短い抜け毛(細い・産毛)が多いのはAGAのサイン?危険な抜け毛の見分け方

短い抜け毛(細い・産毛)が多いのはAGAのサイン?危険な抜け毛の見分け方

洗面所や枕元で、以前より短い抜け毛や細い産毛のような毛が目立つようになり、「もしかして薄毛が始まっているのでは?」と不安を感じていませんか。

髪の毛にはヘアサイクルがあり、健康な人でも毎日一定量の髪が抜けています。しかし、その抜け毛が「短く」「細い」ものばかりだとしたら、それは注意が必要なサインかもしれません。

特に男性の場合、AGA(男性型脱毛症)が影響している可能性も考えられます。

この記事では、短い抜け毛が増える原因、AGAとの関連性、そして危険な抜け毛と正常な抜け毛の見分け方について、詳しく解説します。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

短い抜け毛が増える主な原因とは

抜け毛自体は誰にでも起こる自然な現象です。しかし、その中に短い毛や細い毛が占める割合が増えてきた場合、何らかの異常が起きているサインと考えられます。

正常なヘアサイクルと抜け毛

髪の毛一本一本には寿命があり、「ヘアサイクル(毛周期)」と呼ばれる周期を繰り返しています。このサイクルは主に「成長期」「退行期」「休止期」の3段階に分かれています。

成長期は髪が太く長く成長する期間で、通常2年から6年ほど続きます。その後、数週間の退行期(毛根が退縮する期間)を経て、数ヶ月の休止期(成長が完全に止まり、抜け落ちる準備をする期間)に入ります。

そして、新しい髪が生えてくる(次の成長期が始まる)と、休止期の髪は押し出されるようにして自然に抜け落ちます。これが正常な抜け毛です。

健康な頭皮でも、1日に50本から100本程度の髪がこのようにして抜けています。

ヘアサイクルの乱れと短い抜け毛

短い抜け毛が増える最大の原因は、このヘアサイクルが乱れ、「成長期」が短縮してしまうことです。

通常であれば数年間続くはずの成長期が、何らかの理由で数ヶ月から1年程度に短くなると、髪は十分に太く長く成長できません。

結果として、細くて短い、まだ成長途中だったはずの髪の毛が、休止期に入ってしまい抜け落ちてしまうのです。これが「短い抜け毛(細い・産毛)」の正体です。

AGA(男性型脱毛症)による影響

男性において、ヘアサイクルの乱れを引き起こす最も代表的な原因がAGA(男性型脱毛症)です。

AGAは、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、特定の酵素(5αリダクターゼ)の働きによって「DHT(ジヒドロテストステロン)」という強力な男性ホルモンに変換されることがきっかけで発症します。

このDHTが、毛根にある受容体と結合すると、髪の成長を妨げる信号が出され、成長期が強制的に短縮されます。特に前頭部や頭頂部の髪がこの影響を受けやすいため、これらの部位で短い抜け毛が増え始めます。

AGA以外の考えられる原因

短い抜け毛はAGAだけで起こるわけではありません。AGA以外の要因でもヘアサイクルは乱れることがあります。

過度なストレス、栄養バランスの偏った食事、睡眠不足などの生活習慣の乱れは、頭皮の血行不良やホルモンバランスの乱れを引き起こし、髪の健やかな成長を妨げます。

また、頭皮の炎症や過剰な皮脂、乾燥といった頭皮環境の悪化も、毛根にダメージを与え、短い抜け毛の原因となることがあります。

AGA以外の主な原因

原因カテゴリ具体的な要因髪への影響
生活習慣睡眠不足・質の低下成長ホルモンの分泌が減少し、毛母細胞の分裂が滞る。
ストレス精神的な緊張・疲労血管が収縮し、頭皮への血流が悪化。栄養が届きにくくなる。
食生活栄養バランスの偏り髪の主成分(タンパク質)や成長を助けるビタミン・ミネラルが不足する。
頭皮環境過剰な皮脂・乾燥・フケ毛穴の詰まりや炎症を引き起こし、毛根の働きを弱める。

AGAのサインとしての短い抜け毛

短い抜け毛や細い毛の増加は、AGA(男性型脱毛症)の可能性を疑う重要な兆候の一つです。AGAは進行性であるため、そのサインを見逃さないことが大切です。

AGAとは何か?

