薄毛(男性)の原因と医療機関での検査法

薄毛(男性)の原因と医療機関での検査法

男性の薄毛や脱毛症は、多くの方が抱える悩みの一つです。その原因は多岐にわたり、適切な対応のためには正確な原因特定が重要です。

この記事では、AGA(男性型脱毛症)をはじめとする代表的な15種類の男性の薄毛・脱毛症について、それぞれの主な原因と医療機関で行う検査法を詳しく解説します。

ご自身の状態を理解し、専門医へ相談する際の一助となれば幸いです。

薄毛の種類

男性の薄毛タイプ
AGA(男性型脱毛症)円形脱毛症休止期脱毛症
脂漏性脱毛症抜毛症(トリコチロマニア)粃糠(ひこうせい)性脱毛症
内分泌異常に伴う脱毛症瘢痕(はんこん)性脱毛症薬剤性脱毛症
牽引性脱毛症梅毒性脱毛症頭部白癬性脱毛症(しらくも)
栄養障害に伴う脱毛症放射線治療による脱毛先天性乏毛症・縮毛症
クリックするとページ内の該当箇所に飛びます

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

AGA(男性型脱毛症) 思春期以降に進行する代表的な脱毛症

AGA(男性型脱毛症)

AGAは、Androgenetic Alopeciaの略で、男性ホルモンの影響や遺伝が関与する進行性の脱毛症です。主に前頭部や頭頂部の髪が薄くなる特徴があります。

原因

AGAの主な原因は、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、5αリダクターゼという酵素の働きによってジヒドロテストステロン(DHT)に変換されることです。

このDHTが毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体と結合すると、毛母細胞の増殖が抑制され、ヘアサイクルにおける成長期が短縮します。

その結果、髪の毛が太く長く成長する前に抜け落ち、細く短い毛(軟毛)が増えることで薄毛が進行します。

遺伝的要因も大きく関わっており、特に母方の家系に薄毛の方がいる場合にAGAを発症しやすい傾向があると言われています。

5αリダクターゼの活性度や男性ホルモン受容体の感受性が遺伝によって左右されると考えられています。

AGAの主な要因

要因概要検査での注目点
男性ホルモン(DHT)毛髪の成長期を短縮させるホルモンバランスの評価(必要に応じて)
遺伝的素因5αリダクターゼ活性、受容体感受性家族歴の聴取
生活習慣間接的に影響する可能性問診による生活状況の確認

検査

AGAの検査は、まず問診で発症時期、進行状況、家族歴、生活習慣などを詳しく聴取します。次に視診で頭皮や毛髪の状態、薄毛のパターン(ハミルトン・ノーウッド分類など)を確認します。

マイクロスコープ(ダーモスコピー)を用いて頭皮や毛穴、毛髪の太さなどを詳細に観察することもあります。これにより、軟毛化の程度や毛穴の状態を把握できます。

特別な血液検査は通常必要ありませんが、他の脱毛症との鑑別や全身状態の把握のために行うことがあります。遺伝子検査も一部の医療機関で提供されていますが、AGAの診断は主に臨床所見に基づいて行います。

円形脱毛症 突然発症する自己免疫関連の脱毛症

円形脱毛症

円形脱毛症は、頭髪などが円形または楕円形に突然抜け落ちる疾患です。単発型から多発型、全頭型、汎発型など、脱毛範囲は様々です。

原因

円形脱毛症の主な原因は、自己免疫反応と考えられています。免疫系が何らかの理由で毛包組織を異物と誤認し、攻撃してしまうことで毛髪の成長が阻害され脱毛が起こります。

リンパ球の一種であるT細胞が関与していることが分かっています。

遺伝的素因も関与が指摘されており、家族内に円形脱毛症の方がいる場合に発症リスクが高まることがあります。また、アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患などの自己免疫疾患を合併することも少なくありません。

精神的ストレスは、発症や悪化の誘因となることがありますが、直接的な原因ではないと考えられています。

検査

検査では、まず問診で発症時期、既往歴(特に自己免疫疾患)、家族歴、ストレスの有無などを確認します。視診では脱毛斑の形状、大きさ、数、範囲、頭皮の色調、毛髪の状態(切れ毛、「感嘆符毛」の有無など)を観察します。

