自律神経の乱れによる抜け毛への影響と改善策

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「最近、理由もなく抜け毛が増えた」「ストレスを感じると頭皮が硬くなる気がする」。その症状、もしかしたら自律神経の乱れが原因かもしれません。

現代社会の複雑なストレスは私たちが気づかないうちに心身のバランスを崩し、髪の健康にも影響を及ぼします。

この記事では自律神経と抜け毛の深い関係性を医学的な観点から解き明かし、乱れの原因からご自身でできる改善策、そして専門クリニックでの治療法までを詳しく解説します。

正しい知識を身につけ、健やかな髪を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

そもそも自律神経とは何か

自律神経は私たちの意思とは関係なく、身体の機能を24時間体制で自動的にコントロールしている神経です。

呼吸、体温、血圧、消化、代謝といった生命維持活動を常に調整しています。

この自律神経は、活動的な時に働く「交感神経」と、リラックスしている時に働く「副交感神経」の2種類から成り立っています。

活動を司る「交感神経」

交感神経は日中の活動時や、緊張・興奮した時に優位になります。心拍数を上げて血圧を上昇させ、身体をアクティブな状態にします。

仕事や運動に集中している時、あるいはストレスを感じている時には、交感神経が活発に働いています。

休息を司る「副交感神経」

副交感神経は夜間やリラックスしている時に優位になります。心拍数を落ち着かせ、身体を休息モードに切り替えます。

食事の後の消化活動を促したり、睡眠中に身体を回復させたりする重要な役割を担っています。

交感神経と副交感神経の働きの違い

項目交感神経(アクセル)副交感神経(ブレーキ)
血管収縮させる拡張させる
心拍数増加させる減少させる
消化機能抑制する促進する

二つの神経のバランスが重要

健康な状態では交感神経と副交感神経がシーソーのようにバランスを取りながら、状況に応じて切り替わっています。

しかし、強いストレスや不規則な生活が続くと、この切り替えがうまくいかなくなり、心身に様々な不調が現れます。これが「自律神経の乱れ」です。

自律神経の乱れが抜け毛を引き起こす理由

自律神経のバランスが崩れると、なぜ髪の毛にまで影響が及ぶのでしょうか。

その背景には、血行不良と頭皮環境の悪化という二つの大きな要因があります。

交感神経の過緊張による血行不良

ストレスが続くと交感神経が常に優位な状態になり、全身の血管が収縮します。特に頭皮の毛細血管は非常に細いため、この影響を受けやすいのです。

血流が悪化すると髪の毛の成長に必要な酸素や栄養素が毛根にある毛母細胞まで十分に届かなくなります。

この栄養不足が髪の毛が細くなったり、成長が止まって抜けたりする直接的な原因となります。

皮脂の過剰分泌と頭皮環境の悪化

交感神経が優位な状態は男性ホルモンの分泌を促すことがあります。

男性ホルモンは皮脂腺の働きを活発化させるため、皮脂が過剰に分泌されやすくなります。過剰な皮脂は毛穴を詰まらせ、酸化すると頭皮の炎症やかゆみを引き起こします。

このような頭皮環境の悪化は健康な髪が育つ土壌を損ない、抜け毛を助長します。

睡眠の質の低下と成長ホルモンの減少

自律神経が乱れると、「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」といった睡眠の問題が起こりやすくなります。

髪の成長に欠かせない成長ホルモンは深い眠りの間に最も多く分泌されます。

睡眠の質が低下すると、成長ホルモンの分泌が減少し、髪の修復や成長が十分に行われず、抜け毛につながります。

あなたの抜け毛も?自律神経の乱れのサイン

抜け毛以外にも、自律神経の乱れは身体の様々な部分にサインとして現れます。

もし抜け毛と共に以下のような症状に心当たりがあれば、自律神経のバランスが崩れているのかもしれません。

身体に現れる主な症状

身体的な症状は多岐にわたります。特定の病気ではないのに、なんとなく不調が続くのが特徴です。

  • 頭痛、肩こり、めまい
  • 動悸、息切れ
  • 胃腸の不調(便秘、下痢)
  • 寝つきが悪い、眠りが浅い

精神面に現れる主な症状

気分の浮き沈みが激しくなったり、理由もなく不安になったりすることも、自律神経の乱れが関係していることがあります。

自律神経の乱れによる精神的サイン

症状のタイプ具体的な状態
気分の変動イライラしやすい、急に落ち込む
意欲の低下何事にもやる気が出ない、集中力が続かない
不安感漠然とした不安を感じる、焦燥感がある

