ふと鏡を見たとき、以前よりも前髪の生え際が後退しているように感じたり、シャンプー中や朝起きた時の枕元の抜け毛が増えたりすると、強い不安を感じるものです。
「もしかして、このまま薄くなってしまうのではないか」「何か対策をしなければ」と焦る気持ちは、多くの方が経験します。特に前髪の変化は目立ちやすいため、深刻な悩みにつながりやすい部分です。
この記事では、なぜ前髪が抜けるのか、その主な原因を深掘りします。
シャンプー時や起床時といった日常のサインから、AGA(男性型脱毛症)の可能性まで、あなたの疑問と不安に寄り添いながら、詳しく解説していきます。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
前髪が特に抜けやすいと感じる瞬間
抜け毛は誰にでも起こる自然な現象ですが、特定の場所、特に前髪の抜け毛が目立つようになると、不安は増大します。日常生活の中で「前髪が抜ける」と強く意識する瞬間は、どのような時でしょうか。
多くの人が経験する具体的な場面を振り返ってみましょう。
シャンプー時の抜け毛が目立つ
一日の汚れを洗い流すシャンプー時は、抜け毛を最も実感しやすい瞬間です。髪を濡らして泡立てた際、指に絡みつく毛や、すすいだ後に排水溝に集まる毛の量を見て、ドキッとすることがあります。
特に、その中に細く短い毛や、前髪から抜けたと思われる毛が多いと、「洗い方が悪いのだろうか」「シャンプーが合っていないのか」と心配になります。
毎日行う習慣だからこそ、その変化には敏感になります。
朝起きたら枕に抜け毛が多い
朝、目覚めた時に枕カバーに落ちている抜け毛の数も、健康状態のバロメーターとなります。
数本程度ならヘアサイクルの範囲内ですが、明らかに以前より本数が増えている、特に前髪付近から抜けたような短い毛が目立つ場合、睡眠中に何らかの原因で抜け毛が進行している可能性を考えます。
寝具の色によっては抜け毛が目立ちやすく、毎朝のチェックがストレスの原因になることもあります。
スタイリング中に感じる違和感
髪型をセットしようとワックスやジェルを手に取ったとき、またはドライヤーで乾かしている最中に、以前との違いを感じることもあります。
スタイリング剤をつけた手に多くの毛がついてきたり、ドライヤーの風で前髪が思ったように立ち上がらなかったり、「地肌が透けて見える範囲が広がった」と感じたりすると、抜け毛の進行を実感します。
セットが決まらない日が続くと、外出すること自体が億劫になる場合もあります。
特定の季節や時期に集中する
人によっては、特定の季節、例えば秋口などに抜け毛が増えると感じる場合があります。これは季節の変わり目による体調の変化や、夏に受けた紫外線のダメージが影響している可能性も考えます。
しかし、季節的な要因とは関係なく、ある時期から継続して前髪の抜け毛が気になる場合は、一時的なものではない、別の原因が潜んでいることを疑う必要があります。
前髪が抜ける主な原因とは
前髪の抜け毛が気になる時、その背景には様々な要因が隠れています。単なる一時的な現象であれば良いのですが、多くの場合、AGA(男性型脱毛症)の進行や、日々の生活習慣が複雑に関係しています。
なぜ前髪が抜けてしまうのか、その主な原因を詳しく見ていきましょう。
AGA(男性型脱毛症)の影響
成人男性の前髪や頭頂部の薄毛において、最も多く見られる原因がAGA(男性型脱毛症)です。これは進行性の脱毛症であり、早めの認識と対策が重要です。
AGAの概要
AGAは、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、5αリダクターゼという酵素の働きによって「DHT(ジヒドロテストステロン)」に変換されることで発生します。
このDHTが毛乳頭細胞にある受容体と結合すると、髪の成長期が短縮され、髪が太く長く成長する前に抜け落ちてしまいます。
このサイクルが繰り返されることで、徐々に髪が細く短くなり、地肌が目立つようになります。
前髪(M字部分)から進行する特徴
