「最近フケが増えたかも…」「頭がかゆくて仕方ない」「抜け毛も気になる…」
このような頭皮の悩みを抱えていませんか?もしかすると、それは「粃糠性脱毛症(ひこうせいだつもうしょう)」のサインかもしれません。
粃糠性脱毛症は、大量のフケとそれに伴う炎症が原因で抜け毛を引き起こす頭皮の疾患です。放置すると症状が悪化し、薄毛が進行する可能性もあります。
この記事では、粃糠性脱毛症の症状や原因、セルフチェック方法、皮膚科での治療法、そして日常生活でできる予防策まで、専門的な知見を交えながら分かりやすく解説します。
ご自身の頭皮の状態を正しく理解し、早期の対策と改善に繋げましょう。
粃糠性脱毛症(ひこうせいだつもうしょう)とは?頭皮トラブルと抜け毛の関係
粃糠性脱毛症は、頭皮の健康状態が悪化することで引き起こされる脱毛症の一つです。多くの抜け毛の悩みは、頭皮環境と密接に関連しています。
粃糠性脱毛症の基本的な定義
粃糠性脱毛症は、文字通り「粃糠(ひこう)」つまり細かいフケが大量に発生し、それが毛穴を塞いだり、頭皮に炎症を引き起こしたりすることで、結果として髪の毛が抜けやすくなる状態を指します。

単にフケが多いというだけでなく、脱毛に至る一連の頭皮トラブルとして捉えることが重要です。
大量のフケと脱毛の関連性
健康な頭皮でもフケは発生しますが、粃糠性脱毛症の場合、その量が異常に多く、乾燥した細かいフケが特徴です。
この大量のフケが毛穴を物理的に塞いでしまうと、毛根への酸素や栄養の供給が滞り、毛髪の正常な成長サイクルが乱れます。
さらに、フケを栄養源として雑菌が繁殖しやすくなり、頭皮の炎症を招くことで、抜け毛が加速する原因となります。
頭皮環境の悪化が引き起こす問題
頭皮は髪の毛が生える土壌です。この土壌の環境が悪化すると、さまざまな問題が生じます。
粃糠性脱毛症では、乾燥、バリア機能の低下、常在菌バランスの乱れなどが複合的に絡み合い、炎症やかゆみ、そして最終的には抜け毛という深刻な症状に繋がります。
頭皮環境の改善は、症状の進行を食い止め、健康な髪を育むために必要です。
単なるフケ症ではない?粃糠性脱毛症の特徴

「フケが多いだけ」と軽視されがちですが、粃糠性脱毛症は進行性の脱毛症であり、適切な対策や治療をしなければ、薄毛が目立つようになることもあります。
他の頭皮トラブルとの違いを認識し、早期に対処することが大切です。
症状の進行と抜け毛のパターン
初期にはフケの増加や軽度のかゆみが見られますが、進行するとフケが固着し、頭皮が赤みを帯びて炎症が強まります。かゆみも増し、掻きむしることでさらに頭皮環境が悪化し、抜け毛が増えていきます。
特定の部位だけでなく、頭部全体にびまん性に抜け毛が広がる傾向があります。
他の頭皮トラブルとの見分け方
フケやかゆみを伴う頭皮トラブルには、脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎などもあります。
粃糠性脱毛症は主に乾燥した細かいフケが特徴ですが、脂漏性皮膚炎では湿った大きなフケや頭皮のベタつきが見られることが多いです。正確な診断は皮膚科医による診察が必要です。
フケ・かゆみ・抜け毛…これらの症状が同時に現れたら要注意
粃糠性脱毛症のサインを見逃さないためには、具体的な症状を理解しておくことが重要です。
フケ、かゆみ、抜け毛という3つの症状が同時に、あるいは連続して現れた場合は、特に注意が必要です。
粃糠性脱毛症の代表的な症状

これらの症状は、頭皮が何らかのトラブルを抱えている明確なサインです。一つ一つの症状だけでなく、それらがどのように関連し合っているかを把握しましょう。
大量に出る乾いたフケ
肩や枕にパラパラと落ちる、白く細かい乾燥したフケが大量に発生します。頭皮を掻くと、さらに多くのフケが剥がれ落ちることもあります。
