古くから「髪には海藻が良い」と言い伝えられてきました。わかめや昆布などを食べると髪が豊かになる、黒々とする、といった話を聞いたことがある方も多いでしょう。
しかし、これらの話に医学的な根拠はあるのでしょうか。
この記事では、海藻に含まれる栄養素が髪の健康にどのように関わるのか、その特徴と「海藻効果」や「海藻効能」について科学的な視点も交えて解説します。
海藻が髪に良いとされる背景
日本では古来より、海藻類が髪の健康に良いという考えが根付いています。その背景にある伝統的な考え方と、現代の科学的な見解について見ていきましょう。
伝統的な考え方と科学的な視点
「ワカメを食べると髪がフサフサになる」あるいは「黒くなる」といった話は広く知られています。
これは、海藻の黒々とした見た目や海中で豊かに揺れる様子が健康的な髪を連想させること、そして実際に栄養が豊富である点などが理由と考えられます。
しかし、現代の医学的・科学的な見地からは、海藻を食べること自体が直接的に発毛を促したり、髪の量を増やしたりするという明確な証拠はありません。
特に「海藻を食べると髪が黒くなる」という説については、それを裏付ける医学的な根拠は見当たりません。伝統的な考えと科学的な事実は必ずしも一致しないのです。
髪の健康を支える栄養素の宝庫
直接的な発毛効果は証明されていないものの、海藻類が栄養豊富な食材であることは事実です。髪の健康維持には、体全体の健康が基盤となります。
海藻には、ミネラルやビタミン、タンパク質や食物繊維、そして一部の種類にはオメガ3脂肪酸やクロロフィルといった、健康な体を維持して健やかな頭皮環境を支える可能性のある多様な栄養素が含まれています。
これらの「海藻効果」や「海藻効能」は、主にこれらの栄養素に由来すると考えられます。
健康な頭皮環境は髪が正常に成長するための土台となるため、バランスの取れた食事の一部として海藻を取り入れると、間接的に髪の健康をサポートする可能性があります。
海藻だけで薄毛・AGAは改善しない理由
重要な点として、海藻の摂取だけで薄毛やAGA(男性型脱毛症)が改善することは期待できません。
AGAは遺伝的要因や男性ホルモン(特にDHT:ジヒドロテストステロン)が毛根に作用するのが主な原因であり、特定の食品を食べるだけでこれらの要因を根本的に解決することは困難です。
髪の健康は食事だけでなく、睡眠やストレス管理といった生活習慣、そして他の病気の有無など多くの要因が複雑に関係しています。海藻は栄養面でのサポートにはなり得ますが、薄毛の悩みに対する万能薬ではないのです。
過度な期待はせず、あくまでバランスの取れた食生活の一部として捉えることが大切です。
髪の成長に関わる海藻の主要栄養素
海藻が髪の健康をサポートする可能性は、そこに含まれる多様な栄養素にあります。ここでは、特に髪との関連が指摘される主要な栄養素について、その働きを詳しく見ていきます。
ミネラル|亜鉛、ヨウ素、鉄など
ミネラルは体の機能を維持するために必要な栄養素であり、髪の健康にも深く関わっています。
亜鉛
亜鉛は、髪の主成分であるタンパク質「ケラチン」を合成する際に重要な役割を果たします。体内で作り出せない必須ミネラルのため、食事から摂取する必要があります。
わかめやひじき、のりなどに含まれる亜鉛が不足するとケラチンの合成が滞り、髪の成長が妨げられる可能性があります。
一部の研究では、亜鉛がAGAの原因物質である5αリダクターゼという酵素の働きを抑制する可能性も示唆されていますが、食事からの摂取でAGAの進行を抑えるほどの効果を期待するのは難しいでしょう。
ヨウ素
ヨウ素は、甲状腺ホルモンの主要な構成成分です。甲状腺ホルモンは全身の細胞の新陳代謝を活発にする働きがあり、髪の成長にも間接的に関与します。
