放射線治療は、がん治療の有効な選択肢の一つですが、副作用として脱毛が起こることがあります。この脱毛は多くの患者さんにとって大きな悩みとなります。
この記事では、放射線治療による脱毛の原因や症状の時期、頭皮ケア、ウィッグや帽子などの対策、そして回復と発毛の過程について、男性の視点から詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
放射線治療による脱毛とは – 概要・基礎知識

放射線治療は、がん細胞を破壊するために高エネルギーの放射線を使用する治療法です。この治療は局所的な効果が高く、手術が困難な場合や、他の治療法と組み合わせて用いられます。
しかし、放射線はがん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を与える可能性があり、その一つとして脱毛が現れることがあります。特に頭頸部への照射では、髪の毛の脱毛が顕著になることがあります。
この脱毛は、治療の副作用として認識されていますが、その程度や範囲は個人差が大きいです。
放射線治療と脱毛の関係性

放射線が毛髪の成長に関わる毛母細胞にダメージを与えることで脱毛が引き起こされます。毛母細胞は細胞分裂が活発なため、放射線の影響を受けやすい性質を持っています。
治療計画に基づき、特定の部位に集中的に放射線が照射されるため、照射範囲内の毛髪が影響を受けます。
脱毛が起こる主な理由
放射線治療による脱毛の主な原因は、毛包(毛を作り出す皮膚の器官)内の毛母細胞が放射線によって損傷を受けることです。
毛母細胞は髪の成長サイクルにおいて重要な役割を担っており、これらの細胞がダメージを受けると、新しい髪の毛の生成が一時的または永続的に停止します。
放射線の総量や1回あたりの照射量、照射期間などが脱毛の程度に影響します。
他の治療法との違い
化学療法(抗がん剤治療)でも脱毛は起こりますが、放射線治療による脱毛とは異なる特徴があります。
化学療法では薬剤が全身に行き渡るため、全身の毛髪(髪の毛、眉毛、まつ毛、体毛など)が抜ける傾向があります。一方、放射線治療による脱毛は、原則として放射線が照射された部位に限定して起こります。
例えば、頭部に放射線治療を受けた場合は頭髪が、胸部であれば胸毛が影響を受ける可能性があります。
脱毛の一般的な特徴
放射線治療による脱毛は、治療開始後すぐには現れず、一定期間を経てから症状が出始めるのが一般的です。脱毛のパターンや回復の過程には個人差がありますが、いくつかの共通した特徴が見られます。
脱毛の範囲と程度
脱毛の範囲は、放射線が照射された頭皮の領域に限定されます。照射野の広さや形状によって、脱毛する部分も変わります。脱毛の程度は、照射される放射線の総線量に大きく左右されます。
一般的に、線量が多いほど脱毛の程度は重くなり、回復にも時間がかかるか、場合によっては永久脱毛となることもあります。頭皮の状態も脱毛の程度に影響を与えることがあります。
脱毛以外の副作用の可能性
放射線治療では、脱毛以外にも様々な副作用が現れる可能性があります。照射部位の皮膚に赤み、乾燥、かゆみ、痛みなどが生じる皮膚炎はよく見られる副作用です。
また、倦怠感や食欲不振といった全身的な症状が出ることもあります。これらの副作用の出現や程度も個人差が大きいため、治療担当医とよく相談し、適切なケアを行うことが大切です。
なぜ髪が抜けるのか – 知っておきたい症状の特徴
放射線治療を受けると、なぜ髪が抜けるのでしょうか。その症状の特徴を理解することは、適切な対策や心の準備につながります。脱毛が始まる時期や期間、具体的な症状について詳しく見ていきましょう。
脱毛が始まる時期と期間

放射線治療による脱毛は、治療開始から数週間後に始まることが一般的です。脱毛の期間は、治療内容や個人の体質によって異なります。
治療開始から脱毛までの目安
多くの場合、放射線治療を開始してから2~3週間程度で脱毛の兆候が見られ始めます。最初は少しずつ抜け始め、徐々にその量が増えていく傾向があります。