これは頭皮のターンオーバーが異常に早まっているか、極度に乾燥しているサインです。
我慢できない頭皮のかゆみと炎症
乾燥やフケ、雑菌の繁殖などにより、頭皮に強いかゆみが生じます。掻くことで頭皮が傷つき、炎症が悪化し、赤みを帯びたり、ヒリヒリとした痛みを感じたりすることもあります。
このかゆみと炎症が、抜け毛を助長する大きな原因となります。
進行すると目立つ抜け毛
頭皮環境の悪化が続くと、毛根が弱り、髪の毛が成長しきる前に抜け落ちてしまいます。
シャンプー時やブラッシング時の抜け毛が増えるだけでなく、全体的に髪のボリュームが減ったように感じることもあります。
粃糠性脱毛症の主な症状まとめ
症状 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
大量の乾燥したフケ | 白く細かい、パラパラとしたフケ。肩や衣服に付着しやすい。 | 頭皮の乾燥やターンオーバー異常のサイン。 |
強いかゆみ | 我慢できないほどのかゆみ。掻くと悪化する。 | 炎症の前兆である可能性。掻き壊しに注意。 |
頭皮の炎症・赤み | 頭皮が赤みを帯び、ヒリヒリ感を伴うことも。 | かゆみやフケと連動して起こりやすい。 |
抜け毛の増加 | シャンプー時やブラッシング時に顕著。全体的に薄くなる。 | 毛根の弱りや成長サイクルの乱れが原因。 |
症状が示す頭皮のSOSサイン
これらの症状は、単なる不快感にとどまらず、頭皮が助けを求めている重要なサインです。放置すればするほど、改善が難しくなる可能性があります。
頭皮の乾燥とバリア機能の低下
粃糠性脱毛症の大きな要因の一つが頭皮の乾燥です。乾燥した頭皮は、外部からの刺激や雑菌の侵入を防ぐバリア機能が著しく低下します。
これにより、わずかな刺激でも炎症やかゆみが起きやすくなり、悪循環に陥ります。
放置するリスクと早期ケアの重要性
初期症状を放置すると、炎症が慢性化し、毛母細胞の働きが低下して、健康な髪が育ちにくくなります。その結果、抜け毛が恒常的になり、薄毛が進行してしまうリスクがあります。
症状に気づいたら、できるだけ早く適切な頭皮ケアを開始し、必要であれば専門医の診断を受けることが重要です。
今すぐできる – 粃糠性脱毛症のセルフチェック方法
専門医の診断が最も確実ですが、日常生活の中で自身の頭皮の状態をチェックすることで、粃糠性脱毛症の可能性に早期に気づくことができます。
いくつかのポイントを押さえて、セルフチェックを試してみましょう。
自宅で確認できる頭皮の状態
鏡を使ったり、家族に協力してもらったりしながら、以下の点を注意深く観察してみてください。

フケの量や質をチェック
洗髪後や朝起きた時、黒い布などを肩にかけて頭を軽く振ってみて、フケがどの程度落ちるか確認します。フケが細かいか、乾燥しているか、量が多いかなどがポイントです。
頭皮を指で軽くこすった際に、白い粉のようなものがたくさん付着する場合も注意が必要です。
頭皮の色や乾燥具合の確認
健康な頭皮は青白い色をしていますが、炎症があると赤っぽくなったり、乾燥しているとカサカサして白っぽく見えたりします。髪をかき分けて、頭皮の色やうるおい具合を確認しましょう。
特に乾燥が進むと、頭皮が突っ張るような感覚があることもあります。
かゆみの程度と抜け毛の量の把握
日常的に頭皮にかゆみを感じるか、その程度はどうかを意識します。無意識に頭を掻いてしまうことが多い場合は要注意です。
また、シャンプー時の排水溝にたまる髪の毛の量や、枕につく抜け毛の量が以前より増えていないか確認しましょう。
セルフチェック項目リスト
チェック項目 | 確認するポイント | 専門医相談の目安 |
---|---|---|
