「お酒を飲むと、はげる」という噂を耳にして、日々の晩酌や飲み会に不安を感じていませんか。
適度な飲酒はストレス解消にもなりますが、過度な飲酒が髪の毛に悪影響を及ぼすのは事実です。しかし、なぜお酒が薄毛のリスクを高めるのか、その具体的な理由まで知っている方は少ないでしょう。
この記事では、アルコールが髪の成長に必要な栄養素を奪う仕組みから睡眠の質への影響、そしてAGAとの関係までを医学的な視点から詳しく解説します。
お酒との上手な付き合い方を学び、髪の健康を守りましょう。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
お酒が髪に与える5つの悪影響
アルコールが体内に入ると髪の毛の成長に様々な形で悪影響を及ぼす可能性があります。直接的な原因になるわけではありませんが、薄毛を助長する要因となり得ます。
髪の栄養素の大量消費
体内に摂取されたアルコールは肝臓でアセトアルデヒドという有害物質に分解され、さらに無害な酢酸に分解されます。
この分解の過程で、ビタミンB群や亜鉛といった髪の毛の成長に重要な栄養素が大量に消費されてしまいます。
睡眠の質の低下
お酒を飲むと寝つきが良くなるように感じますが、実際には深い眠りを妨げ、睡眠の質を大きく低下させます。
髪の成長を促す成長ホルモンは深い睡眠中に最も多く分泌されるため、睡眠の質の低下は髪の成長を妨げることにつながります。
血行不良の誘発
適度な飲酒は一時的に血行を良くしますが、飲み過ぎると逆効果です。
アルコールの分解過程で生じるアセトアルデヒドには血管を収縮させる作用があり、頭皮の血行不良を招きます。
これにより、髪の成長に必要な栄養や酸素が毛根に届きにくくなります。
アルコールによる髪への悪影響
影響 | 内容 | 髪へのダメージ |
---|---|---|
栄養素の消費 | アルコール分解でビタミン・亜鉛を消費 | 髪の材料不足 |
睡眠の質の低下 | 深い睡眠を妨げ、成長ホルモンの分泌を抑制 | 髪の成長・修復の阻害 |
血行不良 | アセトアルデヒドによる血管収縮 | 頭皮への栄養供給不足 |
アルコール分解で失われる髪の三大栄養素
アルコールを分解する過程で、特に髪の健康に重要な3つの栄養素が大量に失われます。意識的に補給することが大切です。
髪の合成を助ける「亜鉛」
亜鉛は髪の主成分であるケラチンというタンパク質を合成する際に重要な役割を果たします。
アルコールの分解過程で亜鉛は大量に消費されるため、慢性的に飲酒量が多い人は亜鉛不足に陥りやすい傾向があります。
亜鉛が不足すると、健康な髪を作ることができなくなります。
頭皮の代謝を促す「ビタミンB群」
ビタミンB群、特にビタミンB2やB6は頭皮の皮脂バランスを整え、新陳代謝を促す働きがあります。
これらもアルコールの分解で消費されるため、不足すると頭皮環境が悪化してフケやかゆみ、脂漏性皮膚炎などを引き起こす原因となります。
飲酒で不足しがちな栄養素と対策
栄養素 | 多く含む食品 | 上手な摂り方 |
---|---|---|
亜鉛 | 牡蠣、レバー、牛肉、チーズ | おつまみにチーズやナッツを選ぶ |
ビタミンB群 | 豚肉、うなぎ、レバー、枝豆 | おつまみに枝豆や冷奴を選ぶ |
アミノ酸(メチオニン) | 鶏肉、牛肉、マグロ、牛乳 | シジミの味噌汁を飲む |
髪の材料となる「アミノ酸」
アルコールを分解する過程では髪の材料でもあるアミノ酸も消費されます。特に必須アミノ酸の一種である「メチオニン」は、アルコールの分解を助ける働きがあるため、優先的に使われてしまいます。
メチオニンは髪の主成分ケラチンを構成する重要なアミノ酸であり、不足すると髪が細くなる原因となります。
お酒とAGA(男性型脱毛症)の直接的な関係
「お酒を飲むとAGAになる」というのは正確ではありません。しかし、過度な飲酒はAGAの進行を早める要因となり得ます。
飲酒が直接AGAを引き起こすわけではない