ダーモスコピーを用いることで、毛穴の状態や特徴的な所見(イエロー・ドット、ブラック・ドットなど)を確認し、診断の助けとします。

必要に応じて血液検査を行い、甲状腺機能や自己抗体の有無などを調べ、合併する自己免疫疾患のスクリーニングを行います。

診断が困難な場合や他の脱毛症との鑑別が難しい場合には、皮膚生検(頭皮の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)を行うこともあります。

円形脱毛症の検査項目例

検査項目目的所見の例
ダーモスコピー毛穴、毛髪、頭皮の詳細観察感嘆符毛、イエロードット
血液検査自己免疫疾患の合併確認自己抗体、甲状腺ホルモン異常
皮膚生検確定診断、他疾患との鑑別毛包周囲のリンパ球浸潤

休止期脱毛症 ストレスや体調変化後に見られる脱毛症

休止期脱毛症

休止期脱毛症は、何らかの身体的または精神的なストレスが引き金となり、多くの毛髪が一斉に休止期に入り、その後数ヶ月経ってから抜け落ちる脱毛症です。

原因

休止期脱毛症の主な原因は、ヘアサイクルの乱れです。通常、毛髪の約85-90%は成長期にあり、約10-15%が休止期にあります。

しかし、以下のような強いストレスや身体的変化が起こると、成長期にある毛髪が一斉に休止期に移行し、その2~3ヶ月後に大量の脱毛として現れます。

  • 精神的ストレス(過度な悩み、ショックなど)
  • 身体的ストレス(高熱、大手術、大怪我、出産など)
  • 栄養障害(極端なダイエット、鉄欠乏など)
  • 薬剤の影響
  • 内分泌疾患(甲状腺機能異常など)

これらの誘因により、毛包が一時的に活動を停止するため、脱毛が起こります。原因が取り除かれれば、多くの場合自然に回復しますが、慢性化することもあります。

検査

検査では、まず詳細な問診が重要です。脱毛が始まる2~3ヶ月前に、上記のような誘因となる出来事がなかったかを確認します。脱毛の量や期間、既往歴、服用中の薬剤、食生活なども聴取します。

視診では、びまん性(全体的)な脱毛のパターンを確認します。特定の部位だけでなく、頭部全体で毛髪密度が低下していることが多いです。

「牽引試験(プルテスト)」も行われることがあります。これは、数十本の毛髪を軽く引っ張り、簡単に抜ける毛髪の割合を調べる検査です。

休止期脱毛症では、多くの毛髪が休止期にあるため、容易に抜ける毛髪の数が増加します。必要に応じて血液検査を行い、鉄欠乏性貧血や甲状腺機能異常など、背景にある可能性のある内科的疾患を調べます。

休止期脱毛症の主な誘因

誘因カテゴリー具体例検査での確認ポイント
身体的ストレス手術、高熱、出産発症時期との関連性
精神的ストレス過度の悩み、環境変化ストレス状況の聴取
栄養状態急激なダイエット、偏食食生活、血液検査(鉄、亜鉛など)

脂漏性脱毛症 頭皮の炎症と皮脂過多による脱毛症

脂漏性脱毛症

脂漏性脱毛症は、脂漏性皮膚炎が頭皮に生じ、それに伴って引き起こされる脱毛症です。頭皮の赤み、かゆみ、フケなどが特徴です。

原因

脂漏性皮膚炎の直接的な原因は完全には解明されていませんが、皮膚の常在菌であるマラセチア菌の異常増殖が関与していると考えられています。

マラセチア菌は皮脂を栄養源とし、その代謝物が頭皮を刺激して炎症を引き起こします。皮脂の過剰な分泌、ホルモンバランスの乱れ、ストレス、不規則な生活習慣、ビタミンB群の不足などが、マラセチア菌の増殖や炎症を助長する要因となります。

頭皮の炎症が長期化すると、毛穴の環境が悪化し、毛髪の正常な成長が妨げられ、脱毛につながります。特に、毛穴が炎症性の浸出物や角質で詰まると、毛根への栄養供給が悪くなり、毛が細くなったり抜けやすくなったりします。

検査

検査では、まず問診で頭皮の症状(かゆみ、フケ、赤みなど)、生活習慣、食生活、ストレスの状況などを確認します。視診では、頭皮の状態を詳細に観察します。脂っぽいフケ、頭皮の赤み、湿疹、毛穴の炎症の有無などを確認します。

