先天性乏毛症・縮毛症とは?

先天性乏毛症・縮毛症とは?

「生まれつき髪の毛が少ない」「子供の頃から髪が縮れている」といったお悩みはありませんか?これらは「先天性乏毛症」や「先天性縮毛症」と呼ばれる状態かもしれません。

これらの症状は、遺伝的な要因が関わることが多く、一般的な薄毛とは異なる特徴を持ちます。

この記事では、先天性乏毛症・縮毛症の基本的な知識、症状、原因、そして医療機関での診断や治療法について、薄毛治療を専門とするクリニックの視点から詳しく解説します。

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

目次

先天性乏毛症・縮毛症とは – 生まれつきの髪の悩み

生まれつきの薄毛・縮れ毛をイメージさせる対比イラスト

先天性乏毛症(せんてんせいぼうもうしょう)および先天性縮毛症(せんてんせいしゅくもうしょう)は、生まれたとき、あるいは生後間もなくから髪の毛に特徴的な症状が現れる状態を指します。

これらは単に髪が薄い、あるいはくせ毛であるといった一般的な悩みとは異なり、特定の遺伝子の関与が示唆されることもあります。

先天性乏毛症の基本情報

先天性乏毛症は、生まれつき髪の毛が非常に少ない、または細い状態を特徴とします。髪の密度が著しく低く、頭皮が透けて見えることが多いです。

成長しても髪の量が増えない、あるいはごくわずかしか生えてこないケースも見られます。この症状は、毛包(もうほう:髪の毛を作り出す器官)の数や機能に問題があるために起こると考えられています。

先天性乏毛症の主な症状

乏毛症の主な症状
症状のポイント具体的な状態備考
毛髪の量著しく少ない、まばら頭皮が広範囲に露出
毛髪の質細い、短い、色素が薄いことも成長が乏しい
発症時期出生時または乳幼児期生まれつきの特徴

先天性縮毛症の概要と特徴

先天性縮毛症は、髪の毛が著しく縮れている状態を指します。一般的な縮れ毛(くせ毛)とは異なり、非常に強く、不規則な縮れ方をすることが特徴です。

強く縮れた髪の毛幹クローズアップ

髪の毛が乾燥しやすく、切れやすい、まとまりにくいといった悩みも伴います。この症状も、髪の毛の構造や成分に生まれつきの特徴があるために起こると考えられています。

髪の量が少ない場合と、量は正常でも強い縮れ毛である場合があります。

他の脱毛症との違い

先天性乏毛症・縮毛症は、男性型脱毛症(AGA)や円形脱毛症といった後天的な脱毛症とは発症の経緯や原因が異なります。

後天的な脱毛症がホルモンバランスの変化、免疫系の異常、ストレスなど様々な要因で起こるのに対し、先天性のものは主に遺伝的な背景が関与します。

そのため、診断やアプローチも異なる点を理解することが重要です。

先天性と後天性脱毛症

主な脱毛症との比較

種類主な原因発症時期
先天性乏毛症・縮毛症遺伝的要因が多い出生時~乳幼児期
男性型脱毛症(AGA)男性ホルモン、遺伝思春期以降
円形脱毛症自己免疫疾患、ストレス等全年齢層

どんな症状があらわれるのか – 髪質と頭皮の特徴

先天性乏毛症・縮毛症では、髪の毛の量や質、そして頭皮にも特有の症状が見られることがあります。これらの特徴を把握することは、早期の気づきや適切な対応につながります。