フケの状態 | 乾燥した細かいフケが大量に出るか。肩や衣服に目立つか。 | 毎日フケが気になる、量が明らかに多い。 |
頭皮のかゆみ | 頻繁にかゆみを感じるか。我慢できないほどか。 | かゆみが続き、日常生活に支障が出る。 |
頭皮の色・状態 | 赤みがあるか。乾燥してカサカサしているか。 | 頭皮が広範囲に赤い、または乾燥がひどい。 |
抜け毛の量 | シャンプー時や起床時の抜け毛が以前より増えたか。 | 明らかに抜け毛が増え、髪のボリューム減を感じる。 |
頭皮の感覚 | ヒリヒリ感や突っ張り感があるか。 | 不快な感覚が 지속的にある。 |
セルフチェックで早期発見・早期対策
上記のチェック項目に複数当てはまる場合や、症状が改善しない場合は、粃糠性脱毛症の可能性があります。
自己判断で間違ったケアを続けると症状を悪化させることもあるため、早めに皮膚科などの専門医に相談することが大切です。
専門医(皮膚科)への相談タイミング
セルフケアを1~2週間続けてもフケやかゆみ、抜け毛の症状が改善しない場合、または症状が悪化している場合は、皮膚科を受診しましょう。
専門医は頭皮の状態を正確に診断し、適切な治療法やケア方法を指導してくれます。早期の対策が、健康な頭皮と髪を取り戻すための鍵となります。
なぜ起こる?粃糠性脱毛症の主な原因と進行
粃糠性脱毛症は、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症します。主な原因を理解することで、より効果的な予防や対策、治療に繋げることができます。
粃糠性脱毛症を引き起こす内的要因

体質やホルモンバランスなど、体の内部環境の変化が頭皮に影響を与えることがあります。
ホルモンバランスの乱れと皮脂分泌
ストレスや生活習慣の乱れなどによりホルモンバランスが崩れると、皮脂の分泌量が変化し、頭皮の乾燥や逆に過剰な皮脂によるトラブルを招くことがあります。
特に男性ホルモンは皮脂腺の活動に関与しており、バランスが崩れると頭皮環境が悪化しやすくなります。
免疫力の低下と頭皮環境
睡眠不足や栄養の偏り、過度なストレスなどによって体の免疫力が低下すると、頭皮のバリア機能も弱まります。
これにより、普段は問題を起こさない常在菌(マラセチア菌など)が異常繁殖しやすくなり、炎症やかゆみを引き起こす原因となることがあります。
外的要因と生活習慣の影響
日々の生活習慣や誤ったヘアケアが、頭皮に大きな負担をかけている場合があります。
不適切なシャンプーやヘアケア
洗浄力の強すぎるシャンプーの使用、すすぎ残し、熱すぎるお湯での洗髪、ドライヤーの熱風を長時間あてるなどの行為は、頭皮の必要な皮脂まで奪い去り、乾燥を招きます。
また、爪を立ててゴシゴシ洗うことも頭皮を傷つけ、炎症の原因となります。自分に合わないシャンプーを使い続けることも、頭皮トラブルの一因です。
頭皮の乾燥を招く生活習慣
エアコンの効いた乾燥した室内環境、紫外線の浴びすぎ、不規則な生活、睡眠不足、栄養バランスの偏った食事などは、全身の乾燥を引き起こし、頭皮の乾燥にも繋がります。
特に冬場の乾燥した空気は注意が必要です。
マラセチア菌の増殖と炎症
マラセチア菌は誰の頭皮にも存在する常在菌(カビの一種)ですが、皮脂を栄養源として増殖します。
頭皮環境が悪化し、皮脂バランスが崩れたり、免疫力が低下したりすると、このマラセチア菌が異常に増殖し、その代謝物が頭皮を刺激して炎症やかゆみ、フケを引き起こすことがあります。
これが粃糠性脱毛症の悪化に関与するケースも少なくありません。
粃糠性脱毛症の主な原因
要因の分類 | 主な原因 | 頭皮への影響 |
---|---|---|
内的要因 | ホルモンバランスの乱れ | 皮脂分泌の変化、頭皮の乾燥または過剰な皮脂。 |
免疫力の低下 | 頭皮バリア機能の低下、常在菌の異常繁殖。 | |
