薄毛のお悩みは、多くの方が抱える深刻な問題です。特に生え際や後頭部の後退は、見た目の印象に大きく影響します。
しかし、薄毛治療には様々な選択肢があり、ご自身の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
この記事では、薄毛の進行度に応じた治療法の選び方について、段階的に詳しく解説します。焦らず、正しい知識を身につけ、納得のいく治療法を見つけましょう。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
いきなり医薬品に頼るのは避けましょう – 薄毛の進行度に合わせた治療選択の基本
薄毛治療を考え始めたとき、すぐに強力な医薬品に頼ろうとする方がいますが、それは必ずしも良い選択とは限りません。
薄毛の進行度や状態には個人差があり、それぞれに適した対処法が存在します。
まずはご自身の状態を正確に把握し、段階的に治療法を検討することが、効果的かつ安全な薄毛改善への第一歩です。
薄毛の進行度を見極める

薄毛の進行度は、ご自身でもある程度把握できますが、より正確な判断のためには専門医の診断を受けることを推奨します。
初期の薄毛は、抜け毛の増加、髪のハリ・コシの低下、地肌の透け感などで気づくことがあります。進行すると、生え際の後退や頭頂部の菲薄化が明らかになります。
これらのサインを見逃さず、早期に対処を始めることが大切です。
薄毛の進行度セルフチェック項目例
- 抜け毛の量が以前より増えた
- 髪の毛が細く、コシがなくなった
- 頭皮が透けて見える部分がある
- 生え際が後退してきた、または頭頂部が薄くなった
治療法の段階的アプローチとは

薄毛治療における段階的アプローチとは、まず副作用のリスクが低い治療法から試し、効果が見られない場合に、より専門的な治療法へと移行していく考え方です。
例えば、軽度の薄毛であれば生活習慣の見直しや市販の育毛剤から始め、中程度であれば発毛成分を含む外用薬、重度であれば内服薬や植毛といった専門的な治療を検討します。
このアプローチにより、不要な副作用のリスクを避けつつ、ご自身に合った治療法を見つけやすくなります。
初期段階での自己判断の注意点
薄毛の初期段階では、「まだ大丈夫だろう」「そのうち治るだろう」と自己判断で放置してしまうケースが見られます。しかし、AGA(男性型脱毛症)のように進行性の薄毛の場合、放置すると症状が悪化する一方です。
また、薄毛の原因はAGAだけとは限りません。他の皮膚疾患や全身疾患が隠れている可能性も考慮し、自己判断に頼らず、不安を感じたら早めに専門医に相談することが重要です。
専門医は、薄毛の原因を特定し、適切なアドバイスを提供します。
薄毛を引き起こす主な要因
男性の薄毛の多くはAGA(男性型脱毛症)が原因です。AGAは、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)が毛乳頭細胞の受容体に結合し、毛髪の成長期を短縮させることで起こります。
これにより、髪の毛が太く長く成長する前に抜け落ちてしまい、徐々に薄毛が進行します。遺伝的要因もAGAの発症に大きく関与します。
その他、生活習慣の乱れ(睡眠不足、栄養バランスの偏った食事、過度なストレス)、頭皮環境の悪化(血行不良、炎症)なども薄毛を助長する要因となり得ます。
専門医による診断の重要性
薄毛の原因や進行度を正確に把握するためには、専門医による診断が欠かせません。
医師は、問診(家族歴、生活習慣、既往歴など)、視診(頭皮や毛髪の状態の確認)、マイクロスコープを用いた頭皮拡大検査などを行い、総合的に診断します。
場合によっては、血液検査を行い、全身的な健康状態やホルモンバランスを確認することもあります。正確な診断に基づいて初めて、個々の患者様に適した治療計画を立てることができます。
進行度別治療法の目安
進行度 | 推奨される対応 | 主な特徴 |
---|---|---|
軽度 | 市販育毛剤、生活習慣の見直し | 副作用リスク比較的低、予防・初期改善期待 |
中度 | 発毛剤(ミノキシジル外用薬) | 発毛効果期待、医師相談も視野に |
重度 | 専門医による内服薬・植毛など | より高い効果期待、専門的管理が必要 |