また、髪の色素細胞(メラノサイト)の働きを助け、健康的な髪色を保つことにも寄与すると考えられています。
昆布やわかめ、ひじきなどに豊富に含まれます。ただし、ヨウ素は過剰摂取に注意が必要なミネラルです。
鉄
鉄は、血液中のヘモグロビンの成分となり、全身に酸素を運搬する役割を担います。髪の健やかな成長には、頭皮や毛根にも十分な酸素供給が必要であり、鉄分不足は髪の健康に影響を与える可能性があります。
ひじきやあおのりなどに含まれます。なお、ひじきの鉄分含有量については、過去の調理器具の影響で見かけ上高く測定されていた時期があり、現在の数値は修正されています。
カルシウム
カルシウムは骨や歯の形成に重要ですが、細胞の正常な機能維持にも関わっており、不足すると髪の成長に影響が出る可能性も考えられます。わかめや昆布、ひじきなどに含まれます。
主なミネラルと髪への役割
ミネラル | 髪への役割(可能性) | 主な海藻源 |
---|---|---|
亜鉛 | ケラチン合成の補助 | わかめ、ひじき、のり |
ヨウ素 | 代謝促進(甲状腺ホルモン構成成分) | 昆布、わかめ、ひじき |
鉄 | 毛根への酸素供給 | ひじき、あおのり |
カルシウム | 細胞機能の維持 | わかめ、昆布、ひじき |
ビタミン|ビタミンB群、ビタミンA・Eなど
ビタミン類もまた、体の調子を整え、髪の健康をサポートする上で大切な役割を担っています。
ビタミンB群
特にビタミンB2とB6は、タンパク質や脂質の代謝を助ける働きがあります。髪の主成分であるタンパク質の代謝がスムーズに行われることは、正常なヘアサイクルの維持に繋がります。
ビタミンB2は「発育のビタミン」とも呼ばれ、皮膚や髪、爪などの細胞の再生に関わり、皮脂の分泌調整にも役立ちます。不足すると皮脂の過剰分泌を招き、頭皮環境の悪化に繋がるケースもあります。
ビタミンB6はタンパク質の吸収や代謝をサポートします。これらは様々な海藻に含まれています。
ビタミンA
ビタミンAは皮膚や粘膜の健康維持に関わり、頭皮環境を整えて皮脂のバランスを調整する働きが期待されます。
ビタミンE
ビタミンEは抗酸化作用を持ち細胞をダメージから守るほか、血行を促進する働きがあり、頭皮への栄養供給をサポートする可能性があります。
ビタミンK
ビタミンKは直接的な育毛作用は知られていませんが、健康な血液循環の維持に関わるため、間接的に頭皮環境をサポートする可能性があります。
また、他のビタミンの吸収に関与する可能性も指摘されています。わかめの根元の部分(めかぶ)などに含まれます。
ビタミンC
ビタミンCも抗酸化作用を持ち、コラーゲンの生成を助けるほか、鉄などのミネラルの吸収を高める働きがあります。
主なビタミンと髪への役割
ビタミン | 髪への役割(可能性) | 主な海藻源(例) |
---|---|---|
ビタミンB群 | 代謝サポート、皮脂分泌調整 | 各種海藻 |
ビタミンA | 頭皮の健康維持、皮脂バランス調整 | 各種海藻 |
ビタミンE | 抗酸化作用、血行促進 | 各種海藻 |
ビタミンK | 健康な循環の維持サポート | わかめ(めかぶ) |
海藻タンパク質とアミノ酸の役割
海藻のタンパク質に関心を持つ方もいるでしょう。髪の毛の約8~9割は「ケラチン」というタンパク質で構成されています。このケラチンは、18種類のアミノ酸が結合してできています。
海藻にもタンパク質やその構成要素であるアミノ酸が含まれており、理論上はこれらが体内でケラチン合成の材料の一部となり得ます。特にわかめや昆布、ひじきなどの褐藻類には比較的タンパク質が含まれているとされます。