外的要因 | 不適切なシャンプー・ヘアケア | 頭皮の乾燥、刺激、炎症。 |
生活習慣の乱れ | 頭皮の乾燥、栄養不足、血行不良。 | |
マラセチア菌の増殖 | 炎症、かゆみ、フケの悪化。 |
症状悪化のサイクル
粃糠性脱毛症は、一度発症すると悪循環に陥りやすい特徴があります。
フケが毛穴を塞ぎ炎症を悪化させる流れ
大量のフケが毛穴の出口を塞ぐと、皮脂がスムーズに排出されず、毛穴内部で炎症が起こりやすくなります。
また、剥がれ落ちたフケや角質が頭皮表面に蓄積すると、それを栄養源として雑菌がさらに繁殖し、炎症やかゆみが悪化。この炎症が毛根にダメージを与え、抜け毛を促進します。
抜け毛が進行する原因
頭皮の炎症が続くと、毛母細胞の活動が抑制され、髪の毛の成長期が短縮されたり、休止期が長引いたりします。
これにより、髪の毛が十分に成長する前に抜け落ちてしまったり、新しい髪が生えにくくなったりして、結果として抜け毛が進行し、薄毛が目立つようになります。
皮膚科での検査方法と診断の流れ
粃糠性脱毛症の疑いがある場合、自己判断せずに皮膚科を受診することが大切です。専門医は、詳細な問診や視診、必要に応じた検査を通じて正確な診断を行い、適切な治療法を提案します。
専門医による問診と視診

診断の第一歩は、医師による丁寧な問診と視診です。
症状や生活習慣のヒアリング
いつからどのような症状(フケ、かゆみ、抜け毛など)があるか、症状の程度や変化、既往歴、家族歴、現在使用しているシャンプーやヘアケア製品、食生活や睡眠などの生活習慣、ストレスの状況などについて詳しく聞かれます。
これらの情報は診断の手がかりとなります。
頭皮の状態を詳細に観察
医師が直接、頭皮全体のフケの量や質、色、乾燥具合、赤みや炎症の有無、毛穴の状態、抜け毛のパターンなどを目で見て確認します。
ダーモスコピー(拡大鏡)などを用いて、より詳細に頭皮を観察することもあります。
必要に応じて行われる検査
問診や視診だけでは診断が難しい場合や、他の疾患との鑑別のために、以下のような検査を行うことがあります。
マイクロスコープでの頭皮チェック
高倍率のカメラ(マイクロスコープ)を使って、頭皮や毛穴、毛髪の状態をより詳しく観察します。
肉眼では見えない毛穴の詰まり具合や炎症の程度、皮脂の量、毛髪の太さや密度などを評価し、診断の補助とします。
真菌検査(マラセチア菌の確認など)
マラセチア菌などの真菌の関与が疑われる場合、頭皮からフケや角質を少量採取し、顕微鏡で観察したり培養したりして真菌の有無や種類を確認します。
これにより、抗真菌薬治療の必要性を判断します。
血液検査で全身状態を把握
甲状腺機能異常や栄養障害(鉄欠乏など)といった全身性の疾患が脱毛の原因となることもあるため、必要に応じて血液検査を行い、全身状態に問題がないかを確認することがあります。
皮膚科での主な検査内容
検査名 | 目的 | 主な内容 |
---|---|---|
問診 | 症状、生活習慣、既往歴などの情報収集 | 医師からの質問に回答する形式。 |
視診・触診 | 頭皮や毛髪の状態を直接観察 | フケ、赤み、炎症、毛髪の密度などを確認。 |
マイクロスコープ検査 | 頭皮や毛穴を拡大して詳細に観察 | 毛穴の詰まり、皮脂量、炎症の程度などを評価。 |
真菌検査 | マラセチア菌などの真菌の有無を確認 | フケや角質を採取し顕微鏡で観察または培養。 |
血液検査 | 全身疾患や栄養状態の確認(必要に応じて) | 貧血、甲状腺機能、栄養状態などをチェック。 |
診断確定と治療方針の決定
これらの問診、視診、検査結果を総合的に判断し、医師が粃糠性脱毛症であるかどうか、またその重症度を診断します。
検査結果に基づく総合的な判断
