自毛植毛手術を終えた直後から数週間の過ごし方は、移植した髪が定着するかどうかの将来を決定づける極めて重要な時間です。
手術が成功しても、その後の自己管理を怠ると移植株(グラフト)が生着せずに期待した発毛効果を得られない可能性があります。
特に麻酔が切れた直後の痛みへの対処や洗髪時の力加減、睡眠時の姿勢など、日常生活における細かな配慮が必要です。この期間を正しく乗り越えることが、理想のヘアスタイルを手に入れるための鍵となります。
この記事では、手術当日からダウンタイムが明けるまでの具体的な行動指針と注意点を網羅的に解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
植毛手術当日から翌日までの身体の状態と変化
手術当日から翌日にかけては身体が手術による侵襲から回復しようとする反応が最も強く出る時期であり、安静を保つことが回復への近道です。
麻酔の効果が切れるとともに痛みを感じ始めたり、浸出液が見られたりしますが、これらは正常な身体の反応である場合がほとんどです。
まずは焦らず、処方された薬を指示通りに服用し、頭部を冷却するなどの対策を講じることで不快な症状を緩和できます。
局所麻酔が切れた後の痛みや違和感への対処
手術中は局所麻酔が効いているため痛みを感じることはありませんが、手術終了後数時間で麻酔の効果が薄れるにつれて、後頭部の採取部や移植部に鈍痛やジンジンとした痛みを感じることがあります。
多くのクリニックでは鎮痛剤が処方されるため、痛みが強くなる前に服用を開始することが大切です。我慢してストレスを感じると血圧が上がり、患部からの出血を誘発する恐れがあります。
また、後頭部のドナー採取部分はFUE法であれば小さな傷が無数にあり、FUT法であれば線状の傷がある状態です。
枕に頭をつける際に圧迫感やヒリヒリとした痛みを感じる場合がありますが、清潔なタオルを枕に敷き、頭を高くして寝ることで頭部への血流を穏やかにし、痛みを軽減できます。
痛みは通常、翌日には大幅に改善しますが、数日間は違和感が続くこともあります。
頭部の腫れやまぶたへの影響と経過
植毛手術では移植株を植え込むために生理食塩水を含む麻酔液を頭皮に注入します。この水分が重力によって下がり、額やまぶたに腫れを生じさせることがあります。
特に生え際への植毛を行った場合、手術直後から翌々日にかけてお岩さんのようにまぶたが腫れ上がり、目が開けにくくなるケースも珍しくありません。
腫れは見た目に驚くかもしれませんが、一過性の症状であり、通常は術後3日から1週間程度で自然に引いていきます。腫れを早く引かせるためには保冷剤をタオルで巻き、額や目の周りを冷やすことが有効です。
ただし、移植した部位を直接冷やすと定着を妨げる可能性があるため、移植部以外を冷やすように注意してください。
水分代謝を促すため、水分を多く摂り、排尿を促すことも腫れの軽減に役立ちます。
患部からの出血や浸出液の管理方法
手術直後の頭皮は非常にデリケートな状態にあり、移植ホールや採取部から少量の出血や、透明または薄い赤色の浸出液が出ることがあります。
これは傷が治ろうとする過程で発生するものであり、過度な心配は不要です。クリニックから支給される吸収性の高いシートやタオルを枕に敷いて就寝し、寝具が汚れるのを防ぎます。
もし出血が気になっても、患部をこすったり強く押さえたりしてはいけません。清潔なガーゼで優しく押さえる程度にとどめ、自然に止血するのを待ちます。
血流が良くなりすぎると出血が止まりにくくなるため、当日は入浴や激しい運動を避け、静かに過ごすことが重要です。
手術直後の主な症状と目安期間
| 症状の種類 | 発生のピーク | 症状が落ち着く目安 |
|---|---|---|
| 後頭部の痛み | 手術当日の夜 | 術後2日~3日 |
| 額やまぶたの腫れ | 術後2日~3日 | 術後1週間前後 |
| 患部からの出血 | 手術直後~当日夜 | 術後翌日 |
