漢方薬を活用したAGA治療の可能性と期待できる作用

漢方薬を活用したAGA治療の可能性と期待できる作用

薄毛や抜け毛が気になり始め、「AGAかもしれない」と考えたとき、西洋医学の治療薬と並んで「漢方」という選択肢が頭に浮かぶ方もいらっしゃるでしょう。

しかし、漢方が薄毛、特にAGAに対してどのようなアプローチをするのか具体的な作用や可能性については、はっきりと分からないことも多いかもしれません。

この記事ではAGA治療における漢方薬の位置づけから、漢方が考える薄毛の原因、期待できる作用、そして代表的な漢方薬について詳しく解説します。

西洋医学との違いや漢方を取り入れる際の注意点も理解し、ご自身の体質に合った対策を考えるための一助としてください。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

AGA治療における漢方薬の位置づけ

AGA治療において漢方薬は西洋医学的な治療薬とは異なる視点から体質改善を目指し、薄毛の進行を内側からサポートする選択肢として考えられています。

AGAの直接的な原因に働きかける西洋薬とは異なり、体全体のバランスを整えることを目的とします。

西洋医学のAGA治療との違い

西洋医学によるAGA治療は、主にフィナステリドやデュタステリドといった5αリダクターゼ阻害薬を用いて抜け毛の原因となる男性ホルモン(DHT)の生成を抑制したり、ミノキシジルを用いて頭皮の血流を促進し発毛を促したりします。

これらは特定の原因に対して直接的に作用するのが特徴です。

一方、漢方薬は「髪は体の一部」という東洋医学の考えに基づきます。

薄毛や抜け毛を頭皮だけの問題ではなく、体全体の不調和(例えば、栄養不足、血行不良、ホルモンバランスの乱れなど)が髪に現れたサインとして捉えます。

そのため、治療は薄毛の直接的な原因だけでなく、その背景にある体質そのものの改善を目指します。

漢方薬が注目される背景

近年、AGA治療において漢方薬が注目される背景には、いくつかの理由があります。

一つは西洋薬の副作用に対する懸念です。AGA治療薬には性機能障害や肝機能障害などの副作用が稀に報告されています。

そうしたリスクを避けたいと考える方や、体質的に西洋薬が合わない方が、よりマイルドな作用を期待して漢方を選ぶことがあります。

また、西洋薬で効果が頭打ちになった場合や、治療薬を使いながらも体調全般を整えたいというニーズの高まりもあります。

薄毛だけでなく、冷え性、疲労感、肩こりなど日頃感じている他の不調も併せて改善したいと考える人にとって、全身のバランスを整える漢方のアプローチが魅力的に映るのです。

補完的な役割としての漢方

現在のAGA治療において、漢方薬は標準治療(西洋薬)を「補完する」役割として期待されることが多いです。

漢方薬だけでAGAの進行を完全に止めたり、劇的な発毛を実現したりすることは難しい場合もあります。

しかし、西洋薬で抜け毛の進行を抑えつつ、漢方薬で髪が育ちやすい土壌(=健康な頭皮と体)を整えるという、両者の「良いとこ取り」を目指す考え方です。

例えばAGA治療薬で頭皮の血流を促しつつ、漢方薬で体全体の血流を良くし、栄養の吸収を高めることで、相乗効果を狙うといった活用法が考えられます。

東洋医学における「薄毛」の捉え方

東洋医学では私たちの体は「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の3つの要素がバランスを取りながら循環することで健康が保たれていると考えます。

薄毛や抜け毛は、これらのバランスが崩れることによって起こると捉えます。

特に髪の健康と深く関わるとされるのが「血」と「腎(じん)」です。「髪は血の余り(血余)」という言葉があり、血が不足したり、流れが滞ったりすると、髪に十分な栄養が届かず薄毛になると考えます。

