薄毛になる原因と発症メカニズム – 早期発見のために

薄毛になる原因と発症メカニズム - 早期発見のために

「最近、シャンプー時の抜け毛が増えた気がする」「朝、枕についた髪の毛が目立つようになった」。ふとした瞬間に感じる髪の変化は、大きな不安につながるものです。

薄毛の悩みは多くの方が抱える可能性がある一方で、なぜ自分がと疑問に思うかもしれません。実は薄毛になる原因は一つではなく、遺伝的な要因から日々の生活習慣まで様々に絡み合っています。

この記事では薄毛、特にAGA(男性型脱毛症)がどのような仕組みで発症するのか、そして進行を早めてしまう可能性のある生活要因について詳しく解説します。

原因を知ることは、早期発見と適切な対策への第一歩です。ご自身の状態を理解するための情報を手に入れてください。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

薄毛になる主な原因とは

薄毛や抜け毛が起こる原因は多岐にわたりますが、成人男性の薄毛の悩みにおいて最も大きな割合を占めるのが「AGA(男性型脱毛症)」です。

しかし、それ以外にも日々の生活習慣やストレス、他の脱毛症が影響している場合もあります。

AGA(男性型脱毛症)の概要

AGAは「AndrogeneticAlopecia」の略で、日本語では「男性型脱毛症」と呼ばれます。これは思春期以降の男性に見られる進行性の脱毛症で、遺伝や男性ホルモンの影響が深く関わっていることが分かっています。

主な特徴として、生え際(M字部分)が後退していくパターンや、頭頂部(O字部分)が薄くなるパターン、あるいはその両方が同時に進行するパターンなどがあります。

AGAは病気というより体質的な症状に近いものであり、放置すると毛髪は徐々に細く少なくなり続けます。

しかし、現代では医学的な知見が進み、適切な治療や対策を早期に開始することでその進行を抑制したり、毛髪の状態を改善させたりすることが可能になってきています。

生活習慣の乱れの影響

遺伝やホルモンがAGAの主な引き金である一方、日々の生活習慣の乱れは薄毛の進行を早めたり、頭皮環境を悪化させたりする要因となります。

例えば、栄養バランスの偏った食事、特に脂質の多い食事やインスタント食品中心の生活は頭皮の皮脂分泌を過剰にし、毛穴の詰まりや炎症を引き起こす可能性があります。

また、睡眠不足は毛髪の成長に必要な成長ホルモンの分泌を妨げ、髪の健やかな成長を阻害します。過度な飲酒や喫煙も血行不良を招いたり、体内の栄養素を破壊したりすることで、毛髪に悪影響を与えます。

これらは直接的な薄毛の原因とはならなくても、AGAの進行を助長する「悪化因子」として非常に重要です。

薄毛に関連する主な要因

要因カテゴリ具体的な内容毛髪への影響
遺伝的要因男性ホルモン受容体の感受性などAGAの発症リスクや進行度に関わる
ホルモン要因DHT(ジヒドロテストステロン)毛髪の成長期を短縮させ、軟毛化を引き起こす
生活習慣要因食事、睡眠、喫煙、飲酒頭皮環境の悪化や血行不良、栄養不足を招く
薄毛の主な原因(AGA・生活習慣・ストレス・他の脱毛症)を整理したイメージ図

ストレスと頭皮環境

精神的なストレスも、薄毛や抜け毛の無視できない要因の一つです。強いストレスを感じると、体は緊張状態になります。

この緊張状態が続くと自律神経のバランスが乱れ、交感神経が優位になります。交感神経が優位になると血管が収縮するため、頭皮への血流が悪化します。

毛髪の成長に必要な酸素や栄養は血液によって毛乳頭細胞に運ばれるため、血行不良は毛髪の成長を直接的に妨げることになります。

また、ストレスはホルモンバランスの乱れを引き起こしたり、皮脂の分泌を過剰にしたりすることもあります。

過剰な皮脂は頭皮の常在菌のエサとなり、フケやかゆみ、炎症(脂漏性皮膚炎)を引き起こし、頭皮環境をさらに悪化させる悪循環に陥ることもあります。

その他の脱毛症(円形脱毛症など)

