抜け毛に毛根がないのは危険?毛根が小さい?AGAのサインか

抜け毛に毛根がないのは危険?毛根が小さい?AGAのサインか

お風呂の排水溝や枕に落ちた抜け毛を見て、「あれ?毛根がない?」と不安に感じたことはありませんか。

また、「毛根がなんだか小さい気がする…」というのは、もしかしたら薄毛のサインではないかと心配になる方も多いでしょう。

抜け毛の状態は、頭皮や髪の健康状態を示す重要なバロメーターです。特に毛根の状態は、ヘアサイクルが正常に機能しているかどうかを判断する手がかりを与えてくれます。

この記事では、なぜ抜け毛に「毛根がない」ように見えるのか、毛根が小さい場合に考えられる原因、それがAGA(男性型脱毛症)のサインである可能性、そして危険な抜け毛を見分ける方法と、今すぐ始められる対策について詳しく解説します。

ご自身の抜け毛の状態を正しく理解し、不安を解消するための一歩としましょう。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

そもそも「毛根がない」抜け毛は存在するのか?

抜け毛を観察した際に「毛根がない」と感じることがあっても、実際には「毛根がない」抜け毛というものは原則として存在しません。

髪の毛が頭皮から抜ける時、それは毛穴の奥にある「毛包(もうほう)」という組織から離れることを意味します。

この毛包の最深部にあるのが「毛根」であり、抜け毛には必ず毛根の一部が付着しています。

「毛根がない」は誤解?

髪の毛は、皮膚の表面に出ている「毛幹(もうかん)」と、皮膚の下に隠れている「毛根」の二つの部分から成り立っています。

毛根は毛球とも呼ばれ、髪の毛を作り出す毛母細胞や、栄養を運ぶ毛乳頭などが集まる重要な部分です。髪が自然に抜ける(自然脱毛)場合でも、毛根の一部は必ず毛幹の先端についてきます。

したがって、「毛根がない」と感じるのは、多くの場合、毛根が非常に小さいか、目立たない状態であるためです。

なぜ「毛根がない」ように見えるのか

では、なぜ毛根が見えない、あるいは「ない」ように感じてしまうのでしょうか。主な理由は二つあります。一つは、毛根が極端に小さい、あるいは痩せ細っているケースです。

これは、髪の毛が十分に成長しきる前に抜けてしまったことを示している可能性があります。もう一つは、抜けた毛が「切れ毛」である場合です。

切れ毛は、髪の毛が毛根から抜けたのではなく、毛幹の途中で切れてしまった状態を指します。この場合、切れた先端には当然ながら毛根は付着していないため、「毛根がない」ように見えます。

切れ毛は、髪のダメージや栄養不足が原因で起こることが多いです。

正常な抜け毛にも毛根はついている

健康な頭皮でも、髪の毛には「ヘアサイクル(毛周期)」があり、1日に50本から100本程度は自然に抜け落ちます。このヘアサイクルは、「成長期(髪が成長する期間)」「退行期(成長が止まる期間)」「休止期(毛根が浅くなり抜け落ちる準備をする期間)」の3つを繰り返しています。

正常なヘアサイクルを経て休止期に達した髪の毛は、毛根が「棍棒(こんぼう)状」と呼ばれる、丸く膨らんだ形をしています。色は白っぽいか半透明で、これが健康な抜け毛の毛根の特徴です。

この棍棒状の毛根を見て、「毛根がない」あるいは「小さい」と感じることは少ないかもしれません。不安を感じる抜け毛は、この正常な状態とは異なる特徴を持っていることが多いのです。

正常な抜け毛と切れ毛・AGA軟毛の毛根比較図

毛根の役割とは

毛根は、髪の毛の「製造工場」とも言える重要な場所です。毛根の最下部にある「毛球(もうきゅう)」には、髪の毛の元となる「毛母細胞」が存在します。

毛母細胞は、毛球の中心にある「毛乳頭」から栄養や酸素を受け取って細胞分裂を繰り返し、新しい髪の毛を作り出します。

毛根が健康でなければ、毛母細胞は活発に働けず、結果として髪の毛は細く弱々しくなり、成長途中で抜けやすくなります。

毛根の状態をチェックすることは、この「製造工場」が正常に稼働しているかを確認することに他なりません。

危険な抜け毛の毛根の特徴

抜け毛の毛根をチェックすることで、頭皮や髪の健康状態を推測できます。すべての抜け毛が危険なわけではありませんが、以下のような特徴を持つ毛根が見られる場合は、注意が必要です。