また、腎は生命エネルギーや成長・発育を司る臓器であり、「腎の華は髪にある」とされ、腎の機能が低下(腎虚)すると白髪や抜け毛が増えるとされています。

AGA治療における西洋医学と漢方薬の役割比較イメージ

漢方が考える薄毛の主な原因

漢方では薄毛や抜け毛は単に頭皮の問題ではなく、体内の不調和が髪に表れた結果として捉えます。

主に「気血両虚(きけつりょうきょ)」「腎虚(じんきょ)」「瘀血(おけつ)」などが、髪の健康を損なう主な原因として考えられています。

気血両虚(きけつりょうきょ)とは

「気血両虚」とは体を動かすエネルギー源である「気」と、体に栄養を運ぶ「血」の両方が不足している状態を指します。いわば、体全体がエネルギー不足・栄養不足に陥っている状態です。

この状態では、生命維持に直接関係のない髪の毛への栄養供給は後回しにされがちです。

その結果髪に十分な栄養が行き渡らず、髪が細くなったり、パサついたり、成長しきれずに抜け落ちたりする(薄毛)と考えます。

胃腸が弱く食が細い人や過度なダイエット、慢性的な疲労、病後・産後などで体力が消耗している人に見られやすい体質です。顔色が悪く疲れやすい、めまい、立ちくらみといった症状を伴うこともあります。

腎虚(じんきょ)とは

漢方における「腎」は、西洋医学の腎臓(Kidney)とは異なり、成長、発育、生殖、水分代謝、そして老化など人間の生命活動の根幹を担う幅広い機能を持つと考えられています。

「腎」のエネルギー(腎精)が充実していると、髪は黒くツヤがあり、しっかりとしています。

しかし、加齢や過労、睡眠不足、ストレスなどによって「腎」のエネルギーが消耗し、機能が低下した状態を「腎虚」と呼びます。

「腎虚」になると、髪の毛の成長や維持に必要なエネルギーが不足するため、白髪が増えたり、髪が抜けやすくなったり、髪にハリやコシがなくなったりします。

足腰のだるさ、耳鳴り、記憶力の低下、精力減退などの症状を伴うこともあります。

瘀血(おけつ)とは

「瘀血」とは、血の流れが滞り、スムーズに循環していない状態を指します。いわゆる「ドロドロ血」や血行不良の状態です。

血は全身に栄養と酸素を運ぶ役割を担っていますが、瘀血になると体の隅々まで栄養が届きにくくなります。特に頭皮は毛細血管が張り巡らされているため、「瘀血」の影響を受けやすい場所です。

頭皮の血流が悪くなると毛根にある毛母細胞が栄養不足や酸欠状態に陥り、正常な細胞分裂(=髪の成長)ができなくなります。これが抜け毛や薄毛、髪の成長が遅いといった問題につながると考えます。

肩こり、頭痛(特に刺すような痛み)、肌のくすみ、シミ、冷えのぼせなどの症状を伴うことが多いのが特徴です。

瘀血と頭皮環境

瘀血の状態が続くと、頭皮環境にも悪影響が出ます。血行不良により、頭皮が栄養不足で硬くなったり、色がくすんだり(青紫色っぽくなる)することがあります。

健康な髪は柔軟で血色の良い頭皮から育ちます。瘀血の改善は、健やかな頭皮環境を取り戻すためにも重要です。

代表的な証と体質

証(タイプ)主な原因見られやすい髪の状態
気血両虚エネルギーと栄養の不足(胃腸虚弱、疲労)細毛、軟毛、抜け毛、髪のパサつき、円形脱毛症
腎虚「腎」の機能低下(加齢、過労、睡眠不足)白髪、抜け毛、髪のツヤがない、髪が細る
瘀血血流の滞り(ストレス、冷え、運動不足)頭皮が硬い、抜け毛、髪の成長が遅い、頭皮のくすみ

これらは漢方が考える薄毛の主な原因タイプですが、実際には「疲れやすくて血行も悪い(気虚+瘀血)」、「加齢とともに栄養も不足している(腎虚+気血両虚)」など複数のタイプが複合しているケースも少なくありません。

