関わっています。これらがどのように影響し合い、薄毛を引き起こすのかを理解することが、AGA対策の第一歩です。
多くの方が悩むこの問題の核心に迫ります。
男性ホルモンの影響

男性ホルモンは、男性らしい身体つきを形成する上で重要な役割を果たしますが、AGAの発症においては主役とも言える存在です。
特に「テストステロン」という男性ホルモンが、特定の酵素と結びつくことで変化し、毛髪の成長に影響を与えます。
テストステロンからDHTへ
AGAの引き金となるのは、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、毛乳頭細胞などに存在する「5αリダクターゼ」という還元酵素によって、より強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されることです。

このDHTが、毛髪の成長を妨げる信号を出す原因となります。DHTの生成量は個人差があり、これがAGAの進行速度にも影響します。
男性ホルモンレセプターの感受性
生成されたDHTは、毛乳頭細胞にある「男性ホルモンレセプター(受容体)」と結合します。このレセプターの感受性が高い人ほど、DHTの影響を受けやすく、AGAが発症・進行しやすい傾向にあります。
レセプターの感受性は遺伝によって決まる部分が大きいため、家系的に薄毛の人が多い場合は注意が必要です。この感受性の違いが、同じDHT量でも薄毛の進行度に差が出る理由の一つです。
DHTと5αリダクターゼの種類
項目 | 説明 | 主な存在場所 |
---|---|---|
5αリダクターゼⅠ型 | 主に側頭部や後頭部、皮脂腺に多く存在する酵素。 | 全身の毛包、皮脂腺 |
5αリダクターゼⅡ型 | 主に前頭部や頭頂部の毛乳頭に多く存在する酵素。AGAの進行に強く関与する。 | 前頭部・頭頂部の毛包 |
ジヒドロテストステロン (DHT) | テストステロンが5αリダクターゼによって変換された強力な男性ホルモン。毛母細胞の働きを抑制する。 | 毛乳頭細胞 |
遺伝的要素の関与
AGAの発症には遺伝が大きく関わっていることが知られています。「父親が薄毛だと自分も薄毛になるのでは」と心配される方も多いでしょう。実際に、AGAのなりやすさには特定の遺伝子が影響しています。
母方からの遺伝
男性ホルモンレセプターの遺伝子はX染色体上に存在します。男性は母親からX染色体、父親からY染色体を受け継ぐため、このレセプターの感受性に関する遺伝情報は主に母方から受け継がれると考えられています。
そのため、母方の祖父や叔父が薄毛の場合、AGAを発症する可能性が高まることがあります。
複数の遺伝子の組み合わせ
ただし、AGAの発症に関わる遺伝子は男性ホルモンレセプター遺伝子だけではありません。5αリダクターゼの活性度に関わる遺伝子など、複数の遺伝子が複雑に絡み合って発症リスクを形成します。
そのため、父方、母方の両方の家系に薄毛の方がいる場合は、より注意が必要と言えるでしょう。遺伝的要因を正確に把握するためには、専門医による遺伝子検査も有効な手段の一つです。
髪が細くなる理由|DHT(ジヒドロテストステロン)の働き
AGAによって髪が薄く見えるようになる主な理由は、髪の本数が減るだけでなく、一本一本の髪が細く弱々しくなってしまう「軟毛化」にあります。
この現象の主犯格が、前述のジヒドロテストステロン(DHT)です。
毛周期 (発毛サイクル)の短縮
健康な髪の毛には、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルがあり、これを毛周期(発毛サイクル)と呼びます。通常、成長期は2年から6年ほど続き、この間に髪は太く長く成長します。
しかし、DHTが男性ホルモンレセプターと結合すると、毛母細胞に対して成長を抑制するような信号が送られます。
TGF-βの誘導
DHTがレセプターと結合すると、「TGF-β」というサイトカイン(細胞間で情報を伝達するタンパク質)の一種が産生されます。
このTGF-βが、毛母細胞の増殖を抑制し、アポトーシス(細胞の自然死)を誘導することで、髪の成長期を著しく短縮させます。

結果として、髪が十分に成長する前に退行期・休止期へと移行してしまい、細く短い毛が増えてしまうのです。これがAGAによる薄毛の進行の直接的な原因です。