しかし重要な点として、一般的に海藻に含まれるタンパク質の量は、肉や魚、卵や大豆製品といった食品に比べると多くありません。
そのため髪の材料となるタンパク質を十分に摂取するためには、海藻だけに頼るのではなく、これらの高タンパク質食品をバランス良く食事に取り入れることが大切です。
髪のケラチン合成には、体内で作れない必須アミノ酸であるメチオニンや、シスチンといった特定のアミノ酸も重要です。
海藻タンパク質の概要
側面 | 詳細 | 留意点 |
---|---|---|
役割 | 髪の主成分ケラチンの構成要素であるアミノ酸を供給 | はい |
含有量 | 一般的に肉、魚、卵、大豆製品などより少ない | はい |
重要性 | 貢献はするが、多様なタンパク質源からのバランスの取れた摂取が重要 | はい |
食物繊維|アルギン酸など
海藻は食物繊維も豊富に含んでいます。特に昆布やわかめなどの褐藻類特有のぬめり成分の一つが「アルギン酸」です。
アルギン酸は水溶性食物繊維であり、便通を整えたり、糖質や脂質の吸収を穏やかにしたりする働きが知られています。
これらの働きが直接的に髪を生やすわけではありませんが、腸内環境が整うことで体全体の栄養吸収効率が高まり、間接的に髪の健康にも良い影響を与える可能性があります。
また、アルギン酸は保水性や皮膜形成能を持つため、ヘアケア製品に配合され、髪の保護や保湿目的で利用されるケースもあります。
注目成分「フコイダン」の可能性
海藻に含まれる成分の中でも、近年特に健康効果への期待から研究が進められているのが「フコイダン」です。この褐藻類特有の成分が持つ、髪への潜在的な影響について解説します。
フコイダンとは?
フコイダンは、昆布(特にガゴメ昆布)、わかめの根元の部分であるメカブ、もずく、アカモクといった褐藻類の表面を覆う「ぬめり」に含まれる主要な成分の一つです。
化学的には硫酸化フコースを主成分とする高分子の多糖類(食物繊維の一種)です。
古くからその健康効果が注目されており、近年の研究では免疫系のサポートや抗酸化作用、抗炎症作用などが報告されています。また、高い保湿力を持つのも特徴です。
髪への影響に関する研究(FGF-7,HGF)
フコイダンが髪の成長に影響を与える可能性を示唆する研究も行われています。特に注目されているのが、毛髪の成長に関わる特定の「成長因子」への働きかけです。
いくつかの研究(主に細胞を用いた基礎研究)ではフコイダン、特にガゴメ昆布由来のものが、毛髪の根元にある毛乳頭細胞に作用し「FGF-7(線維芽細胞増殖因子-7)」と呼ばれる物質の産生を高めると示されています。
FGF-7は、髪の毛を作り出す毛母細胞(ケラチノサイト)の増殖を促す重要なシグナルとして知られています。
さらに、フコイダンが「HGF(肝細胞増殖因子)」の産生を促す可能性も指摘されています。HGFは元々肝臓の再生因子として発見されましたが、近年では皮膚を含む様々な組織の修復や再生に関与することが分かっており、毛根周囲の細胞にも働きかける可能性が研究されています。
順天堂大学がHGFの育毛作用について発表したという報告もあります。これらの成長因子への作用を通じて、フコイダンが育毛をサポートする可能性が探求されています。
フコイダンが豊富な海藻の種類
フコイダンの含有量は、海藻の種類によって大きく異なります。どの海藻に多く含まれるかを知っておくことは、フコイダンに関心がある場合に役立つでしょう。
一般的に、フコイダン含有量が特に多いとされるのは沖縄県などで養殖される「オキナワモズク」です。次いで、わかめの根元部分である「メカブ」や、近年注目されている「アカモク」もフコイダンを豊富に含みます。
昆布類では、特に粘り気の強い「ガゴメ昆布」が、含有量だけでなく、そのフコイダンの活性の高さから注目されています。