脱毛が始まる正確な時期は、放射線の総線量、1回あたりの線量、照射スケジュール、そして個人の毛周期などによって変動します。いつから脱毛が始まるかについては、事前に医師から説明があるでしょう。
脱毛が続く期間
脱毛は、放射線治療が終了するまで、あるいは終了後しばらく続くことがあります。治療期間中に大部分の髪が抜けることもあれば、治療終了後に徐々に進行する場合もあります。
脱毛が落ち着くまでの期間も個人差が大きいです。
脱毛の具体的な症状

脱毛の症状は、単に髪が抜けるだけでなく、頭皮にも変化が現れることがあります。これらの症状を早期に把握し、適切なケアを行うことが重要です。
初期に見られる頭皮の変化
脱毛が始まる前や初期には、頭皮に赤み、かゆみ、ヒリヒリ感、乾燥などの症状が現れることがあります。これは放射線による皮膚炎の一種です。
頭皮が敏感になっているため、刺激の少ないケアを心がける必要があります。頭皮の状態を観察し、変化があれば早めに医師や看護師に相談しましょう。
髪質の変化と抜け方
残っている髪の毛や、新たに生えてくる髪の毛の質感が変わることがあります。例えば、髪が細くなったり、以前よりも乾燥しやすくなったりすることが報告されています。
抜け方としては、シャンプー時やブラッシング時にまとまって抜けたり、枕に多くの抜け毛が付着したりすることで気づくことが多いです。
自分でできる脱毛の進行度セルフチェック方法

放射線治療による脱毛の進行度を自分で把握することは、不安の軽減や早期の対策につながります。日常生活の中で気づくサインや、頭皮の状態を観察する方法を知っておきましょう。
日常で気づく脱毛のサイン
普段の生活の中で、抜け毛の量や状態に注意を払うことで、脱毛の進行に気づくことができます。
シャンプー時の抜け毛の量
毎日のシャンプーは、抜け毛の量を確認しやすい機会です。排水溝に溜まる髪の毛の量が普段よりも明らかに増えてきたら、脱毛が進行しているサインかもしれません。
ただし、過度に神経質になる必要はありません。優しく洗髪し、頭皮への刺激を避けることが大切です。
枕や衣類につく抜け毛
朝起きたときに枕についている抜け毛の量や、日中に肩や衣類に落ちる抜け毛が増えてきた場合も、脱毛が進行している可能性があります。
特に色の濃い枕カバーや衣類を使用すると、抜け毛の量を確認しやすくなります。
頭皮の状態を確認する
抜け毛だけでなく、頭皮自体の状態変化も脱毛の進行度を知る手がかりになります。
頭皮の赤みやかゆみ
放射線の影響で頭皮が炎症を起こし、赤みやかゆみ、乾燥、ひりつきといった症状が出ることがあります。これらの症状は脱毛の前兆となることもありますし、脱毛と同時に進行することもあります。
頭皮を清潔に保ち、保湿を心がけることがケアの基本です。
毛穴の状態変化
脱毛が進行すると、毛穴が目立たなくなったり、逆に炎症によって毛穴が赤く見えたりすることがあります。鏡を使って頭皮全体を観察し、変化がないか定期的に確認しましょう。
脱毛進行度セルフチェックのポイント
チェック項目 | 確認ポイント | 考えられる状態・対策 |
---|---|---|
シャンプー時の抜け毛 | 排水溝に溜まる量が以前より明らかに増えたか | 脱毛初期~進行中の可能性。優しく洗い、刺激を避ける。 |
枕や衣類の抜け毛 | 朝、枕に付着する毛が増えたか。日中、肩に落ちる毛が増えたか。 | 脱毛が進行しているサイン。記録しておくと医師への相談時に役立つ。 |
頭皮の色 | 赤みが出ていないか、部分的に変色していないか。 | 炎症の可能性。刺激の少ないケア、必要なら医師に相談。 |
頭皮の感覚 | かゆみ、ヒリヒリ感、乾燥、つっぱり感はないか。 | 頭皮が敏感になっている状態。保湿ケアを心がける。 |
髪の質感 | 髪が細くなった、切れやすくなった、パサつくなど。 | 毛髪へのダメージの現れ。トリートメントなどで保護。 |
これらのセルフチェックはあくまで目安です。気になる症状がある場合は、自己判断せずに必ず医師や看護師に相談してください。