これらはヘアサイクルの乱れや、何らかの頭皮トラブルを示唆している可能性があります。

毛根が小さい・細い・痩せている

最も注意したいのが、毛根部が極端に小さい、細い、または痩せ細っている状態です。

これは、髪の毛が「成長期」を十分に全うできず、未成熟なまま「退行期」や「休止期」に入って抜けてしまったサインと考えられます。

正常な抜け毛(休止期脱毛)の毛根は棍棒状に膨らんでいますが、成長途中で抜けた毛は毛根が未発達で、まるで鉛筆の先のように尖っていることさえあります。

このような抜け毛が増えることは、薄毛が進行する前兆である可能性が高いです。

毛根が黒い・べたっとしている

毛根部が黒ずんでいたり、ベタベタとした感触があったりする場合、それは皮脂の過剰分泌や、毛穴に詰まった汚れが原因かもしれません。

頭皮の皮脂が多すぎると、毛穴を塞ぎ、炎症を引き起こすことがあります(脂漏性皮膚炎)。この炎症が毛根にダメージを与え、正常な髪の成長を妨げる結果、抜け毛につながることがあります。

また、皮脂が酸化すると頭皮環境はさらに悪化します。

毛根の形がいびつ・ギザギザしている

正常な毛根は丸み(あるいは棍棒状)を帯びていますが、形がいびつであったり、ギザギザしていたりする場合は、毛根が外部からの強い力によって引き抜かれた可能性があります。

これは「牽引性(けんいんせい)脱毛症」の特徴です。毎日同じ場所で髪を強く結んだり、強くブラッシングしすぎたりすると、毛根に物理的なダメージが蓄積し、抜けてしまうことがあります。

この場合、毛根部にはまだ成長途中の組織が付着しているため、いびつな形に見えるのです。

毛根に白いベタベタ(皮脂塊)が付着している

毛根に、半透明でフケのようなものではなく、粘り気のある白い塊(皮脂塊)が付着している場合も注意が必要です。

これは、毛根を包んでいる「毛根鞘(もうこんしょう)」という組織である可能性もありますが、明らかにベタベタしている場合は、過剰な皮脂が毛穴に詰まっていた証拠です。

頭皮の皮脂バランスが崩れ、ターンオーバー(新陳代謝)が乱れていることを示しています。頭皮環境の悪化は、抜け毛を助長する大きな要因です。

危険な毛根の状態まとめ

毛根の特徴考えられる原因危険度(目安)
小さい・細い・痩せているヘアサイクルの乱れ、栄養不足、AGA高い
黒い・べたつく皮脂過剰、汚れ、頭皮環境の悪化中〜高
形がいびつ・ギザギザ物理的ダメージ(牽引性脱毛症など)
危険サインの毛根形状:小さい・黒い皮脂付着・いびつ形の例

毛根が小さいのはAGA(男性型脱毛症)のサインか?

「毛根がない」ように見えるほど小さい、あるいは細い抜け毛が増えてきた場合、多くの男性が心配するのがAGA(男性型脱毛症)の可能性です。AGAは、毛根の状態と密接に関連しています。

ここでは、AGAがどのようにして毛根を小さくするのか、その関係性について解説します。

AGAとは何か

AGA(Androgenetic Alopecia)は、一般的に「男性型脱毛症」と呼ばれ、成人男性に見られる最も一般的な脱毛症のタイプです。

思春期以降に発症し、生え際(M字部分)や頭頂部(O字部分)から徐々に薄毛が進行していく特徴があります。

AGAは遺伝的な要因や、男性ホルモンの影響が主な原因とされています。放置すると薄毛はゆっくりとですが確実に進行していきます。

AGAとヘアサイクルの関係

AGAの進行において鍵となるのが、ヘアサイクルの乱れです。男性ホルモンの一種である「テストステロン」が、頭皮に存在する「5αリダクターゼ」という酵素と結びつくと、「DHT(ジヒドロテストステロン)」という強力な男性ホルモンに変換されます。

このDHTが、毛根にある受容体と結合すると、髪の成長を阻害する信号が出されます。 具体的には、髪の毛が太く長く成長する「成長期」が、通常よりも大幅に短縮されてしまいます。