診断が確定したら、医師は患者さん一人ひとりの症状や原因、ライフスタイルに合わせて、最適な治療方針を決定します。
治療の目標や期間、期待できる効果、副作用の可能性などについても説明がありますので、疑問点があれば遠慮なく質問しましょう。
患者に合わせた治療計画
治療計画には、薬物療法(外用薬や内服薬)、シャンプーなどのヘアケア指導、生活習慣の改善アドバイスなどが含まれます。医師とよく相談し、納得した上で治療を開始することが、改善への近道です。
改善するには?粃糠性脱毛症の治療法と期待できる効果
粃糠性脱毛症の治療は、原因となっている頭皮の炎症や乾燥を抑え、マラセチア菌などの増殖を抑制し、頭皮環境を正常化することを目指します。
皮膚科では、症状や原因に応じた様々な治療法が選択されます。
皮膚科で行われる主な治療

医師の診断に基づき、以下のような治療法が単独または組み合わせて行われます。
抗真菌薬の外用・内服治療
マラセチア菌の増殖が確認された場合や、その関与が強く疑われる場合には、抗真菌成分(ケトコナゾール、ミコナゾールなど)を含むローションやクリーム、シャンプーなどが処方されます。
これらの外用薬は、頭皮に直接塗布または使用することで、マラセチア菌の増殖を抑え、フケやかゆみ、炎症を改善します。
症状が重い場合や広範囲に及ぶ場合には、内服の抗真菌薬が用いられることもあります。
ステロイド外用薬による炎症抑制
頭皮の炎症やかゆみが強い場合には、炎症を抑える効果のあるステロイド外用薬(ローションや軟膏)が処方されます。
ステロイドは効果が高い反面、長期間の使用や誤った使い方をすると副作用のリスクもあるため、必ず医師の指示に従って適切な期間・量を使用することが重要です。
症状が改善してきたら、徐々に使用量を減らしていくのが一般的です。
頭皮環境を整える保湿ケア指導
頭皮の乾燥が主な原因である場合や、治療によって乾燥が進む可能性がある場合には、保湿剤(ヘパリン類似物質含有ローションなど)が処方されることがあります。
また、刺激の少ないシャンプーの選び方や正しい洗髪方法、ドライヤーの使い方など、頭皮の乾燥を防ぎ、うるおいを保つための具体的なケア方法について指導を受けます。
- 抗ヒスタミン薬の内服(かゆみが強い場合)
- ビタミン剤の内服(頭皮の新陳代謝を促す目的)
粃糠性脱毛症の主な治療法
治療法 | 主な内容 | 期待できる改善 |
---|---|---|
抗真菌薬(外用・内服) | マラセチア菌の増殖抑制。ケトコナゾール配合シャンプーやローションなど。 | フケ、かゆみ、炎症の軽減。 |
ステロイド外用薬 | 頭皮の炎症やかゆみを強力に抑制。ローションや軟膏。 | 強い炎症や赤み、かゆみの速やかな改善。 |
保湿剤・保湿ケア指導 | 頭皮の乾燥を防ぎ、バリア機能を高める。ヘパリン類似物質など。 | 乾燥によるフケ、かゆみの改善。頭皮のうるおい回復。 |
抗ヒスタミン薬(内服) | 強いかゆみを抑える。 | かゆみによる掻き壊しの防止、睡眠改善。 |
生活習慣・ヘアケア指導 | シャンプー方法、食事、睡眠などの改善アドバイス。 | 根本的な頭皮環境の改善、再発予防。 |
治療期間と効果の目安
治療効果が現れるまでの期間や、治療全体の期間は、症状の重症度や原因、治療法、個人の体質などによって異なります。
症状改善までの一般的な期間
適切な治療を開始すれば、多くの場合、数週間から1~2ヶ月程度でフケやかゆみ、炎症といった自覚症状の改善が見られることが多いです。
ただし、抜け毛の改善や健康な髪が生え揃うまでには、髪の成長サイクル(数ヶ月~数年)を考慮すると、より長い期間が必要となる場合があります。
治療継続の重要性と根気強いケア
症状が少し良くなったからといって自己判断で治療を中断してしまうと、再発したり、かえって悪化したりすることがあります。医師の指示通りに根気強く治療を続けることが大切です。
