頭皮に突然、針で刺すような激しい痛みやピリピリとした違和感が生じ、それに続いて赤い発疹や水ぶくれが現れたなら、それは帯状疱疹かもしれません。
「ただの頭皮の荒れだろう」と軽く考えて放置してしまうと、後遺症として耐えがたい痛みが続いたり、髪の毛が永久に生えてこなくなったりする危険性があります。
この記事では頭皮に発症する帯状疱疹の正体と、それを放置することの深刻なリスク、そして早期治療の重要性について、専門的な観点から詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
そもそも帯状疱疹とは何か
帯状疱疹は多くの人が子供の頃にかかる「水ぼうそう(水痘)」と同じウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で発症する皮膚の病気です。
一度かかるとウイルスは体内から消えることなく、神経の根元に潜伏します。
水ぼうそうウイルスの再活性化
加齢や疲労、ストレスなどによって免疫力が低下すると、神経節に潜んでいたウイルスが再び活動を始め、増殖します。
この再活性化したウイルスが神経を伝って皮膚に達し、帯状状に痛みや発疹を引き起こすのが帯状疱疹です。
免疫力の低下が引き金に
特に50代以降で発症率が高まりますが、若い世代でも過労や大きなストレス、病気などが引き金となり免疫力が低下すると発症することがあります。
つまり、水ぼうそうにかかったことのある人なら、誰でも発症する可能性がある病気です。
水ぼうそうと帯状疱疹の関係
項目 | 水ぼうそう(初感染) | 帯状疱疹(再活性化) |
---|---|---|
原因ウイルス | 水痘・帯状疱疹ウイルス | |
主な症状 | 全身の発疹、発熱 | 片側の神経に沿った痛みと発疹 |
発症年齢 | 主に小児 | 主に中高年(若年層も発症) |
なぜ帯状疱疹は頭皮にできるのか
帯状疱疹はウイルスが潜伏している神経の走行に沿って症状が現れます。頭皮にできる場合は、顔や頭部の感覚を支配する神経がウイルスの標的となるためです。
神経の走行と発症部位
体は左右それぞれに神経が張り巡らされており、帯状疱疹は基本的に体の左右どちらか一方にしか発症しません。
ウイルスは神経節から一本の神経の枝に沿って皮膚へと向かうため、その神経が支配する領域に帯状の症状が現れます。
顔や頭部を支配する三叉神経
頭皮や額、目の周りなどに帯状疱疹が発症する場合、顔の感覚を脳に伝える「三叉神経」という太い神経が関与していることが多いです。
三叉神経は3つの枝に分かれており、そのいずれかの枝でウイルスが再活性化すると、その領域の頭皮や顔に症状が出現します。
首から上の神経が関わることも
後頭部やうなじにかけて症状が出る場合は、首の骨(頸椎)から出る頸神経が関与していることがあります。
どの神経でウイルスが再活性化するかによって、頭皮の中でも症状の出る場所が変わります。
頭部に症状が出る場合に関わる主な神経
神経名 | 主な支配領域 | 症状が現れやすい部位 |
---|---|---|
三叉神経 | 顔面、前頭部、頭頂部 | 額、頭のてっぺん、こめかみ |
頸神経 | 後頭部、首 | 後頭部、うなじ |
見えない痛みとの闘い – 頭皮の帯状疱疹が見過ごされやすい理由
体の帯状疱疹に比べて、頭皮にできた帯状疱疹は発見が遅れがちです。
その背景には髪に隠れて見えにくいという物理的な問題だけでなく、「まさか自分が」という心理的な要因や、他のありふれた症状との見分けの難しさがあります。
髪に隠れて発疹に気づきにくい
頭皮の帯状疱疹で最も問題なのは、症状の初期段階で重要なサインである「発疹」を自分で確認しにくいことです。
髪の毛に覆われているため、鏡を使っても見えにくく、「ズキズキするけれど、見た目には何もない」という期間が続いてしまいがちです。この発見の遅れが、治療開始の遅れに直結します。
ありふれた頭皮トラブルとの誤認
ピリピリとした痛みを「頭皮の乾燥によるかゆみ」、ポツポツとした発疹を「ニキビや毛嚢炎」など、別のよくある頭皮トラブルだと思い込んでしまうケースは少なくありません。
特に初期の段階では症状が軽微なこともあり、市販の塗り薬などで様子を見てしまう方が多いのが実情です。
帯状疱疹と他の頭皮トラブルの見分け方
症状 | 帯状疱疹の初期症状 | 毛嚢炎・ニキビなど |