だからこそ、専門家による「証」の見極めが大切になります。

漢方が考える薄毛の原因タイプ(気血両虚・腎虚・瘀血)のイメージ図

AGAや薄毛対策で期待される漢方薬の作用

AGAや薄毛対策として用いられる漢方薬には、主に血流を促進する作用、不足した「気」や「血」を補う作用、そして「腎」の機能を高める作用が期待されます。

これらは、前述した薄毛の原因となる体質の不調和(瘀血、気血両虚、腎虚)を改善するアプローチです。

血流促進による頭皮環境の改善

漢方薬の作用としてまず期待されるのが、血流の改善です。特に「瘀血」の状態を解消し、全身(もちろん頭皮も含む)の血の巡りを良くする作用を持つ漢方薬が用いられます。

頭皮の毛細血管の血流がスムーズになれば、髪の毛の成長に必要な酸素や栄養素が毛根の毛母細胞にしっかりと届けられるようになります。

これにより、毛母細胞の活動が活発になり、健康な髪の毛が育ちやすい頭皮環境を整えることを目指します。

西洋医学のミノキシジルが持つ血流促進作用と似ていますが、漢方は頭皮だけでなく体全体の血流を整える点に特徴があります。

補気・補血による毛髪への栄養補給

「気血両虚」の状態、つまりエネルギーと栄養が不足している体質に対しては、「気」を補う(補気)漢方薬や、「血」を補う(補血)漢方薬が用いられます。

「補気」の漢方薬は主に胃腸の働きを高め、食べたものから効率よく「気」と「血」を生み出せるようにサポートします。元気の源を作り出す力を高めるイメージです。

「補血」の漢方薬は血液そのものの質を高めたり、量を増やしたりするのを助けます。

これらにより、体全体がエネルギーと栄養で満たされ、その結果として髪の毛にも十分な栄養が行き渡るようになり、細く弱々しかった髪が太くハリのある髪に育つことを期待します。

補腎による髪の生命力の強化

加齢や慢性的な疲労によって「腎」の機能が低下している「腎虚」の状態に対しては、「腎」を補う(補腎)漢方薬が用いられます。

「腎」は髪の成長や健康(髪の黒さ、強さ)と深く関わっているため、「補腎」によって「腎」のエネルギーを補い、その機能を高めることは髪の根本的な生命力を強化することにつながると考えられています。

特に年齢とともに気になりだす薄毛や白髪の悩みに対して、アンチエイジング的なアプローチとして用いられることが多いです。

体の土台を強固にし、老化のスピードを緩やかにすることで、髪の健康を維持することを目指します。

薄毛の悩み(AGA・円形脱毛症)で使用される主な漢方薬

薄毛の悩みに用いられる漢方薬は、その人の体質や薄毛の原因とされる「証」に基づいて選ばれます。

そのため、薄毛にはこの漢方と一概に言えるものではありませんが、代表的なものには当帰芍薬散や桂枝茯苓丸、八味地黄丸などがあります。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

「当帰(とうき)」や「川芎(せんきゅう)」など、「血」を補いながら血行を促進する生薬を含む漢方薬です。

主に、体力があまりなく(虚弱体質)、冷え性で貧血傾向があり、めまいや立ちくらみ、むくみなどを伴う人(「気血両虚」や「水滞」)に用いられます。

全身の血行を良くし、栄養状態を改善することで頭皮環境を整え、薄毛や抜け毛の改善をサポートします。女性の更年期障害や月経不順などに使われることも多い漢方薬です。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

「桂皮(けいひ)」や「牡丹皮(ぼたんぴ)」、「桃仁(とうにん)」などを含み、「瘀血(おけつ)」、つまり血の滞りを改善する代表的な漢方薬です。

比較的体力はあり、のぼせやすい一方で足腰は冷える(冷えのぼせ)、肩こりや頭痛がある、肌がくすみやすいといった人の血行不良にアプローチします。

頭皮を含む全身の血流をスムーズにし、毛根への栄養供給を助けることで薄毛の改善を期待します。こちらも月経トラブルや子宮筋腫などに用いられることが多いです。

八味地黄丸(はちみじおうがん)