| 頭皮の赤み | 術後3日~4日 | 術後2週間~1ヶ月 |
移植した株(グラフト)の定着率を高めるための絶対条件
移植した株が生着するかどうかは術後2週間、特に最初の48時間の過ごし方でほぼ決まると言っても過言ではありません。
この期間にグラフトに物理的な力が加わると、毛根が定着する前に抜け落ちてしまうリスクがあります。
定着率を最大化するためには、患部に一切触れないこと、そして血流を安定させることが何よりも重要です。
定着に最も重要な術後48時間の過ごし方
移植されたばかりのグラフトは単に頭皮に置かれているような不安定な状態です。皮膚組織と血管がつながり始めるまでには最低でも24時間から48時間を要します。
この間に指で触れたり、衣類が擦れたりするだけで、せっかく移植した株が脱落してしまいます。これを防ぐため、術後48時間は「頭皮に何も触れさせない」ことを徹底してください。
無意識のうちに頭を触ってしまう癖がある人は特に注意が必要です。また、頭部の内圧が上がるとグラフトが押し出される「ポッピング」という現象が起きることもあります。
重いものを持ち上げる、強くいきむ、頭を低くして靴紐を結ぶといった動作は避け、常に頭を心臓より高い位置に保つよう意識して生活を送ってください。
就寝時の姿勢と寝具の選び方
就寝中は無意識に寝返りを打ち、枕や布団に移植部をこすりつけてしまう危険性が高まります。これを防ぐためには仰向けで寝ることが基本となります。
特に後頭部の採取部を保護しつつ、移植部(特に生え際や頭頂部)が寝具に触れないようにするために、ネックピロー(首枕)の使用が非常に有効です。
ネックピローを使用することで頭の位置が固定され、寝返りを防止できます。また、普段よりも枕を高く設定することで頭部のうっ血を防ぎ、翌朝の顔の腫れを軽減する効果も期待できます。
横向きやうつ伏せ寝は移植部を圧迫する可能性が高いため、術後1週間は絶対に避けてください。少し窮屈に感じるかもしれませんが、一生ものの髪を守るための一時的な辛抱です。
物理的接触を避けるための服装や動作の注意
着替えの際に衣服が頭部に接触し、グラフトが引っかかって抜けてしまう事故は意外に多く発生します。
術後2週間程度はTシャツやトレーナーのような被り物(プルオーバータイプ)の服は避け、前開きのシャツやパーカー、カーディガンなどを着用してください。
脱ぎ着の際に頭を通さない服装を選ぶことで、物理的接触のリスクをゼロに近づけます。
また、車の乗り降りの際に天井に頭をぶつけたり、ドア枠に接触したりすることも要注意です。距離感がつかみにくい術後は普段以上に慎重な動作を心がけてください。
小さな子供やペットがいる家庭では、飛びつかれたり頭を触られたりしないよう、物理的な距離を保つ配慮も必要です。
洗髪と頭皮ケアの具体的な手順とタイミング
術後の頭皮を不潔にすると感染症のリスクが高まりますが、洗い方を間違えるとグラフトの脱落に直結します。清潔を保つことと、患部を守ることのバランスを保ちながら洗髪を行う必要があります。
通常、術後翌日から洗髪が可能になりますが、指の腹でこするような通常の洗髪方法は厳禁です。
手術翌日から開始する洗髪の方法
多くのクリニックでは、手術翌日の診察後から洗髪の許可が出ます。
最初の1週間はシャンプーを直接頭皮につけて泡立てるのではなく、あらかじめ洗面器や泡立てネットで作ったきめ細かい泡を、移植部に「乗せるだけ」の洗髪を行います。
指でこすったり、マッサージをしたりしてはいけません。泡の力だけで汚れを浮き上がらせるイメージです。
すすぎの際もシャワーの水流を直接患部に当てるのは危険です。弱めの水流を手で受け止めてから優しく流すか、手桶にお湯を溜めてゆっくりとかけるようにして泡を流します。
水圧と摩擦を徹底的に排除することが、この時期の洗髪における鉄則です。
採取部(後頭部)については、優しく撫でる程度であれば洗っても問題ない場合が多いですが、医師の指示に従ってください。