AGAの大きな特徴として、DHTの影響を受けやすい部位が限定されている点が挙げられます。特に前髪の生え際(M字部分)や頭頂部(O字部分)はDHTの影響を強く受けるため、薄毛が進行しやすいのです。
一方で、側頭部や後頭部の髪は影響を受けにくいため、AGAが進行しても残りやすい傾向があります。
前髪が抜ける、生え際が後退すると感じる場合、AGAの初期症状である可能性を強く疑う必要があります。
生活習慣の乱れ
髪の健康は、体全体の健康と密接に関連しています。日々の生活習慣が乱れると、頭皮環境や髪の成長に悪影響を及ぼし、抜け毛の原因となります。
食生活と栄養バランス
髪の毛は主に「ケラチン」というタンパク質でできています。そのため、偏った食生活でタンパク質が不足すると、健康な髪の毛を作ることができません。
また、タンパク質の合成を助ける亜鉛や、頭皮の血行を促進するビタミンEなども、髪の成長には必要です。
インスタント食品や脂っこい食事が多いと、頭皮の皮脂が過剰に分泌され、毛穴の詰まりや炎症を引き起こすこともあります。
髪の成長に必要な主な栄養素
| 栄養素 | 主な役割 | 多く含む食材例 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料となる | 肉、魚、卵、大豆製品 |
| 亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉(赤身) |
| ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝を促す | 豚肉、マグロ、カツオ、レバー |
睡眠不足と成長ホルモン
髪の毛は、私たちが寝ている間に分泌される「成長ホルモン」によって成長が促されます。特に、入眠後すぐの深い眠り(ノンレム睡眠)の間に成長ホルモンは最も多く分泌されます。
睡眠不足が続いたり、眠りが浅かったりすると、成長ホルモンの分泌が不十分になり、髪の成長サイクルが乱れ、抜け毛が増える原因となります。
運動不足と血行不良
デスクワーク中心の生活で運動不足になると、全身の血行が悪くなりがちです。特に頭皮は心臓から遠い位置にあるため、血行不良の影響を受けやすい部分です。
髪の成長に必要な栄養や酸素は血液によって毛乳頭細胞に運ばれるため、頭皮の血行が悪くなると、髪に十分な栄養が届かず、抜け毛や薄毛につながります。
ストレスによる影響
精神的な負担も、髪の健康に大きな影響を与えます。過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、抜け毛を引き起こすことがあります。
精神的ストレスとホルモンバランス
仕事や人間関係などで強いストレスを感じると、自律神経のうち交感神経が優位な状態が続きます。交感神経が優位になると血管が収縮するため、頭皮の血行が悪化します。
また、ストレスはホルモンバランスの乱れも引き起こし、皮脂の過剰分泌や頭皮環境の悪化を招くことがあります。これが抜け毛の一因となります。
身体的ストレスと頭皮環境
過労や体調不良といった身体的なストレスも、髪にとってはマイナスです。
体が疲労していると、生命維持に重要な臓器へ優先的に栄養が送られるため、髪の毛の成長に使われる栄養は後回しにされがちです。
結果として、髪が細くなったり、抜けやすくなったりします。
誤ったヘアケア
良かれと思って行っている日々のヘアケアが、逆に頭皮や髪にダメージを与え、抜け毛を助長しているケースも少なくありません。
強すぎるシャンプーと洗い方
頭皮の皮脂や汚れを落とそうと、洗浄力の強すぎるシャンプーを使ったり、爪を立ててゴシゴシ洗ったりすると、頭皮を守るために必要な皮脂まで奪ってしまいます。
頭皮が乾燥すると、フケやかゆみの原因になるだけでなく、外部からの刺激に弱い状態になります。また、皮脂を取りすぎることで、かえって皮脂の分泌が過剰になる場合もあります。
ヘアスタイリング剤の残存
ワックスやスプレーなどのスタイリング剤を使った日は、その日のうちにしっかりと洗い流すことが重要です。