ダーモスコピーを用いると、毛穴周囲の炎症の程度や皮脂の状態、血管の拡張などをより詳しく評価できます。

マラセチア菌の検査を特に行うことは少ないですが、症状が典型的でない場合や治療に抵抗性を示す場合には、真菌検査(顕微鏡検査や培養検査)を行うこともあります。他の皮膚疾患(乾癬など)との鑑別も重要です。

脂漏性皮膚炎の頭皮所見

所見特徴検査での確認
紅斑(赤み)境界が比較的明瞭な赤み視診、ダーモスコピー
鱗屑(フケ)黄色味を帯びた湿性のフケ、または乾燥したフケ視診
掻痒(かゆみ)しばしば伴う症状問診

抜毛症(トリコチロマニア) 自分で毛髪を引き抜いてしまう精神疾患

抜毛症(トリコチロマニア)

抜毛症は、自分の毛髪(主に頭髪、眉毛、まつ毛など)を繰り返し引き抜いてしまう衝動制御障害の一種です。これにより、明らかな脱毛斑が生じます。

原因

抜毛症の正確な原因は不明ですが、遺伝的要因、脳内の神経伝達物質の不均衡、環境的要因(ストレス、不安、退屈など)が複雑に関与していると考えられています。

特定の状況や感情(緊張、不安、退屈、満足感など)が引き金となって抜毛行為に至ることが多いです。抜毛行為自体が、一時的に緊張を緩和したり、満足感を得たりするために行われることがあります。

思春期前後に発症することが多く、他の精神疾患(不安障害、うつ病、強迫性障害など)を合併することもあります。

検査

検査では、まず問診で抜毛行為の自覚の有無、開始時期、頻度、特定の状況や感情との関連、これまでの治療歴などを聴取します。患者さん自身が抜毛行為を認識していない、あるいは隠している場合もあるため、慎重な問診が必要です。

視診では、脱毛斑の形状や範囲、毛髪の状態を観察します。脱毛斑は不規則な形状で、境界が不明瞭なことが多く、様々な長さの切れ毛や、毛根が残ったままの短い毛が混在するのが特徴です。

「毛孔内黒点」と呼ばれる、毛穴の中に残った毛根の断片が見られることもあります。

ダーモスコピーは、切れ毛、毛幹の変形、毛孔内出血などを確認するのに役立ちます。他の脱毛症との鑑別が重要であり、特に円形脱毛症や頭部白癬との区別が必要です。

必要に応じて、精神科医や心理士による評価やカウンセリングを行います。

抜毛症の診断ポイント

ポイント詳細検査での確認
脱毛斑の形状不規則、境界不明瞭視診
毛髪の状態様々な長さの切れ毛、毛幹のねじれ視診、ダーモスコピー
患者の行動抜毛行為の自覚(ある場合もない場合も)問診、心理評価

粃糠(ひこう)性脱毛症 厚いフケが毛髪に固着する脱毛症

粃糠性脱毛症

粃糠性脱毛症は、頭皮に厚く乾燥した、または湿ったフケ(鱗屑)が毛髪にこびりつき、毛髪が束になってしまう状態(石綿状毛髪仮性被膜)を特徴とする炎症性の頭皮疾患です。

この炎症や物理的な影響で脱毛が起こります。

原因

粃糠性脱毛症の正確な原因は不明ですが、脂漏性皮膚炎、乾癬、アトピー性皮膚炎などの基礎疾患に続発することが多いとされています。

頭皮のターンオーバーの異常や、皮脂腺の機能異常、細菌や真菌の感染、不適切なヘアケアなどが関与している可能性が考えられます。

厚い鱗屑が毛包を塞いだり、炎症が毛根に影響を与えたりすることで、毛髪の成長が妨げられ、脱毛が引き起こされます。

また、鱗屑が毛髪に強く固着するため、無理に剥がそうとすると毛髪ごと抜けてしまうこともあります。

検査

検査では、問診で頭皮の症状(フケ、かゆみ、赤み)、基礎疾患の有無、生活習慣などを確認します。視診では、特徴的な鱗屑の状態を観察します。

鱗屑は白色から黄色がかった色で、乾燥していることもあれば、湿って脂っぽいこともあります。毛髪が鱗屑によって束ねられ、まるで石綿のように見える「石綿状毛髪仮性被膜」が特徴的な所見です。