頭皮や髪に現れる変化

自律神経の乱れは頭皮環境にも直接的な変化をもたらします。

抜け毛だけでなく、以下のようなサインにも注意しましょう。

頭皮のチェックポイント

項目健康な状態注意が必要な状態
青白い赤い、茶色い、黄色い
硬さ弾力があり、動く硬く、突っ張っている
その他フケやかゆみがないフケやかゆみが気になる

抜け毛とストレスの悪循環に陥っていませんか?

多くの情報サイトはストレスが自律神経を乱し、抜け毛を引き起こすと解説しています。それは事実です。

しかし、私たちは日々の診療で、もう一つの深刻な問題に直面します。それは、「抜け毛そのものが新たなストレスとなり、さらに症状を悪化させる」という悪循環です。

鏡を見るたびに募る不安

朝、鏡を見ては髪のボリュームを確認し、ため息をつく。シャンプー後の排水溝にたまる髪の毛の量に愕然とする。

そんな毎日を送っていると、気持ちが休まる時がありません。

「このまま薄毛になってしまうのだろうか」という不安は常に交感神経を緊張させ、頭皮の血流をさらに悪化させます。

他人の視線が気になる恐怖

人と話している時、「相手が自分の頭頂部を見ているのではないか」と感じて会話に集中できなくなる。風が吹いて髪が乱れるのを極端に恐れる。

このような他人の視線への過剰な意識は、大きな精神的負担となります。

このことにより人との交流を避けがちになり、社会的な孤立感を深めてしまうことさえあります。

悪循環を断ち切るための第一歩

この負の連鎖を断ち切るために、まず大切なのは「一人で悩まないこと」です。抜け毛の原因が自律神経の乱れにあると知るだけでも、漠然とした不安は少し和らぎます。

そして専門家に相談することは心理的な負担を軽減し、客観的な視点から現状を把握する上で非常に重要です。

私たちはあなたの髪だけでなく、その背景にある心の悩みにも寄り添うことを大切にしています。

自律神経の乱れによる抜け毛とAGA(男性型脱毛症)の違い

抜け毛の症状が見られた時、それが自律神経の乱れによる一時的なものなのか、それとも進行性のAGA(男性型脱毛症)なのかを見分けることは、適切な対策を立てる上で重要です。

脱毛のパターンと範囲

最も分かりやすい違いは、髪の毛が抜ける場所です。自律神経の乱れによる抜け毛は、頭部全体から均等に抜ける「びまん性脱毛」であることが多いです。

一方、AGAは生え際や頭頂部など、特定の部位から薄毛が進行していくのが特徴です。

症状の比較

比較項目自律神経の乱れによる抜け毛AGA(男性型脱毛症)
脱毛範囲頭部全体生え際・頭頂部
進行速度急に増えることがあるゆっくりと進行する
抜け毛の質太い毛も細い毛も抜ける細く短い毛が抜けることが多い

他の身体症状の有無

自律神経の乱れが原因の場合、先述したような頭痛、めまい、不眠、胃腸の不調など抜け毛以外の身体症状を伴うことが多くあります。

AGAは基本的には脱毛以外の自覚症状はありません。全身のコンディションを振り返ることも、原因を見極めるヒントになります。

合併している可能性も考慮する

注意したいのは、これらが合併して起こるケースです。もともとAGAの素因がある方が強いストレスによって自律神経を乱し、抜け毛が一気に加速するということも少なくありません。