「地黄(じおう)」や「山茱萸(さんしゅゆ)」など、「腎」のエネルギーを補う生薬を中心に、体を温める生薬も配合された漢方薬です。

「腎虚」の改善に用いられる代表的な処方で、特に加齢に伴って体力が低下し、疲れやすい、足腰がだるい、頻尿、手足の冷えなどを感じる人の抜け毛や白髪、精力減退などに用いられます。

体を温める作用があるため、ほてりやのぼせが強い人には向かない場合があります。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

「人参(にんじん)」や「黄耆(おうぎ)」など、「気」を補う生薬を多く含む漢方薬です。名前の通り、「中(=胃腸)」の働きを「補」い、「気」を「益す(増やす)」ことを目的とします。

胃腸が弱く、食欲不振や軟便傾向があり、慢性的な疲労倦怠感、気力低下などを伴う人(気虚)の薄毛や抜け毛、病後の体力回復などに用いられます。

栄養の吸収能力を高め、体全体のエネルギーレベルを引き上げることで髪の健康を土台から支えます。

体質(証)別に見る主な漢方薬の例

証(タイプ)主な漢方薬期待される主な作用
気血両虚十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)気と血を強力に補い、全身の栄養状態を改善する
腎虚八味地黄丸(はちみじおうがん)、六味丸(ろくみがん)「腎」の機能を補い、加齢や疲労による衰えをケアする
瘀血桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)血流を改善し、滞りを解消し、頭皮に栄養を届ける

ここに挙げた漢方薬は、薄毛の悩みに用いられる可能性のあるものの一例にすぎません。実際にはこれらの漢方薬がその人の「証」に合っているかを判断することが最も重要です。

例えば同じ「腎虚」でも、冷えが強ければ「八味地黄丸」、ほてりが強ければ「六味丸」といったように使い分けが必要です。

自己判断での服用は効果が出ないばかりか、かえって体調を崩す原因にもなりかねません。

体質と証に合わせて薄毛治療の漢方薬を選ぶイメージ

漢方薬をAGA治療に取り入れる際の注意点

漢方薬をAGA治療に取り入れる際はその特性を理解し、いくつかの点に注意する必要があります。

漢方薬は体質改善を目指すものであり、西洋薬とは異なるアプローチであることを認識することが大切です。特に重要なのは専門家の診断を受けることと、即効性を期待しないことです。

漢方薬の選び方と専門家の重要性

漢方治療の最大の特徴は、個々の体質(「証」)に合わせて薬を使い分けることです。

同じ薄毛という症状であっても、その原因が「気血両虚」なのか「腎虚」なのか「瘀血」なのか、あるいはそれらの複合なのかによって、処方される漢方薬は全く異なります。

自分の「証」に合っていない漢方薬を服用しても、期待する効果は得られません。そのため、漢方薬を選ぶ際は自己判断は非常に難しいと言えます。

漢方に詳しい医師や薬剤師に相談し、問診(体質、自覚症状、生活習慣など)や舌診(舌の状態)、脈診(脈の強さや速さ)などを通じて、ご自身の「証」を正確に診断してもらうことが何よりも重要です。

「証」が合わないとどうなるか

もし「証」に合わない漢方薬を服用すると、効果が出ないだけではありません。場合によっては体調不良を引き起こす可能性があります。

例えば、体が冷えている「寒証(かんしょう)」の人に、さらに体を冷やす作用のある漢方薬(黄連解毒湯など)を使うと、下痢や腹痛、冷えの悪化などを招くことがあります。

逆に、体に熱がこもっている「熱証(ねっしょう)」の人に体を温める「八味地黄丸」などを使うと、のぼせやほてりが強くなることもあります。

薄毛を改善しようとして、他の不調を招いては本末転倒です。

即効性は期待しにくい

漢方薬は対症療法的な西洋薬とは異なり、体質そのものを時間をかけてゆっくりと改善していくことを目的としています。体のバランスの乱れを整え、髪が育ちやすい「土壌」を作り直す作業です。

