薄毛に悩む男性の多くが、その原因や対策について深く知りたいと考えています。栄養障害は脱毛症の一因となり得ますが、適切な治療と予防策を講じることで改善が期待できます。
この記事では、栄養バランスの取れた食事療法から、専門的な外用薬・内服薬による治療、さらには日々の生活習慣の見直しに至るまで、髪の健康を取り戻し、維持するための具体的な方法を解説します。
ご自身の状態を理解し、前向きな一歩を踏み出すための情報として、ぜひお役立てください。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
食事療法 – 髪に必要な栄養素を効率的に摂る方法

髪の健康は、日々の食事から摂取する栄養素に大きく左右されます。栄養障害による脱毛症の治療と予防において、食事療法は基本であり、最も重要な柱の一つです。
バランスの取れた食事を心がけ、髪の成長に必要な栄養素を効率的に摂取することが、健やかな頭皮環境と毛髪の育成につながります。
髪の成長に欠かせない主要栄養素
私たちの髪は主に「ケラチン」というタンパク質で構成されています。そのため、質の高いタンパク質の摂取は、丈夫な髪を作る上で非常に大切です。
また、タンパク質の代謝や頭皮の健康維持には、ビタミンやミネラルといった栄養素も深く関わっています。

タンパク質(髪の主成分)
タンパク質は髪の主成分であるケラチンの材料となります。肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品などから良質なタンパク質を摂取しましょう。
特に動物性タンパク質と植物性タンパク質をバランス良く摂ることが、アミノ酸バランスの観点からも推奨されます。
食事から十分な量を摂取することが難しい場合は、医師に相談の上、プロテインなどを補助的に利用することも一つの方法ですが、過剰摂取は腎臓に負担をかける可能性もあるため注意が必要です。
亜鉛(ケラチン合成を助けるミネラル)
亜鉛は、タンパク質からケラチンを合成する際に重要な役割を果たすミネラルです。また、細胞分裂を促進し、毛母細胞の働きを活発にするため、髪の成長には欠かせません。
亜鉛が不足すると、髪の成長が遅れたり、抜け毛が増えたりする原因となることがあります。
牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、ナッツ類などに多く含まれますが、吸収率があまり高くないため、意識して摂取することが大切です。
鉄(頭皮への酸素供給を担うミネラル)
鉄は、血液中のヘモグロビンの成分となり、全身に酸素を運ぶ役割を担っています。頭皮の毛母細胞も酸素を必要としており、鉄分が不足すると酸素供給が滞り、髪の成長が悪くなる可能性があります。
特に男性でも、偏った食事や成長期、激しい運動をする方は不足しがちです。レバー、赤身の肉、ほうれん草、ひじきなどに多く含まれます。ビタミンCと一緒に摂取すると吸収率が高まります。
ビタミン群(頭皮環境と代謝のサポーター)
ビタミン群は、それぞれが髪と頭皮の健康に多角的に関わっています。
- ビタミンA: 頭皮の新陳代謝を促し、健康な状態に保ちます。
- ビタミンB群(B2, B6, B12, ビオチンなど): タンパク質の代謝を助け、皮脂の分泌をコントロールし、頭皮環境を整えます。
- ビタミンC: コラーゲンの生成を助け、頭皮の弾力性を保ちます。また、鉄の吸収を高める働きや、抗酸化作用により頭皮を活性酸素から守る効果も期待できます。
- ビタミンE: 血行を促進し、頭皮への栄養供給をスムーズにします。強力な抗酸化作用も持ち合わせています。
これらのビタミンは、緑黄色野菜、果物、肉類、魚介類、ナッツ類など、多様な食品からバランス良く摂取することが重要です。
髪の成長を支える栄養素と食品例
栄養素 | 主な役割 | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分ケラチンの材料 | 肉類、魚介類、卵、大豆製品 |
亜鉛 | ケラチン合成の補助、細胞分裂促進 | 牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、ナッツ類 |