髪の毛の量と太さ

太い正常毛と細い乏毛の比較図

先天性乏毛症の場合、最も顕著なのは髪の毛の量が著しく少ないことです。頭部全体にわたって毛髪がまばらで、地肌が透けて見えることが一般的です。

また、生えている毛髪自体も細く、弱々しい傾向があります。成長しても太くしっかりとした髪に発達しにくいのが特徴です。

一方、縮毛症では髪の量は正常であることもありますが、乏毛症を伴う場合は同様に髪が少ない状態となります。

特徴的な髪質

先天性縮毛症では、髪の毛が非常に強く縮れているのが最大の特徴です。「チリチリした毛」「羊毛状の毛」と表現されることもあります。

この強い縮れ毛は、髪の断面が扁平であったり、キューティクルの構造に異常があったりするために起こると考えられています。髪は乾燥しやすく、光沢がないことが多いです。

また、非常にもろく、切れやすい、あるいは特定の長さ以上に伸びにくいといった症状を伴うこともあります。

髪質の特徴リスト

  • 強い縮れ、ねじれ
  • 乾燥しやすい
  • 光沢がない
  • 切れやすい、もろい

頭皮に見られる症状

先天性乏毛症・縮毛症自体が直接的に頭皮の炎症などを引き起こすわけではありませんが、髪の毛が少ないことで紫外線や外部刺激の影響を受けやすくなる場合があります。

また、毛包の異常に関連して、毛孔性角化症(もうこうせいかくかしょう:毛穴が角化してブツブツする状態)などを伴うこともあります。

頭皮の乾燥やかゆみを感じる場合は、皮膚科専門医に相談し、適切なスキンケア指導を受けることが大切です。

頭皮の状態で注意すべき点

注意点具体的な状態の例対応のヒント
乾燥フケ、かゆみ保湿ケア、低刺激シャンプー
刺激への感受性赤み、ヒリヒリ感紫外線対策、優しい洗髪
毛穴の状態毛孔性角化症の合併皮膚科医による診断とケア

自分でできるセルフチェック方法 – 症状の見分け方

先天性乏毛症・縮毛症の可能性に気づくためには、ご自身の髪や頭皮の状態を注意深く観察することが第一歩です。

いくつかのポイントを押さえてセルフチェックを行い、気になる点があれば専門医に相談しましょう。

生まれつきの髪質変化に気づくポイント

髪の変化を自宅で確認する男性イラスト

最も重要なのは、「いつからその症状があるか」です。先天性のものは、文字通り生まれつき、あるいは乳幼児期から症状が現れます。

子供の頃の写真を見返したり、ご両親に当時の髪の状態を尋ねたりすることも手がかりになります。

幼少期の髪の状態

乳幼児期に髪の生え方が非常に遅かった、髪がほとんど生えてこなかった、あるいは他の子供と比べて明らかに髪が薄かった、異常に縮れていたといった記憶や記録があれば、先天性の可能性を考えます。

思春期以降の変化

思春期以降に始まる薄毛(AGAなど)とは異なり、先天性の場合は幼少期からの状態が持続、あるいは徐々に進行する傾向があります。急激な変化というよりは、慢性的な髪の悩みが特徴です。

他の家族の髪質

先天性乏毛症・縮毛症は遺伝的な要因が関与することが多いため、ご家族(両親、兄弟姉妹、祖父母など)に同様の髪質の方がいるかどうかも重要な情報です。

家族歴がある場合は、遺伝の可能性を考慮して専門医に伝えましょう。

家族歴確認のポイント

確認対象確認する内容
両親若い頃からの髪質、薄毛の悩み
兄弟姉妹同様の髪の症状の有無
祖父母・叔父叔母遺伝的な髪の悩みの有無

注意すべき頭皮の状態

髪の毛だけでなく、頭皮の状態もチェックします。特に、毛穴の詰まりや角化、慢性的 な乾燥や炎症がないかを確認します。

ただし、頭皮の症状だけで先天性乏毛症・縮毛症を判断することは難しいため、あくまで髪の症状と合わせて総合的に見ることが大切です。

なぜ起こるのか – 遺伝子と髪の成長

遺伝子変異が毛包に影響する流れを示す図

先天性乏毛症・縮毛症の発症には、髪の毛の成長や形成に関わる遺伝子の変異が深く関わっていると考えられています。

これらの遺伝子の働きと、髪が作られる仕組みを理解することで、なぜ特有の症状が現れるのかが見えてきます。

先天性乏毛症・縮毛症の主な原因

多くの先天性乏毛症・縮毛症は、特定の遺伝子に起こった変異が原因とされます。髪の毛は、毛母細胞が分裂し、角化することで作られますが、この一連の過程には多数の遺伝子が関与しています。