スタイリング剤が頭皮や毛穴に残ったままだと、雑菌が繁殖しやすくなり、炎症や毛穴の詰まりを引き起こします。これが前髪の抜け毛につながることもあります。
シャンプー時・起床時の抜け毛が多い理由
日常生活の中で抜け毛を意識する二大場面が「シャンプー時」と「起床時」です。これらの瞬間に抜け毛が多いと感じる背景には、ヘアサイクルと日常の行動が関係しています。
なぜこのタイミングで抜け毛が目立つのか、その理由と注意点を解説します。
シャンプーが原因?正しい洗い方
シャンプー時に抜け毛が多いと、「このシャンプーが合わないのでは?」と不安になるかもしれません。しかし、シャンプーは「既に抜け落ちる段階にあった毛」を洗い流しているにすぎない場合がほとんどです。
とはいえ、洗い方やシャンプー剤の選び方が頭皮環境を悪化させ、将来的な抜け毛を増やしている可能性はあります。
頭皮タイプとシャンプー剤の選び方
| 頭皮タイプ | 特徴 | シャンプー選びの目安 |
|---|---|---|
| 乾燥肌 | フケが出やすく、つっぱり感がある | アミノ酸系など洗浄力がマイルドなもの |
| 脂性肌 | ベタつきやすく、ニオイが気になる | 適度な洗浄力がある石鹸系・高級アルコール系 |
| 敏感肌 | 赤みやかゆみが出やすい | 低刺激性で添加物の少ないもの |
摩擦を避ける洗髪技術
髪の毛は濡れている時が最もダメージを受けやすい状態です。洗髪時に爪を立てたり、髪同士を強くこすり合わせたりする「摩擦」は、切れ毛や抜け毛の原因となります。
シャンプーは手のひらで十分に泡立て、指の腹を使って頭皮をマッサージするように優しく洗うことが大切です。すすぎ残しは毛穴詰まりの原因になるため、時間をかけて丁寧に洗い流しましょう。
枕元の抜け毛が示すサイン
朝起きた時の枕元の抜け毛は、睡眠中の新陳代謝の結果です。しかし、その本数や毛質には注意が必要です。
正常なヘアサイクルとの比較
髪の毛には「成長期」「退行期」「休止期」というヘアサイクルがあります。休止期に入った髪は、数ヶ月で自然に抜け落ちます。
枕元の抜け毛が、ある程度太さのある自然な抜け毛であれば、ヘアサイクルによるものである可能性が高いです。
しかし、細く短い毛や、明らかに本数が増加している場合は、ヘアサイクルが乱れ、成長途中の髪が抜けているサインかもしれません。
寝具の清潔さと頭皮環境
枕カバーは、寝ている間の汗や皮脂を吸収しています。不潔な状態が続くと、雑菌が繁殖し、頭皮の炎症やかゆみを引き起こす原因となります。頭皮環境が悪化すれば、抜け毛にも影響します。
枕カバーはこまめに洗濯し、清潔な状態を保つことが、頭皮の健康を守る上で重要です。
抜け毛の本数で判断する目安
1日に抜ける髪の毛の本数は、ヘアサイクルが正常な人でも50本から100本程度あると言われています。
シャンプー時には、その日の抜け毛の多くが洗い流されるため、30本から60本程度が排水溝にあっても、必ずしも異常ではありません。
1日あたりの抜け毛本数の目安
| 状態 | 1日の抜け毛本数(目安) | 主な内訳 |
|---|---|---|
| 正常範囲 | 50〜100本 | シャンプー時(30〜60本)、その他(20〜40本) |
| 注意が必要 | 150本以上が継続 | シャンプー時や起床時の抜け毛が明らかに増加 |
| 危険信号 | 200本以上が継続 | 細く短い毛(成長途中の毛)の割合が多い |
ただし、本数だけが全てではありません。本数が正常範囲内でも、前髪の生え際など特定の場所ばかり抜ける、抜けた毛が細く短いといった場合は注意が必要です。
本数の増減と合わせて、毛質(太さ・長さ)の変化にも目を向けましょう。
AGAのサインを見極める
前髪が抜ける原因として最も警戒すべきはAGA(男性型脱毛症)です。AGAは進行性のため、そのサインを早期に察知し、対策を始めることが非常に重要です。
単なる抜け毛とAGAによる抜け毛には、どのような違いがあるのでしょうか。見極めるためのポイントを解説します。
AGAによる抜け毛の特徴
AGAによる抜け毛の最大の特徴は、髪の毛が十分に成長しきる前に抜けてしまうことです。これを「軟毛化(なんもうか)」と呼びます。