時期別の推奨される洗髪方法
| 時期 | 洗い方のポイント | シャワーの水圧 |
|---|---|---|
| 術後翌日~1週間 | 泡を乗せて放置し、汚れを浮かすのみ。接触厳禁。 | 直接当てない。手桶を使用するか弱流水を手で受ける。 |
| 術後8日~2週間 | 指の腹で優しく撫でるように洗う。爪は立てない。 | 弱めの水流なら直接当てても可。 |
| 術後2週間以降 | 通常通りの洗髪に戻して良い。かさぶたを少しずつ落とす。 | 通常通りで問題なし。 |
シャワーの水圧や温度設定の重要性
熱すぎるお湯は血行を促進しすぎてしまい、出血やかゆみの原因となります。
洗髪時のお湯の温度は、体温に近い37度から38度程度のぬるま湯に設定してください。熱いお湯が好きな人も、傷口が塞がるまでは我慢が必要です。
水圧に関しては現代のシャワーヘッドは高水圧なものが多く、そのまま頭皮に当てると水圧だけでグラフトが吹き飛ぶ可能性があります。
必ず水勢を最弱にするか、シャワーヘッドに手を添えて勢いを殺してから頭皮にお湯を行き渡らせるようにします。
ミスト機能があるシャワーヘッドの場合は、ミストモードを使用するのも良い方法です。
ドライヤーの使用とタオルドライの技術
洗髪後の乾燥も重要な工程です。濡れたまま放置すると雑菌が繁殖しやすくなり、感染症のリスクを高めるだけでなく、不衛生な環境がかゆみを引き起こします。
まずは清潔なタオルで頭皮を押さえるようにして水分を吸い取ります。この時も、ゴシゴシと拭く動作は厳禁です。「拭く」のではなく「吸水する」意識で行います。
ドライヤーを使用する際は冷風または低温モードを使用し、頭皮から20センチ以上離して風を当てます。
温風を至近距離で当て続けると頭皮が乾燥しすぎてかゆみが増したり、熱によるダメージを与えたりする可能性があります。
完全に乾かすことよりも頭皮の表面の水分を飛ばすことを優先し、無理に乾燥させすぎないように注意してください。
日常生活における制限事項と再開の目安
植毛手術は日帰りで行える手術ですが、身体への負担は確実に存在します。また、日常生活の何気ない行動が移植部の定着を阻害する要因になり得ます。
特に血流を急激に変化させる行動は術後1週間程度は控える必要があります。
仕事や趣味などのライフスタイルに合わせて、制限事項を事前に把握し、スケジュールを調整することが成功への第一歩です。
飲酒や喫煙が及ぼす定着率への悪影響
アルコールは血管を拡張させ、血流を急激に良くする作用があります。術後すぐに飲酒をすると傷口からの出血が止まらなくなったり、腫れがひどくなったりする原因となります。
また、酔った勢いで頭をぶつけるなどの事故も懸念されます。最低でも術後3日間、できれば抜糸やカサブタが取れる1週間後までは禁酒することが望ましいです。
一方、タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、血流を悪化させます。
移植されたグラフトは毛細血管から酸素や栄養を受け取って生着するため、血流が悪くなると栄養が行き届かず、壊死してしまう可能性が高まります。
喫煙は定着率を著しく低下させる最大の要因の一つです。手術前後を含め、可能な限り禁煙を続けることが、高密度の発毛を実現するために必要です。
運動や筋力トレーニングの再開時期
激しい運動は血圧を上昇させ、頭部の血流を増加させるため、術後の出血やグラフトの脱落リスクを高めます。汗をかくことで頭皮が不衛生になり、細菌感染の原因にもなります。
術後1週間はウォーキングや軽い散歩程度にとどめ、心拍数が上がるような運動は避けてください。
筋力トレーニングやジョギングなどの本格的な運動は、術後2週間が経過し、グラフトが完全に定着してから再開するのが安全です。
特に水泳やサウナ、ホットヨガなど、高温多湿の環境や不特定多数が利用する施設での運動は感染症のリスクが高いため、術後1ヶ月程度は控えることを強く推奨します。