薄毛の原因がすべてAGAや生活習慣によるものとは限りません。他のタイプの脱毛症が隠れている場合もあります。

代表的なのが「円形脱毛症」です。これは自己免疫疾患の一種と考えられており、ある日突然コイン大の円形や楕円形に髪が抜け落ちる症状です。

単発の場合もあれば、多発したり頭部全体に広がったりすることもあります。AGAとは異なり、性別や年齢に関係なく発症します。

また、「脂漏性脱毛症」は皮脂の過剰分泌によって頭皮が炎症を起こし、フケや赤みを伴って抜け毛が増える症状です。

この他にも特定の薬剤の副作用や、牽引性脱毛症(髪を強く引っ張り続けることで起こる)など、脱毛の原因は様々です。AGAとは対処法が異なるため、正確な診断が重要です。

AGA(男性型脱毛症)が発症する仕組み

AGA(男性型脱毛症)による薄毛は特定の男性ホルモンが毛髪の成長サイクルに悪影響を与えることで引き起こされます。

この仕組みには「DHT(ジヒドロテストステロン)」と「5αリダクターゼ」という酵素が深く関わっています。

男性ホルモンとDHT(ジヒドロテストステロン)

男性ホルモンと聞くと、「テストステロン」を思い浮かべる方が多いでしょう。

テストステロンは筋肉や骨格の発達、性機能の維持などに必要な重要なホルモンです。しかし、このテストステロン自体が直接薄毛の原因になるわけではありません。

問題となるのは、テストステロンが特定の酵素と結びつくことによって変換されて生成される「DHT(ジヒドロテストステロン)」という、より強力な男性ホルモンです。

DHTはテストステロンの数倍から数十倍も強力な活性を持つとされ、特に前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞にある「男性ホルモン受容体(レセプター)」と結びつきやすい性質を持っています。

この結合が、AGA発症の引き金となります。

5αリダクターゼの役割

では、どのようにしてテストステロンはDHTに変換されるのでしょうか。ここで鍵となるのが「5αリダクターゼ(または5α還元酵素)」と呼ばれる酵素です。

5αリダクターゼは主に皮脂腺や毛乳頭細胞に存在し、テストステロンと結びつくことでテストステロンをDHTに変換する働きを持ちます。

この5αリダクターゼには「I型」と「II型」の2種類が存在することが知られています。I型は全身の皮脂腺に多く存在し、皮脂の分泌に関わっています。

一方、II型は特に前頭部や頭頂部の毛乳頭に多く存在し、AGAの発症に強く関与していると考えられています。

このII型5αリダクターゼの活性度が高い人ほどDHTが生成されやすく、AGAを発症しやすい傾向にあるとされています。

AGA発症に関わる主要因子

因子名称役割・特徴
男性ホルモンテストステロンDHTの原料となる。これ自体は悪玉ではない
変換酵素5αリダクターゼ(特にII型)テストステロンをDHTに変換する
強力な男性ホルモンDHT(ジヒドロテストステロン)毛乳頭の受容体と結合し、脱毛因子を増やす

ヘアサイクルの短縮化

毛髪には「ヘアサイクル(毛周期)」と呼ばれる生まれ変わりの周期があります。

一本の髪の毛は平均して2年から6年かけて太く長く成長する「成長期」、成長が止まって退縮していく「退行期」(約2週間)、そして毛根が休んで抜け落ちるのを待つ「休止期」(約3〜4ヶ月)というサイクルを繰り返しています。

しかし、DHTが毛乳頭の受容体と結合すると、毛乳頭からは「TGF-β」などの脱毛因子が放出されます。この脱毛因子が毛母細胞に対して「成長を止めろ」という誤ったシグナルを送ってしまうのです。