毛周期の乱れによる影響
毛周期の段階 | 正常な場合 | AGAの場合 (DHTの影響) |
---|---|---|
成長期 | 2~6年 (太く長く成長) | 数ヶ月~1年 (十分に成長できない) |
退行期 | 約2週間 (成長が止まる) | 期間はほぼ同じだが早期に移行 |
休止期 | 約3~4ヶ月 (脱毛し次の準備) | 期間はほぼ同じだが細い毛が抜ける |
この毛周期の乱れが繰り返されることで、徐々に太い髪の毛が減り、細い産毛のような毛髪の割合が増加し、地肌が透けて見えるようになります。
早期の対策と治療によって、この毛周期の乱れを正常化させることが、AGA改善の鍵となります。
毛母細胞の働きの低下
毛母細胞は、髪の毛を作り出す工場のような役割を担っています。DHTの影響は、この毛母細胞の働きそのものを低下させます。
成長期が短縮されるだけでなく、毛母細胞が新しい髪の毛を力強く生み出すエネルギーも奪われてしまうのです。
栄養供給の阻害
DHTは毛根周囲の血管にも影響を与え、血流を悪化させる可能性が指摘されています。毛母細胞は血液から栄養や酸素を受け取って活動するため、血流が悪化すると十分な栄養が得られず、健康な髪を育てることが難しくなります。
これにより、髪の毛は細くなるだけでなく、ハリやコシも失われがちです。
家系に隠された傾向|AGAの遺伝的要素を理解する

AGAの発症には遺伝が深く関わっていることは広く知られています。ご自身の家系に薄毛の方がいる場合、AGAのリスクを抱えている可能性があり、早期からの予防や対策を考える上で重要な情報となります。
遺伝的要素を正しく理解することで、漠然とした不安を軽減し、具体的な行動に移しやすくなります。
X染色体と男性ホルモンレセプター遺伝子
AGAの遺伝的要因として特に注目されるのが、男性ホルモンレセプターの感受性に関する遺伝子です。この遺伝子はX染色体上に存在します。
男性は母親からX染色体を、父親からY染色体を受け継ぐため、母親の家系(母方の祖父や叔父など)に薄毛の人がいる場合、その影響を受けやすいとされています。
しかし、これはあくまで傾向であり、必ずしも遺伝するわけではありません。
遺伝子の多型性
男性ホルモンレセプター遺伝子にはいくつかのバリエーション(多型)が存在し、どのタイプを受け継ぐかによってDHTへの反応性が異なります。
特定のタイプの遺伝子を持つ人は、DHTに対してより敏感に反応し、AGAが進行しやすくなる可能性があります。遺伝子検査によって、このレセプター遺伝子のタイプを調べることができ、AGAのリスク評価や治療薬の選択に役立つことがあります。
例えば、フィナステリドやデュタステリドといった治療薬は5αリダクターゼを阻害することでDHTの産生を抑えますが、レセプターの感受性が極端に高い場合は、薬の効果を感じにくいこともあり得ます。
事前に遺伝子検査を行うことで、より個人に合った治療方針を立てる一助となります。
5αリダクターゼの活性度と遺伝
テストステロンをDHTに変換する酵素である5αリダクターゼの活性度も、遺伝によって左右される要素の一つです。この酵素の活性が高い人は、より多くのDHTを産生しやすく、結果としてAGAのリスクが高まる可能性があります。
5αリダクターゼにはⅠ型とⅡ型があり、特にⅡ型は前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞に多く存在し、AGAの進行に強く関与しています。このⅡ型5αリダクターゼの活性度に関わる遺伝的傾向も、AGAのなりやすさに影響します。
遺伝的リスクの複合的評価
遺伝的要因 | 影響 | 主な遺伝経路 |
---|---|---|
男性ホルモンレセプターの感受性 | DHTの影響の受けやすさ | 主に母方 (X染色体) |
5αリダクターゼの活性度 | DHTの産生量 | 両親から |
その他の関連遺伝子 | 毛髪の成長、毛周期など | 両親から |
AGAの遺伝的リスクは、単一の遺伝子だけで決まるものではなく、複数の遺伝子が複雑に絡み合って形成されます。そのため、両親や祖父母、叔父叔母など、幅広い血縁者の状況を参考にすることが望ましいです。