そのため、飲み始めてすぐに抜け毛が減ったり、髪が生えてきたりといった劇的な変化(即効性)は期待しにくいのが一般的です。

効果を実感するまでには個人の体質や症状の程度にもよりますが、最低でも3ヶ月から6ヶ月、場合によっては1年以上の継続が必要となることも珍しくありません。

髪の毛が生え変わる周期(ヘアサイクル)自体が数ヶ月単位であることを考えても、中長期的な視点でじっくりと取り組む姿勢が求められます。

副作用がゼロではない

漢方薬は「天然の生薬から作られているから安全」「副作用がない」といったイメージを持たれがちですが、これは誤解です。漢方薬も医薬品である以上、副作用が生じる可能性はゼロではありません。

最も多いのは、体質に合わなかった場合の胃もたれ、食欲不振、吐き気、下痢などの胃腸障害や、発疹、かゆみなどの皮膚症状です。

また、稀ではありますが、特定の生薬(例えば甘草:かんぞう)の長期服用による「偽アルドステロン症」(手足のだるさ、むくみ、高血圧、低カリウム血症など)や、肝機能障害、間質性肺炎といった重篤な副作用も報告されています。

服用を開始してから体調に何らかの変化を感じた場合はすぐに服用を中止し、処方した医師や薬剤師に相談することが重要です。

漢方薬の服用で注意すべき点

注意点具体的な内容
専門家による「証」の診断体質に合わなければ効果は期待できない。必ず医師、薬剤師に相談する。
中長期的な継続体質改善には時間がかかる。即効性を求めず、数ヶ月単位での継続が必要。
副作用の可能性を認識「安全」とは限らない。胃腸障害やアレルギー、稀に重い副作用も有り得る。

特に、すでに他の西洋薬(AGA治療薬のフィナステリドやミノキシジルを含む)を服用している場合は、飲み合わせ(相互作用)にも注意が必要です。

漢方薬の服用を開始する際は、現在使用しているすべての薬やサプリメントを医師・薬剤師に正確に伝えることが、安全な治療のために必要です。

漢方と併用したい生活習慣の改善

漢方薬の効果を最大限に引き出し、薄毛の悩みを根本から改善するためには、薬だけに頼るのではなく、土台となる生活習慣の見直しが欠かせません。

漢方では、日々の生活そのものが体質を作ると考えます。特に食事、睡眠、ストレス管理が、髪の健康、そして漢方薬の効き目にも大きく影響します。

バランスの取れた食事

髪の毛は、私たちが食べたものから作られています。髪の主成分であるケラチン(タンパク質)はもちろん、その合成を助けるビタミンやミネラル(特に亜鉛)が不足すれば健康な髪は育ちません。

特定の食品だけを食べるのではなく、肉、魚、卵、大豆製品、野菜、海藻類などをバランスよく摂ることが基本です。

漢方の視点では、体を冷やす食べ物(冷たい飲み物、生野菜、夏野菜など)の摂りすぎは胃腸の働きを弱め、「気」や「血」を生み出す力を低下させると考えます。

また、脂っこいものや甘いもの、味の濃いものの摂りすぎは体内に余分な熱や湿気を生じさせ、頭皮環境の悪化(皮脂の過剰分泌、炎症など)につながる可能性もあります。

温かい食事を心がけ、五味(酸・苦・甘・辛・鹹)をバランスよく取り入れることが推奨されます。

髪の成長をサポートする主な栄養素

栄養素主な働き多く含まれる食品
タンパク質髪の毛の主成分(ケラチン)となる肉、魚、卵、大豆製品、乳製品
亜鉛タンパク質(ケラチン)の合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、チーズ、ナッツ類
ビタミンB群頭皮の代謝、血行促進、皮脂の調整豚肉、レバー、マグロ、カツオ、バナナ、卵