また、治療と並行して、日々の正しい頭皮ケアや生活習慣の改善を継続することで、治療効果を高め、再発しにくい頭皮環境を作ることができます。
クリニックでの専門的な頭皮ケア
皮膚科によっては、通常の薬物治療に加えて、より専門的な頭皮ケアや育毛治療を提供している場合もあります。
薬用シャンプーの選択と使用法
医師は、患者さんの頭皮の状態(乾燥肌、脂性肌、敏感肌など)や症状に合わせて、市販の薬用シャンプーの中から適切なものを推奨したり、医療機関専売のシャンプーを処方したりすることがあります。
抗真菌成分や抗炎症成分、保湿成分などが配合されたシャンプーを正しく使用することで、日常的な頭皮ケアをサポートします。
頭皮クレンジングや保湿治療
一部のクリニックでは、毛穴に詰まった古い皮脂や角質を専門的な技術で除去する頭皮クレンジングや、高濃度の保湿成分を頭皮に導入するトリートメントなどを行っているところもあります。
これらの施術は、薬物治療の効果を高めたり、頭皮環境の改善を早めたりする目的で行われますが、保険適用外となる場合が多いです。
日常生活で実践 – 粃糠性脱毛症を予防する7つの習慣

粃糠性脱毛症の治療効果を高め、再発を防ぐためには、日々の生活習慣を見直し、頭皮に良い環境を整えることが重要です。ここでは、今日から実践できる7つの予防習慣を紹介します。
頭皮を健やかに保つシャンプー習慣
毎日のシャンプーは、頭皮ケアの基本です。正しい方法で行うことで、頭皮トラブルのリスクを減らすことができます。
自分に合ったシャンプーの選び方
自分の頭皮タイプ(乾燥肌、脂性肌、敏感肌など)に合ったシャンプーを選びましょう。
粃糠性脱毛症の傾向がある場合は、アミノ酸系などのマイルドな洗浄成分で、保湿成分が配合された低刺激性のシャンプーがおすすめです。
フケやかゆみが気になる場合は、抗真菌成分(ミコナゾール硝酸塩など)や抗炎症成分(グリチルリチン酸ジカリウムなど)が配合された薬用シャンプーも選択肢の一つですが、医師に相談して選ぶとより安心です。
正しい洗髪方法と乾燥対策
洗髪は1日1回を目安に、ぬるま湯(38℃程度)で行います。シャンプー前にはブラッシングで髪のほこりや絡まりを取り、お湯で十分に予洗いします。
シャンプーは手のひらでよく泡立ててから、指の腹を使って頭皮をマッサージするように優しく洗い、爪を立てないように注意します。

すすぎはシャンプー剤が残らないよう、時間をかけて丁寧に行いましょう。洗髪後は、タオルで優しく水分を拭き取り、ドライヤーで頭皮から乾かします。
ドライヤーの熱風を長時間同じ箇所にあてないようにし、頭皮から20cm程度離して使用するのがポイントです。
正しいシャンプーの手順
- シャンプー前にブラッシングで髪のもつれを解く。
- ぬるま湯で頭皮と髪を十分に予洗いする。
- シャンプーを適量手に取り、よく泡立てる。
- 指の腹で頭皮をマッサージするように優しく洗う。
- すすぎ残しがないよう、時間をかけて丁寧に洗い流す。
- タオルで優しく押さえるように水分を取る。
- ドライヤーで頭皮を中心に、根本から乾かす(温風と冷風を使い分けるのも良い)。
食生活で見直すべきポイント
健康な頭皮と髪は、バランスの取れた食事から作られます。
バランスの取れた食事と頭皮の栄養
髪の主成分であるタンパク質(肉、魚、大豆製品、卵など)はもちろん、頭皮の新陳代謝を促すビタミンB群(レバー、緑黄色野菜、ナッツ類など)、抗酸化作用のあるビタミンC・E(果物、野菜、ナッツ類など)、血行を促進する亜鉛(牡蠣、レバー、赤身肉など)などをバランス良く摂取することが大切です。
頭皮に良い栄養素と主な食材