これらの目安は一般的なものであり、個々の状態によって治療法は異なります。専門医とよく相談し、納得のいく治療法を選びましょう。
まずは市販の育毛剤から始めてみる – 副作用の心配が少ない初期ケア
薄毛が気になり始めたけれど、いきなり医薬品を使うのには抵抗があるという方は少なくありません。そのような場合、まずは市販の育毛剤から試してみるのが良いでしょう。
市販の育毛剤は、医薬品と比較して副作用のリスクが低いものが多く、手軽に始められる点がメリットです。
市販育毛剤の役割と限界

市販の育毛剤の主な役割は、頭皮環境を整え、今ある髪の毛を健康に保つことです。
保湿成分や血行促進成分、抗炎症成分などが配合されており、頭皮の乾燥や血行不良、炎症を抑えることで、髪の毛が育ちやすい環境づくりをサポートします。
しかし、AGAのように男性ホルモンが深く関与する薄毛に対して、市販の育毛剤だけで顕著な発毛効果を期待するのは難しいのが現状です。
あくまで「育毛」であり、「発毛」を促す力は医薬品成分に劣る点を理解しておく必要があります。
育毛剤選びのポイント
数多くの市販育毛剤の中から自分に合ったものを選ぶには、いくつかのポイントがあります。まず、配合されている成分を確認しましょう。
ご自身の頭皮の状態(乾燥肌、脂性肌など)や悩みに合わせて、保湿成分、抗炎症成分、血行促進成分などがバランス良く配合されているものを選びます。
また、香料や着色料、防腐剤などの添加物が少ない、低刺激性の製品を選ぶことも、頭皮への負担を軽減する上で大切です。使用感(べたつき、香りなど)も継続使用のためには重要な要素なので、テスターなどで試せる場合は確認すると良いでしょう。
効果が見られない場合の次の選択肢
市販の育毛剤を一定期間(例えば3ヶ月~6ヶ月程度)使用しても、期待したような効果が得られない場合は、次の治療法を検討するタイミングかもしれません。
この段階で諦めてしまうのではなく、専門医に相談し、より積極的な治療法、例えばミノキシジル配合の発毛剤(外用薬)の使用などを視野に入れることが大切です。
自己判断で効果のないケアを長期間続けるよりも、専門家のアドバイスのもとで適切な対応に切り替える方が、結果的に時間と費用の節約に繋がります。
育毛剤がアプローチする頭皮環境の問題

市販の育毛剤は、主に頭皮環境の改善を通じて育毛をサポートします。
例えば、頭皮の乾燥はフケやかゆみを引き起こし、毛髪の健やかな成長を妨げます。育毛剤に含まれる保湿成分は、頭皮に潤いを与え、乾燥を防ぎます。
また、頭皮の血行不良は、毛根への栄養供給を滞らせ、髪の成長を弱めます。血行促進成分は、頭皮の毛細血管の血流を改善し、毛母細胞の活性化を助けます。
さらに、皮脂の過剰分泌や細菌の繁殖による頭皮の炎症も、抜け毛の原因となり得ます。抗炎症成分や殺菌成分は、これらのトラブルを鎮め、頭皮を清潔に保ちます。
自己チェックと専門家への相談タイミング
市販の育毛剤を使用しながら、定期的に頭皮や髪の状態を自己チェックすることが重要です。抜け毛の量、髪の太さやハリ、頭皮の色や状態(赤み、フケ、かゆみなど)に変化がないか観察しましょう。
数ヶ月使用しても改善が見られない、あるいは逆に症状が悪化するような場合は、市販の育毛剤では対応できない原因が隠れている可能性があります。
そのような時は、迷わず皮膚科や薄毛治療専門のクリニックを受診し、専門家の意見を求めるべきです。早期の相談が、より効果的な治療への近道となります。
市販育毛剤の主な成分と期待される働き
成分カテゴリー | 期待される働き | 具体例(一般名など) |
---|---|---|
保湿成分 | 頭皮の乾燥を防ぎ、バリア機能をサポート | グリセリン、ヒアルロン酸、セラミド、コラーゲン |
血行促進成分 | 頭皮の血流を促し、毛髪に栄養を供給 | センブリエキス、ビタミンE誘導体、ニコチン酸アミド |
抗炎症成分 | 頭皮の炎症を抑え、フケ・かゆみを軽減 | グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン |
最後に、遺伝子検査の結果に基づいて育毛剤をオーダーメイドする商品も存在します。
これは、個人の遺伝的傾向に合わせた成分配合を行うもので、よりパーソナルなケアを求める方の一つの選択肢となり得ますが、効果には個人差があることを理解しておくことが大切です。