その結果、本来なら数年間続くはずの「成長期」が、わずか数ヶ月から1年程度に短縮されてしまいます。髪の毛が十分に太く長く成長する前に「休止期」に移行し、抜け落ちてしまうのです。これがAGAによる薄毛の正体です。

AGAでDHTが毛包に作用しヘアサイクルが短縮するメカニズム図

遺伝的要因との関連性

「薄毛は遺伝する」とよく言われますが、これはAGAにおいて一定の真実を含んでいます。

遺伝的に影響すると考えられているのは、主に「5αリダクターゼ(特にII型)の活性度の高さ」と「男性ホルモン受容体の感受性の高さ」の2点です。

父親や母方の祖父がAGAであった場合、II型5αリダクターゼの活性が高い体質を受け継いでいる可能性があります。

活性が高ければ、同じテストステロン量でもDHTが多く生成されることになります。また、DHTが生成されても、それを受け取る「受容体」の感受性が低ければ、影響は出にくいです。

しかし、この受容体の感受性が高い体質(DHTと結びつきやすい体質)を受け継いでいると、わずかなDHTでも強い脱毛シグナルが出てしまいます。

この受容体の感受性に関する遺伝子は母親から受け継がれるX染色体上にあるとされており、「薄毛は母方から遺伝する」と言われる理由の一つになっています。

ただし、遺伝的要因があるからといって必ず発症するわけではなく、あくまで「発症しやすい体質」であるという点が重要です。

薄毛の進行を招く生活習慣

AGAの根本的な原因は遺伝やホルモンにありますが、日々の何気ない生活習慣がその進行を早めたり、頭皮環境を悪化させたりする「悪化因子」となることは間違いありません。

毛髪の健康を維持するためには、これらの要因を見直すことが重要です。

栄養バランスの偏った食事

髪の毛は私たちが食べたものから作られています。毛髪の主成分は「ケラチン」というタンパク質です。そのため、タンパク質が不足すれば、健康な髪の毛を作る材料が不足することになります。

しかし、タンパク質だけを摂取すれば良いわけではありません。摂取したタンパク質をアミノ酸に分解し、ケラチンとして再合成するためには、「亜鉛」が必須です。

また、頭皮の血行を促進し、毛母細胞の働きを活発にする「ビタミンE」や、皮脂の分泌をコントロールし頭皮環境を整える「ビタミンB群(特にB2、B6)」も欠かせません。

逆に、脂質の多い揚げ物やジャンクフード、糖分の多いお菓子やジュースばかりの食生活は皮脂の過剰分泌を招き、頭皮の毛穴を詰まらせたり、炎症を引き起こしたりする原因となります。

バランスの取れた食事が、健やかな毛髪の土台を作ります。

毛髪の成長に重要な栄養素

栄養素主な働き多く含まれる食品例
タンパク質毛髪(ケラチン)の主成分となる肉、魚、卵、大豆製品、乳製品
亜鉛ケラチンの合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、チーズ
ビタミンB群皮脂の分泌調整、頭皮の新陳代謝促進レバー、豚肉、マグロ、カツオ、バナナ