仕事復帰のタイミングと通勤時の注意点
デスクワーク中心の仕事であれば、体調に問題がなければ手術翌日から復帰することは物理的には可能です。
しかし、顔の腫れや痛み、精神的なストレスを考慮すると、2〜3日程度の休暇を取って自宅で安静に過ごすのが理想的です。
肉体労働やヘルメットを着用する仕事の場合は、移植部への圧迫や摩擦を避けるため、少なくとも1週間、できれば2週間程度の休業または配置転換を検討してください。
通勤時には、満員電車での人との接触が大きなリスクとなります。ラッシュ時を避けて通勤するか、人が密集する場所では患部を守る意識を強く持つ必要があります。
また、直射日光も頭皮への刺激となるため、日差しの強い日の外出には日傘を使用するなど、紫外線対策も忘れてはいけません。
行動制限の解除スケジュール
| 行動項目 | 制限の内容 | 再開可能時期(目安) |
|---|---|---|
| 飲酒 | 出血や腫れの悪化を防ぐため禁止 | 術後4日目以降(少量から) |
| 喫煙 | 血管収縮による生着率低下を防ぐため禁止 | 可能な限り禁煙(最低2週間) |
| 軽い運動 | 散歩やストレッチ程度 | 術後4日目以降 |
| 激しい運動 | 筋トレ、ランニングなど発汗を伴うもの | 術後2週間以降 |
| ヘアセット | 整髪料(ワックス・スプレー)の使用 | 術後2週間以降 |
見た目の変化とかさぶたの処理について
術後の頭皮には点状の赤い跡やかさぶたが形成されます。これらは治癒過程で必ず発生するものですが、見た目が気になるため、隠したいと考える人が大半です。
しかし、隠し方を間違えると植毛の成果を台無しにしてしまいます。また、かさぶたを無理に剥がす行為は、一緒に毛根まで抜いてしまう恐れがあるため、適切な時期まで自然に任せることが大切です。
かさぶたの形成から自然脱落までの流れ
手術後3日目あたりから、移植部や採取部にかさぶたができ始めます。これは傷口が塞がり、乾燥してきている証拠であり、順調な回復のサインです。
かさぶたができると頭皮が突っ張るような感覚やかゆみが生じることがありますが、爪で引っ掻いて無理に剥がそうとしてはいけません。
無理に剥がすと、生着しかけているグラフトが一緒にかさぶたにくっついて抜けてしまいます。かさぶたは、術後1週間から2週間かけて自然に剥がれ落ちていきます。
術後2週間を過ぎても残っているかさぶたについては指の腹で優しくマッサージするように洗髪することで、ふやかして徐々に取り除くことができます。
焦らず、自然のサイクルに合わせてケアを続けることが、綺麗な仕上がりにつながります。
帽子やウィッグを使用する際の選び方と注意点
術後の赤みやかさぶたを隠すために帽子を着用したい場合、選び方に細心の注意が必要です。締め付けの強いニット帽やキャップは移植部を圧迫し、摩擦を引き起こすため術後1週間は厳禁です。
推奨されるのは、サイズ調整が可能でゆったりとしたつばの広いバケットハットや、頭頂部に空間ができるタイプの帽子です。
これらをふわっと乗せるように被ることで、患部への接触を防ぎながら見た目をカバーできます。
ウィッグの使用に関しては、金具やテープが移植部に当たらないか確認が必要です。
部分的なウィッグ(ヘアシートなど)を既存の髪に取り付けるタイプであれば、手術直後から使用できる場合もありますが、通気性が悪くなると蒸れて細菌が繁殖しやすくなるため、長時間の着用は避けてください。
可能な限り、術後1週間は頭皮を開放した状態で過ごすことが望ましいです。
帽子選びのOKとNGリスト
- 【OK】大きめのバケットハット:頭皮に触れにくく、遮光性も高い。
- 【OK】緩めのメッシュキャップ:サイズ調整部分を最大にし、浮かすように被る。
- 【NG】ニット帽:全体的に締め付けが強く、脱ぐ際にグラフトが引っかかる。
- 【NG】ヘルメット:硬い素材が直接患部を圧迫し、蒸れの原因にもなる。