ミノキシジル外用薬で本格的な発毛ケア – 発毛効果を求めるなら
市販の育毛剤で十分な手応えを感じられなかった場合、次の一手として検討したいのが「発毛剤」です。
中でも「ミノキシジル」を配合した外用薬は、医学的にも発毛効果が認められている成分であり、薄毛治療において広く用いられています。
本格的な発毛ケアを目指すなら、ミノキシジル外用薬について正しく理解することが重要です。
ミノキシジルとは何か

ミノキシジルは、もともと高血圧治療薬として開発された成分ですが、副作用として多毛が見られたことから、発毛剤としての研究が進められました。
その発毛の詳しい作用は完全には解明されていませんが、主に以下の働きが考えられています。一つは、頭皮の血管を拡張し血流を増加させることで、毛母細胞へ栄養を供給しやすくする作用。
もう一つは、毛母細胞に直接働きかけ、細胞分裂を活性化させたり、毛髪の成長期(髪が太く長く育つ期間)を延長させたりする作用です。これにより、細く短くなった毛髪を太く長く成長させ、発毛を促します。
市販薬と医療用医薬品の違い
ミノキシジル外用薬には、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬(第一類医薬品)と、医師の処方が必要な医療用医薬品があります。これらの主な違いは、ミノキシジルの配合濃度です。
一般的に、市販薬のミノキシジル濃度は5%以下ですが、医療用医薬品ではそれ以上の高濃度のもの(例えば6%~15%程度)を処方することが可能です。
濃度が高いほど発毛効果も高まる傾向がありますが、同時に副作用のリスクも考慮する必要があります。
ただし、副作用の種類や頻度に大きな差はないとの報告もあり、医師の判断のもとであれば、最初から医療用の高濃度ミノキシジル外用薬で治療を開始することも選択肢の一つです。
副作用について知っておくべきこと
ミノキシジル外用薬の主な副作用としては、塗布部位の皮膚症状(かゆみ、発疹、赤み、フケ、かぶれなど)が報告されています。また、使用開始初期に一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」が起こることがあります。
これは、休止期にあった毛髪が新しい毛髪に押し出されるために起こる現象で、治療が効果を発揮し始めている兆候とも考えられます。通常は1~2ヶ月程度で治まりますが、不安な場合は医師に相談しましょう。
その他、稀に動悸や頭痛、めまいなどが起こる可能性も指摘されていますが、外用薬の場合は全身への影響は比較的少ないとされています。
いずれにしても、使用中に何らかの異常を感じた場合は、速やかに医師の診察を受けることが大切です。
効果的な使用方法と期間
ミノキシジル外用薬の効果を実感するためには、正しい使用方法で継続することが重要です。通常、1日2回、薄毛の気になる部分の頭皮に直接塗布します。

塗布量は製品によって異なりますので、説明書をよく読んで指示に従ってください。マッサージをする場合は、頭皮を傷つけないよう優しく行いましょう。
効果が現れるまでには個人差がありますが、一般的には3ヶ月~6ヶ月程度の継続使用が必要です。すぐに効果が出なくても諦めず、根気強く続けることが大切です。
また、使用を中止すると再び薄毛が進行する可能性があるため、効果を維持するためには継続的な使用を検討する必要があります。
ミノキシジルが作用する薄毛の要因
ミノキシジルは、特にAGA(男性型脱毛症)によって引き起こされる毛周期の乱れにアプローチします。AGAでは、毛髪の成長期が短縮し、休止期が長くなることで、髪が十分に成長する前に抜け落ちてしまいます。
ミノキシジルは、毛包に直接作用し、成長期を延長させ、休止期から成長期への移行を促進すると考えられています。また、毛包周囲の血流を改善することで、毛母細胞に必要な酸素や栄養素を届けやすくし、毛髪の成長をサポートします。
これにより、細く弱々しい毛髪(軟毛)が太く硬い毛髪(硬毛)へと変化し、全体的な毛髪のボリュームアップが期待できます。
治療開始前の医師による確認事項
ミノキシジル外用薬の使用を開始する前には、医師による適切な診断と指導を受けることが望ましいです。特に高濃度の医療用ミノキシジルを使用する場合は、医師の診察が必須となります。