一般的なわかめ(葉の部分)や他の昆布、ひじきなどにもフコイダンは含まれますが、上記の海藻に比べると含有量は少ない傾向にあります。
海藻別フコイダン含有量の目安
海藻の種類 | フコイダン含有量の目安(相対的) | 備考 |
---|---|---|
オキナワモズク | 非常に多い | 最も含有量が多いとされることが多い |
メカブ・アカモク | 多い | わかめの葉より多い |
ガゴメ昆布 | やや多い~多い(活性が高い) | 育毛研究で注目される |
わかめ・その他昆布・ひじき | 少なめ | 上記よりは含有量が低い傾向 |
フコイダンへの期待と注意点
フコイダンに関する研究は進んでおり、その保湿効果や成長因子への作用に期待が寄せられ、育毛剤やサプリメントなどの製品にも応用されています。
しかしながら、現時点ではフコイダンを豊富に含む海藻を「食べる」ことで、ヒトの薄毛(特にAGA)に対して明確な改善効果が得られるという質の高い臨床的な証拠はまだ十分とは言えません。
多くは細胞レベルや動物での研究段階であり、その効果や適切な摂取量についてはさらなる検証が必要です。
フコイダンは分子量が大きい多糖類であるため、そのまま経口摂取した場合の体内への吸収率については議論があります。
フコイダンの育毛効果は、現段階ではあくまで補助的なもの(おまけのようなもの)と捉え、過度な期待はしない方が賢明でしょう。
その他に期待される海藻の成分
海藻には、ミネラル、ビタミン、タンパク質、食物繊維、フコイダン以外にも、髪の健康に関連する可能性のある成分が含まれています。
オメガ3脂肪酸
あおさやわかめ、ひじきなど一部の海藻には、オメガ3系不飽和脂肪酸が含まれています。オメガ3脂肪酸は、体内で炎症反応を抑制する働きがある成分です。
頭皮の炎症は抜け毛や薄毛の一因となる場合もあるため、オメガ3脂肪酸の摂取は頭皮環境を健やかに保つのに役立つ可能性があります。
また、血行を促進して毛根への栄養供給をサポートしたり、髪や頭皮の乾燥を防いだりする効果も期待されます。
ただし、海藻に含まれるオメガ3脂肪酸の量は青魚などに比べると一般的に少ないため、主な摂取源として考えるのは難しいかもしれません。
クロロフィル
クロロフィルは、緑色の海藻に含まれる葉緑素です。一部では、クロロフィルが髪の主成分であるケラチンと結合しやすい性質を持ち、髪を強化する働きがあるのではないかと考えられています。
実際に、ダメージヘア用のヘアケア製品などに海藻由来のクロロフィルが配合されている例もあります。
しかし、食品として摂取した場合に同様の効果が得られるかについては、まだはっきりしていません。
代表的な海藻とその特徴
日本でよく食される代表的な海藻には、それぞれ特徴があります。
ワカメ
味噌汁やサラダなど用途が広く、ミネラル、ビタミン、アルギン酸を含みます。根元のメカブはフコイダンが豊富です。
コンブ
主に出汁に使われ、旨味成分と共にヨウ素などのミネラル、アルギン酸、フコイダン(特にガゴメ昆布)を含みます。
ヒジキ
煮物などで親しまれ、ミネラルや食物繊維を含みます。
ノリ
寿司やおにぎりに使われ、タンパク質、ビタミン、ミネラルを含みます。
モズク
酢の物などで食され、フコイダン含有量が非常に高いことで知られます。
これらの海藻を種類豊富に食事に取り入れると、多様な栄養素を摂取できます。
海藻を食生活に上手に取り入れる方法
海藻の栄養を髪の健康サポートに役立てるには、毎日の食生活に上手に取り入れる工夫が大切です。ここでは、無理なく続けられる実践的な方法や、他の食材との組み合わせについて紹介します。
日常で実践しやすい食べ方