本来であれば数年間続くはずの成長期が、数ヶ月から1年程度で終わってしまうのです。

AGAメカニズム図:DHTによる毛包ミニチュア化とM字・つむじの進行イメージ

AGAの抜け毛(毛根)の特徴

成長期が短縮されると、髪の毛は十分に育つ時間がありません。その結果、髪は太く硬い「硬毛」に成長できず、細く短い「軟毛(うぶ毛)」の状態で抜け落ちてしまいます。

このような軟毛は、毛根自体も未発達で非常に小さく、痩せ細っています。

そのため、AGAが進行している方の抜け毛を観察すると、「毛根がない」ように見える、あるいは「毛根が極端に小さい」抜け毛の割合が非常に高くなります。

これが、毛根の小さい抜け毛がAGAのサインとされる最大の理由です。

AGA以外の可能性も考慮する

ただし、毛根が小さい抜け毛がすべてAGAによるものとは限りません。後述するように、栄養不足や強いストレス、頭皮環境の悪化によっても、髪の成長は妨げられ、毛根が痩せてしまうことはあります。

しかし、抜け毛の毛根が小さいことに加え、「生え際が後退してきた」「頭頂部が薄くなってきた」「髪全体のハリやコシが失われ、細い毛が増えた」といった自覚症状がある場合は、AGAを発症している可能性を強く疑う必要があります。

AGAは早期の対策が進行を食い止める鍵となるため、これらのサインを見逃さないことが重要です。

AGA以外で「毛根がない」ように見える抜け毛の原因

毛根が小さい、あるいは「ない」ように見える抜け毛は、AGAの典型的な特徴の一つですが、それ以外の要因が引き金となっている場合もあります。

頭皮は非常にデリケートであり、体調や生活習慣の影響を受けやすい場所です。ここでは、AGA以外で髪の成長を妨げ、毛根を小さくしてしまう可能性のある原因を探ります。

頭皮環境の悪化(脂漏性脱毛症など)

頭皮環境の悪化は、健康な髪の成長を妨げる大きな要因です。

例えば「脂漏性脱毛症(しろうせいだつもうしょう)」は、皮脂の過剰分泌によって頭皮に炎症が起こり、フケや痒みとともに抜け毛が増える症状です。

皮脂が毛穴に詰まると、毛根は正常な活動ができなくなります。また、皮脂をエサにする常在菌(マラセチア菌)が異常増殖すると、その代謝物が頭皮を刺激し、炎症を悪化させます。

このような悪環境下では、毛根は十分に栄養を受け取れず、萎縮してしまい、結果として毛根の小さな抜け毛が増えることになります。

栄養不足

髪の毛は、私たちが摂取する栄養素から作られています。特に、髪の主成分である「ケラチン」というタンパク質は、日々の食事から摂取するタンパク質が元になります。

過度なダイエットや偏った食生活によって、タンパク質、あるいはケラチンの合成を助ける「亜鉛」、頭皮の健康を保つ「ビタミンB群」などが不足すると、髪の毛の「材料不足」に陥ります。

材料が足りなければ、毛根は健康な髪を作ることができず、細く弱い髪しか生えてこなくなり、抜け毛も増えてしまいます。

過度なストレス

精神的なストレスも、髪の健康に大きな影響を与えます。強いストレスを感じると、自律神経のバランスが崩れ、交感神経が優位な状態が続きます。

交感神経は血管を収縮させる働きがあるため、頭皮の毛細血管も収縮し、血行不良を引き起こします。 血行が悪くなると、毛根にある毛乳頭や毛母細胞に、酸素や栄養素が十分に行き渡らなくなります。

栄養不足に陥った毛根は活動が鈍り、髪の成長が阻害され、毛根の小さな抜け毛(休止期脱毛)が増加する原因となります。

これは「円形脱毛症」とは異なる、慢性的な抜け毛につながる可能性があります。

生活習慣の乱れ

睡眠不足、喫煙、過度な飲酒といった生活習慣の乱れも、巡り巡って毛根にダメージを与えます。 髪の成長に欠かせない「成長ホルモン」は、主に睡眠中に分泌されます。

睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が減少し、毛母細胞の分裂が滞ります。 喫煙は、ニコチンの作用で血管を強力に収縮させ、頭皮の血行を著しく悪化させます。