医師は、患者様の薄毛の状態、既往歴、アレルギー歴、現在使用中の薬剤などを確認し、ミノキシジル治療の適否を判断します。心臓疾患や血圧に問題のある方、腎臓や肝臓に疾患のある方、高齢者などは慎重な判断が必要です。
また、女性の場合は使用できるミノキシジル濃度や製品が異なるため、必ず医師に相談してください。安全かつ効果的に治療を進めるために、事前のメディカルチェックは非常に重要です。
ミノキシジル外用薬の濃度と特徴
種類 | ミノキシジル濃度 | 入手方法 |
---|---|---|
市販薬(第一類医薬品) | 1%~5% | 薬剤師のいる薬局・ドラッグストア |
医療用医薬品 | 5%を超えるもの(例: 6%~15%) | 医師の処方 |
共通の特徴 | 発毛効果が期待される | 副作用の可能性あり、継続使用が基本 |
ミノキシジル外用薬は、薄毛治療における有力な選択肢の一つですが、その効果や副作用には個人差があります。専門医とよく相談し、ご自身の状態に合った治療法を選びましょう。
内服薬による薄毛の治療アプローチ – より積極的な内部からのケア
ミノキシジル外用薬を使用しても期待した効果が得られない場合や、より積極的な治療を望む場合には、内服薬による治療が検討されます。
内服薬は、体の内部から薄毛の原因に働きかけるため、外用薬とは異なる作用で効果を発揮します。代表的なAGA治療内服薬には、フィナステリド、デュタステリド、そしてミノキシジルタブレットがあります。
フィナステリドの働きと特徴
フィナステリドは、AGAの主な原因物質であるDHT(ジヒドロテストステロン)の産生を抑制する内服薬です。DHTは、男性ホルモンのテストステロンが5αリダクターゼという酵素によって変換されて作られます。
フィナステリドは、この5αリダクターゼ(特にII型)の働きを阻害することで、DHTの濃度を低下させ、毛髪の成長期を正常化し、抜け毛を減らす効果が期待できます。

主に、薄毛の進行を遅らせる効果や、現状維持、軽度の改善を目的として用いられます。1日1回の服用で、効果を実感するまでには通常6ヶ月程度の継続が必要です。
デュタステリドの働きと特徴
デュタステリドもフィナステリドと同様に、DHTの産生を抑制する内服薬です。しかし、フィナステリドが主に5αリダクターゼのII型を阻害するのに対し、デュタステリドはI型とII型の両方を阻害します。
そのため、デュタステリドはフィナステリドよりも強力にDHT濃度を低下させる作用があり、より高い発毛効果が期待される場合があります。特に、フィナステリドで十分な効果が得られなかった場合に、デュタステリドへの切り替えが検討されることがあります。
服用方法や効果発現までの期間はフィナステリドと概ね同様ですが、作用が強力な分、副作用にも注意が必要です。
ミノキシジルタブレット(内服薬)の役割
ミノキシジルタブレットは、もともと高血圧の治療薬として用いられていた経口薬ですが、その発毛効果に着目し、薄毛治療にも応用されています。「ミノタブ」とも呼ばれます。
ミノキシジルタブレットは、血管拡張作用により全身の血流を改善し、毛乳頭細胞を活性化させることで発毛を促すと考えられています。
外用薬よりも血中濃度が高くなるため、より強力な発毛効果が期待できる一方、全身性の副作用(初期脱毛、全身の多毛、動悸、息切れ、むくみ、めまい、低血圧など)のリスクも高まります。
そのため、ミノキシジルタブレットの使用は、医師の厳格な管理下で行う必要があり、他の治療法で効果が見られない場合の選択肢の一つとして慎重に検討されます。
内服薬治療の注意点と副作用
AGA治療内服薬は効果が期待できる反面、副作用の可能性も理解しておく必要があります。
フィナステリドやデュタステリドでは、性機能に関する副作用(性欲減退、勃起機能不全、射精障害など)や、肝機能障害、抑うつ気分などが報告されています。これらの副作用の頻度は低いとされていますが、発現した場合は医師に相談することが重要です。

ミノキシジルタブレットでは、前述の通り循環器系への影響が懸念されるため、特に心疾患の既往がある方や血圧に問題のある方は慎重な判断が求められます。
また、これらの内服薬は女性や未成年者には原則として使用できません(特に妊娠中の女性がフィナステリドやデュタステリドに触れると、胎児に影響を及ぼす危険性があります)。