睡眠不足が毛髪に与える影響

毛髪の成長は、特に夜寝ている間に活発になります。これは睡眠中に「成長ホルモン」が分泌されるためです。

成長ホルモンは体の組織の修復や再生を促す働きがあり、毛母細胞の分裂を促進し、毛髪の成長を助けます。

この成長ホルモンは特に深いノンレム睡眠の時、具体的には入眠後の最初の90分から3時間程度の間に最も多く分泌されるとされています。

したがって、単に睡眠時間が長ければ良いというわけではなく、「睡眠の質」が非常に重要です。

睡眠不足が続いたり、夜更かしをして就寝時間が不規則になったりすると、成長ホルモンの分泌が十分に行われず、毛髪の成長が妨げられます。

また、睡眠不足は自律神経の乱れにもつながり、頭皮の血行不良を引き起こす原因ともなります。

過度な飲酒と喫煙

適度な飲酒はリラックス効果や血行促進につながる場合もありますが、「過度な」飲酒は薄毛にとってマイナスに働きます。

アルコールを体内で分解する際にはビタミンB群や亜鉛などの栄養素が大量に消費されます。これらは毛髪の成長に必要な栄養素であり、アルコールの分解に優先的に使われてしまうと髪にまで栄養が回らなくなります。

また、多量のアルコールは肝臓に負担をかけ、タンパク質の合成能力を低下させる可能性も指摘されています。

一方、喫煙は薄毛にとって「百害あって一利なし」と言っても過言ではありません。タバコに含まれるニコチンには血管を強力に収縮させる作用があります。

これにより、頭皮の毛細血管が収縮し、深刻な血行不良を引き起こします。酸素や栄養が毛根に届かなくなれば、髪の毛が細く弱々しくなるのは当然の結果です。

さらに、喫煙は体内の活性酸素を増やし、老化を促進することも知られています。

ストレスが薄毛を引き起こす理由

現代社会と切っても切り離せない「ストレス」は心身の健康だけでなく、毛髪の健康にも深刻な影響を与える可能性があります。

ストレスが直接AGAの原因になるわけではありませんが、薄毛の進行を加速させる強力な悪化因子となります。

自律神経の乱れと血行不良

私たちが強いストレスを感じると、体は「闘争・逃走モード」に入り、交感神経が優位に働きます。交感神経は血管を収縮させ、血圧を上昇させる働きがあります。

これは、緊急事態に備えて体の中心部に血液を集めようとする防御反応ですが、この状態が慢性的に続くと問題が生じます。特に頭皮にあるような末端の毛細血管は収縮しやすく、血流が著しく悪化します。

毛髪は毛細血管から運ばれてくる酸素と栄養素によって成長しています。頭皮への血流が悪くなるということは、毛髪が「栄養失調」状態になることを意味します。

栄養が届かなければ毛母細胞は活発に分裂できず、結果として髪の毛は細くなり、成長が止まり、抜けやすくなってしまいます。

これが、ストレスによる血行不良が薄毛につながる主な理由です。

ホルモンバランスへの影響

ストレスは自律神経だけでなく、内分泌系(ホルモン分泌)にも影響を与えます。

慢性的なストレスにさらされると、体はストレスに対抗するために「コルチゾール」というホルモン(ストレスホルモン)を副腎皮質から分泌します。

コルチゾールは一時的には体を守るために役立ちますが、過剰に分泌され続けると免疫機能の低下やホルモンバランス全体の乱れを引き起こします。

男性ホルモンや女性ホルモンのバランスが崩れると、頭皮環境にも影響が出ます。例えば、皮脂の分泌が過剰になったり、逆に乾燥しやすくなったりすることがあります。

また、強いストレスは性機能に関わるホルモンの分泌にも影響を与え、結果的にAGAに関わる男性ホルモンのバランスにも間接的に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

ストレスによる頭皮環境の悪化

ストレスは頭皮の健康状態にも直接的な悪影響を及ぼします。

ストレスを感じると無意識のうちに頭皮の筋肉が緊張し、頭皮自体が硬くなることがあります。頭皮が硬くなると、その下を走る血管が圧迫され、血行不良をさらに助長します。

また、ストレスによる自律神経の乱れやホルモンバランスの崩れは、皮脂の分泌量を不安定にします。

皮脂が過剰に分泌されると毛穴が詰まりやすくなるだけでなく、頭皮の常在菌であるマラセチア菌が異常増殖し、「脂漏性皮膚炎」を引き起こすことがあります。

脂漏性皮膚炎はフケやかゆみ、頭皮の赤みや炎症を伴い、毛髪の健やかな成長を妨げる環境を作り出してしまいます。

逆にストレスで皮脂分泌が減少し、頭皮が過度に乾燥するとバリア機能が低下し、わずかな刺激でも炎症を起こしやすくなるなど、頭皮環境の悪化を招きます。

間違ったヘアケアと頭皮トラブル

薄毛を気にするあまり、良かれと思って行っている日々のヘアケアが実は逆効果になっているかもしれません。間違ったケアは頭皮環境を悪化させ、抜け毛や薄毛を助長する要因となり得ます。