また、過度な飲酒は、アルコールの分解のために体内のビタミンやアミノ酸を大量に消費するため、髪に必要な栄養素が不足しがちになります。

毛根の健康を損なう要因

要因毛根への主な影響対策の方向性
栄養不足髪の材料不足、毛根の萎縮バランスの取れた食事(特にタンパク質・亜鉛)
ストレス血行不良、ホルモンバランスの乱れリラックス、適度な運動、十分な休養
睡眠不足成長ホルモンの分泌低下、新陳代謝の悪化質の良い睡眠を7時間程度確保する

自分の毛根をセルフチェックする方法

「毛根がない」ように見えたり、「小さい」と感じたりしたら、まずは自分の抜け毛の状態を客観的にチェックしてみましょう。特別な器具がなくても、簡単な方法で毛根の状態を確認できます。

正常な毛根と異常な毛根を見分けることで、現在の頭皮の状態を把握する手がかりになります。

準備するもの

毛根のセルフチェックは、誰でも簡単に行えます。必要なものは以下の通りです。

まず、チェックしたい「抜け毛」を集めます。シャンプー後の排水溝、朝起きた時の枕の上、ブラッシングした際についた毛などが集めやすいでしょう。

次に、抜け毛を乗せるための「白い紙」を準備します。黒い毛根や汚れもはっきりと確認できます。 そして、毛根を詳細に観察するために「拡大鏡(虫眼鏡)」があると便利です。

持っていない場合は、スマートフォンのカメラの「ズーム機能」や「マクロ撮影機能」を使うと、非常に鮮明に確認できるため推奨します。

チェックの手順

準備ができたら、以下の手順で観察してみましょう。 まず、白い紙の上に、集めた抜け毛を数本置きます。この時、毛先と毛根の向きを揃えると比較しやすくなります。

次に、毛先ではなく、髪の毛の「根元」側(頭皮についていた側)に注目します。 そして、拡大鏡やスマートフォンのカメラを使って、毛根の部分をできるだけ拡大して観察します。

ピントをしっかり合わせて、毛根の「形」「色」「大きさ」「付着物」を重点的にチェックしてください。

毛根セルフチェック手順:道具と観察ポイント

正常な毛根(自然脱毛)の見分け方

ヘアサイクル(休止期)を終えて自然に抜けた、健康な毛根には以下のような特徴があります。 毛根の先端が、マッチ棒の先や棍棒のように、丸く適度に膨らんでいます。

これは毛根が成熟し、次の髪の毛(新生毛)に押し出される形で抜けた証拠です。色は白っぽいか半透明で、特に汚れやベタつきは見られません。

毛根鞘(もうこんしょう)という半透明の膜のようなものが少量付着していることもありますが、これは正常な組織の一部です。毛根から続く毛幹(髪の毛)自体も、ある程度の太さとハリがあります。

異常な毛根(危険なサイン)の見分け方

一方、注意が必要な「異常な毛根」には、以下のような特徴が見られます。 最も分かりやすいのが、毛根が丸く膨らんでおらず、極端に小さいか、細く尖っている状態です。

これは成長期途中で抜けてしまった可能性を示します。

また、毛根が黒っぽかったり、脂っぽくベタベタしていたり、あるいは毛根の周りにベタついた白い皮脂の塊が付着している場合も、頭皮環境が悪化しているサインです。

さらに、毛根自体は普通でも、そこから生えている毛が極端に細く、弱々しい場合も、AGAや栄養不足によって髪が軟毛化している可能性があります。

抜け毛セルフチェックシート

チェック項目正常な状態(目安)注意が必要な状態(目安)
毛根の形丸く膨らんでいる(棍棒状)小さい、細い、尖っている、いびつ
毛根の色白い、半透明黒い、茶色い
毛根の付着物特になし(少量の毛根鞘はOK)ベタベタした皮脂、フケ

毛根が小さい・危険な抜け毛に気づいた時の対策

セルフチェックの結果、毛根が小さい、あるいは「ない」ように見える抜け毛や、その他の異常が見つかった場合、どうすればよいでしょうか。抜け毛は頭皮からのSOSサインです。