ダーモスコピーでは、鱗屑の付着状態や毛穴周囲の炎症の程度を詳細に評価します。

基礎疾患の特定のために、必要に応じて血液検査や皮膚生検を行うことがあります。また、細菌や真菌の感染が疑われる場合は、培養検査や顕微鏡検査を行うこともあります。

粃糠性脱毛症の主な所見

所見特徴検査での確認
石綿状毛髪仮性被膜厚い鱗屑が毛髪に固着し束状になる視診
頭皮の炎症赤み、かゆみを伴うことがある視診、ダーモスコピー
脱毛炎症や物理的影響による視診、問診

内分泌異常に伴う脱毛症 ホルモンバランスの乱れが原因

内分泌異常に伴う脱毛症

甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症などの内分泌系の疾患は、ホルモンバランスを乱し、毛髪の成長に影響を与え、脱毛を引き起こすことがあります。

原因

甲状腺ホルモンは、全身の代謝を調節する重要なホルモンであり、毛母細胞の活動やヘアサイクルにも深く関与しています。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では、代謝が過剰になり、毛髪の成長期が短縮し、休止期に入る毛髪が増えることで脱毛が起こりやすくなります。

逆に、甲状腺機能低下症(橋本病など)では、代謝が低下し、毛母細胞の活動が鈍化するため、毛髪が細く、もろくなり、抜けやすくなります。びまん性の脱毛が多く、眉毛の外側1/3が薄くなることも特徴的な所見です。

その他、副腎皮質ホルモンや性ホルモンの異常なども脱毛の原因となることがあります。

検査

検査では、まず問診で脱毛以外の全身症状(体重変化、動悸、倦怠感、発汗異常、皮膚の乾燥、月経不順など)の有無、既往歴、家族歴などを確認します。

視診では、脱毛のパターン(びまん性が多い)、毛髪の質(細い、もろいなど)、頭皮の状態、眉毛や体毛の変化などを観察します。

診断には血液検査が重要です。甲状腺ホルモン(TSH、FT3、FT4)や自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体など)を測定し、甲状腺機能の異常を評価します。

必要に応じて、他のホルモン検査(副腎皮質ホルモン、性ホルモンなど)や超音波検査などの画像検査も行います。

甲状腺機能異常と毛髪への影響

甲状腺機能主な疾患例毛髪への影響
亢進症バセドウ病成長期短縮、休止期毛増加、びまん性脱毛
低下症橋本病毛髪の菲薄化・脆弱化、びまん性脱毛、眉毛外側1/3脱毛

瘢痕(はんこん)性脱毛症 毛包が破壊され再生しない脱毛症

瘢痕性脱毛症

瘢痕性脱毛症は、毛包が炎症によって破壊され、瘢痕組織に置き換わることで永久的な脱毛が生じる疾患群の総称です。毛髪の再生は期待できません。

原因

瘢痕性脱毛症の原因は様々で、大きく原発性と続発性に分けられます。

原発性瘢痕性脱毛症は、毛包自体を標的とする炎症性疾患が原因で、毛孔扁平苔癬、慢性皮膚エリテマトーデス(DLE)、毛包炎性脱毛症(フォリキュライティス・デカルバンス)、解離性蜂窩織炎などが含まれます。

これらの疾患では、リンパ球や好中球などの炎症細胞が毛包周囲に浸潤し、毛包幹細胞を破壊することで瘢痕化が進行します。

続発性瘢痕性脱毛症は、外傷、熱傷、放射線障害、重度の皮膚感染症(帯状疱疹など)などが原因で、二次的に毛包が破壊されるものです。

検査

検査では、問診で症状の経過、既往歴、外傷歴などを聴取します。視診では、脱毛斑の形状、範囲、頭皮の状態(光沢、萎縮、毛孔の消失、紅斑、膿疱、鱗屑など)を詳細に観察します。