ただし、遺伝的素因があるからといって必ずAGAが発症するわけではなく、また発症しないとも限りません。あくまでリスク要因の一つとして捉え、生活習慣の見直しや早期の専門医への相談を検討することが大切です。
知らず知らずの影響|AGAを加速させる生活習慣
AGAの主な原因は男性ホルモンと遺伝ですが、日々の生活習慣もその進行に影響を与えることが知られています。
不適切な生活習慣は、頭皮環境を悪化させたり、ホルモンバランスを乱したりすることで、AGAの進行を早めてしまう可能性があります。AGAの対策や予防を考える上で、生活習慣の見直しは非常に重要です。

食生活の乱れと栄養不足
髪の毛は、私たちが摂取する栄養素から作られています。偏った食生活や無理なダイエットは、髪の成長に必要な栄養素の不足を招き、健康な髪の育成を妨げます。
髪に必要な栄養素
特にタンパク質、亜鉛、ビタミン類は髪の主成分であるケラチンの合成に欠かせません。例えば、亜鉛は細胞分裂やタンパク質の合成を助けるミネラルであり、不足すると髪の成長が滞ることがあります。
また、ビタミンB群は頭皮の新陳代謝を促し、ビタミンEは血行を促進して毛母細胞へ栄養を届けやすくします。これらの栄養素が不足すると、髪が細くなったり、抜けやすくなったりする可能性があります。
- タンパク質 (肉、魚、大豆製品、卵など)
- 亜鉛 (牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類など)
- ビタミンB群 (緑黄色野菜、魚介類、肉類など)
- ビタミンE (ナッツ類、植物油、アボカドなど)
脂質の多い食事や糖分の過剰摂取も、皮脂の過剰な分泌を招き、頭皮環境を悪化させる原因となり得ます。バランスの取れた食生活を心がけることが、AGAの進行を緩やかにするためには大切です。
インスタント食品やファストフードに偏らず、多様な食材から栄養を摂取するよう努めましょう。
ストレスの影響
過度なストレスは、自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させて頭皮の血行不良を引き起こすことがあります。血行が悪くなると、毛母細胞に十分な酸素や栄養が供給されにくくなり、髪の成長が妨げられます。
また、ストレスはホルモンバランスにも影響を与え、AGAを間接的に悪化させる可能性があります。
ストレスを完全に避けることは難しいですが、適度な運動、趣味の時間、十分な睡眠などで、上手にストレスを解消する方法を見つけることが重要です。
睡眠不足と生活リズム
髪の毛の成長には、成長ホルモンが深く関わっています。成長ホルモンは、特に睡眠中に多く分泌されるため、睡眠不足は髪の健やかな成長を妨げる一因となります。
質の高い睡眠を確保するためには、規則正しい生活リズムを保ち、就寝前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用を控えるなどの工夫が必要です。
夜更かしを避け、毎日同じ時間に寝起きする習慣をつけることが、頭皮環境を整え、AGAの進行を抑制する上で役立ちます。
生活習慣とAGA進行リスク
生活習慣の乱れ | 髪への影響 | 対策・予防のポイント |
---|---|---|
偏った食生活 | 栄養不足、皮脂の過剰分泌 | バランスの取れた食事、亜鉛・ビタミン摂取 |
慢性的なストレス | 血行不良、ホルモンバランスの乱れ | 適度な運動、趣味、十分な休息 |
睡眠不足 | 成長ホルモンの分泌低下 | 規則正しい生活、質の高い睡眠 |
喫煙と飲酒
喫煙は血管を収縮させ、頭皮の血行を著しく悪化させます。これにより、毛根への栄養供給が阻害され、髪の成長に悪影響を及ぼします。
また、タバコに含まれる有害物質は体内のビタミンCを破壊し、抗酸化力を低下させるため、頭皮の老化を早める可能性も指摘されています。
過度な飲酒も、肝臓でのアルコール分解に多くのビタミンやミネラルが消費されるため、髪に必要な栄養素が不足しがちになります。AGAの進行を懸念するなら、禁煙し、飲酒は適量を心がけることが賢明です。
確かな診断への道|専門医が行う科学的検査法
AGAの疑いがある場合、自己判断せずに専門医の診断を受けることが重要です。
医師は、問診や視診に加え、科学的な根拠に基づいた様々な検査を通じて、脱毛の原因を特定し、AGAの進行度を正確に評価します。

これにより、一人ひとりの状態に合わせた適切な治療計画を立てることが可能になります。