そのサインを受け取ったら、まずは日々の生活習慣やヘアケアを見直すことから始めましょう。早期の対策が、将来の髪の健康を守ることにつながります。

まずは見直したい生活習慣

髪の毛は、体の健康状態を映す鏡とも言えます。毛根に十分な栄養を届け、健やかな成長をサポートするためには、体の内側からのケアが非常に重要です。

特に「食事」「睡眠」「ストレス管理」の3点は、髪の健康に直結します。不規則な生活や偏った食事は、頭皮の血行不良や栄養不足を招き、毛根が痩せる原因となります。

まずはご自身の生活リズムを振り返ってみましょう。

食生活の改善

健康な髪を育てるためには、バランスの取れた食事が欠かせません。特に以下の栄養素を意識して摂取することが大切です。

第一に、髪の主成分であるケラチンを作るための「タンパク質」(肉、魚、卵、大豆製品など)。 第二に、タンパク質を髪の毛に合成するのを助ける「亜鉛」(牡蠣、レバー、ナッツ類など)。 第三に、頭皮の新陳代謝を促し、皮脂のバランスを整える「ビタミンB群」(豚肉、マグロ、卵、緑黄色野菜など)。

これらの栄養素を特定の食品だけで補おうとせず、多様な食材からバランスよく摂取することを心がけてください。

髪の成長をサポートする栄養素

栄養素主な働き多く含む食品例
タンパク質髪の主成分(ケラチン)の材料肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛ケラチンの合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉、アーモンド
ビタミンB群頭皮の新陳代謝、血行促進豚肉、マグロ、レバー、卵、納豆

正しいヘアケアの見直し

毎日のヘアケアが、逆に頭皮に負担をかけている可能性もあります。シャンプーは1日に何度も行う必要はありません。洗いすぎは頭皮の必要な皮脂まで奪い、乾燥や皮脂の過剰分泌を招きます。

1日1回、夜に洗うことを基本としましょう。

シャンプー剤は、洗浄力が強すぎるもの(高級アルコール系など)を避け、頭皮への刺激が少ない「アミノ酸系」や「ベタイン系」の洗浄成分を配合したものを選ぶとよいでしょう。

洗い方にも注意が必要です。爪を立てず、指の腹を使って頭皮をマッサージするように優しく洗い、すすぎ残しがないよう十分に洗い流します。

シャンプー後の頭皮マッサージは、血行を促進し、毛根に栄養を届ける助けになります。

育毛剤の使用を検討する

生活習慣やヘアケアの見直しと並行して、「育毛剤(医薬部外品)」の使用を検討するのも一つの方法です。育毛剤の主な目的は、すでに生えている髪の毛を健康に育てること、そして抜け毛を予防することです。

育毛剤には、頭皮の血行を促進する成分、毛母細胞の働きを助ける成分、頭皮の炎症を抑えたり保湿したりする成分などが含まれています。

「毛根が小さい」と感じる(=髪が弱っている)状態は、育毛剤による頭皮環境の改善や栄養補給が適している場合があります。

自分の頭皮の状態(乾燥しているか、脂っぽいかなど)に合わせて選ぶことが大切です。

AGAが疑われる場合は専門家への相談を

生活習慣やヘアケアを改善しても抜け毛が減らない、あるいは毛根の小さい抜け毛が増え続ける場合、特に生え際や頭頂部の薄毛が目立ってきた場合は、セルフケアだけでは対応が難しいAGA(男性型脱毛症)の可能性が高まります。

AGAは進行性のため、対策は早ければ早いほど効果が期待できます。

セルフケアと専門治療の違い

まず理解しておきたいのが、セルフケア(育毛剤や生活改善)と専門治療(クリニックでのAGA治療)の違いです。 育毛剤を含むセルフケアは、主に「頭皮環境の改善」や「抜け毛予防」を目的としています。

あくまでも今ある髪の健康を維持し、育てるサポートです。 一方、AGA治療は、「AGAの進行を抑制する」こと、そして「発毛を促す」ことを目的とします。

AGAの原因であるDHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑える内服薬や、毛母細胞に直接働きかけて発毛を促す外用薬(発毛剤)など、医学的根拠に基づいたアプローチを行います。

専門クリニック(皮膚科・AGAクリニック)でできること

薄毛の悩みで専門クリニック(一般的な皮膚科、あるいはAGA専門クリニック)を受診すると、まずは医師による正確な診断が行われます。

問診(家族歴や生活習慣など)に加え、マイクロスコープを使って頭皮や毛根の状態を詳細に確認し、抜け毛の原因がAGAによるものなのか、他の要因(脂漏性皮膚炎や円形脱毛症など)によるものなのかを判断します。

診断の結果、AGAであると判断された場合は、その人の進行度合いや体質、希望に応じた治療法を提案します。

どのような治療法があり、どのような効果や副作用の可能性があるのか、専門的な知見からアドバイスを受けることができます。

早期発見・早期対策の重要性

AGAの最も大きな特徴は「進行性」であることです。対策を講じなければ、ヘアサイクルの乱れは続き、軟毛化(毛が細くなる)が進み、薄毛の範囲は徐々に広がっていきます。