鉄 | 頭皮への酸素供給 | レバー、赤身の肉、ほうれん草、ひじき |
ビタミンB群 | 代謝促進、頭皮環境改善 | 豚肉、レバー、魚介類、穀類、豆類 |
ビタミンC | コラーゲン生成、鉄吸収促進 | 果物(柑橘類、いちご)、野菜(ピーマン) |
栄養バランスの重要性
特定の栄養素だけを大量に摂取しても、髪の健康が劇的に改善するわけではありません。むしろ、栄養素同士は互いに影響し合って働くため、全体的な栄養バランスを整えることが何よりも大切です。
例えば、タンパク質を十分に摂っていても、その代謝に必要なビタミンB群が不足していれば、効率よく髪の材料として利用されません。
また、亜鉛の過剰摂取は銅の吸収を妨げるなど、バランスの崩れが新たな問題を引き起こすこともあります。主食、主菜、副菜をそろえ、多様な食品から栄養を摂ることを心がけましょう。
効率的な栄養摂取のポイント
栄養素を効率的に摂取するためには、調理法や食べ合わせも工夫すると良いでしょう。
- 脂溶性ビタミン(A, D, E, K)は油と一緒に摂ると吸収率が上がります。
- 鉄分はビタミンCと一緒に摂ることで吸収が高まります。
- 食材は新鮮なものを選び、加熱しすぎないことで栄養素の損失を抑えます。
外食が多い方や加工食品をよく利用する方は、塩分や脂質の過剰摂取、ビタミン・ミネラルの不足に陥りやすい傾向があります。
自炊を取り入れたり、栄養バランスを意識したメニュー選びをしたりすることが、脱毛症の予防・改善につながります。
外用薬による治療 – 頭皮環境を整えるアプローチ

栄養障害による脱毛症の治療において、食事療法と並行して検討されるのが外用薬によるアプローチです。
外用薬は、頭皮に直接塗布することで、毛根に働きかけたり、頭皮環境を整えたりする効果が期待できます。医師の診断のもと、自身の症状や状態に合った外用薬を選択することが重要です。
自己判断での使用は避け、必ず専門医に相談しましょう。
頭皮環境と髪の成長
健康な髪は、健康な頭皮から育ちます。頭皮は髪の土壌とも言え、その環境が悪化すると、髪の成長が妨げられたり、抜け毛が増えたりする原因となります。
栄養不足は、頭皮の乾燥、血行不良、皮脂バランスの乱れなどを引き起こし、頭皮環境を悪化させる要因の一つです。
外用薬は、このような頭皮の問題に直接アプローチし、育毛に適した環境を作る手助けをします。
代表的な外用薬の成分と働き
成分名 | 主な働き | 期待される効果 |
---|---|---|
ミノキシジル | 血管拡張、毛母細胞の活性化 | 発毛促進、脱毛進行予防 |
塩化カルプロニウム | 局所血管拡張、血流改善 | 頭皮への栄養供給促進 |
アデノシン | 毛乳頭細胞の活性化 | 発毛促進因子の産生促進 |
ミノキシジル外用薬について
ミノキシジルは、日本皮膚科学会の脱毛症診療ガイドラインでも推奨されている発毛成分の一つです。
元々は高血圧の治療薬として開発されましたが、副作用として多毛が見られたことから、脱毛症治療薬として転用されました。
ミノキシジルには、頭皮の血管を拡張して血流を改善する作用や、毛母細胞を活性化させて発毛を促す効果が期待できます。市販薬としても入手可能ですが、濃度や使用方法については医師や薬剤師の指示に従うことが大切です。
効果を実感するまでには通常数ヶ月以上の継続使用が必要で、使用を中止すると再び脱毛が進行する可能性があります。
ミノキシジル外用薬の使用初期には、一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」という現象が起こることがあります。
これは毛周期が正常化する過程で見られるもので、通常は1~2ヶ月程度で落ち着きますが、不安な場合は医師に相談しましょう。
外用薬の正しい使用方法
外用薬の効果を最大限に引き出すためには、正しい使用方法を守ることが重要です。
- 洗髪後、頭皮が清潔な状態で使用する。
- 用法・用量を守り、過剰に使用しない。
- 頭皮に直接、均一に塗布する。
- 塗布後は、薬剤が浸透するまでマッサージなどを控える(製品の指示に従う)。
使用中に頭皮のかゆみ、かぶれ、発疹などの副作用が現れた場合は、すぐに使用を中止し、医師に相談してください。
