睡眠不足は髪の成長に必要なホルモンの分泌を妨げ、頭皮の血行不良を引き起こすことで、薄毛の進行リスクを高める大きな要因となります。
多くの人が日々の忙しさから睡眠時間を削ってしまいがちですが、髪の毛は寝ている間に作られ、ダメージから回復します。
睡眠不足が続くと毛母細胞の分裂が滞るだけでなく、自律神経の乱れにより頭皮環境が悪化し、AGA(男性型脱毛症)の影響を加速させる可能性すらあります。
この記事では、なぜ睡眠不足がはげにつながるのか、その理由を深く掘り下げるとともに、今日から実践できる具体的な生活習慣の改善策を詳しく解説します。
質の高い睡眠を手に入れ、健やかな髪を育てるための知識を持ち帰ってください。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
睡眠不足がはげを進行させる理由
睡眠不足が慢性化すると、髪の成長に必要不可欠な成長ホルモンの分泌量が激減し、薄毛の進行を早める直接的な原因となります。
髪の毛は24時間常に伸び続けているわけではなく、特定の時間帯や体の状態に合わせて集中的に成長します。
特に睡眠中は日中に受けた紫外線や摩擦などのダメージを修復し、新しい細胞を生み出すための重要な時間です。
この休息時間が十分に確保できない場合、体は生命維持に直接関わらない髪の毛へのエネルギー供給を後回しにします。結果として、髪は細く弱くなり、抜け毛が増加する事態を招きます。
ここでは、睡眠不足が具体的にどのような経路で薄毛を引き起こすのか、体内で起こる変化を中心に解説します。
成長ホルモンの分泌低下と髪への影響
髪の成長において最も重要な役割を果たすのが成長ホルモンです。このホルモンは「天然の美容液」とも呼ばれ、入眠直後の深い眠りの間に最も多く分泌します。
成長ホルモンにはタンパク質の合成を促し、組織の修復を行う働きがあります。毛髪の主成分であるケラチンというタンパク質が合成する際にも、この成長ホルモンの働きが欠かせません。
成長ホルモンは、肝臓に働きかけて「IGF-1(インスリン様成長因子-1)」という物質を生成させます。このIGF-1こそが毛根にある毛母細胞に直接働きかけ、細胞分裂を促す強力な司令塔の役割を果たします。
睡眠時間が短い、あるいは睡眠が浅い状態が続くと成長ホルモンの分泌量が低下し、それに伴ってIGF-1の生成量も減少します。
指令を受け取れなくなった毛母細胞は活動を低下させ、髪の成長速度が遅くなったり、太く育つ前に抜け落ちたりするようになります。
ホルモン分泌と睡眠深度の関係
| 睡眠の状態 | 成長ホルモン分泌量 | 髪への影響度 |
|---|---|---|
| 深い睡眠(徐波睡眠) | 最大 | 細胞分裂が活発化し育毛促進 |
| 浅い睡眠(レム睡眠) | 少量 | 維持・修復活動が停滞気味 |
| 覚醒・極度の睡眠不足 | ほぼ無し | 成長阻害・脱毛リスク増大 |
深い眠りに入ることができないと、どれだけ長く布団に入っていても、髪の成長に必要なホルモンの恩恵を十分に受けることはできません。
髪を太く長く育てるためには、睡眠の「量」だけでなく「深さ」を確保することが重要です。
自律神経の乱れによる血行不良
睡眠不足は自律神経のバランスを崩し、交感神経が優位な状態を長く続かせることで、頭皮の血行不良を引き起こします。
自律神経には体を活動モードにする「交感神経」と、休息モードにする「副交感神経」の2つがあります。
通常、夜間は副交感神経が優位になり、血管が拡張して全身の血流が良くなりますが、睡眠不足の状態では体が常に緊張状態にあるため、交感神経が刺激し続けます。
交感神経が過剰に働くと血管が収縮し、血液の流れが悪くなります。髪の毛を作るための栄養や酸素は、すべて血液によって毛根まで運ばれます。
頭皮の血管は体の末端にあるため、血行不良の影響を真っ先に受けやすい箇所です。血流が滞ると、せっかく食事で栄養を摂取しても、それが毛母細胞まで届かず、栄養不足による抜け毛や薄毛の原因となります。
慢性的な寝不足は、頭皮を砂漠化させ、髪が育たない土壌を作ってしまうのです。
亜鉛などの栄養素の消費