治療開始前には必ず医師による診察を受け、適切な説明と指導のもとで服用を開始し、定期的なフォローアップを受けることが大切です。
内服薬がターゲットとするホルモンバランス
AGA治療内服薬のうち、フィナステリドとデュタステリドは、男性ホルモンのバランスに直接作用します。具体的には、テストステロンからDHTへの変換を阻害することで、毛根に対するDHTの攻撃性を弱めます。
DHTは毛母細胞の増殖を抑制し、毛髪の成長期を短縮させるため、このDHTの働きを抑えることがAGA治療の鍵となります。
これらの薬剤は、体内のテストステロン濃度には大きな影響を与えずに、DHTレベルを選択的に低下させるように設計されています。
一方、ミノキシジルタブレットはホルモンバランスに直接作用するのではなく、血流改善や毛母細胞の活性化を通じて発毛を促します。
内服薬治療開始前の必須検査
内服薬によるAGA治療を開始する前には、いくつかの検査を行い、安全性を確認することが一般的です。まず、問診で既往歴、アレルギー歴、家族歴、服用中の薬剤などを詳しく確認します。
フィナステリドやデュタステリドの場合、肝機能検査(血液検査)を行い、肝臓への負担がないかを確認します。また、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA値を測定することがあります。
これは、これらの薬剤がPSA値を低下させる作用があるため、治療開始前のベースライン値を把握しておくことが、将来的な前立腺がんのスクリーニングにおいて重要になるからです。
ミノキシジルタブレットの場合は、心電図検査や血圧測定など、循環器系の状態を確認する検査が行われることがあります。これらの検査結果と総合的な健康状態を評価し、医師が治療の適否を判断します。
主なAGA内服治療薬の比較
薬剤名 | 主な作用 | 注意点・副作用(例) |
---|---|---|
フィナステリド | DHT産生抑制(5αリダクターゼII型阻害) | 性機能関連、肝機能障害、継続服用が必要 |
デュタステリド | DHT産生抑制(5αリダクターゼI型・II型阻害) | フィナステリドより強力、副作用に注意、継続服用 |
ミノキシジルタブレット | 血管拡張、毛母細胞活性化 | 全身の多毛、動悸、むくみ、医師の厳格管理下で使用 |
内服薬治療は、医師の指導のもとで正しく行うことが何よりも大切です。自己判断での個人輸入や服用は避け、必ず専門医に相談しましょう。
自毛植毛 – 根本的な解決を目指す選択肢
AGAが進行し、薬物治療だけでは満足のいく改善が得られない場合や、より永続的で確実な効果を求める場合には、自毛植毛が有力な選択肢となります。
自毛植毛は、ご自身の後頭部や側頭部など、AGAの影響を受けにくい部位の毛髪を、薄くなった部分に移植する外科的な治療法です。
自毛植毛とはどのような治療か
自毛植毛は、自分自身の健康な毛髪(毛包ごと)を、薄毛が気になる部分(主に前頭部や頭頂部)の皮膚に移植する手術です。移植された毛髪は、多くの場合、元の部位の性質を保ったまま生着し、再び成長を始めます。
自分の組織を使用するため、拒絶反応のリスクが極めて低いのが大きな特徴です。一度生着すれば、他の毛髪と同様に伸び続け、カットやパーマ、カラーリングも可能になります。
薬物治療のように継続的な薬剤の使用が不要になる場合もあり、根本的な薄毛解決を目指せる治療法と言えます。
FUT法(ストリップ法)の概要
FUT法(Follicular Unit Transplantation)、通称ストリップ法は、後頭部などのドナー部位から、毛髪を含む頭皮を帯状(ストリップ状)に切除し、その頭皮片を顕微鏡下で株(グラフト:毛包を1~数本含む単位)に丁寧に分離(株分け)し、薄毛部位に移植する方法です。一度に多くの株を採取できるため、広範囲の薄毛に対応しやすいという利点があります。
一方で、ドナー部位には線状の傷跡が残るため、髪型によっては傷跡が目立つ可能性があります。
手術時間は比較的短く済むことが多いですが、縫合したドナー部の痛みや突っ張り感がしばらく続くことがあります。

FUE法(単一毛包ユニット採取法)の概要
FUE法(Follicular Unit Extraction)は、ドナー部位から専用の微細なパンチ(円筒状の刃)を用いて、毛包を一つ一つくり抜くように採取し、薄毛部位に移植する方法です。