---|---|---|
痛み | 先行する神経痛(ズキズキ、ピリピリ) | 押すと痛む、かゆみを伴う |
発疹の分布 | 片側の帯状に広がる | 単発、または散在する |
進行 | 発疹から水ぶくれへ変化 | 化膿して治癒することが多い |
痛みの強さと見た目のギャップがもたらす不安
頭皮の帯状疱疹がもたらす精神的負担の一つに、「痛みの深刻さが他人に伝わらない」という孤独感があります。
発疹が髪に隠れているため、周りからは健康に見えるにもかかわらず、本人は電気が走るような激しい痛みに耐えている、という状況が起こり得ます。
このギャップが、「気のせいだろうか」という自己不信や、痛みを理解してもらえないストレスにつながることがあるのです。
帯状疱疹を放置した場合の深刻な後遺症
頭皮の帯状疱疹を治療せずに放置するとウイルスによる神経へのダメージが深刻化し、様々な後遺症を残す危険性が高まります。
特に問題となるのが、帯状疱疹後神経痛と瘢痕性脱毛症です。
帯状疱疹後神経痛(PHN)
皮膚の症状が治った後も焼けるような、あるいは電気が走るような激しい痛みが数ヶ月から数年にわたって続く後遺症です。
ウイルスによって神経そのものが深く傷つけられてしまうことが原因で、日常生活に大きな支障をきたします。治療の開始が遅れるほど、この後遺症が残るリスクは高くなります。
瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)
帯状疱疹による炎症が皮膚の深い部分(真皮層)にまで及ぶと、髪の毛を作り出す組織である「毛包」が破壊されてしまいます。
一度破壊された毛包は再生しないため、その部分の皮膚は傷跡のようになり、髪の毛が永久に生えてこなくなる「瘢痕性脱毛症」という状態になります。
これはAGAとは異なり、治療薬で髪を取り戻すことはできません。
帯状疱疹による脱毛の種類
脱毛の種類 | 毛包の状態 | 回復の見込み |
---|---|---|
一時的な脱毛 | 機能が一時停止している | 炎症が治まれば回復する |
瘢痕性脱毛症 | 完全に破壊されている | 回復しない(永久脱毛) |
その他の重い合併症
ウイルスが三叉神経の特に目の周辺を支配する領域で活性化した場合、角膜炎や結膜炎を引き起こし、視力低下や失明に至る危険性があります。
また、耳の神経に影響が及ぶと顔面神経麻痺や難聴、めまいなどを引き起こすラムゼイ・ハント症候群を発症することもあります。
放置による主なリスク
- 帯状疱疹後神経痛(PHN)
- 瘢痕性脱毛症(永久脱毛)
- 視力障害、顔面神経麻痺
帯状疱疹の治療 – いかに早く始めるか
帯状疱疹の治療は時間との勝負です。後遺症のリスクを最小限に抑えるためには、いかに早くウイルスの増殖を抑えるかが鍵となります。
抗ウイルス薬による治療
治療の中心となるのは、ウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス薬の内服です。この薬は発疹が出てから72時間(3日)以内に服用を開始することが極めて重要です。
この時間を過ぎると薬の効果が著しく低下し、後遺症が残るリスクが高まります。
痛みに対する治療(対症療法)
強い痛みに対しては消炎鎮痛薬(NSAIDs)や、神経の興奮を抑える薬などを併用します。
痛みを我慢すると、それがストレスとなって免疫力をさらに低下させる悪循環に陥るため、適切に痛みをコントロールすることも大切な治療の一環です。
皮膚症状に対する外用療法
水ぶくれやただれなどの皮膚症状に対しては、細菌による二次感染を防ぐために、抗生物質を含む軟膏などを塗布します。
水ぶくれは自分で潰さず、清潔に保つことが重要です。
帯状疱疹治療の三本柱
治療法 | 目的 | 重要なポイント |
---|---|---|
抗ウイルス薬 | ウイルスの増殖を抑える | 発症後72時間以内の開始 |
鎮痛薬など | 痛みを和らげる | 我慢せず、痛みをコントロールする |
外用薬 | 皮膚の保護、二次感染予防 | 患部を清潔に保つ |
帯状疱疹に関するよくある質問
ここでは、帯状疱疹、特に頭皮にできた場合について患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- 帯状疱疹は他人にうつりますか?