AGAの直接的な原因は遺伝的な体質と、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)の働きです。
アルコール自体がDHTを増やすという直接的な証拠はありません。したがって、「禁酒すればAGAが治る」ということはありません。
AGAの進行を加速させる間接的な要因
しかし、これまで述べてきたように、過度な飲酒は「栄養不足」「血行不良」「睡眠の質の低下」といった髪の成長を妨げる要因をいくつも作り出します。
これらはAGAを発症している人にとって、その進行を加速させる「追い打ち」となります。
AGAという素因がある人が不適切な飲酒習慣を続けることは、火に油を注ぐようなものなのです。
AGAと飲酒の関係性
項目 | 内容 |
---|---|
直接的な関係 | なし(飲酒がAGAの原因ではない) |
間接的な関係 | あり(栄養不足や血行不良がAGAの進行を助長する) |
AGA治療中の飲酒における注意点
AGA治療薬を服用している期間中の飲酒は特に注意が必要です。
アルコールは肝臓で分解されるため、同じく肝臓で代謝される治療薬の効果に影響を与えたり、肝臓への負担を増大させたりする可能性があります。
治療中の飲酒については必ず医師に相談し、その指示に従ってください。
「飲み会が多い自分」は、もう諦めるしかないのか
仕事の付き合いや友人との交流で、飲酒の機会をゼロにするのは難しい。そんな現実を前に、「自分の髪はもうダメだ」と諦めかけている方はいませんか。
しかし、諦める必要は全くありません。問題は「飲むか飲まないか」の二択ではなく、「どう飲むか」にあるのです。
「付き合いだから」という気持ちの裏側
「断れない」「場の空気を壊したくない」。そうした気持ちは社会人として当然の配慮です。
私たちは、あなたのそうした立場や気持ちを理解しています。だからこそ無理な禁酒を勧めるつもりはありません。
あなたのライフスタイルを尊重した上で、髪へのダメージを最小限に抑える方法を一緒に考えるのが私たちの役目です。
飲むことを「悪」と捉えない
飲酒に対して罪悪感を抱くと、それが新たなストレスとなり、かえって髪に悪影響を及ぼすこともあります。
大切なのはお酒を敵視するのではなく、自分の体と髪をいたわりながら上手に関わっていくという視点です。飲むときは楽しみ、飲まない日はしっかりと体を休ませる。そのメリハリが重要です。
変えるべきは「量」と「質」
もしあなたがこれまでの飲み方で髪への影響を感じているのなら、それは「飲み方を変えるべき」という体からのサインです。
量を減らす工夫、お酒やおつまみの種類を選ぶ工夫。今日からできる小さな変化の積み重ねが、5年後、10年後のあなたの髪を守ります。
諦める前にできることはたくさんあります。
- 飲む量を意識する
- おつまみを選ぶ
- 休肝日を設ける
- 水分補給を忘れない
髪へのリスクを減らすお酒との上手な付き合い方
少しの工夫で、お酒による髪へのダメージは軽減できます。具体的な方法を知り、実践してみましょう。
飲む前にできること
空腹状態での飲酒はアルコールの吸収を早め、肝臓への負担を大きくします。
飲む前には乳製品やタンパク質を含む軽い食事を摂っておくと、アルコールの吸収を穏やかにすることができます。
お酒の種類を選ぶ
醸造酒(ビール、日本酒、ワインなど)は糖質が多く、蒸留酒(ウイスキー、焼酎、ジンなど)は糖質が少ないという特徴があります。
糖質の摂りすぎは皮脂の過剰分泌につながるため、気になる方は蒸留酒を選ぶのが良いでしょう。
おつまみの選び方
おすすめのおつまみ | 含まれる主な栄養素 |
---|---|
枝豆、冷奴 | タンパク質、ビタミンB群 |
チーズ、ナッツ類 | タンパク質、亜鉛 |
海藻サラダ | ミネラル、食物繊維 |
一緒に摂りたいおつまみと水分
おつまみにはアルコールの分解で失われるビタミンやミネラル、タンパク質を補給できるものを選びましょう。
また、アルコールには利尿作用があるため、脱水症状を防いで血行を維持するために、お酒と同量以上の水を飲むことを心がけてください。