また、他の薬剤を使用している場合や、アレルギー体質の方は、事前に医師に伝えることが大切です。
頭皮マッサージとの併用
外用薬の使用と合わせて、頭皮マッサージを行うことも、頭皮の血行促進やリラックス効果が期待でき、育毛環境の改善に役立つ場合があります。
ただし、強くこすりすぎると頭皮を傷つける可能性があるため、指の腹で優しく揉みほぐすように行いましょう。
外用薬を塗布するタイミングとの兼ね合いは、製品の指示や医師のアドバイスを参考にしてください。
内服薬による治療 – 栄養補給と発毛促進

栄養障害が原因で起こる脱毛症に対して、食事からの栄養摂取を基本としつつ、それを補う形で内服薬やサプリメントが用いられることがあります。
また、脱毛の進行度や原因によっては、発毛を促進する内服薬が医師の判断で処方されることもあります。内服薬による治療は、体の中から髪の成長に必要な環境を整え、脱毛症の改善を目指すものです。
栄養補助を目的とした内服薬・サプリメント
食事だけでは十分に補いきれない特定の栄養素がある場合や、吸収率が低い栄養素を効率的に摂取したい場合に、内服薬やサプリメントが有効な手段となります。
特に、髪の成長に重要とされるタンパク質(アミノ酸)、亜鉛、鉄、ビタミンB群、ビオチンなどは、サプリメントの形で利用されることが多い栄養素です。
髪の健康に役立つ主な栄養補助成分
栄養素・成分 | 期待される役割・効果 | 摂取時の注意点 |
---|---|---|
亜鉛 | ケラチン合成促進、細胞分裂活性化 | 過剰摂取は銅の吸収阻害の可能性 |
鉄 | 頭皮への酸素供給改善 | 過剰摂取は胃腸障害の可能性 |
ビオチン(ビタミンB7) | 皮膚や粘膜の健康維持、ケラチン生成補助 | 通常の食事で不足しにくいが、欠乏で脱毛の可能性 |
L-シスチン(アミノ酸) | ケラチンの主要構成成分 | タンパク質摂取が十分なら追加は慎重に |
これらのサプリメントは、あくまで食事の補助として考え、バランスの取れた食事が基本であることを忘れてはいけません。
自己判断で多量に摂取するのではなく、医師や管理栄養士に相談し、自分に必要な栄養素と適切な摂取量を見極めることが大切です。
特に、複数のサプリメントを併用する場合は、成分の重複や相互作用にも注意が必要です。
発毛を促進する内服薬
男性型脱毛症(AGA)の治療薬として知られるフィナステリドやデュタステリドは、栄養障害による脱毛症とは直接的な治療対象が異なりますが、脱毛の原因が複合的な場合や、医師が総合的に判断した場合に処方されることがあります。
これらの薬剤は、男性ホルモンの働きを調整することで、脱毛の進行を抑え、発毛を促す効果が期待できます。
ただし、副作用のリスクもあるため、必ず医師の診察と処方が必要です。栄養障害が主たる原因である場合は、まず栄養状態の改善が優先されます。
発毛を目的とした内服薬は、効果が現れるまでに時間がかかり、継続的な服用が必要です。また、服用を中止すると再び脱毛が進行する可能性があることを理解しておく必要があります。
医師の診断に基づく適切な使用
内服薬による治療は、その種類や量、期間など、専門的な判断が求められます。特に医薬品に分類されるものは、副作用のリスクも伴います。
インターネットの情報や個人の体験談だけに頼らず、必ず医師の診断を受け、指示に従って正しく使用することが、安全かつ効果的な治療への近道です。
脱毛症の原因を特定し、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てることが重要です。
生活習慣の改善 – 睡眠とストレス管理の重要性
髪の健康は、栄養バランスの取れた食事だけでなく、日々の生活習慣とも深く結びついています。
特に、睡眠の質と量は、髪の成長サイクルに影響を与え、ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、脱毛症を悪化させる原因となり得ます。
栄養障害による脱毛症の治療効果を高め、再発を予防するためにも、生活習慣全体を見直すことが大切です。
質の高い睡眠と髪の成長

髪の毛は、主に私たちが眠っている間に成長します。睡眠中には成長ホルモンが分泌され、細胞分裂が活発になり、日中に受けたダメージの修復や新しい髪の生成が行われます。
睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が減少し、髪の成長が妨げられたり、頭皮のターンオーバーが乱れたりして、抜け毛や薄毛につながる可能性があります。
質の高い睡眠をとるためのポイント
- 毎日同じ時間に寝起きし、体内時計を整える。
- 寝る前にスマートフォンやパソコンなどの光を避ける。
- カフェインやアルコールの摂取は就寝の数時間前までにする。
- 適度な運動は睡眠の質を高めるが、寝る直前の激しい運動は避ける。
- 自分に合った寝具を選び、快適な睡眠環境を作る。
睡眠時間を確保するだけでなく、睡眠の「質」を高めることを意識しましょう。深い眠り(ノンレム睡眠)の時間を増やすことが、成長ホルモンの分泌を促し、髪の健康を守る上で重要です。
ストレスと脱毛症の関係
過度なストレスは、自律神経のバランスを崩し、血管を収縮させて頭皮の血行を悪化させます。
血行が悪くなると、髪の毛の成長に必要な栄養や酸素が毛根に十分に行き渡らなくなり、抜け毛や薄毛の原因となります。
また、ストレスはホルモンバランスにも影響を与え、男性ホルモンの過剰な働きを招くことで脱毛を促進することもあります。
さらに、ストレスが原因で食生活が乱れたり、睡眠不足になったりすることも、間接的に髪に悪影響を及ぼします。
効果的なストレス管理法

ストレス管理法 | 具体的な例 | 期待される効果 |
---|---|---|
リラクゼーション | 深呼吸、瞑想、ヨガ、アロマテラピー | 心身の緊張緩和、自律神経の調整 |
適度な運動 | ウォーキング、ジョギング、水泳 | 気分転換、睡眠の質の向上 |
趣味や好きなこと | 音楽鑑賞、読書、旅行、創作活動 | 気分のリフレッシュ、ポジティブな感情の喚起 |
十分な休息 | 質の高い睡眠、休憩時間の確保 | 疲労回復、精神的安定 |
自分に合ったストレス解消法を見つけ、日常生活にうまく取り入れることが大切です。
ストレスを完全に無くすことは難しいかもしれませんが、上手に付き合っていく方法を身につけることで、髪への悪影響を軽減できます。
一人で抱え込まず、信頼できる人に相談することも有効な手段です。
その他の注意すべき生活習慣
喫煙は、血管を収縮させて頭皮の血流を悪化させるだけでなく、ビタミンCなどの栄養素を破壊し、髪の成長に必要な栄養供給を妨げます。
脱毛症の予防・改善のためには、禁煙することが強く推奨されます。また、過度な飲酒も、肝臓での栄養素の代謝を妨げたり、睡眠の質を低下させたりする可能性があるため、適量を心がけましょう。
適度な運動は血行を促進し、ストレス解消にもつながるため、積極的に取り入れると良いでしょう。
治療期間の目安 – 改善までのステップ
栄養障害による脱毛症の治療を開始したからといって、すぐに髪が生え揃うわけではありません。
髪の毛には成長サイクル(毛周期)があり、治療効果が目に見える形で現れるまでには、ある程度の時間が必要です。焦らず、根気強く治療を続けることが、改善への道を開きます。
毛周期と治療効果の発現
髪の毛は、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。栄養障害によってこのサイクルが乱れると、成長期が短くなったり、休止期にとどまる毛髪が増えたりして、薄毛が進行します。
治療によって栄養状態が改善され、頭皮環境が整ってくると、毛周期も徐々に正常化に向かいます。
一般的に、治療を開始してから効果を実感し始めるまでには、最低でも3ヶ月から6ヶ月程度かかると言われています。

これは、休止期にあった毛髪が抜け落ち、新しい毛髪が成長を始めてから、ある程度の長さになるまでに時間が必要だからです。
治療初期には、むしろ抜け毛が増えたように感じる「初期脱毛」が起こることもありますが、これは毛周期がリセットされる過程で起こる一時的な現象であることが多いです。
治療段階と期待される変化の目安
治療期間 | 期待される主な変化 | 留意点 |
---|---|---|
開始~3ヶ月頃 | 抜け毛の減少、頭皮環境の改善兆候 | 初期脱毛の可能性、効果実感は少ない時期 |
3ヶ月~6ヶ月頃 | 産毛の発生、既存毛のハリ・コシ改善 | 効果に個人差が出始める |