強すぎるシャンプーと洗い方

頭皮を清潔に保つことは重要ですが、洗いすぎは禁物です。特に洗浄力の強すぎるシャンプー(高級アルコール系など)は、頭皮を守るために必要な皮脂まで根こそぎ洗い流してしまいます。

皮脂が失われると、頭皮はバリア機能を失い乾燥しやすくなります。すると体は「皮脂が足りない」と勘違いし、かえって皮脂を過剰に分泌しようとする悪循環に陥ることがあります。

また、洗い方も重要です。爪を立ててゴシゴシと強くこすると頭皮が傷つき、そこから細菌が入り込んで炎症を起こす原因になります。シャンプーは指の腹を使い、頭皮をマッサージするように優しく洗うのが基本です。

すすぎ残しはフケやかゆみ、炎症の元になるため、シャンプー剤が残らないよう、時間をかけて十分に洗い流すことが大切です。

頭皮タイプ別シャンプーの傾向

頭皮タイプ特徴推奨される洗浄成分の傾向
乾燥肌カサカサし、フケが出やすいアミノ酸系(マイルドな洗浄力)
脂性肌(オイリー)ベタつきやすく、ニオイが気になる石けん系、高級アルコール系(適度な洗浄力)
敏感肌赤みや、かゆみが出やすいアミノ酸系、ベタイン系(低刺激)

頭皮の乾燥と皮脂の過剰分泌

健康な頭皮は適度な皮脂によってバリア機能が保たれ、潤いと柔軟性があります。

しかし、前述の強すぎるシャンプーや、一日に何度もシャンプーをすること、また空気の乾燥、紫外線の影響などで頭皮が乾燥すると、このバリア機能が低下します。

バリア機能が低下した頭皮は外部からの刺激に無防備になり、わずかな刺激でも炎症やかゆみを引き起こしやすくなります。これが「乾燥性フケ」の原因にもなります。

一方で、もともと皮脂分泌が多い体質の人や脂っこい食事、ホルモンバランスの乱れなどで皮脂が過剰に分泌されると、状況は異なります。

過剰な皮脂は空気中のホコリや汚れと混じり合い、毛穴を塞ぎます。さらに、この皮脂をエサにして常在菌が異常増殖すると脂漏性皮膚炎などを引き起こし、「脂性フケ」や抜け毛の原因となります。

乾燥しすぎても、脂っぽすぎても、頭皮環境は悪化するのです。

カラーやパーマの頻度

ヘアカラー(毛染め)やパーマは髪の毛のおしゃれを楽しむ上で欠かせないものですが、頭皮や毛髪にとっては大きな負担となります。

カラー剤やパーマ剤に含まれる化学薬品(アルカリ剤、酸化剤など)は頭皮に直接付着すると強い刺激となり、かぶれ(接触性皮膚炎)や炎症を引き起こす可能性があります。

特に頭皮が敏感な状態の時や、短い間隔で繰り返し施術を受けると、頭皮のダメージが蓄積していきます。頭皮が炎症を起こせば、当然そこで育つ毛髪の健康にも悪影響が出ます。

また、これらの薬剤は毛髪のキューティクルを開き、内部のタンパク質を変化させるため、毛髪自体もダメージを受け、切れ毛や枝毛、パサつきの原因となります。

薄毛が気になり始めたら、カラーやパーマの頻度を見直す、頭皮に薬剤がつきにくい方法(ゼロテクなど)で施術してもらう、低刺激の薬剤を選んでもらうなど美容師に相談することが賢明です。