放射線が毛根に与える影響 – 脱毛が起こる原因
放射線治療による脱毛は、放射線が毛髪を作り出す毛根部分、特に毛母細胞に直接的なダメージを与えることが主な原因です。この影響の現れ方は、放射線の種類や量、個人の体質によって異なります。
細胞レベルでの変化

放射線は細胞のDNAに損傷を与え、細胞分裂を阻害する作用があります。毛母細胞は活発に分裂を繰り返して髪の毛を成長させるため、この放射線の影響を特に受けやすいのです。
毛母細胞へのダメージ
毛母細胞が放射線によってダメージを受けると、正常な細胞分裂ができなくなり、髪の毛の成長が停止します。
ダメージの程度が軽ければ一時的な成長停止で済み、後に回復することもありますが、ダメージが大きい場合は毛母細胞が死滅し、永久的な脱毛に至ることもあります。これが脱毛の直接的な原因です。
放射線の種類と線量の影響
使用される放射線の種類(X線、ガンマ線、電子線など)や、照射される総線量、1回あたりの線量、照射の頻度などが、毛母細胞へのダメージの大きさを左右します。
一般的に、総線量が多いほど、また1回あたりの線量が大きいほど、脱毛のリスクは高まり、症状も重くなる傾向があります。治療計画を立てる際には、これらの要素が考慮されます。
脱毛の可逆性と不可逆性
放射線治療による脱毛が一時的なもの(可逆的)か、永続的なもの(不可逆的)かは、患者さんにとって大きな関心事です。これは主に毛母細胞が受けたダメージの程度によって決まります。
一時的な脱毛と永久脱毛の違い
比較的低い線量の放射線治療の場合、毛母細胞はダメージを受けても完全に破壊されず、機能が一時的に停止するだけにとどまることがあります。
この場合、治療終了後、数ヶ月から半年程度で毛母細胞の機能が回復し、再び髪の毛が生え始めます。これを一時的な脱毛(可逆的脱毛)と呼びます。
一方、高い線量の放射線が照射された場合や、感受性の高い方では、毛母細胞が完全に破壊されてしまい、毛髪の再生能力が失われることがあります。
これが永久脱毛(不可逆的脱毛)です。回復の見込みについては、治療前に医師から説明があります。
照射部位による影響の違い
頭皮の中でも、部位によって毛包の密度や深さが異なるため、放射線の影響の受けやすさに若干の違いが出ることがあります。
また、頭頸部のがん治療などでは、唾液腺や甲状腺など他の組織への影響も考慮しながら照射範囲が決定されるため、脱毛のパターンもそれに応じて変わります。
放射線の毛根への影響度合い
影響因子 | 毛根(毛母細胞)への作用 | 結果として現れる脱毛 |
---|---|---|
放射線の総線量 | 線量が多いほど細胞ダメージ大 | 高線量では永久脱毛のリスク増 |
1回あたりの照射線量 | 1回線量が多いほど細胞修復が困難 | 脱毛の程度が強くなる傾向 |
個人の感受性 | 毛周期、毛包の深さなど | 同じ線量でも脱毛の程度に差 |
照射範囲 | 照射された範囲の毛母細胞が影響 | 範囲に応じた部分的な脱毛 |
医師に相談する前に – 必要な検査と診断の流れ

放射線治療による脱毛について不安や疑問がある場合、まずは主治医や放射線治療医、看護師などの医療専門家に相談することが第一歩です。
適切な情報を得て、納得のいく形で治療に臨むために、相談前の準備や診断の流れを把握しておきましょう。
医療機関での初期相談
治療が始まる前、あるいは脱毛の兆候が見られた時点で、積極的に医療スタッフに相談しましょう。患者さんからの質問や懸念を伝えることで、医療者側もよりパーソナルなケアを提供しやすくなります。
伝えるべき情報と質問事項
医師に相談する際には、現在の自覚症状(頭皮のかゆみ、抜け毛の量など)、脱毛に関する不安や希望(ウィッグの使用を考えている、仕事への影響が心配など)、過去の脱毛経験などを具体的に伝えると、より的確なアドバイスが得られます。
また、脱毛の時期や期間、予想される範囲、ケア方法、回復の見込みなど、疑問に思うことは遠慮なく質問しましょう。