ダーモスコピーは、毛孔の消失、毛包周囲の紅斑や鱗屑、血管パターンなどを評価し、活動性の判断や他の脱毛症との鑑別に役立ちます。

確定診断には、皮膚生検が最も重要です。脱毛部位の頭皮組織を採取し、病理組織学的に毛包の破壊、炎症細胞浸潤、瘢痕化の程度などを評価します。

これにより、瘢痕性脱毛症のタイプを特定し、適切な治療方針を立てることができます。必要に応じて、血液検査(自己抗体など)や細菌培養検査を行うこともあります。

瘢痕性脱毛症の主な種類と特徴

種類主な特徴検査でのポイント
毛孔扁平苔癬毛孔周囲の紅斑、角栓、脱毛斑の光沢皮膚生検(リンパ球浸潤)
慢性皮膚エリテマトーデス境界明瞭な紅斑、鱗屑、萎縮、色素沈着皮膚生検、血液検査(自己抗体)
毛包炎性脱毛症膿疱、毛髪の房状配列、瘢痕皮膚生検、細菌培養

薬剤性脱毛症 薬の副作用による脱毛症

薬剤性脱毛症

薬剤性脱毛症は、特定の薬剤の服用や使用が原因で引き起こされる脱毛症です。原因薬剤の中止により改善することが多いですが、一部の薬剤では不可逆的な場合もあります。

原因

薬剤性脱毛症は、主に二つのタイプがあります。一つは「成長期脱毛」で、抗がん剤(細胞増殖抑制剤)などが代表的です。

これらの薬剤は、活発に分裂・増殖する毛母細胞に直接作用し、毛髪の成長を急激に停止させるため、薬剤投与後数日から数週間で広範囲に脱毛が起こります。

もう一つは「休止期脱毛」で、多くの毛髪が成長期から休止期へ一斉に移行し、薬剤服用開始から2~4ヶ月後に脱毛が顕著になります。原因となる薬剤は多岐にわたります。

  • 抗凝固薬(ワルファリンなど)
  • 高血圧治療薬(β遮断薬、ACE阻害薬など)
  • 脂質異常症治療薬(フィブラート系薬剤など)
  • 抗うつ薬
  • インターフェロン製剤
  • 一部の経口避妊薬

これらの薬剤が毛周期に影響を与える正確な理由は、薬剤の種類によって異なります。

検査

検査では、まず詳細な問診が最も重要です。現在および過去に服用・使用した全ての薬剤(処方薬、市販薬、サプリメントを含む)の種類、服用期間、開始時期、量などを正確に把握します。

脱毛の開始時期と薬剤の使用開始時期との関連性を確認します。視診では、脱毛のパターン(びまん性が多い)、毛髪の太さ、頭皮の状態を観察します。

原因薬剤の特定は、疑わしい薬剤を中止または変更し、脱毛が改善するかどうかを見ることで行われることが多いです(被疑薬の中止・再投与試験)。

ただし、自己判断での薬剤中止は危険なため、必ず医師の指示に従う必要があります。他の脱毛症との鑑別のために、血液検査やダーモスコピーを行うこともあります。

薬剤性脱毛症のタイプと特徴

タイプ発症時期代表的な原因薬剤
成長期脱毛薬剤投与後数日~数週間抗がん剤、免疫抑制剤
休止期脱毛薬剤服用開始後2~4ヶ月抗凝固薬、降圧薬、一部の精神科薬

牽引(けんいん)性脱毛症 物理的な力による脱毛症

牽引性脱毛症

牽引性脱毛症は、ポニーテールや編み込みなど、特定の髪型によって毛髪が長期間にわたり強く引っ張られることで、毛根に負担がかかり生じる脱毛症です。

原因

毛髪が持続的に強く引っ張られると、毛包や毛根に炎症や損傷が生じます。

初期には可逆的ですが、長期間にわたる牽引は毛包を徐々に萎縮させ、最終的には瘢痕化を引き起こし、永久的な脱毛に至る可能性があります。

特に、髪の生え際(前頭部、側頭部)に起こりやすい傾向があります。ヘアエクステンションやきつい帽子、ヘルメットの長期間使用なども原因となることがあります。

検査

検査では、問診で日常的な髪型、ヘアケア習慣、脱毛の部位や進行状況などを詳しく聴取します。視診では、脱毛のパターンが特定の髪型による牽引の方向に一致しているかを確認します。