問診の重要性
最初のステップとして、医師による詳細な問診が行われます。
問診では、薄毛が気になり始めた時期、進行の速さ、家族歴(特に両親や祖父母の薄毛の状態)、生活習慣(食生活、睡眠、ストレス、喫煙・飲酒の習慣など)、既往歴、現在使用中の薬などについて詳しく尋ねます。
これらの情報は、AGAの診断だけでなく、他の脱毛症との鑑別や、治療方針を決定する上で非常に重要な手がかりとなります。
視診と触診
次に、医師が頭皮や毛髪の状態を直接観察する視診と、触って確認する触診を行います。
視診では、薄毛の範囲やパターン(M字型、O字型など、AGAに特徴的な脱毛パターンか)、頭皮の色、炎症やフケの有無、毛髪の太さや密度などを詳細に確認します。
触診では、頭皮の硬さや毛髪の質感などを評価します。これにより、AGAの進行度や頭皮環境の状態を把握します。
主な視診のポイント
観察項目 | 確認内容 | AGAとの関連 |
---|---|---|
脱毛パターン | M字、U字、頭頂部など | AGA特有のパターンか確認 |
毛髪の太さと密度 | 細毛化、軟毛化の程度 | 進行度評価の指標 |
頭皮の状態 | 色、炎症、皮脂、乾燥 | 頭皮環境の把握、他の脱毛症との鑑別 |
ダーモスコピー検査(頭皮マイクロスコープ検査)
ダーモスコピーは、特殊な拡大鏡(ダーモスコープ)やマイクロスコープを用いて、頭皮や毛穴、毛髪の状態を詳細に観察する検査です。
肉眼では確認できない毛穴の詰まり、炎症の程度、毛髪の太さのばらつき(太い毛と細い毛の混在)、1つの毛穴から生えている毛髪の本数などを客観的に評価できます。
これにより、AGAの初期症状である毛髪の軟毛化や、頭皮環境の悪化を早期に発見することが可能です。検査は痛みもなく、短時間で終わります。
伝えるべきこと|診断精度を高める問診のポイント
専門医によるAGA診断の第一歩は問診です。患者さんから提供される情報が正確で詳細であるほど、医師は脱毛の原因を的確に把握し、適切な治療方針を立てやすくなります。
問診の際には、些細なことと思える情報でも、診断の手がかりになることがありますので、積極的に伝えるようにしましょう。
薄毛に関する具体的な悩み
いつから薄毛が気になり始めたのか、どの部位(前頭部、頭頂部など)の薄毛が特に気になるのか、進行のスピードは速いと感じるか遅いと感じるかなど、具体的な情報を伝えることが大切です。

例えば、「半年前からシャンプー時の抜け毛が増え、特に頭頂部が透けて見えるようになった」といった具体的な説明は、医師が状態を把握する上で役立ちます。
家族歴(遺伝的背景)
AGAは遺伝的要素が強いため、家族(特に父方・母方の両親、祖父母、兄弟、叔父・叔母など)に薄毛の方がいるかどうか、いる場合はどのような進行パターンだったかなどを伝えることは非常に重要です。
これにより、遺伝的リスクの程度を推測する材料となります。
伝えるべき家族の情報
- 父、母、祖父、祖母の薄毛の有無
- 兄弟姉妹の薄毛の有無
- 薄毛の親族がいる場合、発症年齢や進行度
生活習慣と既往歴
現在の生活習慣(食生活、睡眠時間、ストレスの状況、喫煙・飲酒の有無と量)や、過去にかかった病気、現在治療中の病気、服用中の薬(市販薬やサプリメントも含む)についても正確に伝えましょう。
特定の薬剤の副作用で脱毛が起こることもありますし、生活習慣の乱れがAGAの進行を早めることもあります。これらの情報は、他の脱毛原因との鑑別や、治療薬を選択する際の安全性を確保するために必要です。
問診で医師に伝えるべき主な項目
項目カテゴリ | 具体的な内容例 |
---|---|
薄毛の自覚症状 | 発症時期、気になる部位、進行速度、抜け毛の量 |
家族歴 | 両親、祖父母、兄弟などの薄毛の有無と状況 |
生活習慣 | 食事内容、睡眠時間、ストレス度、運動習慣、喫煙・飲酒歴 |
既往歴・服薬歴 | 過去の大きな病気、現在治療中の疾患、服用中の薬剤・サプリメント |
自己処理・ケア | 使用中の育毛剤、頭皮マッサージの有無など |
これらの情報を事前にメモなどにまとめておくと、問診時にスムーズに伝えることができます。医師に正確な情報を提供することが、より的確な診断と効果的な治療への第一歩となります。
数値で見る体内状況|血液検査から分かるホルモンバランス