睡眠不足は体にとって大きなストレスとなり、そのストレスに対抗するために髪の成長に必要な亜鉛などのミネラルやビタミンを大量に消費します。
体はストレスを感じると抗ストレスホルモンを分泌して防御しようとしますが、この生成過程で体内の亜鉛やビタミンCなどが使われます。
亜鉛は、食事から摂ったタンパク質を髪の成分であるケラチンに再合成する際に必要となる助酵素です。亜鉛が不足すると、正常なケラチンの合成が行われず、髪の質が悪化します。
また、亜鉛には抜け毛の原因物質である5αリダクターゼの働きを抑制する効果もあると考えられていますが、睡眠不足による過剰消費で亜鉛が枯渇すると、この抑制効果も期待できなくなります。
つまり、寝不足は栄養素の運搬を妨げるだけでなく、重要な栄養素そのものを浪費させ、二重の意味で髪に悪影響を及ぼすのです。
質の良い睡眠と髪の成長サイクル
質の良い睡眠をとることは、乱れたヘアサイクル(毛周期)を正常に戻し、太く強い髪を育てるための土台作りとなります。
ヘアサイクルには、髪が伸びる「成長期」、成長が止まる「退行期」、髪が抜けて次の準備をする「休止期」があります。
AGAや薄毛に悩む人の多くは、この成長期が極端に短くなり、髪が十分に育つ前に抜けてしまう現象が起きています。
睡眠は、このサイクルを調整する体内時計をリセットし、自律神経やホルモンバランスを整えることで、成長期を長く維持する手助けをします。
単に体を休めるだけでなく、髪の工場である毛根をフル稼働させるためのメンテナンス時間が睡眠なのです。
毛母細胞の活動時間帯
毛母細胞の細胞分裂は副交感神経が優位になり、体がリラックスしている夜間に最も活発になります。
日中は活動のために血液が筋肉や脳に集中しますが、夜間、特に就寝中は骨格筋への血流が減り、皮膚や消化器系への血流が相対的に安定します。
このタイミングで毛母細胞は血液から栄養を受け取り、活発に分裂を繰り返します。
特に重要なのは、入眠から約3時間の間に訪れる深いノンレム睡眠の時間帯です。この時間帯に成長ホルモンが集中して分泌し、毛母細胞の活動をピークに押し上げます。
逆に、この時間帯に起きている、あるいは眠りが浅いと毛母細胞は十分な分裂活動を行えず、髪の製造ラインがストップしてしまいます。
髪を伸ばすためには、この「活動のゴールデンタイム」に合わせて深く眠っていることが必要です。
レム睡眠とノンレム睡眠のバランス
良質な睡眠とは、脳を休める「ノンレム睡眠」と、体を休めて脳が情報整理を行う「レム睡眠」が適切なリズムで繰り返す状態を指します。
入眠直後に最も深いノンレム睡眠が現れ、その後約90分の周期でレム睡眠とノンレム睡眠が交互に訪れます。
髪の成長にとっては最初の深いノンレム睡眠で成長ホルモンを出し、その後のサイクルで自律神経を整えることが大切です。
レム睡眠中は筋肉が弛緩し、血流が体の隅々まで行き渡りやすくなります。一方で、ノンレム睡眠中は脳の休息とともにホルモン分泌が活発化します。
この両方のバランスが取れていることで、初めて「修復」と「成長」のプロセスが完結します。
頻繁に目が覚めたり、夢ばかり見て眠った気がしない状態は、このリズムが崩れており、髪の成長に必要な一連の生理機能が正常に働いていない証拠です。
ターンオーバーの正常化
質の良い睡眠は頭皮の皮膚代謝(ターンオーバー)を正常化し、健康な髪が育つための頭皮環境を整えます。
頭皮も顔の肌と同様に、一定のサイクルで古い角質が剥がれ落ち、新しい皮膚へと生まれ変わります。このターンオーバーが乱れると、古い角質が毛穴を塞いだり、頭皮が硬くなって血行を阻害したりします。
睡眠中に分泌する成長ホルモンは、頭皮の基底層にある細胞の分裂も促進します。これにより、ターンオーバーの周期が整い、潤いのある柔軟な頭皮が保たれます。
健康な頭皮は、髪をしっかりと支える土台となり、抜け毛を防ぐ力も強くなります。
睡眠不足によるターンオーバーの遅れは、フケやかゆみの原因になるだけでなく、毛穴の詰まりを引き起こし、髪の成長を物理的に妨げる要因にもなり得ます。
寝不足が引き起こす頭皮環境の悪化
慢性的な寝不足は皮脂の過剰分泌や炎症を引き起こし、頭皮環境を劇的に悪化させる要因となります。睡眠が足りていない朝、顔が脂っぽくなっている経験をしたことがある方も多いでしょう。