AGA(Androgenetic Alopecia)は、思春期以降の男性に見られる薄毛の症状で、一般的に「男性型脱毛症」と呼ばれます。

遺伝的な要因や男性ホルモンの影響が深く関わっており、生え際(M字部分)や頭頂部(O字部分)から薄毛が進行していく特徴があります。

AGAは病気というより体質的なものであり、年齢とともに進行していくケースがほとんどです。放置しておくと薄毛の範囲は徐々に広がっていきます。

なぜAGAだと短い抜け毛が増えるのか?

AGAの根本的な原因は、先述の通りDHT(ジヒドロテストステロン)にあります。

DHTが毛根の受容体(アンドロゲンレセプター)と結合すると、毛母細胞に対して「成長を止めろ」という命令(脱毛シグナル)が出されます。

これにより、髪の成長期が極端に短縮されます。通常2年から6年あるはずの成長期が、数ヶ月程度になってしまうこともあります。

この結果、髪の毛は太く長く成長する時間を与えられず、細く短い「産毛」のような状態のままヘアサイクルを終え、抜け落ちてしまいます。

これが、AGAが進行すると短い抜け毛や細い毛が目立つようになる理由です。

短い抜け毛以外のAGAの初期症状

短い抜け毛の増加と併せて、以下のような症状が見られる場合、AGAの可能性がより高まります。

AGAはゆっくりと進行するため、初期の変化に気づきにくいこともありますが、注意深く観察することが重要です。

生え際の後退

「以前よりおでこが広くなった気がする」「剃り込み(M字)部分が深くなった」と感じる場合、AGAが始まっているサインかもしれません。

生え際の髪の毛はDHTの影響を受けやすいため、この部分から産毛化が進み、ラインが後退していくことが多いです。

鏡で正面から見るだけでなく、時々、生え際を指で確認したり、過去の写真と比較したりすると変化に気づきやすいです。特に、生え際の髪が細く、コシがなくなってきたら注意が必要です。

頭頂部の地肌の透け

頭頂部(つむじ周り)もAGAの影響が出やすい部位です。自分では見えにくい場所ですが、「つむじが広がった」「頭頂部の地肌が透けて見えるようになった」と他人から指摘されて気づくこともあります。

この部分も、髪の毛が細く短くなることでボリュームが失われ、地肌が目立つようになります。

合わせ鏡を使ったり、スマートフォンで撮影したりして、定期的に頭頂部の状態をチェックすることをおすすめします。

髪質の変化(ハリ・コシの低下)

薄毛が目立つようになる前から、髪質が変化することもあります。

「髪全体のボリュームが減った」「髪が細くなり、コシがなくなってセットしにくくなった」と感じる場合も、AGAによる毛髪の軟毛化(産毛化)が始まっている兆候かもしれません。

髪一本一本が細くなることで、全体の密度が低下し、フワフワとした頼りない髪質に変わっていくことがあります。

危険な抜け毛と正常な抜け毛の見分け方

毎日抜ける髪の毛すべてを心配する必要はありません。

大切なのは、ヘアサイクルを終えて自然に抜けた「正常な抜け毛」と、何らかのトラブルによって抜けてしまった「危険な抜け毛」を見分けることです。

チェックポイント1 抜け毛の「太さ」と「長さ」

最も分かりやすい見分け方が、抜け毛の形状です。 正常な抜け毛は、その多くが成長期を最後まで全うした髪です。

そのため、ある程度の太さと長さ(一般的に5cm以上、個人差はあります)があり、しっかりとしたハリやコシを感じられます。 一方、危険な抜け毛は、成長期の途中で抜けてしまった髪です。

そのため、細く、短い(産毛のように数ミリのものから、数センチ程度のものまで)という特徴があります。排水溝や枕に、このような弱々しい毛が明らかに増えている場合は注意が必要です。