薄毛の進行を左右する生活習慣・ストレス・ヘアケアの良い例と悪い例の比較イメージ

自分でできる薄毛の早期発見チェック

AGA(男性型脱毛症)は進行性のため、何よりも早期発見と早期対策が重要です。「気のせいかな?」と思うような小さな変化を見逃さないことが、将来の毛髪を守る鍵となります。

抜け毛の質と量の変化

健康な人でも、ヘアサイクルの関係で1日に50本から100本程度の髪の毛は自然に抜け落ちています。しかし、注意すべきはその「量」と「質」の変化です。

まず「量」についてですが、シャンプーの時や朝起きた時の枕、あるいはブラッシングの際に、明らかに「以前より抜け毛が増えた」と感じる場合は注意信号です。

特に排水溝に詰まる毛の量が急に増えた、手ぐしを通すたびに何本も抜ける、といった場合は要注意です。

次に「質」です。抜け落ちた毛髪をよく観察してみてください。太くコシのある長い毛髪だけでなく、細くて短い産毛のような毛髪が多く混じっている場合、それはAGAが進行し、ヘアサイクルが短縮化しているサインである可能性が非常に高いです。

健康な抜け毛は毛根の先端(毛球)がふっくらとしていますが、AGAなどで弱った毛根は先端が細く尖っていることもあります。

生え際や頭頂部の地肌の透け具合

AGAは多くの場合、特定の部分から進行する特徴があります。それは「生え際(M字部分)」と「頭頂部(O字部分)」です。

鏡を見て、以前と比べて生え際が後退していないか、あるいは頭頂部の地肌が透けて見えやすくなっていないかを定期的にチェックしましょう。

自分では見えにくい頭頂部は合わせ鏡を使ったり、家族やパートナーに協力してもらったり、スマートフォンで写真を撮って客観的に確認するのがおすすめです。

特に髪を濡らした状態や、強い光の下でチェックすると変化が分かりやすいです。

生え際の後退はAGAの典型的なパターン(ハミルトン・ノーウッド分類のタイプ)の一つであり、頭頂部の菲薄化(薄くなること)も同様です。

これらの部分の毛髪が細く柔らかくなってきたと感じたら、AGAが始まっている可能性があります。

薄毛の初期サインセルフチェック

チェック項目確認するポイント危険度の目安
抜け毛の量シャンプー時や枕元の抜け毛が明らかに増えた
抜け毛の質細く、短い「産毛」のような毛が抜け毛に多い
生え際・頭頂部以前より地肌が透けて見える、生え際が後退した
毛髪のハリ・コシ髪全体にボリュームがなくなり、スタイリングがしにくい

髪のハリ・コシの低下

「抜け毛はそれほどでもないが、なんとなく髪全体のボリュームが減った」あるいは「髪が細くなって、スタイリングが決まりにくくなった」と感じるのも、薄毛の重要な初期サインの一つです。

これはAGAによって毛髪の成長期が短くなり、毛髪が太く長く成長する前に抜け落ちるようになった結果、全体の毛髪密度が低下したり、一本一本が細く(軟毛化)なったりしているために起こります。