6ヶ月~1年頃 | 産毛が太く成長、毛量の増加実感 | 継続的な治療と生活習慣の維持が重要 |
1年以上 | 状態の安定、維持療法への移行検討 | 定期的な医師の診察で状態を確認 |
上記の期間や変化はあくまで一般的な目安であり、脱毛症の重症度、年齢、体質、治療法、生活習慣などによって個人差が大きいです。
自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従って継続することが大切です。
根気強い継続の重要性
脱毛症の治療は、短期間で結果が出るものではありません。特に栄養障害が背景にある場合、体内の栄養バランスを整え、それが毛髪の成長に反映されるまでには時間がかかります。
「すぐに効果が出ないから」と諦めてしまうと、それまでの努力が無駄になってしまうこともあります。
医師とよく相談し、治療計画や期待できる効果、期間について十分に理解した上で、焦らずじっくりと取り組む姿勢が重要です。
治療経過を定期的に医師に診てもらい、適切なアドバイスを受けながら進めていきましょう。
治療効果を高めるために
治療期間中も、食事療法や生活習慣の改善を怠らないことが、治療効果を高める上で大切です。
処方された薬を正しく使用することはもちろん、バランスの取れた食事、質の高い睡眠、適切なストレス管理を継続することで、体の中から髪が育ちやすい環境をサポートします。
医師の指示を守り、二人三脚で治療に取り組むことが、改善への確実な歩みとなります。
予防のための食事バランス – 髪を守る献立作り

栄養障害による脱毛症を予防するためには、日頃からバランスの取れた食事を心がけ、髪の成長に必要な栄養素を安定して供給することが最も重要です。
特定の食品だけを食べるのではなく、多様な食材を組み合わせ、体全体の健康を維持することが、結果として髪の健康にもつながります。
「髪に良い」と言われる栄養素を意識しつつ、楽しみながら続けられる食生活を築きましょう。
日常的に意識したい食事の基本
健康な髪を育むための食事は、特別なものではありません。基本は、栄養バランスの整った食事を規則正しく摂ることです。
- 主食(ごはん、パン、麺類など):エネルギー源となる炭水化物を適量摂取。
- 主菜(肉、魚、卵、大豆製品など):髪の主成分であるタンパク質や、重要なミネラルを供給。
- 副菜(野菜、きのこ、海藻など):ビタミン、ミネラル、食物繊維を豊富に摂取し、頭皮環境を整える。
これらを毎食バランス良く組み合わせることで、必要な栄養素を過不足なく摂ることができます。
特に、加工食品やインスタント食品に偏らず、できるだけ手作りの食事を心がけることが、栄養バランスを整える上で効果的です。
髪を守るための献立例(1週間)
以下は、髪の健康を意識した栄養バランスの取れた献立の一例です。これを参考に、ご自身の好みやライフスタイルに合わせてアレンジしてみてください。
曜日 | 主菜のヒント | 副菜・汁物のヒント |
---|---|---|
月 | 鶏むね肉のグリル(タンパク質、ビタミンB群) | ほうれん草のおひたし(鉄、ビタミンC)、きのこの味噌汁 |
火 | 鮭の塩焼き(タンパク質、ビタミンD、EPA/DHA) | ひじきの煮物(鉄、ミネラル)、豆腐とわかめの味噌汁 |
水 | 豚レバーのニラ炒め(鉄、亜鉛、ビタミンA・B群) | ブロッコリーのサラダ(ビタミンC・E)、かぼちゃのポタージュ |
木 | 豆腐と野菜のあんかけ丼(植物性タンパク質、野菜) | もずく酢(ミネラル)、野菜たっぷりコンソメスープ |
金 | 牛肉とピーマンの細切り炒め(タンパク質、鉄、亜鉛) | 切り干し大根の煮物(食物繊維)、あさりの味噌汁(鉄) |
土 | 牡蠣とキノコのアヒージョ(亜鉛、ビタミンD)+全粒粉パン | 海藻サラダ(ミネラル)、ミネストローネ |
日 | 卵とじ丼(親子丼など)(タンパク質、ビタミンB群) | 緑黄色野菜の和え物、根菜の味噌汁 |
この献立はあくまで一例です。重要なのは、様々な食材を使い、栄養が偏らないようにすることです。間食には、ナッツ類や果物など、栄養価の高いものを選ぶと良いでしょう。
避けるべき食習慣
髪の健康を損なう可能性のある食習慣にも注意が必要です。