休肝日を設ける重要性
毎日お酒を飲む習慣がある方は肝臓を休ませる日を設けることが非常に重要です。
週に2日以上の休肝日を作り、肝機能を回復させることで栄養素の無駄遣いを防ぎ、体全体の健康、ひいては髪の健康を守ることにつながります。
飲酒習慣だけではない薄毛を加速させる要因
薄毛の原因は飲酒習慣だけではありません。他の生活習慣も複合的に影響しています。全体的な見直しが必要です。
喫煙による血行不良
喫煙はニコチンの作用で血管を強力に収縮させ、全身の血行を悪化させます。特に頭皮のような末端の毛細血管は影響を受けやすく、髪の成長に必要な栄養が届かなくなる大きな原因となります。
百害あって一利なし、髪のためには禁煙が望ましいです。
薄毛を加速させる三大生活習慣
習慣 | 髪への主な悪影響 |
---|---|
過度な飲酒 | 栄養不足、睡眠の質の低下 |
喫煙 | 強力な血行不良 |
栄養バランスの悪い食事 | 髪の材料不足、頭皮環境の悪化 |
栄養バランスの偏り
飲酒の有無にかかわらず、日常的な食事の栄養バランスが偏っていると髪は健康に育ちません。特に外食やコンビニ食が多い方は脂質や糖質過多、ビタミン・ミネラル不足に陥りがちです。
意識的に野菜やタンパク質を摂るようにしましょう。
生活習慣を改めても改善しないなら
飲酒量を減らし、生活習慣を全面的に見直しても抜け毛が減らない、薄毛が進行すると感じる場合はAGAが原因である可能性が非常に高いです。
セルフケアの限界
生活習慣の改善は、あくまで「髪が育ちやすい環境を整える」ためのものです。
AGAのように遺伝とホルモンが原因で進行する脱毛症そのものを、セルフケアだけで止めることはできません。
専門クリニックでの診断と治療
AGAは医療機関で適切な治療を受けることでその進行を食い止め、改善させることが可能な脱毛症です。
医師の診断のもと、科学的根拠のある治療薬(内服薬・外用薬)を用いることで、初めて根本的な解決が期待できます。
セルフケアと専門治療
アプローチ | 目的 | 限界 |
---|---|---|
セルフケア | 頭皮環境の改善(守り) | AGAの進行は止められない |
専門治療 | AGAの原因に直接作用(攻め) | 生活習慣の乱れは改善できない |
治療と生活習慣改善の相乗効果
最も効果的なのは、専門的な治療と生活習慣の改善を両立させることです。
治療でAGAの進行にブレーキをかけながら、生活習慣の改善で髪の成長を後押しする。この両輪がそろうことで治療効果は最大化されます。
よくある質問
最後に、お酒と薄毛に関して患者さんからよくいただく質問とその回答をまとめました。
- お酒の種類によって、はげやすさは変わりますか?
-
直接的な関係はありませんが、糖質を多く含む醸造酒(ビール、日本酒など)を大量に飲むと皮脂の過剰分泌につながり、頭皮環境を悪化させる可能性はあります。
飲む量や一緒に食べるものが重要です。
- ノンアルコールビールなら髪に影響はありませんか?
-
アルコールが含まれていないため、アルコールによる直接的な悪影響(栄養素の消費など)はありません。
ただし、糖質や添加物が含まれている製品もあるため、成分表示を確認して飲み過ぎには注意しましょう。
- AGA治療薬を飲んでいますが、お酒は全く飲めませんか?
-
必ず医師に相談してください。治療薬もアルコールも肝臓で代謝されるため、併用は肝臓に負担をかける可能性があります。
医師はあなたの健康状態を考慮した上で飲酒の可否や適量を判断します。自己判断での飲酒は絶対に避けてください。
- 休肝日を設ければ、他の日はたくさん飲んでもいいですか?
-
休肝日は非常に重要ですが、他の日に大量に飲む「チャンポン飲み」は血中のアルコール濃度を急激に上げて体に大きな負担をかけます。
休肝日を設けつつ、飲む日も「適量」を心がけることが髪と健康を守るための賢い飲み方です。
以上
参考文献
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