これらの遺伝子のいずれかに変異があると、正常な髪の毛の形成が妨げられ、毛髪が少なくなる(乏毛)、あるいは異常な縮れ毛(縮毛)として現れます。

特定の遺伝子の関与

これまでに、LIPH、LPAR6、DSG4、U2HRといった遺伝子の変異が、先天性乏毛症や縮毛症の原因となることが報告されています。

これらの遺伝子は、毛包の発達、毛髪の構造形成、脂質代謝など、髪の健康に重要な役割を担っています。

遺伝子診断によって原因遺伝子が特定できる場合もありますが、全てのケースで特定されるわけではありません。

遺伝形式について

遺伝形式には、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝などがあります。

常染色体劣性遺伝の場合、両親が保因者(変異遺伝子を一つ持つが発症はしない)で、子供が両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継いだ場合に発症します。

ご自身の症状や家族歴から、どのような遺伝形式が考えられるか専門医と相談することが重要です。

主な原因遺伝子と関連症状

遺伝子名(例)関連する主な症状主な役割
LIPH乏毛症、縮毛症毛髪成長因子の生成
LPAR6 (P2RY5)乏毛症、縮毛症(羊毛状縮毛)毛髪成長因子の受容体
DSG4乏毛症、縮毛症、毛包構造異常細胞接着因子の構成

髪の毛が作られる仕組みへの影響

遺伝子変異は、毛包の構造や機能に直接影響を与えます。例えば、毛包が十分に発達しない、毛髪のタンパク質構造に異常が生じる、毛髪の成長サイクルが短縮されるといった問題が起こりえます。

これにより、髪が細く弱々しくなったり、強く縮れたり、早期に抜け落ちたりするのです。原因となる遺伝子によって、影響を受ける部分や症状の現れ方が異なります。

医療機関での検査について – 診断までの流れ

医師がダーモスコープで頭皮を診る場面

先天性乏毛症・縮毛症の疑いがある場合、皮膚科、特に毛髪を専門とする医師の診察を受けることが重要です。正確な診断は、適切なケアや治療法の選択、そして将来の見通しを立てる上で欠かせません。

皮膚科・専門医による問診

診断の第一歩は、詳細な問診です。医師は以下のような点について質問します。

  • いつから症状に気づいたか(生まれつきか、乳幼児期か)
  • 症状の具体的な内容(髪の量、質、縮れの程度など)
  • 症状の経過(変化はあるか、進行しているか)
  • 家族に同様の症状の人はいるか(遺伝の可能性)
  • これまでに行ったケアや治療、その効果
  • 他に体の症状はあるか

これらの情報は、診断の手がかりとなるため、できるだけ正確に伝えることが大切です。

視診と触診

次に、医師が実際に頭皮と髪の状態を詳しく観察します(視診)。髪の毛の密度、太さ、色、縮れのパターン、分布などを確認します。また、頭皮に炎症、乾燥、毛穴の異常などがないかも見ます。

必要に応じて、髪の毛を軽く引っ張ってみる(牽引試験)ことで、毛髪の強度や抜けやすさを評価することもあります(触診)。

必要な場合の追加検査

問診や視診だけでは診断が難しい場合や、より詳細な情報が必要な場合には、追加の検査を行います。

ダーモスコピー検査

ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いて、頭皮や毛穴、毛髪の状態を詳細に観察します。毛髪の太さのばらつき、毛穴の形態、血管のパターンなどから、他の脱毛症との鑑別に役立つ情報を得ます。

血液検査

全身性の疾患や栄養障害などが髪に影響を与えている可能性を調べるために、血液検査を行うことがあります。甲状腺機能異常や鉄欠乏性貧血などは、脱毛の原因となることがあるためです。

遺伝子検査の可能性

先天性乏毛症・縮毛症が強く疑われ、原因遺伝子の特定が治療方針の決定や遺伝カウンセリングに有益と判断される場合には、遺伝子検査を検討することがあります。

ただし、遺伝子検査は全ての施設で行えるわけではなく、また費用もかかるため、医師とよく相談した上で実施します。この検査で原因遺伝子が特定されれば、確定診断に至ります。

診断に用いられる検査例

検査名目的得られる情報
問診症状の把握、家族歴確認発症時期、経過、遺伝的背景
視診・触診毛髪・頭皮の状態評価毛髪密度、太さ、縮れ、頭皮異常
ダーモスコピー毛髪・毛穴の詳細観察毛幹異常、毛孔の状態