- 【NG】野球帽(ジャストサイズ):額やこめかみを締め付け、血流を阻害する。
- 【NG】タオルの直巻き:繊維がひっかかり、移植株が抜けるリスクが高い。
ショックロス(一時的脱毛)への心構え
術後1ヶ月から3ヶ月頃にかけて、移植した毛やその周辺の既存の毛が一時的に抜け落ちる「ショックロス」という現象が起こることがあります。
これは手術による炎症や麻酔の影響でヘアサイクルが一時的に休止期に入るために起こる生理現象です。
せっかく植えた髪が抜けてしまうため、失敗したのではないかと強い不安を感じる時期ですが、毛根自体は皮膚の下で生きています。
ショックロスは誰にでも起こる可能性があり、避けることは難しいですが、あくまで一時的なものです。
抜けた毛は術後4ヶ月から6ヶ月頃に再び生え始めます。「必ず生えてくる」と信じて、過度にストレスを抱え込まないことが大切です。
この時期に育毛剤や治療薬を適切に使用することで、回復を早めることも期待できます。
薬の服用とアフターケア用品の活用
手術後の痛みや感染症をコントロールし、発毛を促進するためには、薬の服用と適切なアフターケアが必要不可欠です。
自己判断で薬を中断したり、誤ったケア用品を使用したりすることはリスクを伴います。
クリニックから処方された薬の役割を理解し、正しいタイミングで使用することでダウンタイムを快適に過ごし、発毛効果を最大化させることができます。
抗生剤と痛み止めの正しい服用ルール
術後に処方される抗生剤(化膿止め)は、傷口からの細菌感染を防ぐための非常に重要な薬です。痛みがないからといって服用を中止せず、処方された分は必ず最後まで飲み切ってください。
途中でやめると耐性菌が発生したり、感染症を引き起こして移植部が化膿し、グラフトが生着しなくなる恐れがあります。
痛み止めについては、痛みが我慢できる範囲であれば無理に飲む必要はありません。しかし、痛みを我慢して眠れない、ストレスを感じるといった場合は、迷わず服用してください。
痛みが強くなる前に服用することで効果的に痛みをコントロールできます。胃への負担を減らすため、食後の服用が推奨される場合が多いです。
ミノキシジルやフィナステリドの再開について
AGA治療薬であるミノキシジル(内服・外用)やフィナステリド、デュタステリドを服用していた人は、術後の再開時期について医師の指示を仰ぐ必要があります。
一般的に内服薬(フィナステリドなど)は、手術翌日から服用を再開しても問題ないケースが大半です。これらは既存の髪の進行を抑えるために重要であり、継続的な服用が推奨されます。
一方で、外用薬(塗り薬)のミノキシジルについては注意が必要です。術後の頭皮は傷ついている状態であり、アルコール成分などを含む外用薬は強い刺激となります。
傷口が完全に塞がり、赤みが引く術後2週間から1ヶ月程度は使用を控えるように指示されることが一般的です。
焦って早期に使用を開始すると、かぶれや炎症の原因となり、逆効果になることがあります。
患部を冷やすことの効果と注意点
術後数日間は患部が熱を持ったり、腫れが出たりすることがあります。この時、頭部を冷やす(クーリング)ことは炎症を抑え、痛みや腫れを緩和するのに非常に有効です。
保冷剤をタオルで巻き、首筋や額、目の周りなどを冷やすと楽になります。
ただし、移植部(グラフトを植えた場所)を直接氷や保冷剤で冷やすことは避けてください。過度な冷却は血管を収縮させ、生着に必要な血液の供給を阻害してしまいます。
あくまで移植部以外の周辺部を冷やすことで間接的に炎症を抑えるのがポイントです。冷やす頻度は1時間に10分〜15分程度を目安にし、凍傷にならないよう注意してください。
クリニックへ連絡すべき緊急の症状
経過には個人差がありますが、通常の回復過程とは明らかに異なる症状が現れた場合は直ちにクリニックへ連絡し、専門医の判断を仰ぐことが重要です。
早期発見と対応が深刻なトラブルを防ぎます。遠慮や自己判断は禁物です。以下のような症状が見られた場合は、躊躇せず連絡してください。