AGAの診断や治療方針の決定において、血液検査は重要な情報を提供します。血液検査によって、体内のホルモンバランスや栄養状態、肝機能などを客観的な数値で把握することができます。
これにより、AGAの原因をより深く探るとともに、治療薬の適応性や安全性を確認します。
男性ホルモン関連の測定
AGAに直接関与する男性ホルモンの値を測定します。主に、テストステロン(総テストステロン、遊離テストステロン)や、場合によってはDHT(ジヒドロテストステロン)の血中濃度を調べることがあります。
これらの値は、AGAの活動性や、治療薬(特に5αリダクターゼ阻害薬)の効果を予測する上での参考情報となります。
ただし、血中DHT濃度と頭皮のDHT濃度は必ずしも一致しないため、あくまで補助的な指標として用いられます。
甲状腺ホルモンの測定
甲状腺機能の異常(甲状腺機能亢進症や低下症)は、脱毛の原因となることがあります。AGAと症状が似ている場合や、他の脱毛症との鑑別が必要な場合に、甲状腺ホルモン(TSH、FT3、FT4など)の値を測定します。
これにより、甲状腺疾患による脱毛の可能性を除外、あるいは特定します。
栄養状態の確認
髪の毛の成長には、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が不可欠です。血液検査では、鉄(フェリチン)、亜鉛などのミネラルや、特定のビタミンの不足がないかを確認することができます。
これらの栄養素が不足している場合、AGAの進行を助長したり、治療効果を妨げたりする可能性があるため、必要に応じて栄養指導やサプリメントの提案が行われます。
血液検査で確認できる主な項目とAGAとの関連
検査項目例 | AGAとの関連・確認目的 |
---|---|
テストステロン | AGAの原因となるDHTの元となるホルモン値の確認 |
甲状腺ホルモン (TSH, FT3, FT4) | 甲状腺機能異常による脱毛症との鑑別 |
鉄 (フェリチン) | 鉄欠乏による脱毛の可能性、髪の栄養状態の確認 |
亜鉛 | 髪の主成分ケラチンの合成に必要なミネラルの確認 |
肝機能 (AST, ALT, γ-GTP) | 治療薬の代謝・排泄に関わる肝臓の健康状態の確認 |
腎機能 (BUN, クレアチニン) | 治療薬の排泄に関わる腎臓の健康状態の確認 |
これらの血液検査の結果は、他の検査結果(視診、ダーモスコピーなど)と総合的に判断され、AGAの診断や治療方針の決定に役立てられます。
また、治療薬を使用する場合には、治療開始前と治療中に定期的に血液検査を行い、副作用の有無や健康状態を確認することが一般的です。
顕微鏡が映し出す真実|毛髪・頭皮の詳細検査

視診や問診、血液検査に加え、より詳細に毛髪や頭皮の状態を調べるために、顕微鏡を用いた検査が行われることがあります。
これにより、肉眼では捉えきれないミクロな変化を客観的に評価し、AGAの進行度や頭皮環境の問題点をより正確に把握することができます。
毛髪構造の観察(トリコグラム)
トリコグラムは、抜去した毛髪(通常は数十本から百本程度)を顕微鏡で観察し、毛根の状態や毛周期(成長期、退行期、休止期の毛髪の割合)を分析する検査です。
AGAが進行すると、成長期の毛髪の割合が減少し、休止期の毛髪の割合が増加する傾向が見られます。
また、毛根の形状や太さ、毛幹の異常(細くなっている、途中で切れているなど)も確認でき、脱毛の原因や進行度を評価する上で有用な情報となります。
トリコグラムで分かること
- 成長期毛の割合
- 休止期毛の割合
- 毛根の萎縮度
- 毛幹の太さ、形状異常
頭皮生検(スキンバイオプシー)
頭皮生検は、局所麻酔の上で頭皮の一部(通常は直径数ミリ程度)を採取し、それを顕微鏡で詳細に調べる病理組織検査です。
他の検査で診断が困難な場合や、AGA以外の脱毛症(円形脱毛症、瘢痕性脱毛症など)との鑑別が特に必要な場合に行われることがあります。
毛包の数や大きさ、炎症細胞の浸潤の有無、皮脂腺の状態などを詳細に観察することで、より確定的な診断に繋げることができます。
この検査はやや侵襲的なため、実施されるケースは限られますが、診断が難しい症例においては非常に有効な手段です。
頭皮・毛髪検査の比較
検査方法 | 主な目的 | 特徴 |
---|---|---|