生え際の後退や、その部位の毛髪が細く短くなっている(軟毛化)のが特徴です。頭皮に炎症や毛孔周囲の紅斑、毛孔の消失が見られることもあります。

ダーモスコピーでは、毛髪の太さの不均一性や、毛孔周囲の炎症、初期の瘢痕化の兆候などを観察できます。

通常、特別な血液検査や生検は必要ありませんが、他の脱毛症との鑑別が難しい場合や、瘢痕化が疑われる場合には行うこともあります。

牽引性脱毛症の主な原因となる行為

  • きついポニーテールやお団子ヘア
  • 編み込み(コーンロウ、ブレイズなど)
  • ヘアエクステンションの装着
  • 重い髪飾りやきついヘアバンドの使用

梅毒性脱毛症 梅毒感染による脱毛症

梅毒性脱毛症

梅毒性脱毛症は、性感染症である梅毒の第2期に見られる症状の一つで、特徴的な脱毛パターンを示します。

原因

梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌の感染によって引き起こされます。

感染後、数週間から数ヶ月の潜伏期間を経て、第1期梅毒(初期硬結、硬性下疳など)、第2期梅毒(バラ疹、丘疹性梅毒疹、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛など)、潜伏梅毒、第3期・第4期梅毒へと進行します。

梅毒性脱毛は、第2期梅毒の症状として、感染から数ヶ月後に出現することが多いです。血行性に梅毒トレポネーマが毛包周囲に到達し、炎症を引き起こすことで脱毛が生じると考えられています。

検査

検査では、問診で性感染症のリスク行為の有無、梅毒の他の症状(発疹、リンパ節腫脹、発熱、倦怠感など)の有無、既往歴などを確認します。視診では、脱毛のパターンを観察します。

梅毒性脱毛は、「虫食い状」または「まだら状」と呼ばれる、小さな脱毛斑が頭部全体(特に側頭部や後頭部)に散在するのが特徴的です。眉毛やまつ毛が抜けることもあります。

ダーモスコピーでは、脱毛斑内の毛髪の減少や、毛孔の変化を確認します。

確定診断には、血液検査による梅毒血清反応(RPR法、TPHA法など)が必須です。これらの検査で梅毒抗体の有無や力価を調べ、活動性の梅毒感染があるかどうかを判断します。

必要に応じて、皮膚生検を行い、毛包周囲の炎症や梅毒トレポネーマの存在を確認することもあります。

梅毒性脱毛の特徴的な所見

所見詳細検査での確認
脱毛パターン虫食い状、まだら状の小脱毛斑が散在視診
好発部位側頭部、後頭部視診
血清反応梅毒抗体が陽性血液検査

頭部白癬(はくせん)性脱毛症(通称:しらくも) 真菌感染による脱毛症

頭部白癬性脱毛症(しらくも)

頭部白癬は、白癬菌(皮膚糸状菌)という真菌(カビの一種)が頭皮や毛髪に感染して起こる疾患で、脱毛、フケ、かゆみ、炎症などを引き起こします。「しらくも」とも呼ばれます。

原因

白癬菌は、ヒトや動物の皮膚、毛、爪などに寄生し、ケラチンを栄養源として増殖します。

感染経路は、感染者(ヒトやペット)との直接接触、または感染者が使用したタオル、櫛、帽子などを介した間接接触です。

特に、格闘技などで頭部が接触する機会が多い場合や、不衛生な環境、免疫力の低下などが感染のリスクを高めます。白癬菌が毛髪内部や毛包に侵入し、炎症を引き起こすことで毛髪がもろくなり、折れたり抜けたりします。

検査

検査では、問診で症状の経過、ペットの飼育状況、家族内や周囲での同様の症状の有無、スポーツ歴などを確認します。視診では、脱毛斑の形状、範囲、頭皮の状態(フケ、赤み、膿疱、黒点状の切れ毛など)を観察します。

脱毛斑は円形や不整形なことが多く、境界が比較的明瞭で、細かいフケを伴うことが多いです。毛髪が毛穴のすぐ上で折れて黒い点のように見える「ブラックドット」も特徴的な所見です。

確定診断には、真菌検査が重要です。脱毛部位の毛髪や鱗屑を採取し、顕微鏡で白癬菌の菌糸や胞子を確認します(直接鏡検KOH法)。また、採取した検体を培養して菌種を同定することもあります。