精神的なサポートの重要性
脱毛は外見の変化を伴うため、精神的な負担を感じる方も少なくありません。不安や落ち込み、ストレスなどを感じている場合は、その気持ちも正直に伝えましょう。
必要に応じて、心理カウンセラーや医療ソーシャルワーカーなどの専門家を紹介してもらえることもあります。精神的な安定は、治療効果やQOL(生活の質)の維持にもつながります。
脱毛に関する診断
医師は、患者さんの状態や治療計画に基づいて、脱毛の状況を評価し、必要なアドバイスや処置を行います。
視診と問診
まず、頭皮の状態(赤み、乾燥、湿疹の有無など)や脱毛の範囲、程度を直接観察する視診が行われます。併せて、自覚症状や生活状況、これまでの治療経過などを詳しく聞く問診が行われます。
これらの情報から、現在の脱毛の状況を把握します。
必要に応じた追加検査
通常、放射線治療による脱毛の診断に追加の特別な検査が必要になることは稀です。
しかし、脱毛の原因が放射線治療以外にも考えられる場合や、皮膚炎の症状が重い場合などには、皮膚科医による診察や、場合によっては皮膚生検などの検査が行われることもあります。
医師への相談タイミングとポイント
相談タイミング | 伝えるべきこと・準備 | 主な質問例 |
---|---|---|
治療開始前 | 脱毛への不安、仕事や生活への影響、過去の脱毛経験。 | 「いつから脱毛が始まりますか?」「どの程度抜けますか?」「予防策はありますか?」 |
脱毛開始時 | 具体的な症状(抜け毛の量、頭皮の状態)、精神的な変化。 | 「この抜け方は普通ですか?」「頭皮ケアはどうすれば良いですか?」「ウィッグはいつから使うべきですか?」 |
治療中・治療後 | 脱毛の進行状況、ケア方法の確認、発毛に関する疑問。 | 「いつ頃から生え始めますか?」「元の髪質に戻りますか?」「育毛剤は使っても良いですか?」 |
髪を守る – 治療中・治療後のケア方法
放射線治療中および治療後の適切な頭皮ケアは、不快な症状を和らげ、頭皮環境を健やかに保ち、将来的な発毛をサポートするために非常に重要です。
脱毛が始まってからも、諦めずに丁寧なケアを続けましょう。
治療中の頭皮ケア
治療中の頭皮は非常にデリケートになっています。刺激を避け、清潔と保湿を基本としたケアを心がけます。
低刺激シャンプーの選び方と使い方

シャンプーは、アミノ酸系などの低刺激性で、無香料・無着色のものを選びましょう。洗浄力が強すぎるシャンプーは、頭皮の必要な皮脂まで奪い、乾燥やかゆみを悪化させる可能性があります。
洗髪時は、爪を立てず指の腹で優しくマッサージするように洗い、ぬるま湯で十分にすすぎます。シャンプーの頻度は、頭皮の状態や医師の指示に従ってください。
毎日洗う必要はなく、1日おきなどでも良い場合があります。
頭皮マッサージの可否と注意点
頭皮マッサージは血行を促進する効果が期待できますが、放射線治療中のデリケートな頭皮には刺激が強すぎる場合があります。
マッサージを行う場合は、必ず医師に相談し、許可を得てから、ごく軽い力で優しく行うようにしましょう。炎症や痛みがある場合は避けてください。
脱毛時の対策
脱毛が進行してきたら、外見の変化に対応するための対策を考えましょう。ウィッグや帽子は、プライバシーを守り、精神的な負担を軽減するのに役立ちます。
ウィッグの選び方と種類
男性用ウィッグには、全頭用、部分用(トップピースなど)があり、髪質も人毛、人工毛、ミックス毛など様々です。自分の髪色や髪質、ライフスタイルに合ったものを選びましょう。
通気性が良く、頭皮に優しい素材でできたベース(ネット部分)のウィッグがおすすめです。購入前に試着し、フィット感や見た目の自然さを確認することが大切です。
医療用ウィッグを専門に扱う店舗では、専門のスタイリストが相談に乗ってくれます。
帽子の活用法と素材選び
帽子は手軽に取り入れられる脱毛対策です。室内用、外出用など、シーンに合わせていくつか用意しておくと便利です。