正常なヘアサイクルで抜ける毛(休止期毛)はある程度の太さと長さがありますが、AGAの影響を受けた毛は、細く、短く、コシのない「うぶ毛」のような状態で抜けていきます。
シャンプー時や枕元で、このような細く短い毛が目立つようになったら、AGAのサインである可能性が高いです。
前髪(生え際)後退のパターン
AGAの進行パターンにはいくつかありますが、前髪から進行する場合、多くは生え際の両サイド、いわゆる「M字」部分から後退していきます。
鏡で正面から見たときに、額の剃り込みが深くなったように感じるのが特徴です。また、生え際の中央部分から後退していくパターン(U字型)もあります。
以前の写真と見比べて、明らかに生え際のラインが変わっている場合は、AGAを疑う強い根拠となります。
頭頂部の薄毛との関連性
AGAの影響は、前髪の生え際だけでなく、頭頂部(O字部分)にも現れやすい特徴があります。
前髪の後退と同時に、頭頂部のつむじ周りが薄くなってきた(地肌が透けて見えるようになってきた)場合、AGAが両方から進行している可能性が高いです。
「前髪も頭頂部も気になる」という状態は、AGAの典型的な症状の一つです。
家族歴(遺伝)との関係
AGAの発症には、遺伝的な要因が強く関わっています。特に母方の家系(母、母方の祖父や曽祖父)に薄毛の人がいる場合、AGAを発症しやすい体質を受け継いでいる可能性があります。
もちろん、父方の家系からの影響もあります。
家族歴があるからといって必ず発症するわけではありませんが、親族に薄毛の人が多く、かつご自身も前髪の抜け毛が気になり始めた場合は、AGAの可能性をより一層考慮する必要があります。
AGA以外の脱毛症の可能性
前髪が抜ける、薄くなると感じた場合、その多くはAGAが原因ですが、まれに他の脱毛症が隠れていることもあります。
AGAとは原因や症状の現れ方が異なるため、違いを知っておくことも大切です。ここでは代表的な脱毛症を紹介します。
円形脱毛症
円形脱毛症は、自己免疫疾患の一つと考えられており、自身の免疫細胞が毛根を攻撃してしまうことで髪が抜けます。
前触れなく、突然コインのような円形や楕円形に髪が抜け落ちるのが特徴です。AGAのように徐々に薄くなるのではなく、ある日突然ごっそりと抜けます。
ストレスが引き金になることもありますが、原因は完全には解明されていません。前髪の生え際にできることもありますが、多くはAGAとは異なる局所的な抜け方をします。
脂漏性脱毛症
これは、頭皮の皮脂が過剰に分泌されることで発症する「脂漏性皮膚炎」が悪化し、抜け毛を引き起こす状態です。
皮脂が多いことでマラセチア菌という常在菌が異常増殖し、頭皮が炎症を起こし、フケやかゆみを伴います。頭皮環境の悪化が毛根にダメージを与え、髪が抜けてしまいます。
AGAのように特定の部位から進行するというよりは、頭部全体的に抜け毛が増える傾向があります。
牽引性脱毛症
牽引性脱毛症は、物理的な力が長期間加わることで発生する脱毛症です。
例えば、毎日髪を強く引っ張るようなヘアスタイル(ポニーテール、オールバックなど)を続けていると、前髪の生え際や分け目の部分の毛根が弱り、髪が抜けてしまいます。
これはAGAとは異なり、原因となる髪型をやめることで改善が見込めますが、長期間続くと毛根がダメージを受け、髪が生えてこなくなることもあります。
主な脱毛症の種類と特徴
| 脱毛症の種類 | 主な原因 | 特徴的な症状 |
|---|---|---|
| AGA(男性型脱毛症) | 男性ホルモン(DHT)の影響、遺伝 | 前髪(M字)や頭頂部(O字)から徐々に薄くなる |
| 円形脱毛症 | 自己免疫疾患(ストレスなども関連) | 円形・楕円形に突然髪が抜け落ちる |
| 脂漏性脱毛症 | 皮脂の過剰分泌、マラセチア菌 | 強いフケ・かゆみを伴い、頭皮全体が抜ける傾向 |
| 牽引性脱毛症 | 髪への物理的な牽引(引っ張り) | 髪型で引っ張られる生え際や分け目が薄くなる |
前髪の抜け毛対策セルフケア