ウッド灯(特定の波長の紫外線を照射するランプ)を用いた検査では、一部の菌種で特徴的な蛍光を発することがあり、診断の補助となります。

頭部白癬の検査法

  • 直接鏡検(KOH法)
  • 真菌培養検査
  • ウッド灯検査

栄養障害に伴う脱毛症 特定栄養素の欠乏または過剰

栄養障害に伴う脱毛症

毛髪の成長には様々な栄養素が必要です。これらの栄養素が極端に不足したり、逆に過剰に摂取されたりすると、毛髪の健康が損なわれ、脱毛を引き起こすことがあります。

原因

毛髪は主にケラチンというタンパク質で構成されており、その合成にはタンパク質、亜鉛、鉄、ビオチン(ビタミンB群の一種)などが重要です。

これらの栄養素が不足すると、毛髪が細くなったり、成長が遅れたり、抜けやすくなったりします。

  • タンパク質不足 極端なダイエットや偏食により、毛髪の主成分であるケラチンの材料が不足します。
  • 鉄欠乏 鉄はヘモグロビンの構成成分であり、酸素運搬に関与します。鉄欠乏性貧血では、毛母細胞への酸素供給が低下し、毛髪の成長が悪くなります。
  • 亜鉛不足 亜鉛はケラチン合成や細胞分裂に不可欠なミネラルです。不足すると、毛髪の成長障害や皮膚炎、脱毛が起こります。
  • ビオチン不足 ビオチンは皮膚や毛髪の健康維持に関わるビタミンです。まれですが、欠乏すると脱毛や皮膚炎が生じます。

一方で、ビタミンAやセレンなどの過剰摂取も脱毛の原因となることがあります。

検査

検査では、まず詳細な問診で食生活(ダイエット歴、偏食の有無、サプリメントの使用状況など)、消化器系の疾患の有無、脱毛以外の症状(爪の異常、皮膚の乾燥、倦怠感など)を確認します。

視診では、脱毛のパターン(びまん性が多い)、毛髪の質(細い、もろい、光沢がないなど)、頭皮の状態を観察します。

血液検査は、栄養状態を評価するために重要です。血算(貧血の有無)、血清鉄、フェリチン(貯蔵鉄)、亜鉛、銅、ビタミン類の濃度などを測定します。

必要に応じて、毛髪ミネラル検査を行うこともありますが、解釈には注意が必要です。食事記録の分析や栄養士による栄養指導も有効な場合があります。

脱毛に関連する主な栄養素

栄養素役割欠乏時の影響例
タンパク質毛髪の主成分毛髪の菲薄化、成長遅延
酸素運搬、細胞代謝びまん性脱毛、毛髪の脆弱化
亜鉛ケラチン合成、細胞分裂脱毛、皮膚炎、味覚障害

放射線治療による脱毛

放射線治療による脱毛

放射線性脱毛症は、がん治療などで頭頸部や脳に放射線照射を受けた場合に、照射部位の毛髪が抜け落ちる現象です。

原因

放射線は、細胞分裂が活発な細胞に対して特に強い影響を与えます。毛母細胞は活発に分裂・増殖しているため、放射線の感受性が高く、照射によって細胞機能が障害されたり、細胞死が引き起こされたりします。

これにより、毛髪の成長が停止し、脱毛が起こります。脱毛は通常、放射線治療開始後2~3週間で始まり、照射量や照射範囲、分割方法などによって程度や回復の可否が異なります。

一定量以上の放射線が照射されると、毛包が永久的に破壊され、毛髪が再生しなくなることもあります。

検査

検査は、主に問診と視診で行います。問診では、放射線治療の既往、照射部位、総照射量、治療時期などを確認します。脱毛の範囲や程度が、放射線の照射野と一致していることが特徴です。

視診では、脱毛部位の皮膚の状態(赤み、乾燥、萎縮、色素沈着など、放射線皮膚炎の所見)も併せて観察します。

通常、特別な血液検査や画像検査は必要ありません。診断は、放射線治療の既往と臨床所見に基づいて行います。脱毛が永続的か一時的かの予測は、総照射量などからある程度可能ですが、個人差もあります。

先天性乏毛症・縮毛症 生まれつき毛髪が少ない、または異常

先天性乏毛症・縮毛症

先天性乏毛症は、生まれつき毛髪が非常に少ない、または全くない状態を指します。

縮毛症は、毛髪が著しく縮れていたり、特定の形状異常(結節性裂毛、連珠毛など)を示したりする状態です。

原因

これらの疾患の多くは遺伝子の変異が原因で、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖遺伝など様々な遺伝形式をとります。