素材は、頭皮への刺激が少ないコットン、シルク、竹繊維などの天然素材や、肌触りの良い医療用のものが適しています。夏場は通気性の良いもの、冬場は保温性のあるものを選ぶと快適に過ごせます。
眉毛が抜けてしまった場合は、つばの広い帽子で顔の印象をカバーすることもできます。
眉毛脱毛への対応
放射線治療の部位によっては、髪の毛だけでなく眉毛やまつ毛も抜けることがあります。眉毛が薄くなったり抜けたりすると、顔の印象が大きく変わることがあります。
対策としては、眉ペンシルやパウダーで描く、眉毛用のテンプレートを使用する、あるいはアートメイク(医療機関で行うもの)を検討する方法があります。アートメイクは治療前に相談が必要です。
治療中の頭皮ケア製品の選び方
製品タイプ | 選び方のポイント | 使用時の注意点 |
---|---|---|
シャンプー | 低刺激性(アミノ酸系など)、無香料、無着色、弱酸性 | 泡立てて優しく洗い、よくすすぐ。爪を立てない。 |
保湿剤(ローション・クリーム) | 頭皮用、低刺激性、無香料、無着色、セラミドなど保湿成分配合 | 清潔な頭皮に優しく塗布。擦り込まない。 |
日焼け止め(頭皮用) | SPF30・PA++程度、紫外線吸収剤不使用(ノンケミカル)推奨 | 外出時は帽子と併用。帰宅後は優しく洗い流す。 |
頭皮に優しい帽子の素材例
- コットン(綿):吸湿性、通気性に優れ、肌触りが良い。
- シルク(絹):滑らかで肌への摩擦が少ない。保湿性もある。
- 竹繊維(バンブー):抗菌性、消臭効果が期待でき、ソフトな肌触り。
- オーガニック素材:化学的な処理を極力抑えた素材。
治療後の頭皮ケアと発毛促進
治療が終了し、脱毛が落ち着いてきたら、次は発毛を促すためのケアが始まります。引き続き頭皮を健やかに保ち、髪の毛が再生しやすい環境を整えることが重要です。
発毛を促す生活習慣
バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動は、全身の健康状態を良好に保ち、発毛にも良い影響を与えます。
特に、髪の主成分であるタンパク質や、毛髪の成長に必要なビタミン、ミネラル(亜鉛など)を積極的に摂取しましょう。ストレスを溜めないことも大切です。
育毛剤や発毛剤の使用について
育毛剤や発毛剤の使用を考える場合は、まず医師に相談してください。放射線治療後の頭皮はデリケートなため、市販の製品が刺激になることもあります。
医師の指導のもと、適切な製品を選び、使用時期や方法を守ることが大切です。ミノキシジル配合の発毛剤などが選択肢となることもありますが、効果や副作用については個人差があります。
脱毛を最小限に – 予防のためのポイント

放射線治療による脱毛を完全に防ぐことは難しいのが現状ですが、いくつかの対策や心がけによって、脱毛の程度を軽減したり、頭皮へのダメージを最小限に抑えたりすることが期待できます。
治療前から意識して取り組みましょう。
放射線治療前の準備
治療が始まる前から頭皮環境を整え、脱毛に対する知識を得ておくことが、予防への第一歩となります。
頭皮冷却療法の可能性と限界
頭皮冷却療法は、放射線照射中およびその前後に頭皮を冷却することで血流を減少させ、毛母細胞への放射線の影響を低減させることを目的とした方法です。
一部の化学療法による脱毛予防には有効性が示されていますが、放射線治療における効果や適応は限定的であり、実施している施設も限られています。
また、がんの種類や治療部位によっては適用できない場合もあります。興味がある場合は、治療担当医に相談してみましょう。
予防効果には個人差があり、完全に脱毛を防げるわけではないことを理解しておく必要があります。
栄養バランスの重要性
健康な髪の毛を育むためには、バランスの取れた栄養摂取が基本です。
特に、髪の主成分であるタンパク質、細胞の成長を助ける亜鉛、ビタミン類(ビタミンB群、C、Eなど)を日頃から十分に摂取するよう心がけましょう。
治療前から体力と栄養状態を良好に保つことが、副作用の軽減にもつながります。