持続的な出血や異常な腫れが見られる場合
手術当日から翌日にかけての少量の滲むような出血は正常ですが、ガーゼを押さえても血が止まらない、鮮血が流れ出るといった場合は異常事態です。
また、顔の腫れがひどすぎて目が全く開かない、首や喉の方まで腫れが広がって息苦しいといった場合も、アレルギー反応などの可能性があります。速やかに医師に相談してください。
感染症の兆候である膿や強い赤み
術後数日経過してから移植部や採取部から黄色や緑色の膿が出ている、異常な悪臭がする、患部の周りがドス黒く変色している、強い熱感と痛みが引かないといった症状は細菌感染を起こしている可能性が高いです。
放置すると移植した毛根が壊死し、定着しないばかりか、皮膚が壊死して痕が残る危険性があります。抗生剤の追加投与や処置が必要になるため、緊急の受診が必要です。
毛嚢炎(ニキビのような症状)の発生と対応
術後1ヶ月以降、新しい毛が生え始める時期に、移植部にニキビのような白いプツプツ(毛嚢炎)ができることがあります。
これは新しい毛が皮膚を突き破る際に炎症を起こすもので、1〜2個程度であれば自然に治ることが多いです。しかし、数多く発生したり、赤く大きく腫れ上がって痛みを伴ったりする場合は治療が必要です。
自分で潰すと雑菌が入り悪化するため、触らずにクリニックへ連絡してください。
植毛手術直後の注意点と過ごし方についてのよくある質問
- 手術当日はどのような服装で行けば良いですか?
-
手術当日は前開きの服(ボタン付きのシャツやパーカー、カーディガンなど)を着用して来院してください。
Tシャツやセーターなどの被り物は手術後の着替えの際に移植部に触れてしまい、グラフトが抜けるリスクが非常に高いため不向きです。
また、ゆったりとした服装の方がリラックスして手術を受けられます。
- 手術後の食事で気をつけることはありますか?
-
特に食べてはいけないものはありませんが、激辛料理などの刺激物は血行を促進しすぎて出血やかゆみの原因になる可能性があるため、術後数日は控えた方が無難です。
また、傷の治りを早めるために、タンパク質(肉、魚、大豆製品)やビタミン類(亜鉛、ビタミンCなど)を意識して摂取することをお勧めします。
- いつから整髪料(ワックスやスプレー)を使っても良いですか?
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移植したグラフトが完全に定着する術後2週間が経過するまでは、整髪料の使用は控えてください。
整髪料が頭皮に付着すると毛穴を詰まらせたり、洗い流す際に強い洗浄力が必要になったりして頭皮への負担となります。
2週間経過後も頭皮に直接つかないように毛先にのみ使用し、その日のうちに優しく洗い流すようにしてください。
- 手術直後にかゆみが強いのですが、かいても良いですか?
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かゆみは傷が治る過程で必ず起こる反応ですが、絶対にかいてはいけません。かくとグラフトが脱落したり、雑菌が入って感染症を起こしたりします。
どうしても我慢できない場合は保冷剤で患部周辺を冷やすか、クリニックに相談してかゆみ止めの薬を処方してもらってください。叩いたりつねったりするのも厳禁です。
- ヘアシートや増毛パウダーはいつから使えますか?
-
傷口に異物が入り込むのを防ぐため、術後1週間〜2週間は使用を控えるべきです。
特に増毛パウダー(ふりかけ)は、微粒子が移植ホールに入り込み、定着を阻害したり炎症(異物反応)を引き起こしたりするリスクが高いです。
どうしても使用したい場合はかさぶたが完全に取れ、頭皮の状態が安定した術後2週間以降に、医師の許可を得てから使用してください。
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