診断の確定と難病指定について

これらの問診、診察、検査結果を総合的に評価し、医師が診断を確定します。一部の先天性乏毛症・縮毛症は、国の指定難病の対象となっている場合があります。

指定難病と診断されると、医療費助成制度を利用できる可能性があるため、診断がついた際には主治医に確認することが重要です。

患者会などの情報も、同じ悩みを持つ方々との交流や情報交換の場として役立つことがあります。

治療の選択肢と期待できる効果

現在のところ、先天性乏毛症・縮毛症を根本的に完治させる治療法は確立されていません。しかし、症状の緩和やQOL(生活の質)の向上を目指したいくつかの治療法やケアが試みられています。

専門医と相談しながら、ご自身に合った方法を見つけていくことが大切です。

現在行われている治療法

治療の主な目的は、残っている毛髪の成長を促すこと、毛髪の質を改善すること、そして見た目の悩みを軽減することです。

外用薬治療(ミノキシジル)

ミノキシジルとヘアケア製品

ミノキシジルは、もともと高血圧の治療薬として開発されましたが、発毛効果があることが分かり、薄毛治療に用いられています。毛母細胞を活性化させ、毛髪の成長期を延長する作用が期待されます。

先天性乏毛症に対しても、残存する毛包の機能を高める目的で使用されることがあります。ただし、効果には個人差があり、全ての人に有効とは限りません。

医師の指導のもと、適切な濃度と用法で使用することが重要です。ミノキシジルは、皮膚科で処方を受けることができます。

内服薬治療の検討

男性型脱毛症(AGA)に用いられるフィナステリドやデュタステリドといった内服薬は、ホルモンに作用する薬であるため、先天性乏毛症・縮毛症への直接的な効果は期待しにくいとされています。

しかし、症状や状態によっては、他の治療法と組み合わせて検討されることも稀にありますが、専門医の慎重な判断が必要です。

治療法の限界と対症療法

前述の通り、現時点では遺伝子に起因する問題を根本から解決する治療法はありません。そのため、治療は主に対症療法となります。つまり、現れている症状を和らげたり、それ以上悪化させないようにしたりすることが中心です。

期待できる効果についても、劇的な発毛や髪質の完全な改善というよりは、現状維持やわずかな改善を目指すことが多いのが実情です。

治療の限界を理解し、過度な期待をせず、長期的な視点で取り組むことが求められます。

主な治療法と期待される効果の概要

治療法主な目的期待される効果(個人差あり)
ミノキシジル外用毛髪成長促進残存毛の成長、細い毛の太化
ヘアケア製品頭皮環境改善、毛髪保護乾燥予防、切れ毛軽減
ウィッグ・増毛審美性の改善見た目のボリュームアップ

患者会からの情報収集

同じ悩みを持つ人々が集まる患者会は、貴重な情報交換の場となります。治療法に関する新しい情報や、日常生活での工夫、精神的なサポートなど、医療機関だけでは得られない情報を共有できることがあります。

また、同じ境遇の人と話すことで、孤独感が和らぎ、前向きな気持ちになれることもあります。関心のある方は、インターネットなどで患者会の情報を探してみるのも良いでしょう。

日常生活でできる予防とケア方法

バランスの取れた生活習慣

先天性乏毛症・縮毛症の症状を根本的に予防することは難しいですが、適切なヘアケアや生活習慣によって、髪と頭皮の状態を健やかに保ち、症状の悪化を防ぐことは可能です。

専門医のアドバイスを受けながら、日々のケアに取り組みましょう。

頭皮環境を整えるヘアケア

健康な髪は健康な頭皮から育ちます。頭皮環境を良好に保つことは、残っている髪を大切にし、少しでも良い状態を維持するために重要です。

シャンプーの選び方

頭皮への刺激が少ない、アミノ酸系や弱酸性のシャンプーを選びましょう。洗浄力が強すぎるシャンプーは、頭皮の必要な皮脂まで奪い、乾燥を招くことがあります。

香料や着色料が無添加、あるいは少ないものを選ぶのもポイントです。皮膚科医に相談し、ご自身の頭皮タイプに合ったものを推奨してもらうのも良いでしょう。

正しい洗髪方法

洗髪時は、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗います。熱すぎるお湯は頭皮を乾燥させるため、ぬるま湯を使用します。