チェックポイント2 抜け毛の「毛根」の状態

抜け毛の根元、つまり毛根部分の状態も重要な判断材料です。 正常な抜け毛の場合、毛根は丸くふくらんでおり、マッチ棒の先端のように見えることが多いです。

時には、毛根の周りに半透明のゼリー状の塊(毛根鞘)が付着していることもあります。これは毛根が頭皮にしっかり根付いていた証拠であり、健康な状態と言えます。

一方、AGAや頭皮環境の悪化によって抜けた危険な抜け毛は、毛根のふくらみが小さいか、ほとんど見られないことがあります。

毛根が萎縮していたり、黒ずんでいたり、ギザギザとした形をしていたりする場合も、毛根が正常に機能していないサインです。毛根鞘が全く付着していない細い毛も、成長途中で抜けた可能性を示唆します。

チェックポイント3 抜け毛の「量」の変化

1日の抜け毛が50本から100本程度であれば、正常なヘアサイクルの範囲内です。しかし、この本数には個人差があり、季節の変わり目(特に秋)には一時的に増えることもあります。

注目すべきは「急激な増加」です。シャンプー時の排水溝に詰まる髪の量や、朝起きた時の枕についている髪の量が、明らかに以前よりも増えたと感じる場合は、何らかの異常が起きている可能性があります。

ただし、単に量が増えただけでなく、その中に含まれる「短く細い毛」の割合が増えているかどうかを併せて確認することが重要です。

抜け毛の比較

チェック項目正常な抜け毛(自然脱毛)危険な抜け毛(異常脱毛)
太さと長さ太く、ある程度の長さがある(例:5cm以上)細く、短い(産毛状、数cm程度)
毛根の形状丸くふくらんでいる、マッチ棒状小さい、萎縮している、形がいびつ、黒い
毛根鞘の有無半透明の塊が付着していることが多い付着していないか、非常に小さい
毛先の状態自然にすり減っている(カットしていない場合)細く尖っている(成長途中のため)

短い抜け毛とAGAのリスクを自己診断

短い抜け毛が気になり始めたら、ご自身の状態がAGAのリスクとどれくらい関連しているか、セルフチェックしてみましょう。

当てはまる項目が多いほど、AGAの可能性や、頭皮環境が悪化している可能性を考慮する必要があります。

AGAセルフチェックリスト

以下の項目にどれくらい当てはまるか、確認してみてください。

  • 父方または母方の家系に、薄毛の人がいる。
  • 以前と比べて、生え際(M字部分)が後退した、またはおでこが広くなった。
  • 頭頂部(つむじ周り)の地肌が透けて見えるようになった。
  • 髪全体のハリやコシがなくなり、ボリュームダウンした。
  • 抜け毛の中に、細くて短い毛(産毛)が明らかに増えた。
  • 頭皮が脂っぽく、フケやかゆみを感じることが多い。
  • 日常的に強いストレスを感じている。
  • 睡眠時間が不規則、または慢性的に不足している。
  • 喫煙の習慣がある。
  • 脂っこい食事やインスタント食品をよく食べる。

短い抜け毛が目立つ場所

抜け毛が頭部全体から均等に抜けているのか、それとも特定の場所から集中して抜けているのかも重要なポイントです。

AGAの場合、DHTの影響を受けやすい部位、すなわち「前頭部(生え際)」と「頭頂部」から薄毛が進行する特徴があります。

もし、これらの場所から特に短い抜け毛が増えている、あるいは細くなっていると感じるなら、AGAの可能性がより高いと考えられます。

一方で、側頭部や後頭部には影響が出にくいのがAGAの特徴です(これらの部位の毛根はDHTの影響を受けにくいため)。

もし側頭部や後頭部も含めて全体的に抜けている場合は、AGA以外の原因(円形脱毛症や、他の全身性の疾患、過度なストレスなど)も考える必要があります。

年齢と抜け毛の関係

「まだ若いからAGAではない」と考えるのは早計です。AGAの発症年齢には個人差があり、早い人では20代前半から、あるいは10代後半から症状が現れ始めることもあります。