栄養素 | 頭皮への働き | 多く含む食材例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の毛の主成分。 | 肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品 |
ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝促進、皮脂バランス調整。 | レバー、豚肉、マグロ、カツオ、納豆、緑黄色野菜 |
亜鉛 | 髪の成長促進、免疫力向上。 | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類、チーズ |
ビタミンC・E | 抗酸化作用、血行促進。 | 果物(柑橘類、キウイ)、野菜(パプリカ、ブロッコリー)、ナッツ類 |
刺激物や脂質の多い食事を控える
香辛料の多い刺激物や、動物性脂肪の多い食事、インスタント食品やスナック菓子などの摂りすぎは、皮脂の過剰な分泌を招いたり、頭皮の炎症を悪化させたりする可能性があります。
できるだけ控え、和食中心のバランスの取れた食事を心がけましょう。
質の高い睡眠とストレスケア
睡眠とストレスは、頭皮環境に大きな影響を与えます。
睡眠不足が頭皮に与える影響
睡眠中には成長ホルモンが分泌され、細胞の修復や再生が行われます。睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が減少し、頭皮の新陳代謝が悪化したり、免疫力が低下したりして、頭皮トラブルが起きやすくなります。
毎日6~8時間程度の質の高い睡眠を確保するよう努めましょう。
ストレスと頭皮トラブルの関係と対策
過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、血行不良やホルモンバランスの乱れを引き起こし、頭皮環境を悪化させる原因となります。
ストレスを完全に無くすことは難しいですが、自分なりのリフレッシュ方法(趣味、運動、瞑想など)を見つけて、上手にストレスをコントロールすることが大切です。
ストレス軽減のためのヒント
- 軽い運動(ウォーキング、ヨガなど)を習慣にする。
- 趣味の時間を確保する。
- ゆっくり入浴する(ぬるめのお湯でリラックス)。
- 十分な睡眠時間を確保する。
- 親しい友人や家族と話す。
頭皮マッサージと血行促進ケア
頭皮の血行を促進することは、毛根に栄養を届け、健康な髪の育成に繋がります。シャンプー時やリラックスタイムに、指の腹で頭皮全体を優しくマッサージしましょう。
ただし、炎症が強い時は刺激になるため控えてください。
適度な運動で血行促進
ウォーキングやジョギング、ストレッチなどの適度な運動は、全身の血行を良くし、頭皮への血流改善にも繋がります。無理のない範囲で、継続的に運動を取り入れることをおすすめします。
帽子の着用など紫外線対策
紫外線は頭皮を乾燥させ、炎症を引き起こす原因となります。特に日差しの強い季節や時間帯に外出する際は、帽子を着用したり、日傘を使用したりして、頭皮を紫外線から守りましょう。
ただし、帽子を長時間着用する場合は、蒸れに注意し、通気性の良いものを選びましょう。
定期的な頭皮チェックと早期ケア
セルフチェックを習慣にし、フケやかゆみ、赤みなどの初期症状に気づいたら、早めに適切なケアを開始することが重要です。症状が改善しない場合は、自己判断せずに皮膚科医に相談しましょう。
他の脱毛症との違いと見分け方

抜け毛や薄毛の原因となる脱毛症には、粃糠性脱毛症以外にも様々な種類があります。
代表的なものとの違いを理解しておくことで、自身の状態を把握する一助となりますが、最終的な診断は必ず専門医に委ねましょう。
AGA(男性型脱毛症)との比較
AGAは成人男性に最も多く見られる脱毛症で、遺伝や男性ホルモンの影響が主な原因です。