海藻は日本の食卓に馴染み深い食材であり、手軽に取り入れる方法がたくさんあります。例えば、毎日の味噌汁にわかめを入れる、あるいは昆布で出汁を取るのは基本です。
サラダに乾燥わかめや海藻ミックスを加えるのも簡単です。ひじきの煮物やもずく酢を常備菜にするのも良いでしょう。
また、焼き海苔や味付け海苔、とろろ昆布をご飯や麺類のトッピングとして活用するのも手軽な方法です。
簡単な海藻の取り入れ方アイデア
取り入れ方 | 海藻の例 | 料理例 |
---|---|---|
汁物 | わかめ、昆布(出汁) | 味噌汁、お吸い物 |
サラダ | わかめ、海藻ミックス | 海藻サラダ(ドレッシングで) |
副菜 | ひじき、もずく | ひじきの煮物、もずく酢 |
トッピング | のり、とろろ昆布 | ご飯、麺類、汁物に乗せる |
髪に良い他の食材との組み合わせ
海藻の栄養をより活かすためには、他の髪に良いとされる食材と組み合わせることが重要です。
髪の主成分であるタンパク質を十分に補給するために、魚(特に青魚)、鶏肉(ささみなど)、卵、大豆製品(豆腐、納豆など)を一緒に摂ることを心がけましょう。
例えば、わかめと豆腐の味噌汁は定番の組み合わせです。また、鉄分の吸収を高めるビタミンCが豊富な緑黄色野菜(ピーマン、ブロッコリーなど)や、ケラチン合成を助ける亜鉛を含むナッツ類などを組み合わせるのも良いでしょう。
キムチに含まれるカプサイシンと納豆のイソフラボンを組み合わせると、育毛に関わる因子(IGF-1)が増加する可能性も指摘されています。
海藻と組み合わせたい髪に良い食材
目的(栄養素) | 食材カテゴリー | 例 |
---|---|---|
タンパク質(ケラチン) | 魚、肉(赤身)、卵、大豆製品 | サーモン、鶏肉、卵、豆腐、納豆 |
亜鉛(ケラチン合成) | ナッツ類、種子類、牡蠣 | アーモンド、かぼちゃの種 |
ビタミンC(鉄吸収) | 緑黄色野菜、果物 | ピーマン、ブロッコリー、キウイ |
バランスの取れた食事が基本
繰り返しになりますが、海藻はあくまで健康的な食生活を構成する一要素です。
特定の食品だけを偏って食べるのではなく、主食、主菜、副菜を揃え、タンパク質や脂質、炭水化物やビタミン、ミネラルを多様な食品からバランス良く摂取する工夫が、髪を含めた体全体の健康の基本です。
海藻だけに頼るのではなく、幅広い食品を食卓に取り入れましょう。
海藻を食べる際の注意点
海藻は栄養豊富な食品ですが、摂取する際にはいくつか注意すべき点があります。特に、特定の栄養素の過剰摂取には気を付ける必要があります。
ヨウ素の過剰摂取に気をつける
海藻を食べる上で最も注意したいのが「ヨウ素(ヨード)」の過剰摂取です。ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に必要ですが、摂りすぎると逆に甲状腺の機能を低下させてしまう(甲状腺機能低下症)可能性があります。
甲状腺機能の異常は、脱毛の原因にもなり得ます。日本人は日常的に海藻を食べる習慣があるため、意識しなくてもヨウ素の摂取量が多くなりがちな国民であると言われています。
そのため健康のためにと海藻を大量に、特にヨウ素含有量が極めて高い昆布などを毎日食べ続けると、過剰摂取のリスクが高まります。
例えば、乾燥わかめを水で戻した状態で1日150g程度食べると、ヨウ素の耐容上限量(健康障害リスクがないとされる上限量)を超える可能性があるという指摘もあります。
昆布はさらに含有量が高いため、出汁として利用する程度に留め、毎日大量に食べるのは避けるべきです。わかめやひじき、のりなども、常識的な量を他の食品と組み合わせて適度に摂取することを心がけましょう。