FUT法のように頭皮を帯状に切除しないため、線状の傷跡が残らず、小さな点状の傷跡が多数残りますが、これらは髪の毛で隠れやすく、比較的目立ちにくいのが特徴です。短髪の方にも適していると言われます。
ただし、一株ずつ採取するため、手術時間が長くなる傾向があり、一度に大量の株を採取するのはFUT法に比べて難しい場合があります。また、医師の技術力が結果を大きく左右します。
植毛手術を受ける際の検討事項
自毛植毛は外科手術であるため、受ける際にはいくつかの点を十分に検討する必要があります。
まず、費用です。植毛は保険適用外の自由診療であり、移植する株数やクリニックによって費用は大きく異なります。
次に、ダウンタイムです。手術後には腫れや赤み、かさぶたなどができ、ドナー部や移植部が落ち着くまでには数日から数週間かかることがあります。また、移植した毛髪が一度抜け落ち、その後新たに生え揃うまでには数ヶ月から1年程度かかります。

また、すぐに結果が出るわけではないことを理解しておく必要があります。そして何よりも、ご自身の期待する結果と実際に得られる可能性のある結果について、医師と十分に話し合い、現実的な目標を設定することが大切です。
信頼できるクリニックと経験豊富な医師を選ぶことが、満足のいく結果を得るための鍵となります。
植毛が解決するAGAの不可逆的な変化
AGAが長期間進行すると、毛包が縮小(ミニチュア化)し、最終的には活動を停止してしまいます。
一度活動を停止し、線維化してしまった毛包からは、薬物治療などを行っても再び太く健康な髪が生えてくることは困難です。
自毛植毛は、このような不可逆的な変化が起きてしまった部位に対して、AGAの影響を受けにくい後頭部などの元気な毛包を移植することで、再び毛髪を生やすことができる唯一の方法です。
つまり、薬物治療が「今ある髪を守り育てる」「進行を遅らせる」ことを主眼とするのに対し、植毛は「失われた場所に後頭部から髪の毛を引っ越しする」という点で、独自性があります。
植毛の適応判断と術前評価
自毛植毛が誰にでも適しているわけではありません。まず、移植に必要な十分な量の健康なドナー毛が後頭部や側頭部に存在することが前提となります。
AGAの進行度が非常に高く、ドナー毛が不足している場合は、満足のいく結果が得られない可能性があります。
また、薄毛の原因がAGA以外の場合(円形脱毛症の活動期など)や、重篤な全身疾患がある場合、血液凝固能に問題がある場合などは、植毛手術が適さないこともあります。
術前には、医師による詳細な診察(頭皮の状態、毛髪の密度、毛質、AGAの進行パターンなどの評価)や、血液検査などを行い、手術の適応を慎重に判断します。
患者様の希望と、医学的に可能な範囲、期待される効果などを総合的に評価し、手術計画を立てます。
FUT法とFUE法の比較
特徴 | FUT法(ストリップ法) | FUE法(単一毛包ユニット採取法) |
---|---|---|
採取方法 | 後頭部から頭皮を帯状に切除・縫合 | 毛包単位でパンチを用いて個別に採取 |
傷跡 | 線状の傷跡が残る可能性 | 小さな点状の傷跡が多数、比較的目立ちにくい |
手術時間 | 比較的短い傾向 | 長時間になる傾向、株数による |
ロボットによる植毛も存在しますが、現状では熟練した医師の技術と経験が、自然で満足度の高い結果を得るためには依然として重要です。
医師の技術力、デザイン力、そして丁寧なカウンセリングが、植毛の成否を左右すると言っても過言ではありません。
ご自身の希望やライフスタイル、頭皮の状態などを総合的に考慮し、最適な術式を医師と相談して決定しましょう。
薄毛が気になり始めたけれど、いきなり医薬品を使うのは抵抗がある…そんな方には、まず市販育毛剤から始めることをおすすめします。
市販育毛剤は副作用のリスクが低く、手軽に購入できるため、薄毛対策の第一歩として最適です。
しかし、数多くの商品の中から自分に合ったものを選ぶのは簡単ではありません。成分や使用感、価格など、選ぶ際のポイントを押さえることが大切です。
効果的な市販育毛剤の選び方や使用方法について以下の記事で詳しく解説しています。
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