- 過度な脂質の摂取:皮脂の過剰分泌を招き、頭皮環境を悪化させる可能性があります。
- 糖質の過剰摂取:血糖値の急激な変動は、髪の成長に悪影響を与えることがあります。
- 極端なダイエット:必要な栄養素が不足し、脱毛症の原因となります。
- 朝食抜きなどの不規則な食事:栄養バランスが崩れやすくなります。
インスタント食品やファストフード、スナック菓子などの過度な摂取は避け、できるだけ自然な食材から栄養を摂るように心がけましょう。また、水分補給も大切です。
1日に1.5~2リットルを目安に、こまめに水を飲む習慣をつけましょう。
定期的な健康チェック – 早期発見のポイント

栄養障害による脱毛症は、初期には自覚症状が乏しいこともあり、気づいたときにはある程度進行してしまっているケースも少なくありません。
定期的な健康チェックを受け、自身の栄養状態を把握するとともに、脱毛の初期サインを見逃さないようにすることが、早期発見・早期対応につながります。
栄養状態の把握
年に一度の健康診断などで血液検査を受けることは、全身の健康状態だけでなく、栄養状態を知る上でも重要です。
特に、貧血の指標となるヘモグロビン値や血清鉄、フェリチン(貯蔵鉄)の値、また、亜鉛や各種ビタミンの血中濃度などを調べることで、栄養不足の可能性を早期に発見できます。
もし、健康診断の結果で気になる数値があれば、医師に相談し、必要に応じてより詳しい検査を受けたり、食事指導を受けたりすることを検討しましょう。
血液検査でチェックしたい項目例
検査項目 | 髪との関連 | 基準値から外れた場合の可能性 |
---|---|---|
血清鉄・フェリチン | 鉄不足は毛髪成長不良の原因に | 鉄欠乏性貧血、潜在的な鉄不足 |
血清亜鉛 | 亜鉛不足はケラチン合成低下の原因に | 味覚障害、皮膚炎、脱毛 |
総タンパク・アルブミン | タンパク質不足は髪の材料不足に | 低栄養状態、肝機能障害 |
基準値は検査機関によって異なる場合があります。必ず医師の説明を受けてください。
脱毛の初期サインに気づく
日々の生活の中で、以下のような変化に気づいたら、脱毛症の初期サインかもしれません。栄養障害が関連している可能性も考慮し、早めに専門医に相談することをお勧めします。
- 抜け毛の量が以前より明らかに増えた(シャンプー時、起床時の枕など)。
- 髪の毛が細く、弱々しくなった。ハリやコシが失われた。
- 髪のボリュームが減り、地肌が透けて見えるようになった。
- 頭皮が乾燥したり、逆に脂っぽくなったり、かゆみやフケが増えたりした。
- 爪がもろくなったり、割れやすくなったりした(爪も髪と同じケラチンが主成分)。
これらのサインは、栄養不足だけでなく、他の原因による脱毛症の可能性も示唆します。自己判断せずに、皮膚科や薄毛治療専門のクリニックを受診し、正確な診断を受けることが大切です。
専門医への相談タイミング
「少し抜け毛が増えただけ」「気のせいかもしれない」と放置してしまうと、症状が進行してしまうことがあります。
上記の初期サインに気づいた時点や、食生活の乱れが続いていて髪への影響が心配な場合、あるいは健康診断で栄養状態に関する指摘を受けた場合などは、積極的に専門医に相談しましょう。
早期に原因を特定し、適切な対策を始めることが、改善への近道です。
再発を防ぐための継続的なケア
栄養障害による脱毛症の治療によって症状が改善した後も、油断は禁物です。根本的な原因である栄養バランスの乱れや不適切な生活習慣が元に戻ってしまえば、再び脱毛症が進行する可能性があります。
治療効果を維持し、再発を防ぐためには、健康的な食生活と生活習慣を継続することが何よりも重要です。
健康的な食生活の維持
治療期間中に実践したバランスの取れた食事を、治療後も継続することが基本です。特定の期間だけ頑張るのではなく、生涯を通じて健康的な食習慣を身につけるという意識を持ちましょう。
- タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取する。
- 野菜や果物を積極的に摂り、抗酸化力を高める。
- 加工食品や脂質の多い食事、糖質の過剰摂取を控える。
- 定期的に食事内容を見直し、必要であれば専門家(医師や管理栄養士)のアドバイスを受ける。