これと同じ現象が頭皮でも起きています。頭皮の状態が悪化すれば、どれだけ高価な育毛剤を使っても、その成分が浸透せず、効果を発揮することはできません。
健康な髪は健康な頭皮からしか生まれません。寝不足は、その土台を破壊する行為に他ならないのです。
皮脂過剰分泌のリスク
睡眠不足は交感神経を刺激し、男性ホルモンの働きを活性化させることで、皮脂腺からの皮脂分泌を過剰にします。
適度な皮脂は頭皮を守るバリアとして機能しますが、過剰な皮脂は酸化して過酸化脂質となり、毛穴を詰まらせたり、毛根にダメージを与えたりします。
特にAGAの懸念がある場合、皮脂の中に含まれる酵素と男性ホルモンが結びつきやすくなり、薄毛の原因物質の生成を助長する恐れもあります。
寝不足が続くと肌がベタつくのは、体がストレス反応として皮脂を出しているサインです。この状態を放置すると脂漏性皮膚炎などのトラブルに発展し、抜け毛がさらに加速する悪循環に陥ります。
頭皮の炎症とフケの発生
十分な睡眠がとれないと免疫機能が低下し、頭皮の常在菌バランスが崩れて炎症やフケが発生しやすくなります。
頭皮にはマラセチア菌などの常在菌が存在しますが、皮脂が過剰になったり、免疫力が落ちたりすると、これらの菌が異常繁殖します。
菌が皮脂を分解する際に出す脂肪酸は頭皮を刺激し、赤みやかゆみを引き起こします。
頭皮トラブルと睡眠不足の関連性
| 症状 | 発生メカニズム | 髪への影響 |
|---|---|---|
| 赤み・炎症 | 免疫力低下による常在菌の異常繁殖 | 毛根が弱り抜け毛が増加 |
| 脂性フケ | 皮脂過剰と酸化による刺激 | 毛穴を塞ぎ成長を阻害 |
| 乾燥・かゆみ | ターンオーバーの乱れによるバリア機能低下 | 掻きむしりによる物理的脱毛 |
炎症を起こした頭皮は髪を保持する力が弱まり、少しの刺激でも髪が抜けやすくなります。また、炎症自体が毛母細胞への攻撃信号となり、ヘアサイクルを強制的に休止期へと追いやることもあります。
酸化ストレスの増加
睡眠不足は体内の活性酸素を増やし、頭皮や毛根細胞に酸化ストレスを与えて老化を早めます。
活性酸素は細胞をサビさせる物質であり、通常は寝ている間に体内の抗酸化酵素によって除去します。しかし、睡眠時間が短いと活性酸素の除去が追いつかず、体内に蓄積していきます。
頭皮の細胞が酸化するとコラーゲンが破壊して弾力を失い、硬くなります。硬い頭皮は血流が悪く、毛根への栄養供給が断たれます。
また、毛母細胞自体のDNAが活性酸素によって損傷すると、正常な細胞分裂ができなくなり、白髪や薄毛の原因となります。
若々しい髪を保つためには、睡眠によってその日のうちに酸化ストレスをリセットすることが重要です。
はげ対策に効果的な睡眠習慣の整え方
薄毛対策としての睡眠は単に長時間眠るだけでなく、毎日決まったリズムで質の高い休息をとる習慣を確立することが成功の鍵です。
不規則な生活は体内時計を狂わせ、ホルモン分泌のタイミングを逸してしまいます。「週末に寝だめする」といった方法は、髪の成長にとってはあまり効果がありません。
ここでは、髪の成長を最大化するために、今日から意識すべき具体的な睡眠習慣の整え方を紹介します。
入眠時間を一定にする重要性
毎日同じ時間にベッドに入ることは体内時計を整え、スムーズな入眠とホルモン分泌を促すために最も効果的な方法です。
体は習慣を記憶します。毎日同じ時間に就寝準備を始めることで、脳は「もうすぐ寝る時間だ」と認識し、自然と眠気をもたらすホルモンであるメラトニンの分泌を開始します。
入眠時間がバラバラだと体はいつ休息モードに入ってよいかわからず、深い睡眠に入るまでの時間が長くなったり、睡眠の質が低下したりします。
特に平日は早起きし、休日は昼まで寝ているといった「社会的時差ボケ」は、自律神経を大きく乱します。
休日であっても平日との起床時間のズレは2時間以内に収め、就寝時間も大きく変えないことが、髪のためには大切です。
睡眠のゴールデンタイムの真実
かつて「22時から2時が睡眠のゴールデンタイム」と言われていましたが、現代の医学では「入眠後の最初の3時間」こそが真のゴールデンタイムであるとされています。