自己判断は難しいため、気になる場合は専門のクリニックで正確な診断を受けることを強く推奨します。

自律神経を整え、抜け毛を改善する生活習慣

自律神経のバランスを取り戻すには、日々の生活習慣を見直すことが基本となります。薬に頼る前に、まずはご自身でできることから始めてみましょう。

質の高い睡眠を確保する

睡眠は乱れた自律神経をリセットするための最も重要な時間です。就寝前にスマートフォンやパソコンの画面を見るのをやめ、リラックスできる環境を整えましょう。

毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる習慣をつけることも大切です。

バランスの取れた食事を心がける

規則正しい時間に食事をとることは、体内リズムを整える助けになります。髪の健康に良いとされる栄養素を意識的に摂取しましょう。

髪と自律神経に良い食生活のポイント

栄養素働き多く含む食品
トリプトファン精神を安定させるセロトニンの材料バナナ、乳製品、大豆製品
GABA興奮を鎮め、リラックスを促すトマト、発芽玄米
ビタミンB群神経の働きを正常に保つ豚肉、レバー、魚介類

適度な運動を取り入れる

ウォーキングやジョギングなどのリズミカルな有酸素運動は精神を安定させるセロトニンの分泌を促し、自律神経のバランスを整えるのに効果的です。

また、全身の血行が良くなることで、頭皮への血流改善も期待できます。無理のない範囲で継続することが重要です。

  • ウォーキング
  • 軽いジョギング
  • ヨガ・ストレッチ

専門クリニックで行う抜け毛へのアプローチ

セルフケアだけでは改善が見られない、あるいはAGAを合併している可能性がある場合は、専門のクリニックに相談しましょう。

医学的根拠に基づいた診断と治療で、抜け毛の悩みにアプローチします。

詳細なカウンセリングと頭皮診断

まず、医師があなたの生活習慣、ストレスの状況、抜け毛の経過などを詳しくヒアリングします。

その後マイクロスコープで頭皮の状態や毛根の様子を観察し、抜け毛の原因を正確に診断します。

この診断結果に基づいて、あなたに合った治療計画を立てていきます。

血行を促進する治療

自律神経の乱れによる抜け毛の主な原因は血行不良です。クリニックでは頭皮の血流を改善するための外用薬の処方や、有効成分を直接頭皮に届ける注入治療などを行います。

これらの治療は毛母細胞を活性化させ、発毛を促す効果が期待できます。

クリニックでの主な治療法

治療法期待できる効果
外用薬(ミノキシジルなど)頭皮の血行を促進し、発毛を促す
注入治療(メソセラピーなど)成長因子などを直接頭皮に届け、細胞を活性化させる
内服薬(AGA合併時)AGAの進行を抑制する

AGA治療薬の処方

診断の結果、AGAを合併していると判断された場合は進行を抑えるための内服薬を処方します。自律神経の乱れによる抜け毛とAGAの両方にアプローチすることで、より効果的な改善を目指します。

これらの薬は医師の処方が必要であり、市販の育毛剤とは作用が異なります。

自律神経と抜け毛に関するよくある質問

最後に、自律神経の乱れと抜け毛について患者さんから多く寄せられる質問にお答えします。

自律神経の乱れが治れば、髪は元に戻りますか?

はい、抜け毛の原因が自律神経の乱れだけであれば、生活習慣の改善などによってバランスが整うことで抜け毛は治まり、髪は再び生えてくる可能性が高いです。

ただし、毛周期の関係上、改善を実感できるまでには半年から1年程度の時間が必要です。

市販の育毛剤では効果がありませんか?

市販の育毛剤の多くは頭皮環境を整えたり、血行を促進したりする成分が含まれており、セルフケアの一環として有効な場合もあります。

しかし、AGAが合併している場合、その進行を止めることはできません。

効果が感じられない場合は原因が他にある可能性を考え、一度専門医の診断を受けることをおすすめします。

治療はすぐに始めるべきですか?

抜け毛が気になり始めたら、できるだけ早めに相談することが望ましいです。特にAGAを合併している場合、治療の開始が早いほど良好な結果を期待できます。

まずはご自身の状態を正確に知ることが重要ですので、カウンセリングだけでも受けてみることをお勧めします。

以上

参考文献

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