前髪の抜け毛が気になり始めたら、AGAの可能性を考えつつも、まずは自分でできるセルフケアから見直していくことが大切です。
頭皮環境を整え、髪の成長をサポートするために、今日から始められる対策を紹介します。
ただし、これらはあくまでAGAの進行を「遅らせる」または「予防する」ためのものであり、AGAを完治させるものではないことを理解しておきましょう。
食生活の見直し
健康な髪は、バランスの取れた食事から作られます。特に髪の主成分であるタンパク質、それを助ける亜鉛、頭皮環境を整えるビタミン類を意識して摂取することが重要です。
髪の健康を支える食材例
| 栄養素 | 食材例 | 期待できる役割 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 鶏むね肉、青魚、卵、納豆 | 髪の毛の主原料となる |
| 亜鉛 | 牡蠣、レバー、アーモンド | 髪の毛(ケラチン)の合成を助ける |
| ビタミンA/C/E | 緑黄色野菜、果物、ナッツ類 | 頭皮の健康維持、血行促進 |
控えるべき食習慣
一方で、脂質の多い揚げ物やジャンクフード、糖分の多い菓子類や清涼飲料水の過剰摂取は控えるべきです。これらは皮脂の過剰分泌を招き、頭皮環境を悪化させる可能性があります。
また、過度なアルコール摂取や喫煙も、血行不良やビタミンの消費につながるため、髪の成長にはマイナスです。
睡眠の質を高める工夫
髪の成長を促す成長ホルモンは、深い睡眠中に分泌されます。単に長く寝るだけでなく、「睡眠の質」を高めることが重要です。
就寝1〜2時間前に入浴して体を温める、就寝前のスマートフォンやPCの使用を避けてリラックスする時間を作る、カフェインの摂取を午後に控えるなど、質の良い睡眠を確保するための工夫をしましょう。
ストレス管理とリラックス法
現代社会でストレスをゼロにすることは困難ですが、溜め込まない工夫はできます。適度な運動(ウォーキングやジョギングなど)は、血行促進とストレス発散の両方に効果的です。
また、趣味に没頭する時間を作ったり、ゆっくりと深呼吸をしたりするなど、自分なりのリラックス法を見つけることが、自律神経のバランスを整え、頭皮の血行を保つことにつながります。
正しいヘアケア習慣の徹底
毎日のヘアケアを見直すことも、抜け毛対策の基本です。洗浄力の強すぎるシャンプーを避け、自分の頭皮タイプに合ったものを選びましょう。
洗髪時は爪を立てず、指の腹で優しくマッサージするように洗います。すすぎは十分に行い、シャンプー剤が残らないように注意してください。
洗髪後は、ドライヤーで頭皮からしっかりと乾かし、雑菌の繁殖を防ぎます。
頭皮マッサージの方法
シャンプー中や育毛剤を塗布した後などに、頭皮マッサージを取り入れるのも良い方法です。
指の腹を頭皮に密着させ、頭皮自体を動かすイメージで、生え際から頭頂部に向かってゆっくりと揉みほぐします。血行が促進され、毛根に栄養が届きやすくなります。
育毛剤の活用
セルフケアの一環として、市販の育毛剤を活用することも一つの手段です。育毛剤は、頭皮環境を整え、今ある髪の毛を健康に育てること(育毛・発毛促進)を目的としています。
AGAの進行を直接止めるものではありませんが、抜け毛予防や頭皮ケアとして役立ちます。
育毛剤選びで注目したい点
- 頭皮の血行を促進する成分
- 頭皮の炎症を抑える成分
- 皮脂の分泌を調整する成分
自分の頭皮の状態や悩みに合わせて、これらの成分が含まれているかを確認し、継続して使用できるものを選びましょう。
専門家への相談を考えるタイミング
セルフケアは抜け毛対策の基本ですが、前髪の抜け毛がAGAによるものである場合、セルフケアだけで進行を完全に止めることは困難です。
薄毛の悩みを根本的に解決するためには、専門家の診断と適切な治療が必要になる場合があります。どのタイミングで専門家(皮膚科やAGA専門クリニック)に相談すべきか、その目安を知っておきましょう。
セルフケアで改善しない場合
食生活や睡眠、ヘアケアなど、日常生活を見直し、数ヶ月間セルフケアを続けても、抜け毛の量が減らない、または前髪の後退が止まらないと感じる場合は、専門家への相談を考えるべきタイミングです。