一般的には30代から40代にかけて発症・進行する人が多いですが、年齢が若いからといってAGAの可能性を否定することはできません。

むしろ、若いうちから短い抜け毛や生え際の後退が気になる場合は、それだけ進行が早い可能性もあるため、早期の注意が必要です。

年齢を重ねるにつれてAGAの発症リスクは高まる傾向にありますが、気になるサインがあれば年齢に関わらず確認することが重要です。

短い抜け毛(細い・産毛)への対策と予防法

短い抜け毛が増えてきたと感じたら、それがAGAであってもなくても、まずはご自身の生活習慣やヘアケアを見直すことが、頭皮環境を健やかに保つための第一歩となります。

まずは生活習慣の見直しから

髪の毛は、私たちが食べたものから作られ、寝ている間に成長します。日々の生活習慣が乱れれば、当然、髪の健康にも悪影響が及びます。

食事 バランスの取れた栄養摂取

髪の毛の約90%は「ケラチン」というタンパク質でできています。そのため、良質なタンパク質の摂取は非常に重要です。

また、タンパク質を髪の毛に合成する際には「亜鉛」が、頭皮の新陳代謝や血行をサポートするためには「ビタミン類」が必要です。

偏った食事を避け、バランスよくこれらの栄養素を摂取することを心がけましょう。

髪の成長に必要な栄養素と食品例

栄養素主な働き多く含む食品例
タンパク質髪の主成分(ケラチン)の材料となる肉、魚、卵、大豆製品、乳製品
亜鉛タンパク質の合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、ナッツ類
ビタミンB群頭皮の新陳代謝を促す、皮脂の分泌を調整する豚肉、レバー、マグロ、カツオ、納豆、卵
ビタミンE血行を促進し、頭皮に栄養を届けやすくするアーモンド、うなぎ、アボカド、かぼちゃ

睡眠 質の高い睡眠の確保

髪の成長を促す「成長ホルモン」は、主に睡眠中に分泌されます。特に、入眠後の深い睡眠(ノンレム睡眠)時に多く分泌されるため、単に長く寝るだけでなく、「質の高い睡眠」をとることが重要です。

毎日決まった時間に寝起きする、寝る前のスマートフォン操作を控える、リラックスできる入浴を心がけるなど、睡眠環境を整えましょう。

ストレス管理

過度なストレスは自律神経のバランスを崩し、血管を収縮させます。これにより頭皮の血流が悪化し、毛根に十分な栄養や酸素が届かなくなると、ヘアサイクルが乱れる原因となります。

現代社会でストレスをゼロにすることは難しいですが、趣味の時間を持つ、適度な運動をする、ゆっくり休むなど、自分なりの方法でストレスをこまめに発散させることが大切です。

頭皮環境を整えるヘアケア

髪が育つ土壌である頭皮環境を清潔で健やかに保つことも、短い抜け毛対策には欠かせません。

正しいシャンプーの方法

シャンプーの目的は、髪の汚れよりも「頭皮の余分な皮脂や汚れ」を落とすことです。しかし、洗いすぎは頭皮を乾燥させ、かえって皮脂の過剰分泌を招くこともあります。

洗浄力が強すぎるシャンプーを避け、自分の頭皮タイプ(乾燥肌、脂性肌など)に合ったものを選びましょう。

  • シャンプー前にお湯で十分に予洗いする(汚れの多くが落ちる)。
  • シャンプーは手のひらで泡立ててから頭皮につける。
  • 爪を立てず、指の腹を使って頭皮を優しくマッサージするように洗う。
  • すすぎ残しはフケやかゆみの原因になるため、十分すぎるほどしっかり洗い流す。

