シェーグレン症候群による脱毛症状と治療アプローチ

シェーグレン症候群と診断され、目の乾きや口の渇きといった症状と向き合う中で、「最近、髪の毛が抜けやすくなった」「髪質が変わった気がする」といった、髪に関する新たな悩みを抱えていませんか。

全身性の自己免疫疾患であるシェーグレン症候群は腺症状だけでなく、皮膚や髪の毛にも影響を及ぼすことがあります。

この記事ではシェーグレン症候群がなぜ脱毛を引き起こすのか、その特徴と原疾患の治療と並行して行える専門的な脱毛治療のアプローチについて詳しく解説します。

シェーグレン症候群とは – 全身の潤いが奪われる疾患

まず、脱毛症状の背景にあるシェーグレン症候群がどのような疾患なのか基本的な知識を整理しましょう。正しく理解することが、ご自身の状態と向き合う第一歩です。

涙腺や唾液腺が標的になる自己免疫疾患

シェーグレン症候群は主に涙腺や唾液腺といった、体を潤す働きを持つ外分泌腺が自身の免疫細胞によって攻撃を受けてしまう自己免疫疾患です。

このことにより涙や唾液の分泌が減少し、「ドライアイ」や「ドライマウス」といった代表的な症状が現れます。

中年以降の女性に発症することが多いとされています。

腺症状と腺外症状

シェーグレン症候群の症状は目や口の乾燥といった「腺症状」だけにとどまりません。

免疫の異常な働きが全身に及ぶことで関節痛、皮疹、そして脱毛といった「腺外症状」が現れることがあります。脱毛は、この腺外症状の一つに分類されます。

シェーグレン症候群の主な症状

分類	主な症状	影響を受ける部位
腺症状	ドライアイ、ドライマウス	涙腺、唾液腺など
腺外症状	関節痛、皮疹、疲労感、脱毛	関節、皮膚、腎臓、肺、毛包など

他の膠原病との合併

シェーグレン症候群は単独で発症する場合（一次性）と、関節リウマチなどの他の膠原病に合併して発症する場合（二次性）があります。

他の膠原病を合併している場合、その疾患や治療薬が脱毛に影響を与えることもあるため、総合的な視点での診断が重要です。

なぜシェーグレン症候群で髪の毛が抜けるのか

全身の乾燥を引き起こすシェーグレン症候群がどのようにして髪の毛に影響を与えるのでしょうか。考えられるいくつかの要因を解説します。

頭皮の乾燥による毛髪環境の悪化

涙腺や唾液腺だけでなく、皮膚にある皮脂腺や汗腺の働きも低下することがあります。このため頭皮が乾燥しやすくなり、フケやかゆみといったトラブルを招きます。

健康な髪が育つための土壌である頭皮環境が悪化することで、髪が細くなったり抜けやすくなったりします。

自己免疫反応による毛包への影響

シェーグレン症候群の根本原因である自己免疫反応が髪の毛を作り出す器官である「毛包」を直接攻撃してしまう可能性が指摘されています。

免疫細胞が毛包を異物とみなして攻撃すると毛包が炎症を起こし、正常なヘアサイクルを維持できなくなって脱毛に至ります。

全身の血行不良と栄養不足

自己免疫疾患による慢性的な炎症は全身の血流にも影響を与えることがあります。頭皮の血行が悪くなると、髪の成長に必要な栄養素が毛根まで十分に行き渡らなくなります。

栄養不足に陥った毛根は健康で太い髪の毛を作ることができず、結果として細く弱い髪が増え、抜け毛につながります。

脱毛を引き起こす複合的な要因

要因	髪への影響	具体的な状態
頭皮の乾燥	髪が育つ土壌の悪化	フケ、かゆみ、炎症
自己免疫	毛包への直接的な攻撃	ヘアサイクルの乱れ
血行不良	毛根への栄養供給低下	髪の菲薄化（細くなる）

シェーグレン症候群による脱毛の特徴的なサイン

シェーグレン症候群が原因で起こる脱毛にはいくつかの特徴が見られます。一般的な男性型脱毛症（AGA）などとの違いを知っておきましょう。

びまん性脱毛という抜け方

シェーグレン症候群による脱毛はAGAのように生え際や頭頂部など特定の部分だけが薄くなるのではなく、頭部全体の髪が均一に、まばらに抜けていく「びまん性脱毛」という特徴を示すことが多いです。