特定の時刻に寝ていることよりも、眠り始めてからいかに早く深いノンレム睡眠に到達できるかが重要です。
早寝早起きは健康的ですが、仕事などで22時に寝るのが不可能な人も多いはずです。たとえ就寝が深夜0時や1時になったとしても、入眠直後に深く眠ることができれば、成長ホルモンはしっかりと分泌します。
重要なのは「何時に寝るか」という時刻への強迫観念を捨て、「いかに最初の90分〜180分を深く眠るか」に注力することです。そのためには、就寝前のリラックスや環境づくりが鍵となります。
起床後の日光浴効果
朝起きてすぐに太陽の光を浴びることは体内時計をリセットし、夜の良質な睡眠を予約するためのスイッチとなります。
日光を浴びると、脳内で「セロトニン」という神経伝達物質が分泌します。このセロトニンは精神を安定させる働きがあるほか、夜になると睡眠ホルモンである「メラトニン」へと変化します。
つまり、朝のセロトニン分泌量が多ければ多いほど、夜のメラトニン生成量も増え、自然と深い眠りにつけるようになります。
曇りの日でも窓際で光を感じるだけで効果があります。起きたらまずカーテンを開け、15分程度の日光浴や部屋の明るさを確保する習慣をつけましょう。これが夜間の髪の成長を支える準備となります。
寝る前のブルーライト対策
就寝直前までスマートフォンやパソコンの画面を見ているとブルーライトの影響で脳が覚醒し、睡眠の質が著しく低下します。
ブルーライトは太陽光に近い波長を持っており、夜にこれを浴びると脳は「まだ昼間だ」と勘違いしてしまいます。その結果、メラトニンの分泌が抑制し、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
- 就寝の1時間前にはスマホやPCの操作を控える
- スマホの画面設定を「ナイトモード」や「ブルーライトカット」にする
- 寝室の照明を暖色系(オレンジ色)の暗めなものに切り替える
これらの対策を行うことで、脳を自然な休息モードへと導くことができます。髪のためには寝る前のSNSチェックよりも、目を休めてリラックスする時間を優先してください。
睡眠の質を高めるための寝室環境づくり
寝室の環境を見直すことは、努力なしに睡眠の質を底上げできる効率的な薄毛対策となります。
自分では快適だと思っていても、室温や光、寝具の状態が体にストレスを与え、無意識のうちに覚醒を促しているケースが多々あります。
寝ている間は無防備だからこそ、環境が全てを左右します。髪の成長に最適な「熟睡できる空間」を作るためのポイントを解説します。
室温と湿度の適切な管理
深部体温(体の中心の温度)がスムーズに下がることで、人は深い眠りにつくことができます。そのためには寝室の温度と湿度が適切でなければなりません。
暑すぎて汗をかいたり、寒すぎて体が緊張したりすると、交感神経が働いて目が覚めてしまいます。
快眠のための環境基準
| 項目 | 推奨基準(夏) | 推奨基準(冬) |
|---|---|---|
| 室温 | 25℃〜26℃ | 20℃〜22℃ |
| 湿度 | 50%〜60% | 50%〜60% |
| 寝具内温度 | 33℃前後 | 33℃前後 |
エアコンや加湿器を上手に活用し、年間を通じて快適な数値を保つことが大切です。特に冬場の乾燥は喉を痛めるだけでなく、頭皮の乾燥にもつながるため、加湿は必須です。
タイマー機能を使い、朝まで快適な温度が続くように、あるいは入眠時に適温になるように調整しましょう。
枕やマットレスの選び方
自分の体型に合わない枕やマットレスを使っていると、首や肩の筋肉が緊張し、血流が悪化することで頭皮への栄養供給が阻害します。
特に枕の高さは重要です。高すぎる枕は首が圧迫して気道を狭め、いびきの原因にもなります。いびきは睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害につながり、慢性的な酸素不足を引き起こします。
理想的な寝具は、立っている時の自然な姿勢を寝ている時も保てるものです。マットレスは体が沈み込みすぎず、適度な反発力で寝返りをサポートするものが望ましいです。