頭皮マッサージのすすめ

頭頂部はもともと血流が滞りやすい場所です。シャンプー時や育毛剤をつけるタイミングで、頭皮マッサージを取り入れるのも良い方法です。

指の腹で頭皮全体を優しく動かすように(こするのではなく)もみほぐし、血行を促進しましょう。これにより、毛根への栄養補給をサポートできます。

育毛剤の活用

育毛剤(医薬部外品)は、頭皮環境を整え、血行を促進し、毛根の働きをサポートすることで、「今ある髪を健やかに育てる」「抜け毛を予防する」効果が期待できます。

保湿成分や抗炎症成分、血行促進成分などが配合された育毛剤を使用し、頭皮マッサージと併用することで、より良い頭皮環境づくりを助けます。

ただし、育毛剤はAGAの進行を直接止めるものではないため、AGAが強く疑われる場合は次のステップを考える必要があります。

AGAが疑われる場合の対処法

セルフケアを続けても短い抜け毛が減らない、あるいは生え際の後退や頭頂部の薄毛が明らかに進行していると感じる場合、AGAの可能性が高いと考えられます。

AGAは進行性のため、放置しておくと薄毛は徐々に進んでいきます。自己判断で悩み続けるよりも、専門家の助けを借りることが賢明です。

専門クリニックへの相談

AGAの診断と治療は、皮膚科またはAGA専門のクリニックで行っています。

短い抜け毛や薄毛の原因が本当にAGAなのか、それとも他の原因(円形脱毛症や脂漏性皮膚炎など)が隠れていないかを含めて、専門の医師に診断してもらうことが最も重要です。

原因を特定することで、適切な対処法が見つかります。特にAGAは早期に対処を始めるほど、将来の薄毛の進行を食い止めやすくなります。

専門クリニックで行うこと

クリニックでは、まず医師による問診が行われます。いつから薄毛が気になり始めたか、家族歴、生活習慣、現在の健康状態などを詳しく伝えます。

次に、視診や触診で頭皮の状態や髪の毛の太さ、密度を確認します。多くのクリニックでは、マイクロスコープ(拡大鏡)を使い、毛穴の状態や髪の毛の太さ(産毛化が起きていないか)を詳細にチェックします。

必要に応じて、血液検査を行い、他の病気の可能性や、治療薬を使用するための健康状態を確認することもあります。

AGA治療の選択肢

医師によってAGAと診断された場合、本人の希望や進行度に応じて治療が検討されます。AGA治療の基本は、ヘアサイクルを乱す原因であるDHTの生成を抑えること、そして毛根の働きを活性化させることです。

これらは医療機関でのみ処方される医薬品によって行われます。育毛剤(医薬部外品)によるセルフケアとは異なり、医学的根拠に基づいた「治療」となります。

AGA治療薬の概要

分類主な成分例期待される働き
内服薬(服用)フィナステリド、デュタステリド5αリダクターゼの働きを阻害し、DHTの生成を抑える。ヘアサイクルの正常化を促す。
外用薬(塗布)ミノキシジル頭皮の血流を改善し、毛母細胞の働きを活性化させる。発毛を促進する。

これらの治療は、医師の診断と指導のもとで継続的に行う必要があります。

当メディアで特集している育毛剤は、こうした専門的な治療と併用できる場合もありますが、まずは医師に相談することが先決です。

短い抜け毛対策としての育毛剤の選び方

AGAの治療とまではいかなくても、「まずは頭皮環境を整えて抜け毛を予防したい」「髪にハリやコシを与えたい」と考える場合、育毛剤(医薬部外品)の使用は有効な選択肢の一つです。

育毛剤の目的と役割

ここで重要なのは、「育毛剤」と「発毛剤」の違いを理解することです。

育毛剤は、主に医薬部外品に分類され、その目的は「頭皮環境の改善」「血行促進」「フケ・かゆみの防止」などを通じて、抜け毛を予防し、今ある髪を健やかに育てる(育毛)ことです。

一方、発毛剤は第一類医薬品などに分類され、ミノキシジルのように「新たな髪を生やす(発毛)」効果が医学的に認められた成分を含んでいます。

育毛剤と発毛剤の違い

項目育毛剤発毛剤
分類医薬部外品(が主)第一類医薬品(が主)
主な目的抜け毛予防、育毛(今ある髪を育てる)、頭皮環境改善発毛(新たな髪を生やす)
主な有効成分血行促進成分、抗炎症成分、保湿成分などミノキシジルなど(発毛効果が認められた成分)
向いている人抜け毛予防をしたい人、髪のハリ・コシが欲しい人薄毛が進行し、発毛を望む人(AGAの人など)