AGAは進行性であるため、時間が経つほど対策が難しくなる可能性があります。
抜け毛が急激に増えた時
「最近、急に抜け毛が増えた」「シャンプーのたびに大量に抜ける」といった急激な変化があった場合も注意が必要です。
AGAが急速に進行している可能性のほか、円形脱毛症や他の内科的疾患が隠れている可能性もゼロではありません。原因を特定するためにも、早めに医師の診察を受けることを推奨します。
AGAの兆候が強く見られる時
この記事で紹介したような「細く短い抜け毛が増えた」「前髪のM字部分が明らかに後退してきた」「頭頂部も同時に薄くなってきた」「家族に薄毛の人が多い」といったAGAのサインが複数当てはまる場合は、セルフケアと並行して、早期に専門クリニックに相談することが賢明です。
AGAは早期発見・早期対策が、将来の髪の状態を大きく左右します。
専門クリニックでできること
専門クリニックでは、医師による問診や視診、マイクロスコープでの頭皮チェックなどを行い、抜け毛の原因がAGAなのか、それ以外の要因なのかを診断します。
その上で、個々の症状や進行度に応じた対策を提案します。
専門クリニックでの主な対応
| 対応内容 | 目的・概要 | 対象となることが多い症状 |
|---|---|---|
| 内服薬の処方 | AGAの原因(DHT)の生成を抑制する | AGA(中程度〜) |
| 外用薬の処方 | 頭皮の血流を改善し、発毛を促す | AGA(初期〜)、薄毛全般 |
| 生活指導 | 食生活やヘアケアのアドバイス | 全ての抜け毛・薄毛の悩み |
一人で悩み続けることは、それ自体がストレスとなり、さらに抜け毛を悪化させる可能性もあります。
専門家の客観的な視点とアドバイスを得ることで、不安が軽減され、自分に合った正しい一歩を踏み出すことができます。
よくある質問
- 前髪の抜け毛は育毛剤で止まりますか?
-
市販の育毛剤は、主に頭皮環境を整えたり、血行を促進したりすることで、今ある髪を健康に育て、「抜け毛を予防する」効果を目的としています。
AGAが原因で前髪が抜けている場合、育毛剤だけでAGAの進行を完全に止めることは難しいと考えます。
AGAの進行を抑制するには、医療機関で処方される治療薬(内服薬や外用薬)が必要となる場合が多いです。
- 生活習慣を改善すればAGAは治りますか?
-
生活習慣の改善(バランスの良い食事、十分な睡眠、ストレス管理)は、頭皮環境を良好に保ち、髪の毛が育ちやすい土台を作るために非常に重要です。
しかし、AGAの主な原因は男性ホルモンと遺伝的要因にあるため、生活習慣を改善しただけでAGAが「治る」ことはありません。
ただし、生活習慣の乱れはAGAの進行を早める可能性があるため、改善に取り組むことは薄毛対策の基本となります。
- シャンプーは1日に何回するのが良いですか?
-
シャンプーの頻度は、その人の頭皮タイプやライフスタイルによります。基本的には1日1回、夜に行うのが望ましいです。
汗をかきやすい脂性肌の人や、日中に運動をした場合は1日2回洗うこともありますが、洗いすぎは頭皮の乾燥を招く可能性があります。
朝シャン(朝のシャンプー)は、夜の間に分泌された皮脂をリセットできますが、時間がないとすすぎ残しになりやすいため注意が必要です。
いずれにせよ、自分の頭皮の状態を見ながら調整することが大切です。
- 抜け毛予防に良い食べ物はありますか?
-
特定の食べ物だけを食べれば抜け毛が完全に予防できるわけではありませんが、髪の健康をサポートする栄養素を積極的に摂ることは有効です。
髪の主成分であるタンパク質(肉、魚、大豆製品)、タンパク質の合成を助ける亜鉛(牡蠣、レバー)、頭皮の血行を良くするビタミンE(ナッツ類、アボカド)、頭皮の新陳代謝を促すビタミンB群(豚肉、マグロ)などをバランスよく食事に取り入れることをお勧めします。
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