治療中の心がけ
治療期間中は、頭皮への物理的な刺激を極力避け、心身のストレスを軽減することが大切です。
物理的刺激を避ける
頭皮への摩擦や圧迫は、脱毛を助長したり、炎症を悪化させたりする可能性があります。ブラッシングは毛先から優しく行い、目の粗いブラシやコームを使用しましょう。
パーマやヘアカラー、ドライヤーの熱風の当てすぎなども避けてください。就寝時は、摩擦の少ないシルクやコットンの枕カバーを選ぶのも良いでしょう。
ストレス管理とリラックス法
ストレスは血行を悪化させ、頭皮環境にも悪影響を与える可能性があります。治療中は不安やストレスを感じやすい時期ですが、自分なりのリラックス法を見つけて、心穏やかに過ごすよう努めましょう。
趣味の時間を持つ、軽い運動をする、瞑想や深呼吸を取り入れるなどが有効です。必要であれば専門家のサポートも活用しましょう。
脱毛リスクを低減するための取り組み
対策・心がけ | 期待できること | 具体的な行動例 |
---|---|---|
頭皮冷却(医師相談の上) | 毛母細胞へのダメージ軽減の可能性 | 実施施設での相談、指示に従う |
栄養バランスの良い食事 | 毛髪の材料供給、頭皮環境の維持 | タンパク質、ビタミン、ミネラルを意識した食事 |
頭皮への物理的刺激を避ける | 摩擦や圧迫によるダメージ軽減 | 優しい洗髪、目の粗いブラシ、パーマ・カラーを避ける |
ストレス管理 | 血行促進、免疫力維持 | リラックス法の実践、十分な睡眠、適度な運動 |
いつ生えてくる?回復までの期間と経過
放射線治療による脱毛後、髪の毛がいつから、どのように回復してくるのかは、患者さんにとって最も気になることの一つです。
回復の時期や経過には個人差がありますが、一般的な目安を知っておくことで、希望を持って待つことができます。
発毛が始まる時期の目安
多くの場合、放射線治療が終了してから数ヶ月で発毛の兆しが見え始めます。
治療終了後の変化
一般的に、放射線治療終了後2~4ヶ月程度で、うぶ毛のような細く柔らかい毛が生え始めることが多いです。
いつから生え始めるかは、受けた放射線の総線量、治療期間、個人の体質や年齢、頭皮の状態などによって大きく異なります。焦らずに、頭皮ケアを続けながら待つことが大切です。
個人差と影響する要因
発毛の時期や速度には大きな個人差があります。影響する要因としては、前述の放射線量や治療内容に加え、栄養状態、全身の健康状態、ストレスの有無などが挙げられます。
また、高齢の方や元々髪が薄かった方は、回復に時間がかかったり、元の状態まで完全には戻らなかったりすることもあります。
発毛の段階と髪質の変化
髪の毛は一度に元の状態に戻るわけではなく、段階を経て回復していきます。生えてくる髪の質感が以前と異なることもあります。
うぶ毛からの再生
最初に生えてくるのは、細くて色素の薄いうぶ毛であることが多いです。これらの毛は徐々に太く、色も濃くなっていき、しっかりとした髪の毛へと成長していきます。
この発毛の初期段階では、頭皮が透けて見えることもありますが、焦らずに見守りましょう。
元の髪質に戻るまでの期間
うぶ毛が生えそろってから、元の髪の太さや密度、髪質に戻るまでには、さらに数ヶ月から1年以上かかることもあります。
治療後に生えてくる髪が、以前よりも細くなったり、くせ毛になったり、色が薄くなったりといった変化が見られることも珍しくありません。
多くの場合、時間が経つにつれて徐々に元の髪質に近づいていきますが、完全に元通りにならないこともあります。回復の期間は長くかかることを理解しておきましょう。
発毛の一般的なタイムライン

期間(治療終了後) | 髪と頭皮の状態 | 推奨されるケア |
---|---|---|
直後~1ヶ月 | 頭皮は敏感な状態。脱毛が続くことも。 | 引き続き低刺激ケア。保湿を重視。 |
2~4ヶ月 | うぶ毛が生え始める。頭皮のかゆみが出ることも。 | 優しい洗髪。頭皮マッサージは医師相談の上。 |