ダーモスコピー | 頭皮・毛穴・毛髪の拡大視 | 非侵襲的、簡便、初期変化の発見 |
トリコグラム | 毛周期の分析、毛根の状態評価 | 毛髪を抜去、客観的データ取得 |
頭皮生検 | 病理組織学的診断 | 侵襲的、確定診断、難治例や鑑別困難例に実施 |
これらの詳細な検査は、すべての患者さんに行われるわけではありません。医師が問診や視診の結果を踏まえ、必要と判断した場合に実施されます。
検査によって得られた情報は、AGAの診断精度を高め、より個別化された治療計画の立案に貢献します。特に、遺伝子検査とこれらの詳細検査を組み合わせることで、治療薬の選択や効果予測の精度を高めることが期待できます。
例えば、特定の遺伝子タイプを持つ患者さんで、かつ毛髪の軟毛化が顕著な場合、より積極的な治療介入を早期から検討する、といった判断が可能になります。
検査結果を読み解く|あなたのAGAの現状と傾向
専門医による各種検査が終了すると、その結果を総合的に評価し、患者さん一人ひとりのAGAの現状と今後の進行傾向について説明があります。

検査結果を正しく理解することは、ご自身の状態を客観的に把握し、医師と協力して適切な治療や対策を進めていく上で非常に重要です。不安な点や疑問点は遠慮なく医師に質問しましょう。
AGAの進行度の評価
医師は、問診、視診、ダーモスコピー、必要に応じて血液検査や毛髪検査の結果を総合し、AGAの進行度を判断します。
進行度は、一般的に「ハミルトン・ノーウッド分類(男性型)」や「ルードウィッグ分類(女性型、男性にも参考として用いられることがある)」といった分類スケールを用いて評価されます。
これにより、現在の薄毛の状態がどの段階にあるのかを客観的に把握できます。
例えば、「ノーウッド分類でステージⅢ vertex(頭頂部の薄毛が目立つ段階)」といった具体的な説明を受けることで、ご自身の状態をより明確に認識できます。
脱毛原因の特定と他の脱毛症との鑑別
検査結果は、脱毛の主たる原因がAGAであるのか、あるいは他の要因(例:円形脱毛症、脂漏性皮膚炎に伴う脱毛、栄養不足による脱毛など)が関与しているのかを特定するためにも用いられます。
血液検査で甲状腺機能異常や重度の栄養欠乏が見つかれば、そちらの治療を優先または並行して行う必要があります。ダーモスコピーや頭皮生検の結果は、これらの鑑別に役立ちます。
治療方針の提案
検査結果と診断に基づき、医師は患者さんに最も適した治療方針を提案します。
AGAの治療には、内服薬(フィナステリド、デュタステリドなど)、外用薬(ミノキシジルなど)、自毛植毛、LED照射治療など、様々な選択肢があります。
どの治療法を選択するかは、AGAの進行度、患者さんの年齢、健康状態、ライフスタイル、治療に対する希望などを考慮して決定されます。遺伝子検査の結果も、薬の感受性予測などに活用されることがあります。
検査結果に基づく一般的な傾向
検査所見の例 | 考えられる状態・傾向 | 治療アプローチの方向性 |
---|---|---|
前頭部・頭頂部の軟毛化が顕著 | AGAが進行中 | 5αリダクターゼ阻害薬、ミノキシジル外用など |
血液検査で亜鉛不足 | 栄養不足が脱毛を助長している可能性 | 食事指導、亜鉛サプリメントの検討 |
ダーモスコピーで頭皮の強い炎症 | 脂漏性皮膚炎などの合併の可能性 | 抗炎症治療、頭皮ケアの見直し |
医師からの説明を受ける際には、検査結果の具体的な数値や画像を見ながら、ご自身の状態について理解を深めることが大切です。
治療の目標や期待できる効果、考えられる副作用やリスク、治療にかかる期間や費用などについても十分に説明を受け、納得した上で治療を開始するようにしましょう。
疑問や不安があれば、その場で解消しておくことが、前向きに治療に取り組むための第一歩です。
よくある質問 (FAQ)
AGAの原因や検査方法について、患者様からよく寄せられるご質問とその回答をまとめました。
AGAの原因や検査方法についてご理解いただけましたでしょうか。もしAGAの治療や予防についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。
Reference
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