抜け毛のパターンと進行速度の違い
AGAは、主に前頭部(生え際)や頭頂部から薄毛が進行する特徴的なパターンを示します。進行は比較的ゆっくりですが、放置すると薄毛の範囲が広がります。
一方、粃糠性脱毛症は頭部全体にびまん性に抜け毛が起こることが多く、フケやかゆみ、炎症といった頭皮症状を伴う点が大きな違いです。
主な原因と治療法のアプローチ
AGAの主な原因は男性ホルモン(DHT)であり、治療はDHTの生成を抑える内服薬(フィナステリド、デュタステリド)や、毛母細胞を活性化させる外用薬(ミノキシジル)が中心です。
粃糠性脱毛症は頭皮環境の悪化が主な原因であり、治療は抗炎症薬や抗真菌薬、保湿ケア、シャンプー指導などが中心となります。
脂漏性脱毛症との違い
脂漏性脱毛症もフケや炎症を伴う脱毛症ですが、フケの質や頭皮の状態に違いが見られます。
フケの質(湿性か乾性か)
粃糠性脱毛症では、主に乾燥した細かいパラパラとしたフケ(乾性フケ)が特徴です。
一方、脂漏性脱毛症では、皮脂の過剰分泌により、黄色っぽく湿ったベタベタとしたフケ(湿性フケ)や、頭皮の強いベタつきが見られることが多いです。ただし、混合タイプも存在します。
頭皮のベタつきと炎症の違い
脂漏性脱毛症では、頭皮が脂っぽく、毛穴が詰まりやすい傾向があります。炎症も強く、赤みやニキビのようなものができることもあります。
粃糠性脱毛症でも炎症は起こりますが、主に乾燥がベースにある点が異なります。どちらもマラセチア菌の関与が指摘されています。
円形脱毛症との見分け方
円形脱毛症は、突然、円形または楕円形に毛が抜け落ちる疾患です。
脱毛範囲と形状の特徴
円形脱毛症は、境界が比較的はっきりとした円形・楕円形の脱毛斑が特徴で、1箇所だけでなく複数箇所にできることもあります。
脱毛部分の頭皮には、通常フケや明らかな炎症は見られません(ただし、かゆみを伴うことはあります)。粃糠性脱毛症は、びまん性に全体的に薄くなる傾向があり、明確な脱毛斑を作ることは少ないです。
自己免疫疾患との関連
円形脱毛症の主な原因は、免疫機能の異常により、自身の毛根組織を攻撃してしまう自己免疫反応と考えられています。アトピー素因や甲状腺疾患など、他の自己免疫疾患を合併することもあります。
粃糠性脱毛症は、主に頭皮環境の悪化が原因であり、自己免疫が直接的な原因ではありません。
主な脱毛症との比較
脱毛症の種類 | 主な症状・特徴 | 主な原因 |
---|---|---|
粃糠性脱毛症 | 大量の乾燥したフケ、強いかゆみ、頭皮の炎症、びまん性の抜け毛。 | 頭皮の乾燥、不適切なヘアケア、マラセチア菌、生活習慣の乱れなど。 |
AGA(男性型脱毛症) | 前頭部・頭頂部からの薄毛、ゆっくり進行。フケ・かゆみは少ない。 | 遺伝、男性ホルモン(DHT)。 |
脂漏性脱毛症 | 湿ったベタつくフケ、頭皮の強いベタつき、炎症、抜け毛。 | 皮脂の過剰分泌、マラセチア菌、ホルモンバランスなど。 |
円形脱毛症 | 円形・楕円形の脱毛斑、突然発症。通常フケ・炎症は伴わない。 | 自己免疫反応、ストレス、遺伝的素因など。 |
よくある質問
粃糠性脱毛症に関して、患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
「もしかして自分も粃糠性脱毛症かも?」と感じた方や、具体的な症状の確認、ご自身でできるチェック方法についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も合わせてご覧ください。
早期発見と適切なケアが、健やかな頭皮と髪を取り戻すための第一歩です。
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