そのため、初期段階ではボリュームダウンとして自覚されることがよくあります。

髪質の変化を伴うこと

脱毛だけでなく、髪質そのものの変化を感じる方も少なくありません。頭皮の乾燥や栄養不足により、髪がパサつく、ツヤがなくなる、細く弱々しくなるといった変化です。

以前と比べて髪のまとまりが悪くなったと感じる場合は注意が必要です。

脱毛タイプによる特徴の違い

項目	シェーグレン症候群による脱毛	AGA（男性型脱毛症）
抜け方	頭部全体の髪がまばらに抜ける	生え際や頭頂部が局所的に薄くなる
髪質の変化	乾燥、パサつき、ツヤの低下を伴うことが多い	髪が細く短くなる（軟毛化）
主な対象	中年の女性に多い	思春期以降の男性に多い

他の皮膚症状との関連

シェーグレン症候群では頭皮だけでなく、全身の皮膚に乾燥症状（ドライスキン）が現れることがあります。

腕や脚などがカサカサする、かゆみがあるといった症状と脱毛が同時に見られる場合は関連性を疑う一つの手がかりになります。

「髪も乾く」という感覚 – 全身の乾燥と脱毛のつながり

「目が乾く、口が渇く、そして肌も髪も乾く」。シェーグレン症候群の患者様が抱えるこの感覚は決して気のせいではありません。

脱毛を体からの「潤い不足」のサインとして捉え直すことで、ご自身の状態への理解が深まります。

脱毛を孤立した悩みと考えない

多くの情報サイトではドライアイ、ドライマウス、そして脱毛を別々の症状として解説します。

しかし患者様の体の中で起きていることは一つ、つまり「全身性の自己免疫反応とそれに伴う乾燥」です。

髪の毛の悩みもその全体像の一部なのです。目が乾くのと同じ理屈で、髪を育む頭皮もまた潤いを失い、正常な機能を保てなくなっていると考えることができます。

潤い不足がもたらす全身への影響

私たちの体は様々な「潤い」によって守られています。涙は眼球を、唾液は口腔内を、そして皮脂は皮膚や頭皮を保護しています。

シェーグレン症候群は、この全身のバリア機能を低下させる疾患です。髪のパサつきや抜け毛は、そのバリア機能低下が頭皮に現れた結果と言えるでしょう。

全身の乾燥症状とその関連性

部位	代表的な症状	髪への間接的な影響
目	ドライアイ（乾燥性角結膜炎）	全身の炎症や免疫異常が 毛包機能に影響を与える
口	ドライマウス（口腔乾燥症）
皮膚	ドライスキン（皮脂欠乏症）

あなたの悩みに寄り添う視点

私たちは脱毛を単なる容姿の問題としてではなく、シェーグレン症候群という全身疾患の一症状として捉えます。

そのため原疾患の状態、服用中のお薬、そして乾燥や関節痛といった他の症状との関連性を常に考慮しながら治療方針を考えます。

あなたの「髪も乾く」という感覚に共感し、全身の状態を見据えた上で最適なヘアケアと治療を提案することが、私たちの役割です。

受診すべき診療科と診断までの流れ

シェーグレン症候群に関連する脱毛の悩みは、複数の診療科が関わることがあります。適切な医療機関にかかるためのポイントを解説します。

まずは膠原病内科・リウマチ科へ

シェーグレン症候群の診断と治療の基本は膠原病内科やリウマチ科が担当します。

乾燥症状や関節痛など全身の症状を総合的に診察し、必要な検査を行って診断を確定させ、原疾患に対する治療方針を決定します。

皮膚科での診断

脱毛や皮疹といった皮膚症状が強い場合は、皮膚科の受診も有効です。皮膚科では、頭皮の状態を詳細に観察し、脱毛がシェーグレン症候群によるものか、あるいは他の皮膚疾患（円形脱毛症など）が合併していないかを鑑別します。

薄毛専門クリニックの役割

膠原病内科や皮膚科で原疾患の治療を行いつつ、より積極的に脱毛症状の改善を目指したい場合に薄毛専門クリニックが力を発揮します。

原疾患の治療に影響を与えない範囲で発毛を促進するための専門的な治療や、頭皮環境を改善するためのケアを提案します。

診療科ごとの役割分担

診療科	主な役割	治療の焦点
膠原病内科・リウマチ科	原疾患の確定診断と全身管理	免疫抑制、炎症のコントロール
皮膚科	脱毛や皮膚症状の診断と治療	頭皮の炎症を抑える外用薬など
薄毛専門クリニック	発毛促進と頭皮環境改善	ミノキシジル外用、栄養指導など