-
帯状疱疹そのものが空気感染などで他人にうつることはありません。
ただし、水ぶくれの中にはウイルスが含まれているため、水ぼうそうにかかったことのない人(特に乳幼児など)が水ぶくれに触れると、水ぼうそうとして感染する可能性があります。
発疹やかさぶたが全てきれいに治るまでは、小さな子供や妊婦との接触は避けるようにしましょう。
- 髪の毛はまた生えてきますか?
-
これは炎症の深さによります。炎症が比較的浅く、毛包へのダメージが軽度であれば、皮膚症状の回復とともに髪の毛も再び生えてきます。
しかし、炎症が真皮深層にまで及んで毛包が破壊されてしまった場合は残念ながらその部分は瘢痕となり、永久脱毛となる可能性があります。
だからこそ、早期に炎症を抑える治療が重要なのです。
- お風呂に入っても良いですか?
-
痛みが強い時期や熱がある場合は体を休めることを優先し、入浴は控えた方が良いでしょう。
症状が落ち着いてきたら、入浴は可能です。ただし、患部をゴシゴシこすらず、石鹸をよく泡立てて優しく洗い、シャワーで十分にすすいでください。
また、家族への感染を防ぐため、タオルの共用は避けましょう。
- 帯状疱疹は再発しますか?
-
一度かかった後も再び免疫力が低下すると再発する可能性があります。ただし、頻度はそれほど高くなく、生涯に一度しか経験しない人がほとんどです。
再発を予防するためには日頃からバランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、免疫力を高く保つことが大切です。
また、50歳以上の方は帯状疱疹ワクチンを接種することで、発症リスクを大幅に下げることができます。
以上
参考文献
HAUBER, Brett, et al. Using patient preference to inform ritlecitinib dose selection for alopecia areata treatment. The Journal of Dermatology, 2025, 52.3: 510-514.
TRÜEB, Ralph M.; DUTRA REZENDE, Hudson. Viral Diseases of the Hair and Scalp. In: Hair in Infectious Disease: Recognition, Treatment, and Prevention. Cham: Springer International Publishing, 2023. p. 219-260.
HOSKING, Anna-Marie; JUHÁSZ, Margit; MESINKOVSKA, Natasha Atanaskova. Suspected herpes zoster-associated encephalitis during treatment with oral tofacitinib in alopecia universalis. International Journal of Trichology, 2018, 10.6: 286-288.
ABLON, Glynis. What’s Stressing Your Face: A Doctor’s Guide to Proactive Aging and Healing: Rosacea, Hair Loss, Psoriasis, Shingles and Other Facial Conditions. Turner Publishing Company, 2015.
MUIRHEAD, GREG. Common dermatologic problems in people of color. Patient Care, 1999, 33.20: 97-97.