AGAによってヘアサイクルが極端に短くなる状態が続くと、毛根は次第にその活動能力を失い、最終的には髪の毛を作り出す毛母細胞が活動を停止(休止)してしまいます。

一度活動を停止した毛根から再び髪を生やすのは非常に困難です。

だからこそ、毛根がまだ活動している「早期」の段階で、AGAの進行を食い止める対策を始めることが、将来の髪を守る上で最も重要なのです。

AGAの主な治療法(参考)

治療法の分類主なアプローチ目的
内服薬(医療用)AGAの原因(DHT)の生成を抑制する抜け毛の抑制、AGAの進行遅延
外用薬(発毛剤)毛母細胞の活性化、頭皮の血行促進発毛促進、毛の成長
その他の治療自毛植毛、LED照射など薄くなった部分の毛髪回復、発毛サポート

相談する勇気が未来を変える

薄毛の悩みは非常にデリケートであり、誰かに相談することをためらってしまう方も少なくありません。しかし、「毛根がない」「毛根が小さい」という抜け毛は、体からの重要なサインです。

そのサインを放置することで、数年後に後悔することになるかもしれません。 一人で悩み続けるよりも、まずは専門家の客観的な意見を聞いてみることを推奨します。

AGAであったとしても、そうでなかったとしても、現状を正確に把握することが、不安を解消し、適切な次の一歩を踏み出すための最も確実な方法です。

抜け毛に関するよくある質問

抜け毛に毛根鞘(白い塊)がついていますが、大丈夫ですか?

毛根鞘(もうこんしょう)は、毛根を保護している組織の一部です。健康な自然脱毛(休止期の毛)にも、この毛根鞘が白い塊や半透明の膜のように付着していることはよくあります。

少量であれば全く心配いりません。

ただし、その白い塊が明らかにベタベタしていたり、量が極端に多かったり、フケを伴う場合は、皮脂の過剰分泌や頭皮環境の悪化が考えられますので、シャンプーの方法などを見直すとよいでしょう。

抜け毛の本数が増えなければ、毛根が小さくても問題ないですか?

抜け毛の本数自体が正常範囲内(1日100本程度)であっても、その「質」が悪化している場合は注意が必要です。

抜け毛の中に、毛根が極端に小さい毛や、細く短い毛(軟毛)の割合が増えている場合、それはヘアサイクルが乱れ、「成長期」が短縮しているサインです。

AGAの初期症状である可能性も考えられます。本数が同じでも質の変化を感じたら、早めの対策を検討することが重要です。

育毛剤と発毛剤の違いは何ですか?

この二つは法律(医薬品医療機器等法)上の分類が異なります。育毛剤は「医薬部外品」に分類され、主な目的は「抜け毛予防」「育毛(今ある髪を健康に育てる)」「頭皮環境の改善」です。

一方、発毛剤は「第一類医薬品」に分類され、ミノキシジルなどの発毛有効成分を含み、「発毛(新しい毛を生やす)」効果が認められています。

AGAの治療として用いられるのは、主に「発毛剤」や医療用の内服薬です。

毛根が死滅したら、もう髪は生えてこないのですか?

厳密には「毛根が死滅する」というより、「毛根内部にある毛母細胞が活動を完全に停止する」状態を指します。

AGAなどが進行し、毛母細胞が長期間にわたって髪を作る指令を受けなくなると、やがて細胞は活動を停止し、毛穴が閉じていきます。

この状態になると、残念ながら現在の医学では、その毛穴から再び髪を生やすことは非常に困難です。AGA治療は、毛母細胞がまだ活動している段階で始めることが何よりも大切です。

食生活を改善すれば、AGAは治りますか?

食生活の改善は、健康な髪を育てるための「土台作り」として非常に重要です。栄養バランスの取れた食事は、頭皮環境を健やかに保ち、今ある髪を強くする助けになります。

しかし、AGAの根本的な原因は、男性ホルモン(DHT)が毛根に作用することにあります。

食生活の改善だけで、このホルモンの働きを直接抑えたり、AGAの進行を完全に止めたりすることはできません。

AGA対策としては、食生活の見直しと並行して、医学的根拠のある専門的な治療を検討することが推奨されます。

記事のまとめ
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