毛髪の形成や成長に関わるタンパク質の設計図となる遺伝子に異常があるため、正常な毛髪が作られなかったり、毛髪の構造がもろくなったりします。

単独で発症する場合と、他の先天異常(皮膚、歯、爪、汗腺などの異常)を伴う症候群の一部として現れる場合があります(外胚葉異形成症など)。

検査

検査では、まず詳細な問診で出生時からの毛髪の状態、家族歴(同様の症状を持つ血縁者の有無)、他の先天異常の合併の有無などを確認します。

視診では、毛髪の量、分布、太さ、色、形状、頭皮の状態を観察します。

縮毛症の場合は、毛髪を顕微鏡で観察する毛髪検査(トリコグラム)が重要です。毛幹の形態異常(結節、断裂、くびれ、ねじれなど)を詳細に調べ、疾患の種類を特定する手がかりとします。

皮膚生検を行うと、毛包の数や発達の程度、構造異常などを評価できます。原因遺伝子の特定のために遺伝子検査を行うこともありますが、全ての疾患で原因遺伝子が判明しているわけではありません。

他の先天異常を伴う場合は、関連する各専門科との連携による評価が必要です。

毛髪の先天異常の例

  • 乏毛症(Hypotrichosis)
  • 連珠毛(Monilethrix)
  • 結節性裂毛(Trichorrhexis nodosa)
  • 捻転毛(Pili torti)

まとめ

男性の薄毛や脱毛症には、AGAをはじめとして様々な種類があり、それぞれ原因やメカニズムが異なります。

正確な診断は、適切な対策や治療を選択する上で非常に重要です。自己判断せずに、まずは皮膚科や薄毛治療専門のクリニックを受診し、専門医による診察と検査を受けることをお勧めします。

医師は、問診、視診、ダーモスコピー、必要に応じた血液検査や皮膚生検などを通じて、脱毛の原因を総合的に判断します。

原因を特定することで、一人ひとりの状態に合わせた治療法やケア方法を見つけることができます。

薄毛の悩みは深刻なものですが、早期に専門医に相談することで、進行を遅らせたり、改善が期待できる場合も多くあります。

この記事が、薄毛に悩む男性の皆様にとって、原因理解と医療機関受診の一助となれば幸いです。

続けて読んで欲しい記事

薄毛の原因や検査法についてご理解いただけたでしょうか。

原因が分かれば正しい治療法を選択できます。引き続き薄毛の治療と予防法について解説した以下の記事におすすみ下さい。

薄毛の治療法と予防

Reference

ALESSANDRINI, A., et al. Common causes of hair loss–clinical manifestations, trichoscopy and therapy. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2021, 35.3: 629-640.

LOLLI, Francesca, et al. Androgenetic alopecia: a review. Endocrine, 2017, 57: 9-17.

OIWOH, Sebastine Oseghae, et al. Androgenetic alopecia: A review. Nigerian Postgraduate Medical Journal, 2024, 31.2: 85-92.

SINCLAIR, Rodney. Male pattern androgenetic alopecia. Bmj, 1998, 317.7162: 865-869.

PHILLIPS, T. Grant; SLOMIANY, W. Paul; ALLISON, Robert. Hair loss: common causes and treatment. American family physician, 2017, 96.6: 371-378.

REBORA, Alfredo. Telogen effluvium: a comprehensive review. Clinical, cosmetic and investigational dermatology, 2019, 583-590.

BLUME‐PEYTAVI, Ulrike, et al. S1 guideline for diagnostic evaluation in androgenetic alopecia in men, women and adolescents. British Journal of Dermatology, 2011, 164.1: 5-15.

WERNER, Betina; MULINARI-BRENNER, Fabiane. Clinical and histological challenge in the differential diagnosis of diffuse alopecia: female androgenetic alopecia, telogen effluvium and alopecia areata-part I. Anais brasileiros de dermatologia, 2012, 87: 742-747.

RATHNAYAKE, Deepani; SINCLAIR, Rodney. Male androgenetic alopecia. Expert opinion on pharmacotherapy, 2010, 11.8: 1295-1304.

STARACE, Michela, et al. Female androgenetic alopecia: an update on diagnosis and management. American journal of clinical dermatology, 2020, 21: 69-84.