注目したい育毛剤の成分

育毛剤には様々な有効成分が配合されています。ご自身の頭皮の状態や悩みに合わせて、どのような成分が含まれているかに注目して選びましょう。

育毛剤の主な有効成分

成分の系統主な働き代表的な成分例
血行促進成分頭皮の血流を良くし、毛根への栄養補給を助けるセンブリエキス、ビタミンE誘導体、ニンジンエキス
抗炎症成分フケやかゆみ、頭皮の炎症を抑え、環境を整えるグリチルリチン酸2K、アラントイン
皮脂抑制成分過剰な皮脂の分泌を抑え、毛穴の詰まりを防ぐビタミンB6、イノシトール
保湿成分頭皮の乾燥を防ぎ、バリア機能をサポートするヒアルロン酸、セラミド、コラーゲン

自分の頭皮タイプに合わせる

頭皮も顔の肌と同じように、タイプがあります。皮脂が多くベタつきやすい「脂性肌」の人と、乾燥してカサつきやすい「乾燥肌」の人では、適した育毛剤も異なります。

脂性肌の人は、皮脂抑制成分やさっぱりした使用感のもの、乾燥肌の人は、保湿成分が豊富でアルコール(エタノール)の配合が控えめなものを選ぶなど、自分の頭皮状態に合った製品を選ぶことが重要です。

継続使用の重要性

育毛剤は、ヘアケアの一環です。ヘアサイクルが一周するには数ヶ月から数年かかります。育毛剤を使い始めてすぐに髪が太くなったり、抜け毛がピタリと止まったりするわけではありません。

頭皮環境が改善され、その効果が髪の状態として現れるには、最低でも3ヶ月から6ヶ月程度の継続使用が必要です。

即効性を期待せず、毎日のスキンケアと同じように、根気強くケアを続けることが何よりも大切です。

Q&A

短い抜け毛が急に増えましたがAGAでしょうか?

短い抜け毛が急に増えた場合、AGAの可能性は確かに考えられます。特に生え際や頭頂部でその傾向が強い場合は注意が必要です。

しかし、AGAは通常ゆっくり進行するため、「急に」増えた場合は、過度なストレス、急激なダイエットによる栄養失調、睡眠不足など、他の要因によって一時的にヘアサイクルが大きく乱れた可能性も考えられます。

まずはご自身の最近の生活習慣を振り返ってみてください。もし短い抜け毛の増加が続くようであれば、一度専門医に相談することをおすすめします。

産毛のような抜け毛はすべて危険ですか?

いいえ、そうとは限りません。健康な頭皮でも、ヘアサイクルを終えた産毛が抜けること自体はあります。問題となるのは、その「割合」です。

抜け毛全体の中で、明らかに細く短い毛(成長しきれなかった毛)の割合が以前より増えている、あるいは全体の抜け毛量は変わらなくても、太く長い毛が減り、細く短い毛ばかりが目立つようになった場合が、AGAや頭皮環境悪化のサインとして危険視されます。

数本混じっている程度であれば、過度に心配しすぎる必要はありません。

育毛剤を使えば短い抜け毛は減りますか?

育毛剤(医薬部外品)の主な役割は、頭皮環境を整え、血行を促進することです。これにより、髪が健やかに育つための土台作りをサポートします。

頭皮環境の悪化(乾燥、炎症、血行不良など)が原因でヘアサイクルが乱れ、短い抜け毛が増えていた場合には、育毛剤によるケアで頭皮環境が改善されれば、結果として短い抜け毛が減る可能性はあります。

ただし、AGAが主な原因である場合、育毛剤だけでDHTの働きを抑えて進行を止めることは難しいため、期待できる効果には限界があります。

短い抜け毛を減らすためにシャンプーで気をつけることは?

頭皮への負担を減らすことが重要です。

洗浄力が強すぎるシャンプー(高級アルコール系など)は、必要な皮脂まで奪い取り、頭皮を乾燥させたり、逆に皮脂の過剰分泌を招いたりすることがあります。

頭皮がデリケートになっている時は、アミノ酸系やベタイン系などのマイルドな洗浄成分を主体としたシャンプーを選ぶと良いでしょう。

また、熱すぎるお湯は頭皮を乾燥させるため、ぬるま湯(38度〜40度程度)ですすぐことを心がけてください。そして最も重要なのは、シャンプー剤が残らないよう、すすぎを徹底することです。

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