外食や会食の機会が多い場合でも、メニュー選びを工夫したり、前後の食事でバランスを調整したりするなど、できる範囲で健康的な食生活を心がけることが大切です。
生活習慣の継続的な見直し
睡眠、ストレス管理、運動習慣なども、髪の健康に大きく影響します。治療によって改善が見られた後も、これらの生活習慣を良好に保つ努力を続けましょう。
- 質の高い睡眠を十分にとる。
- 自分なりのストレス解消法を実践し、ストレスを溜め込まない。
- 適度な運動を習慣化し、血行を促進する。
- 禁煙を継続し、飲酒は適量を守る。
これらの習慣は、髪だけでなく全身の健康維持にもつながります。健康的なライフスタイルを確立することが、脱毛症の再発予防において最も効果的な方法の一つです。
定期的な頭皮チェックと専門医のフォローアップ
治療が終了した後も、定期的にご自身の頭皮や髪の状態をチェックする習慣をつけましょう。
抜け毛の量や髪質の変化に気を配り、もし再発の兆候が見られた場合は、早めに治療を受けたクリニックや専門医に相談することが重要です。
医師によっては、治療後も定期的なフォローアップを推奨する場合があります。指示に従い、専門家によるチェックを受けることで、万が一再発した場合でも早期に対応できます。
自己判断でサプリメントの摂取を再開したり、以前使用していた薬剤を使い始めたりすることは避け、必ず医師の指示を仰ぎましょう。
医師との連携 – 治療効果を高めるコミュニケーション

栄養障害による脱毛症の治療は、自己判断で行うのではなく、専門的な知識を持つ医師との連携が非常に重要です。
医師は、脱毛の原因を正確に診断し、一人ひとりの状態に合わせた適切な治療法を提案してくれます。
治療効果を最大限に高め、安心して治療を進めるためには、医師との良好な関係を築き、積極的に情報を共有することが大切です。
専門医に相談するメリット
薄毛や抜け毛の悩みはデリケートな問題であり、誰に相談して良いか分からないと感じる方もいるかもしれません。
しかし、皮膚科医や薄毛治療を専門とする医師は、脱毛症に関する豊富な知識と治療経験を持っています。
- 脱毛症の原因を医学的に特定できる。
- 栄養状態の評価や必要な検査を実施できる。
- 科学的根拠に基づいた治療法(食事指導、外用薬、内服薬など)を提案できる。
- 治療の経過を客観的に評価し、必要に応じて治療方針を調整できる。
- 副作用や合併症のリスクについて適切な情報提供と対応ができる。
インターネット上には様々な情報があふれていますが、その中には誤った情報や誇大な広告も少なくありません。信頼できる情報源である医師に相談することが、確実な改善への第一歩です。
治療方針の共有と納得
医師から治療方針の説明を受ける際には、分からないことや疑問に思うことがあれば、遠慮なく質問しましょう。
治療の目的、具体的な方法、期待できる効果、考えられる副作用、治療にかかる期間や費用などについて十分に理解し、納得した上で治療を開始することが重要です。
医師も、患者さんが安心して治療に取り組めるよう、分かりやすい説明を心がけてくれます。自分の希望やライフスタイルについても医師に伝え、共に治療計画を立てていく姿勢が望ましいです。
治療中の情報共有の重要性
治療を開始した後も、医師との連携は続きます。治療の経過や体調の変化、副作用の有無などについて、定期的な診察の際に正確に伝えることが大切です。
- 処方された薬の使用状況(用法・用量を守れているか)。
- 食事療法や生活習慣改善の取り組み状況。
- 自覚している効果や変化(抜け毛の量、髪質、頭皮の状態など)。
- 副作用と思われる症状の有無とその程度。
- 治療に対する不安や疑問点。
これらの情報は、医師が治療効果を判断し、今後の治療方針を決定する上で重要な手がかりとなります。些細なことでも気になることがあれば、メモしておき、診察時に伝えるようにしましょう。
医師との信頼関係を築き、何でも相談できる環境を作ることが、治療を成功させるための鍵となります。二人三脚で脱毛症の改善を目指しましょう。
よくある質問
Reference
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