寝返りは血液循環を良くし、体温調整をするために必要な行為です。朝起きた時に首や腰に痛みを感じる場合は、寝具が合っていない可能性が高いため、見直しを検討してください。
照明と遮光カーテンの活用
睡眠中の光は微弱なものであっても脳を刺激し、睡眠の質を下げてしまいます。寝室は基本的に「真っ暗」が理想です。
豆電球のような小さな明かりでも、メラトニンの分泌を妨げるという研究結果もあります。街灯の光が窓から入ってくる場合は、遮光等級の高いカーテンを使用して光を遮断しましょう。
逆に、朝は光を浴びることが重要なので、起床時刻に合わせて自動で開くカーテンや、徐々に明るくなる光目覚まし時計などを活用するのも有効です。
夜は闇を作り、朝は光を取り入れる。このメリハリが自律神経を整え、髪によいホルモンバランスを作ります。
食事と入浴で睡眠の質をサポートする
毎日の食事や入浴のタイミングを調整するだけで睡眠の質は劇的に向上し、結果として髪の成長を強力にバックアップします。
体に入れるものや、体を温めるタイミングは、生理学的に睡眠メカニズムと密接に関わっています。
サプリメントや育毛剤に頼る前に、まずは基本的な生活リズムの中に「快眠への仕掛け」を組み込むことが大切です。
夕食のタイミングと消化への影響
就寝直前に食事を摂ると胃腸が消化活動のために活発に動き続け、深部体温が下がりにくくなるため、深い睡眠の妨げとなります。
消化には通常3時間程度かかります。胃の中に食べ物が残った状態で眠ると、体は休息よりも消化を優先せざるを得ず、成長ホルモンの分泌よりも内臓の活動にエネルギーが使われてしまいます。
理想は就寝の3時間前までに夕食を済ませることです。仕事などでどうしても遅くなる場合は、うどんやおかゆなど消化の良いものを選び、脂っこい食事は避けましょう。
空腹すぎて眠れないのもストレスになるため、少量のホットミルクなどを飲むのは有効ですが、満腹状態でベッドに入るのは避けてください。
トリプトファンを含む食材の摂取
睡眠ホルモンであるメラトニンの材料となる「トリプトファン」を多く含む食材を、朝食や昼食に積極的に摂ることが推奨されます。
トリプトファンは体内では生成できない必須アミノ酸の一つで、食事から摂取する必要があります。摂取したトリプトファンは、日中に「セロトニン」に変わり、夜になると「メラトニン」へと変化します。
トリプトファンを多く含む主な食材
| 食材カテゴリ | 具体的な食材例 |
|---|---|
| 乳製品 | 牛乳、チーズ、ヨーグルト |
| 大豆製品 | 納豆、豆腐、味噌、豆乳 |
| その他 | バナナ、卵、ナッツ類、赤身魚 |
トリプトファンからメラトニンに変換されるまでには十数時間かかると言われています。そのため夕食で摂るよりも、朝食で納豆や卵、バナナなどを食べる方がその日の夜の睡眠にとって効率的です。
入浴による深部体温の調整
入浴は深部体温を一時的に上げ、その後の急激な体温低下を利用して眠気を誘う最強のスイッチです。
人は深部体温が下がるタイミングで強い眠気を感じます。就寝の約90分前にお風呂に入り、湯船に浸かって体の芯まで温めることが大切です。
お湯の温度は38℃〜40℃のぬるめが適しています。熱すぎるお湯(42℃以上)は交感神経を刺激して目を覚ましてしまうため、逆効果です。
ぬるめのお湯に15分〜20分ほど浸かることで副交感神経が優位になり、リラックス状態になります。入浴後は徐々に体温が放熱し、布団に入る頃には自然と入眠しやすい状態が整います。
シャワーだけで済ませず、湯船に浸かる習慣は頭皮の血行促進と快眠の両方に効果的です。
ストレス管理と睡眠不足の悪循環を断つ
ストレスと睡眠不足は互いに原因と結果になりながら悪循環を生み出し、その結果として髪を蝕んでいきます。
はげを気にするあまり、それがストレスとなり、眠れなくなり、さらに薄毛が進行するという負のスパイラルに陥る人も少なくありません。
この連鎖を断ち切るためには意識的にリラックスする時間を持ち、副交感神経を優位にする工夫が必要です。メンタルケアもまた、立派な薄毛対策の一つです。
ストレスが睡眠を妨げる要因
精神的なストレスや不安を感じていると脳が興奮状態になり、交感神経が鎮まりません。布団に入っても日中の嫌な出来事を反芻したり、明日の仕事の段取りを考えたりしてしまうと、脳は覚醒し続けます。