髪が細くなるとハリやコシがなくなり、ペタッと寝てしまいやすくなります。

以前は使わなかった整髪料が必要になったり、同じ髪型でもトップがふんわりと立ち上がらなくなったりした場合、それは毛髪自体の質が変化している証拠かもしれません。

側頭部や後頭部の毛髪と、頭頂部や生え際の毛髪の太さを触って比べてみるのも、変化に気づくための一つの方法です。

頭皮のかゆみやフケ

頭皮環境の悪化も薄毛のサインや前兆となることがあります。頭皮が乾燥してバリア機能が低下すると外部からの刺激に敏感になり、かゆみが出やすくなります。

この時に掻きむしってしまうと頭皮が傷つき、さらに炎症が悪化するという悪循環に陥ります。乾燥による「乾性フケ」(パラパラと細かいフケ)が目立つようにもなります。

一方で、皮脂が過剰に分泌されるとベタつきやニオイの原因になるだけでなく、皮脂をエサにするマラセチア菌が異常増殖し、脂漏性皮膚炎を引き起こすことがあります。

この場合、「脂性フケ」(ベタっとした大きなフケ)や強いかゆみ、頭皮の赤みが出ます。

このような頭皮トラブルが続いている状態は毛髪が健康に育つための土壌が荒れているのと同じであり、放置すれば抜け毛の増加につながる可能性があります。

薄毛の原因特定と対策の重要性

薄毛のサインに気づいた時、自己判断で「まだ大丈夫」「そのうち治るだろう」と放置したり、市販の育毛剤だけで対処しようとしたりするのは必ずしも良い結果を生むとは限りません。

薄毛の原因は複雑であり、専門家による正しい原因特定が何よりも重要です。

自己判断の危険性

薄毛の原因はAGA以外にも生活習慣、ストレス、頭皮環境の悪化、あるいは円形脱毛症や脂漏性皮膚炎など多岐にわたります。

もし原因がAGAであるにもかかわらず、生活習慣の改善や血行促進をうたう市販のトニック剤の使用だけで対処しようとしても、AGAの根本原因であるDHT(ジヒドロテストステロン)へのアプローチができていないため、進行を止めることは難しいでしょう。

AGAは進行性であるため、自己判断で対策が遅れれば遅れるほど症状は進行してしまいます。

逆に原因が栄養不足や頭皮の炎症であるにもかかわらず、「自分はAGAに違いない」と思い込み、高額なAGA治療薬を個人輸入などで入手して使用することは効果がないばかりか、思わぬ副作用のリスクを伴う可能性もあり、非常に危険です。

原因に合致しない対策は時間とお金を無駄にするだけでなく、症状を悪化させる可能性すらあります。

専門医(薄毛外来)への相談

薄毛の悩みを解決するための最も確実な第一歩は、薄毛治療を専門とする医師(薄毛外来やAGA専門クリニック)に相談することです。

専門医は問診、視診、マイクロスコープによる頭皮チェック、必要に応じて血液検査などを通じて、あなたの薄毛の根本原因が何であるかを医学的に診断します。

それがAGAなのか、AGAだとしたらどの程度進行しているのか、あるいは他の要因(頭皮環境の悪化や他の脱毛症)が関わっていないかなどを総合的に判断します。

原因が正確に特定できれば、取るべき対策も明確になります。医師は医学的根拠に基づき、現在のあなたに合った治療法(内服薬、外用薬、生活指導など)を提案してくれます。

一人で悩み続けるよりも、専門家の診断を仰ぐことが結果的に改善への最短距離となります。

薄毛の早期発見セルフチェックとAGA専門クリニック相談のイメージ図

薄毛対策の比較

対策方法メリットデメリット・注意点
自己判断(市販品)手軽に始められる、費用が比較的安い原因に合っていない可能性、AGAの進行は止めにくい
個人輸入(海外薬)(費用が安い場合がある)偽造薬のリスク、副作用が出た時の対処が困難、非常に危険
専門医(薄毛外来)医学的根拠に基づく正確な診断、原因に合った治療法の提案自由診療のため費用がかかる、通院が必要(オンライン診療も有)

早期対策のメリット

AGA治療において、「早期発見・早期対策」が重要であると繰り返し言われるのには明確な理由があります。

AGAは毛髪の元となる毛包が完全に活動を停止(線維化)してしまうと、いくら治療を行っても毛髪が再生するのは非常に困難になります。

しかし、毛包がまだ生きている状態、つまり毛髪が細く短くなっているが、まだ産毛として生えてくる段階であれば、適切な治療によって再び太く長い毛髪に回復する可能性は十分にあります。