これらの栄養素は、それぞれが協調して働きます。例えば亜鉛が不足すると、いくらタンパク質を摂っても効率よく髪の毛にすることができません。

どれか一つを偏って摂るのではなく、日々の食事全体でバランスを整える意識が大切です。

質の高い睡眠の確保

髪の毛は、私たちが寝ている間に成長します。睡眠中に多く分泌される成長ホルモンが毛根にある毛母細胞の分裂を活発にし、髪の成長を促すからです。

睡眠不足が続くと成長ホルモンの分泌が減少し、自律神経のバランスも乱れて血行が悪くなるため、髪の成長が妨げられます。

漢方では夜は「陰」の時間であり、日中に消耗した「気」や「血」を補い、「腎」を養う大切な時間と考えます。

特に細胞の修復が最も活発になるとされる夜10時から深夜2時の間(ゴールデンタイム)を含む、質の高い睡眠を確保することが髪の健康維持には重要です。

就寝前のスマートフォンの操作を控える、リラックスできる環境を整えるなど、睡眠の質を高める工夫をしましょう。

ストレスとの上手な付き合い方

過度なストレスは薄毛の大きな要因の一つです。ストレスを感じると交感神経が優位になり、血管が収縮します。これにより頭皮の血流が悪化し、毛根に十分な栄養が届かなくなります。

また、ストレスはホルモンバランスや自律神経の乱れを引き起こし、頭皮環境を悪化させる(皮脂の過剰分泌など)こともあります。

漢方ではストレスは「気」の巡りを滞らせる(気滞)と考えます。「気滞」は「瘀血」や「気虚」の原因ともなり、全身のバランスを崩します。

ストレスをゼロにすることは難しくても、趣味の時間を持つ、適度な運動をする、湯船にゆっくり浸かるなど自分なりのリラックス法を見つけ、ストレスを溜め込まないようにすることが大切です。

薄毛対策のためのセルフケア

  • 適度な有酸素運動(ウォーキングなど。血行促進、ストレス解消)
  • ぬるめの湯船に浸かる(リラックス、血行促進、睡眠の質向上)
  • 頭皮マッサージ(指の腹で優しく揉む。直接的な血行改善)

これらのセルフケアは漢方薬の働きを助け、体質改善をサポートします。不規則な生活や過度なストレスは、「証」を悪化させ、漢方薬の効果を妨げる要因にもなります。

漢方治療を機に、ご自身の生活習慣全体を見直してみてはいかがでしょうか。

AGA治療薬と漢方薬・生活習慣改善を組み合わせた薄毛対策イメージ

AGA治療薬と漢方薬の併用は可能か

AGA治療薬(フィナステリドやミノキシジル)と漢方薬の併用は基本的には可能とされていますが、必ず医師の管理下で行う必要があります。

両者のアプローチは異なるため、互いの働きを補完し合い、AGA治療の効果を高めることが期待されます。

併用のメリット

AGA治療薬はAGAの直接的な原因(DHTの生成や頭皮の血流低下)に対して比較的速やかに作用し、抜け毛の抑制や発毛の促進を目指します。

一方、漢方薬は体質(気血の不足、腎虚、瘀血など)の土台を整え、髪が育ちやすい全身状態・頭皮環境を作ることを目指します。

この二つを併用することで、西洋薬で「今ある火(抜け毛)」を消し止めつつ、漢方薬で「火事が起きにくい体(健康な体質)」を作る、といった相乗効果が期待できます。

また、AGA治療薬の副作用を懸念する方にとって、漢方薬で体調を整えながら治療を進めることは精神的な安心感につながる場合もあります。

併用時の注意点

併用する上で最も重要な注意点は自己判断で行わないことです。漢方薬も医薬品であり、飲み合わせ(相互作用)のリスクが全くないわけではありません。

また、万が一、併用中に体調不良(例えば肝機能の悪化など)が生じた場合、どちらの薬が原因であるのか、あるいは両者の相互作用によるものなのか、判断が難しくなる可能性があります。