また、「早く寝なければならない」というプレッシャー自体がストレスとなり、余計に目が冴えてしまうこともあります。
ストレスがかかると、体内でコルチゾールというホルモンが分泌します。コルチゾールは覚醒作用があるため、夜間に高い値を示していると眠ることができません。
また、コルチゾールは血管を収縮させたり、コラーゲンの生成を阻害したりする作用もあり、頭皮環境にも悪影響を与えます。
リラックス効果のあるストレッチ
寝る前の軽いストレッチは筋肉の緊張をほぐし、血流を良くすることでリラックス効果をもたらします。
特にデスクワークなどで固まりやすい首、肩、背中の筋肉をほぐすことは、頭皮への血流改善にも直結します。
激しい運動は交感神経を刺激してしまうため、深呼吸をしながらゆっくりと伸ばす静的なストレッチを行いましょう。
- 首をゆっくりと前後左右に回す
- 肩甲骨を寄せるように肩を回す
- 仰向けになり、手足の力を抜いて脱力する
これらの動作を照明を落とした部屋で行うことで、心身ともに「お休みモード」へと切り替わります。
副交感神経を優位にする方法
ストレッチ以外にも、五感を使って副交感神経を優位にする方法はいくつかあります。例えばアロマテラピーを活用し、ラベンダーやベルガモットなど鎮静作用のある香りを寝室に漂わせるのも効果的です。
また、ヒーリングミュージックや川のせせらぎなどの自然音を小さな音量で流すことも、脳波をα波(リラックス状態)に導く助けとなります。
重要なのは、自分が「心地よい」と感じる方法を見つけることです。無理に何かを行うのではなく、自分なりの入眠儀式(ルーティン)を作り、それを毎晩繰り返すことで条件反射的に眠れるようになります。
心の緊張を解くことが、頭皮の緊張を解き、健やかな髪を育てる近道となります。
薄毛対策・生活習慣に戻る
よくある質問
睡眠と薄毛の関係について、多くの方が抱く疑問にお答えします。正しい知識を持って対策を継続しましょう。
- 毎日の睡眠時間が短くても質が良ければ問題ありませんか?
-
質は非常に重要ですが、時間もある程度は必要です。成長ホルモンの分泌や体の修復には物理的な時間が必要です。
個人差はありますが、髪の成長と健康維持のためには、最低でも6時間程度の睡眠時間を確保することをおすすめします。
短時間睡眠が続くと、やはり疲労やダメージの回復が追いつかないリスクが高まります。
- 寝る向きは髪の成長に関係しますか?
-
直接的な関係はありませんが、同じ向きでばかり寝ていると、枕と接している部分の頭皮が圧迫し、局所的な血行不良や摩擦ダメージが生じる可能性はあります。
スムーズに寝返りが打てる枕やマットレスを使用し、特定の箇所に負担がかかり続けないようにすることが大切です。
- 昼寝をすることは髪に良いですか?
-
15分〜20分程度の短い昼寝(パワーナップ)は、脳の疲労を取り除き、ストレスを軽減する効果があるため、髪にとってもプラスに働きます。
しかし、夕方以降に寝たり、1時間以上寝てしまったりすると、夜の主睡眠の質を下げてしまうため、逆効果になります。タイミングと長さに注意して活用しましょう。
- お酒を飲むとよく眠れる気がしますが、髪にはどうですか?
-
寝酒はおすすめできません。アルコールは一時的に眠気を誘いますが、睡眠の質を浅くし、利尿作用によって中途覚醒を引き起こします。
また、アルコールを分解する際に髪の成長に必要な亜鉛やビタミンを大量に消費し、有害なアセトアルデヒドが発生します。
これがAGAの原因物質であるジヒドロテストステロン(DHT)を増加させる可能性も指摘されています。
- 不眠症気味ですが、市販の睡眠改善薬を使っても良いですか?
-
生活習慣の改善でどうにもならない場合は、医師や薬剤師に相談の上で使用を検討してください。一時的に睡眠リズムを取り戻すきっかけとして有効な場合があります。
ただし、薬に頼りすぎるのではなく、あくまで生活習慣の改善とセットで考え、根本的な解決を目指すことが大切です。
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