シャンプー剤やコンディショナーが残らないよう、しっかりとすすぐことも大切です。洗髪後は、タオルで優しく水分を拭き取り、ドライヤーで早めに乾かします。

ドライヤーの熱風を長時間同じ場所に当てないように注意しましょう。

髪への負担を減らす工夫

特に縮毛症の場合、髪が乾燥しやすく切れやすいため、物理的な負担を極力避けることが重要です。

  • 無理なブラッシングを避ける
  • パーマやカラーリングは慎重に(専門医と相談)
  • 髪を結ぶ際は、きつく縛りすぎない
  • 睡眠時の摩擦を減らす(シルクの枕カバーなど)

バランスの取れた食事と生活習慣

髪の毛も体の一部であり、健康な体を作る栄養素が必要です。特定の食品が直接的に発毛を促すわけではありませんが、バランスの取れた食事は髪の健康維持に貢献します。

髪の成長に必要な栄養素(例)

栄養素主な役割多く含む食品例
タンパク質髪の主成分肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛タンパク質の合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉
ビタミンB群頭皮の新陳代謝促進緑黄色野菜、魚介類、穀物

また、十分な睡眠、適度な運動、ストレスを溜めない生活も、全身の健康を通じて頭皮環境を整える上で大切です。喫煙は血行を悪化させ、髪の成長に必要な栄養素が届きにくくなるため、控えることが望ましいです。

これらの生活習慣の見直しは、すぐに効果が出るものではありませんが、長期的に髪と頭皮の健康を支える基盤となります。

専門医への相談タイミングと準備すること

「もしかしたら先天性乏毛症・縮毛症かもしれない」と感じたら、自己判断せずに皮膚科、特に毛髪疾患に詳しい専門医に相談することが重要です。

適切な診断とアドバイスを受けることで、今後の対応が明確になります。

どの段階で専門医に相談すべきか

以下のような状況が見られたら、専門医への相談を検討しましょう。

  • 生まれつき、または幼少期から髪が極端に少ない、または強く縮れている。
  • 成長しても髪の量が増えない、または髪質が改善しない。
  • 家族にも同様の症状の人がいる。
  • 市販の育毛剤やヘアケア製品で効果が見られない。
  • 症状の原因が分からず、不安を感じている。

特に、子供の髪の毛について心配な点がある場合は、早めに小児皮膚科や毛髪専門医に相談することをお勧めします。早期の診断は、適切なケアや将来的な選択肢を考える上で重要です。

相談前にまとめておく情報

専門医を受診する際には、事前に以下の情報を整理しておくと、診察がスムーズに進み、より的確なアドバイスを受けやすくなります。

準備しておくと良い情報リスト

項目具体的な内容
症状の記録いつから、どのような症状があるか(写真があれば持参)
家族歴両親、兄弟姉妹、祖父母などの髪の状態
既往歴・アレルギーこれまでの病気、アレルギー体質の有無
使用中の薬・サプリ内服薬、外用薬、サプリメントなど
生活習慣食事、睡眠、喫煙・飲酒の習慣など

専門医に確認したいことリスト

診察時には、疑問や不安な点を遠慮なく質問しましょう。事前に質問したいことをリストアップしておくと、聞き忘れを防ぐことができます。

質問リストの例

  • 私の症状は先天性乏毛症・縮毛症の可能性が高いですか?
  • 診断のためにはどのような検査が必要ですか?
  • 考えられる原因は何ですか?遺伝の可能性は?
  • どのような治療法やケア方法がありますか?それぞれの効果と副作用は?
  • 日常生活で気をつけることは何ですか?
  • この症状は進行しますか?将来の見通しは?
  • (子供の場合)成長に伴う変化は期待できますか?
  • 難病指定や医療費助成の対象になりますか?
  • 患者会などの情報はありますか?

専門医は、あなたの状態を正確に把握し、最善のサポートを提供するためのパートナーです。信頼関係を築き、納得のいくまで話し合うことが大切です。

よくある質問

先天性乏毛症・縮毛症に関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

子供にも遺伝しますか?

先天性乏毛症・縮毛症は遺伝的要因が関与することが多いため、お子さんに遺伝する可能性はあります。遺伝形式(優性遺伝か劣性遺伝かなど)や、ご両親の遺伝子の状況によって確率は異なります。

例えば、常染色体劣性遺伝の場合、ご両親が共に原因遺伝子の保因者であれば、お子さんが発症する確率は一般的に25%です。

正確な遺伝リスクについては、遺伝カウンセリングを行っている医療機関で専門医に相談することをお勧めします。遺伝子検査が判断材料の一つになることもあります。

完治する治療法はありますか?