ヨウ素含有量と摂取の注意点
海藻の種類 | ヨウ素含有量の目安(相対的) | 主な注意点 |
---|---|---|
昆布(特に真昆布など) | 極めて高い | 毎日大量に食べるのは避ける。主に出汁として利用。 |
ひじき・わかめ | 高い~中程度 | バランスの取れた食事の中で適量を摂取。 |
のり・あおさ | 中程度~やや低い | 一般的な摂取量ではリスクは比較的低い。 |
過度な期待はせず、補助的に考える
海藻に含まれる栄養素は髪の健康維持に役立つ可能性がありますが、海藻を食べれば髪が生える、あるいは薄毛が治るといった魔法のような効果はありません。
海藻は健康的な食生活の一部として、髪の土台となる体全体の健康をサポートする「補助的」な役割と捉えるのが適切です。
特定の食品に頼るのではなく、生活習慣全体の見直しが大切です。
薄毛の悩みは専門医への相談も重要
もし、抜け毛が増えたり髪が細くなったりするなど、薄毛に関する具体的な悩みを抱えている場合は、自己判断で海藻の摂取量を増やすだけでなく、皮膚科医やAGA専門クリニックなどの医療機関への相談を強く推奨します。
薄毛の原因はAGA以外にも、甲状腺疾患や栄養不足、ストレスや自己免疫疾患など様々であり、原因に応じた適切な対処が必要です。
専門医は診察や検査を通じて原因を特定し、医学的根拠に基づいた治療法(内服薬、外用薬など)を提案してくれます。
海藻などの食品によるセルフケアと並行して、あるいはそれ以上に、専門的な診断と治療が悩み解決への近道となる場合があります。
よくある質問
さいごに、海藻と髪に関する疑問について、いくつかお答えします。
Q. 海藻を食べると髪は黒くなりますか?
現在のところ、海藻を食べることによって髪が黒くなるという科学的な根拠はありません。
髪の色は主に遺伝によって決まるメラニン色素の量と種類によって決まります。海藻に含まれる栄養素が直接的にメラニン生成を著しく増加させるという証拠はないと考えられています。
Q. どの海藻が一番髪に良いですか?
「この海藻が一番」と断定することはできません。海藻の種類によって含まれる栄養素の量や種類が異なるためです。
例えば、フコイダンに注目するならモズクやメカブ、ヨウ素(ただし摂取量に注意)なら昆布、日常的にミネラルやビタミンを補給したいならわかめやひじき、のりなど目的に応じて選べますが、最も大切なのは特定の海藻に偏らず様々な種類の海藻をバランス良く食事に取り入れることです。
Q. 毎日食べた方が良いですか?適量は?
毎日少量ずつ、様々な種類の海藻をバランスの取れた食事の一部として摂取するのは、一般的に問題ないと考えられます。味噌汁の具や小鉢程度の副菜として取り入れるのが良いでしょう。
ただし、前述の通りヨウ素の過剰摂取を避けるため、特に昆布などのヨウ素含有量が多い海藻を毎日大量に食べるのは避けるべきです。
特定の「適量」を一概に示すのは難しいですが、常識的な範囲で他の食品とのバランスを考えて摂取すると良いです。
Q. AGA治療と併用しても大丈夫ですか?
一般的に問題ありません。バランスの取れた食事の一部として海藻を摂取すると、AGA治療(ミノキシジルやフィナステリドなどの標準治療)と両立できます。
健康的な食生活は、治療中の体調管理にも役立ちますが、海藻を食べることがAGA治療の代わりになるわけでは決してありません。必ず医師の指示に従って治療を継続してください。
また、甲状腺疾患など持病がある場合や、食事内容について不安がある場合は、必ず主治医に相談するようにしましょう。特にヨウ素の摂取量には引き続き注意が必要です。
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