病院で行われるシェーグレン症候群と脱毛への治療

シェーグレン症候群による脱毛治療は原疾患のコントロールを基本としながら脱毛症状に直接アプローチする方法を組み合わせて行います。

原疾患（シェーグレン症候群）の治療

中心となるのは病気の活動性をコントロールするための治療です。

対症療法として乾燥症状を和らげる点眼薬や人工唾液を使用するほか、病気の活動性が高い場合にはステロイドや免疫抑制薬を用いて全身の炎症や免疫反応を抑えます。

薬剤性の脱毛に注意

治療に用いる薬剤、特に一部の免疫抑制薬などは副作用として脱毛を引き起こすことがあります。

治療開始後に抜け毛が増えた場合は自己判断で服薬を中止せず、必ず主治医に相談してください。薬剤の変更などを検討することがあります。

脱毛の可能性がある主な治療薬

• 一部の免疫抑制薬
• 非ステロイド性抗炎症薬（NSAIDs）
• インターフェロン製剤

脱毛症状に対する直接的なアプローチ

原疾患の治療と並行して頭皮の血行を促進し、毛母細胞を活性化させることで発毛を促す治療を行います。

代表的なものにミノキシジルという成分を含んだ外用薬があります。ミノキシジルは日本皮膚科学会のガイドラインでも推奨されている発毛成分です。

脱毛症状を緩和するための日常的なセルフケア

治療と合わせて、日々の生活習慣やヘアケアを見直すことも、健やかな髪を保つためにはとても重要です。

頭皮の保湿を意識したヘアケア

乾燥しがちな頭皮をさらに乾燥させるようなケアは避けましょう。洗浄力の強すぎるシャンプーは控え、アミノ酸系などのマイルドな洗浄成分のものを選びます。

また、セラミドやヒアルロン酸といった保湿成分が配合された頭皮用のローションや美容液を使用するのも効果的です。

ヘアケアのポイント

項目	推奨されるケア	避けるべきケア
シャンプー	アミノ酸系などの低刺激な製品	洗浄力の強い高級アルコール系
洗髪	ぬるま湯で優しく洗う	熱いお湯、爪を立てて洗う
ドライヤー	頭皮から優しく乾かす	自然乾燥、熱風の当てすぎ

バランスの取れた食事と栄養

髪の毛はタンパク質からできています。

肉、魚、大豆製品などから良質なタンパク質を摂取するとともに、その働きを助ける亜鉛や頭皮の健康を保つビタミン類もバランス良く摂ることが大切です。

紫外線対策と物理的刺激からの保護

紫外線は頭皮の乾燥や炎症を悪化させる原因になります。外出時には帽子や日傘を活用して、頭皮を紫外線から守りましょう。

また、きつく髪を縛るようなヘアスタイルは毛根に負担をかけるため避けるのが賢明です。

よくある質問

シェーグレン症候群と脱毛に関して、患者様からよくいただく質問とその回答をまとめました。

シェーグレン症候群が治れば髪は元に戻りますか

シェーグレン症候群は現在の医療では完治が難しいとされる疾患ですが、適切な治療で病気の活動性をコントロールすることは可能です。

原疾患の状態が安定し、頭皮環境が改善すれば脱毛症状が軽快し、再び健康な髪が生えてくる可能性は十分にあります。

諦めずに根気よく治療を続けることが重要です。

脱毛の治療は保険適用になりますか

シェーグレン症候群自体の診察や検査、治療薬（ステロイドや免疫抑制薬など）は保険適用となります。

脱毛症状に対して皮膚科で処方される外用薬なども一部は保険適用です。

ただし、薄毛専門クリニックで行うミノキシジル外用薬の処方や、より専門的な治療の多くは自費診療となります。

保険適用と自費診療の例

項目	保険適用	自費診療
原疾患の診察・検査	○
ステロイド外用薬など	○
ミノキシジル外用薬など		○

男性でもシェーグレン症候群で脱毛しますか

はい、シェーグレン症候群は女性に多い疾患ですが、男性が発症することもあります。

男性の場合、シェーグレン症候群による脱毛と、一般的な男性型脱毛症（AGA）が合併している可能性も考えます。

両者の特徴を正しく見極め、それぞれに合ったアプローチを行うことが大切です。

専門クリニックではこうした複合的な原因を持つ脱毛にも対応します。

日常生活で最も気をつけるべきことは何ですか

第一に膠原病内科の主治医の指示に従い、原疾患の治療をきちんと続けることです。

その上で心身のストレスを溜めないよう、十分な休息とバランスの取れた食事を心がけることが免疫の安定と健やかな髪の維持につながります。

乾燥対策と紫外線対策も日常生活で意識して行いましょう。

以上

参考文献

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