4~6ヶ月 | うぶ毛が徐々にしっかりしてくる。 | バランスの取れた食事。育毛剤等は医師相談。 |
6ヶ月~1年以降 | 髪の毛が伸び、密度が増してくる。髪質の変化が見られることも。 | 継続的な頭皮ケア。必要に応じてヘアカット。 |
発毛をサポートする栄養素の例
- タンパク質(肉、魚、大豆製品、卵など):髪の主成分。
- 亜鉛(牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類など):細胞分裂やタンパク質の合成に必要。
- ビタミンB群(緑黄色野菜、魚介類、肉類など):頭皮環境を整え、代謝を助ける。
- ビタミンC(果物、野菜など):コラーゲン生成を助け、頭皮の健康を保つ。
- 鉄分(レバー、赤身肉、ほうれん草など):毛母細胞への酸素供給に役立つ。
眉毛やその他の体毛の回復
放射線治療が頭部以外に行われた場合や、化学療法を併用した場合などには、眉毛やその他の体毛も影響を受けることがあります。
眉毛の発毛について
眉毛が抜けた場合も、髪の毛と同様に治療終了後数ヶ月で再生し始めることが多いです。ただし、髪の毛よりも回復が遅い場合や、元の濃さに戻らないこともあります。
眉毛のケアとしては、刺激を避け、保湿を心がけることが基本です。発毛を促す専用の美容液などもありますが、使用前に医師に相談しましょう。
他の部位の毛の回復
胸毛や腕の毛など、照射部位によっては他の体毛も脱毛することがあります。これらの体毛も、多くは治療終了後に再生しますが、回復の程度やスピードは部位や個人によって異なります。
よくある質問
放射線治療による脱毛に関して、患者さんから寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。不安や疑問の解消にお役立てください。
脱毛ケア用品の選択肢
アイテム | 主なメリット | 選ぶ際のポイント・注意点 |
---|---|---|
医療用ウィッグ | 自然な見た目、通気性、フィット感 | 素材(人毛、人工毛、ミックス)、ベースの種類、試着して選ぶ、専門店の利用 |
帽子・キャップ | 手軽、多様なデザイン、頭皮保護 | 素材(コットン、シルクなど低刺激性)、通気性、サイズ感、季節に合わせる |
スカーフ・バンダナ | アレンジ自由、おしゃれ、軽量 | 素材(肌触りの良いもの)、巻き方のアレンジ、ずれにくさ |
頭皮用保湿剤 | 乾燥予防、かゆみ軽減 | 低刺激性、無香料、無着色、セラミドなど保湿成分配合 |
放射線治療と脱毛に関する相談先
相談できる相手 | 主な相談内容 | ポイント |
---|---|---|
主治医・放射線治療医 | 脱毛の医学的予測、副作用全般、治療計画 | 治療に関する最も正確な情報源。 |
看護師(がん専門看護師など) | 具体的な頭皮ケア方法、ウィッグ・帽子の情報、精神的サポート | 日常生活に近い視点でのアドバイス。 |
薬剤師 | 処方された塗り薬の使い方、副作用のある薬剤について | 薬の専門家。 |
医療ソーシャルワーカー | 経済的な問題、心理的サポート、社会資源の紹介 | 生活全般の困りごと相談。 |
がん相談支援センター | 治療や療養に関する情報提供、相談 | 各がん診療連携拠点病院などに設置。 |
上記以外にも、患者会やサポートグループなどで同じ経験を持つ方々と情報を交換することも、精神的な支えになることがあります。一人で抱え込まず、様々なサポートを活用しましょう。
この記事では放射線治療による脱毛の概要や原因、対策について解説しました。
ご自身の脱毛がどの程度進行しているのか、具体的な症状と照らし合わせて確認したい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
より詳しいセルフチェック方法や、症状に応じた初期対応について解説しています。
Reference
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