残念ながら、2024年現在、先天性乏毛症・縮毛症を根本的に完治させる治療法は確立されていません。

治療の主な目的は、症状の進行を抑えること、残っている毛髪の質を改善すること、そしてQOL(生活の質)を向上させることです。

ミノキシジル外用薬などが症状緩和に用いられることがありますが、効果には個人差があります。研究は進められていますが、現時点では対症療法が中心となります。

かつらやウィッグも選択肢ですか?

はい、かつら(医療用ウィッグ)や部分的な増毛製品は、見た目の悩みをカバーするための有効な選択肢の一つです。

特に髪の量が少ない方や、縮れ毛によるスタイリングの難しさを感じている方にとって、QOLを大きく改善する手段となり得ます。最近では自然な見た目の製品も多く、専門のサロンで相談しながら自分に合ったものを選ぶことができます。

精神的な負担を軽減するためにも、積極的に検討する価値があります。

成長とともに症状は変わりますか?

症状の変化は、原因となる遺伝子や個人の状態によって異なります。

一部のタイプでは、乳幼児期に比べて思春期以降にわずかに毛髪が増えたり、髪質が多少変化したりすることもありますが、多くの場合、基本的な症状は持続する傾向にあります。

逆に、加齢とともに一般的な薄毛(AGAなど)が合併し、症状がより目立つようになることもあります。定期的な専門医の診察を受け、状態の変化を把握しておくことが大切です。

保険診療は適用されますか?(難病指定との関連)

先天性乏毛症・縮毛症の診察や一部の検査は保険診療の対象となります。ただし、ミノキシジル外用薬などの治療薬や遺伝子検査については、保険適用外となる場合があります。

特定の病型(例:LIPH遺伝子変異による先天性乏毛症など)は国の指定難病に含まれており、認定されると医療費助成制度の対象となる可能性があります。

診断がついた際には、主治医に指定難病の申請について相談してみましょう。

さらに詳しく知りたい方へ

ご自身の症状が先天性乏毛症・縮毛症にあてはまるか、またどのようにセルフチェックを行えばよいかについて、より具体的な情報をお探しの方は、以下の記事もご覧ください。

先天性乏毛症・縮毛症の症状とセルフチェックの仕方

Reference

AHMED, Azhar, et al. Genetic hair disorders: a review. Dermatology and therapy, 2019, 9: 421-448.

BENNÀSSAR, Antoni; FERRANDO, Juan; GRIMALT, Ramon. Congenital atrichia and hypotrichosis. World Journal of Pediatrics, 2011, 7: 111-117.

SO, Neda; YIP, Leona; ORCHARD, David. Paediatric Hypotrichosis: A Clinical and Algorithmic Approach to Diagnosis. Australasian Journal of Dermatology, 2025.

KARUNAKAR, Pediredla, et al. A 7-month-old boy with global developmental delay, hypotonia, and abnormal hair. Pediatric Dermatology, 2022, 39.4: 634-636.

DOOLAN, Brent J., et al. A review of genotrichoses and hair pathology associated with inherited skin diseases. British Journal of Dermatology, 2023, 189.2: 154-160.

OLSEN, Elise A.; IORIZZO, Matilde. Hair disorders. Harper’s textbook of pediatric dermatology, 2019, 2103-2138.

SINGH, Gaurav; MITEVA, Mariya. Prognosis and management of congenital hair shaft disorders with fragility—Part I. Pediatric dermatology, 2016, 33.5: 473-480.

ML, Galluzzo Mutti. Hair shaft, an overview for pediatric pathologists. European Journal of Pediatric Dermatology, 2023, 33.4.

JABEEN, Yasmeen; TRUMBOO, Taiba; KRISHAN, Kewal. Hair Shaft Disorders in Children–An Update. Indian Dermatology Online Journal, 2023, 14.2.

SEVINÇ, Süleyman Hilmi; IŞIKAY, Sedat. Evaluation of hair structural abnormalities in children with different neurological diseases. The Turkish Journal of Pediatrics, 2022, 64.6: 1086-1105.

先天性乏毛症・縮毛症の関連記事

目次