特にAGA治療薬を処方してもらっているAGAクリニックの医師と、漢方薬を処方する医師(または薬剤師)が異なる場合は情報連携が重要です。

必ず双方の専門家に、現在服用しているすべての薬(漢方薬、AGA治療薬、その他の治療薬、サプリメントを含む)を正確に伝える必要があります。

医師への相談の重要性

AGA治療薬と漢方薬の併用を希望する場合は、まずはAGA治療を行っている主治医に相談するのが第一歩です。

クリニックによっては西洋薬の処方と併せて、補完的に漢方薬の処方(保険適用または自費)を行っている場合もあります。

また、漢方専門のクリニックや薬局に相談する際も、必ず「現在AGA治療薬(具体的な薬剤名)を使用している」ことを伝えてください。

専門家がご自身の体質やAGAの進行度、現在使用している薬剤を総合的に判断し、併用が適切かどうか、また、どのような漢方薬が最適かを判断してくれます。

AGA治療薬と漢方薬の役割比較

項目西洋医学(AGA治療薬)東洋医学(漢方薬)
アプローチAGAの直接的な原因(DHT抑制、血流促進)薄毛の背景にある体質(気血、腎、瘀血など)
期待される効果抜け毛の抑制、発毛促進(対症療法的)頭皮環境、全身状態の改善(根本療法的)
効果発現比較的早め(3ヶ月~6ヶ月程度)緩やか(数ヶ月~年単位)

このように、西洋医学と東洋医学はアプローチが異なります。両者は対立するものではなく、それぞれの得意分野を活かして治療戦略を立てることが、AGAという複雑な悩みに対する有効な手段となり得ます。

併用を検討する際は、信頼できる医師とよく相談しながら進めましょう。

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漢方薬によるAGA・薄毛対策に関するよくある質問

漢方薬によるAGA・薄毛対策に関して、多くの方が抱える疑問についてお答えします。

漢方薬はどれくらいの期間飲み続ければよいですか?

漢方薬は体質改善を目的とするため、効果を実感するまでには時間がかかります。一般的には、最低でも3ヶ月から6ヶ月程度は継続して服用することが推奨されます。

髪の毛の生え変わる周期(ヘアサイクル)を考慮しても、中長期的な視点で取り組むことが大切です。体質の変化はゆっくりと現れるため、焦らずに続けることが重要です。

漢方薬の服用をやめたら、また薄毛は進行しますか?

漢方薬によって体質が改善され、頭皮環境が整った結果として薄毛が改善した場合、急に元の状態に戻ることは考えにくいです。

しかし、薄毛の原因となった根本的な生活習慣(食生活の乱れ、睡眠不足、過度なストレスなど)が元に戻れば、再び体のバランスが崩れて薄毛が進行する可能性はあります。

漢方薬で得られた良い状態を維持するためにも、健康的な生活習慣を続けることが重要です。

ドラッグストアで市販されている漢方薬でも効果はありますか?

ドラッグストアで市販されている漢方薬も、医療用と同じ生薬の組み合わせで作られている場合があります。ただし、漢方薬はご自身の体質に合ったものを選ばないと効果が期待できません。

市販薬は比較的体力がある人向けの処方や、分かりやすい症状に対応するものが中心となっていることもあります。

市販薬を選ぶ場合でも薬剤師や登録販売者に相談し、ご自身の症状や体質に合うかを確認することをおすすめします。

より正確な「証」の診断を求める場合は、漢方に詳しい医師の診察を受けるのが賢明です。

AGA(男性型脱毛症)に漢方薬は本当に効くのですか?

漢方薬がAGAの直接的な原因である男性ホルモン(DHT)の働きを直接抑えたり、毛母細胞を強力に刺激したりするわけではありません。

そのため、西洋医学のAGA治療薬(フィナステリドやミノキシジル)のような発毛効果や抜け毛の強力な抑制を第一に期待するものではありません。

記事のまとめ
参考文献

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