治療を開始するタイミングが早ければ早いほど、この「まだ生きている毛包」が多く残っているため、治療効果が出やすく、改善の度合いも大きくなる傾向があります。

薄毛の進行がかなり進んでから治療を始めるよりも、初期段階で食い止める方が治療にかかる時間や費用、そして精神的な負担も少なく済むのです。

「少し早いかな?」と思うくらいのタイミングで専門医に相談することが、将来の髪を守る上で最も賢明な選択と言えます。

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薄毛の原因や発症に関するよくある質問

薄毛の原因や発症について、多くの方が疑問に思う点にお答えします。

薄毛は遺伝だと諦めるしかないですか?

AGAの発症には遺伝的な要因(5αリダクターゼの活性度や男性ホルモン受容体の感受性)が深く関わっているため、遺伝的になりやすい体質というのは確かに存在します。

しかし、「遺伝だから諦めるしかない」というのは、もはや過去の話です。現代ではAGAの発症の仕組みが解明されており、その進行を抑制するための有効な治療法が確立されています。

遺伝的な素因があっても、適切な対策を早期に開始することで薄毛の進行を遅らせたり、毛髪の状態を改善させたりすることは十分に可能です。

食生活を変えれば髪は生えてきますか?

食生活は毛髪の健康状態に非常に大きな影響を与えます。タンパク質、亜鉛、ビタミンなど、毛髪の成長に必要な栄養素が不足すれば髪は細く弱々しくなります。

そのため栄養バランスの取れた食事を心がけることは、薄毛対策の基本として非常に重要です。

しかし、もし薄毛の主な原因がAGAである場合、食生活の改善「だけ」でAGAの進行を止めて、髪を生やすことは困難です。

なぜなら、AGAはDHT(ジヒドロテストステロン)というホルモンが原因であり、食事ではこのDHTの生成を直接抑えることはできないからです。

食生活の改善は「土台作り」であり、AGAの根本対策(専門医による治療など)と並行して行うことが重要です。

育毛剤と発毛剤の違いは何ですか?

育毛剤と発毛剤は言葉は似ていますが、その目的と含まれる成分、そして法律上の分類が異なります。

育毛剤(多くは医薬部外品)の主な目的は、今ある髪の毛を健康に育てることです。頭皮の血行を促進したり、フケやかゆみを抑えたり、頭皮環境を整えることで抜け毛を予防し、髪のハリ・コシを保つことを目指します。

一方、発毛剤(医薬品)の主な目的は、新しい髪の毛を生やすことです。現在日本で発毛剤として承認されている有効成分は「ミノキシジル」などです。

これは毛母細胞に直接働きかけるなどしてヘアサイクルを改善し、発毛を促す効果が医学的に認められています。AGAの対策としては、発毛剤がより直接的なアプローチとなります。

頭皮マッサージは薄毛に効果がありますか?

頭皮マッサージには頭皮の血行を促進し、頭皮の筋肉の緊張をほぐす効果が期待できます。

頭皮の血流が良くなれば毛髪の成長に必要な栄養や酸素が毛乳頭に届きやすくなるため、健やかな髪を育てるための良い頭皮環境づくりに役立ちます。

また、リラクゼーション効果により、ストレスの軽減にもつながるでしょう。ただし、注意点もあります。

爪を立てたり、強い力でゴシゴシと擦ったりすると頭皮を傷つけてしまい逆効果です。指の腹を使って優しく揉みほぐすように行いましょう。

また、頭皮マッサージ「だけ」でAGAの進行を止めたり、発毛させたりすることは難しいです。

あくまでも専門的な治療や生活習慣の改善と組み合わせる補助的なケアの一つとして捉えるのが適切です。

記事のまとめ
参考文献

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