牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)とは?

牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)とは?

「最近、特定の分け目の部分の髪が薄くなってきた気がする」「いつも同じ髪型をしているけれど、これって頭皮に悪いのかな?」そんなお悩みはありませんか。

牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)は、特定のヘアスタイルや習慣によって髪が物理的に引っ張られ続けることで起こる脱毛症です。

この記事では、牽引性脱毛症の原因や症状、ご自身でできるチェック方法から、専門医による治療法、そして今日から始められる予防対策まで、男性の薄毛のお悩みに寄り添いながら詳しく解説します。

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

目次

牽引性脱毛症とは?髪を引っ張り続けることで起こる脱毛症

牽引性脱毛症は、文字通り髪の毛が「牽引」、つまり引っ張られる力によって生じる脱毛症です。遺伝やホルモンバランスが主な原因となる他の脱毛症とは異なり、物理的な要因が大きく関わっています。

長期間にわたり同じ箇所に強い力がかかり続けると、毛根が弱り、最終的には髪が抜け落ちてしまうのです。

健康な毛包と牽引で傷んだ毛包を比較した断面イラスト

特に男性の場合、特定の職業やスポーツで髪をきつく結ぶ習慣がある方や、ファッションとして特定のヘアスタイルを続けている方に注意が必要です。

牽引性脱毛症の基本的な定義と特徴

牽引性脱毛症は、持続的な物理的ストレスが毛包にダメージを与え、結果として脱毛を引き起こす状態を指します。

この脱毛症の大きな特徴は、原因となる牽引力を取り除けば、初期の段階であれば症状の改善や回復が期待できる点です。

しかし、長期間放置し、毛包が深刻なダメージを受けると、髪の再生が難しくなることもあります。そのため、早期の認識と対策が重要になります。

髪への物理的な力と薄毛の関係

髪の毛は、毛根から生えています。この毛根が頭皮にしっかりと固定されていることで、健康な髪が育ちます。しかし、毎日同じ方向に強く髪を引っ張るようなヘアスタイルを続けると、毛根に常に負担がかかります。

この負担が蓄積すると、毛根が炎症を起こしたり、弱ったりして、髪の成長サイクルが乱れ、結果として薄毛や抜け毛の症状が現れます。

特に頭皮が硬くなっている方や、血行が悪い方は、より影響を受けやすい傾向があります。

特定のヘアスタイルが引き金に

牽引性脱毛症の主な原因の一つが、特定のヘアスタイルです。例えば、きつく結んだポニーテールやマンバン、長期間にわたるエクステンションの装着、ドレッドヘアなどが挙げられます。

これらの髪型は、特定の部位の髪の毛を持続的に強く引っ張るため、毛根に大きな負担をかけます。毎日同じ分け目で髪をセットする習慣も、その部分の頭皮に集中的なストレスを与えるため、注意が必要です。

牽引性脱毛症の原因となりやすい髪型

髪型主な特徴頭皮への影響
きついポニーテール・マンバン髪を後方に強く束ねる生え際や側頭部に持続的な牽引力
エクステンション付け毛を自毛に編み込む付け毛の重さと編み込みによる牽引
ドレッドヘア・コーンロウ髪を細かく編み込む頭皮全体または広範囲に強い牽引

継続的な頭皮への負担と抜け毛の関連

頭皮への継続的な負担は、抜け毛の直接的な原因となります。髪が引っ張られると、毛根だけでなく、その周辺の頭皮組織にも影響が及びます。

血行が悪くなったり、頭皮が硬くなったりすることで、髪の成長に必要な栄養が毛根に届きにくくなります。その結果、髪が細くなったり、成長途中で抜け落ちたりする「抜け毛」の症状が顕著になります。

この状態が続くと、徐々に薄毛が進行していきます。

知らないうちに進行?牽引性脱毛症の症状と進行パターン

牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)の怖いところは、初期には自覚症状が乏しく、知らないうちに進行してしまう可能性がある点です。

多くの場合、ある程度症状が進行してから「何かおかしい」と気づくケースが少なくありません。ここでは、牽引性脱毛症の典型的な症状と、どのように進行していくのかを解説します。

気づきにくい初期症状

牽引性脱毛症の初期症状は非常に微妙で、見過ごされがちです。しかし、注意深く観察することで、いくつかのサインに気づくことができます。

初期に見られる頭皮や髪の変化

  • 特定の分け目やつむじ周りの地肌が以前より透けて見える
  • 髪を結んでいた部分の生え際が少し後退したように感じる
  • シャンプー時やブラッシング時の抜け毛がやや増えた
  • 引っ張られている部分の頭皮に軽いかゆみや赤みが出る

これらの初期症状は、他の脱毛症と区別がつきにくいこともあります。しかし、特定の髪型を長期間続けている方で、上記のような変化を感じたら、牽引性脱毛症の可能性を考える必要があります。

進行すると現れる薄毛のサイン

男性頭部の薄毛が初期から後期へ進む様子を示す3段階イラスト

初期症状を見過ごし、原因となる牽引力を加え続けると、症状は徐々に進行し、より明確な薄毛のサインが現れます。

中期から後期にかけての症状

中期になると、明らかに特定の部位の髪が薄くなっているのがわかります。生え際の後退が顕著になったり、分け目が以前より広がって見えたりします。

髪の毛自体も細く弱々しくなり、ボリュームが失われることもあります。さらに進行し後期になると、その部分の毛根が完全に機能を失い、髪が生えてこなくなることもあります。

この段階まで進行すると、治療による回復が難しくなるケースもあります。

牽引性脱毛症の進行度と主な症状

進行度主な症状頭皮の状態
初期軽い抜け毛増加、部分的な地肌の透け感、かゆみ・赤み軽い炎症、牽引による緊張
中期明らかな部分脱毛、生え際の後退、髪の細毛化炎症の慢性化、毛包の萎縮開始
後期広範囲の脱毛、毛髪再生の停止毛包の瘢痕化、永久脱毛の可能性

症状が現れるまでの期間

牽引性脱毛症の症状が現れるまでの期間は、個人差が大きく、一概には言えません。髪を引っ張る力の強さ、頻度、期間、そして個人の頭皮の感受性など、多くの要因が絡み合います。

早い方では数ヶ月から1年程度で初期症状が現れることもありますが、多くの場合、数年から10年以上かけてゆっくりと進行します。この「ゆっくりとした進行」が、発見を遅らせる一因ともなっています。

長期間同じヘアスタイルを続けている方は、定期的な頭皮チェックを心がけることが大切です。

今すぐできる牽引性脱毛症のセルフチェック方法

「もしかして自分も牽引性脱毛症かも?」と不安に感じたら、まずはご自身で頭皮や髪の状態をチェックしてみましょう。早期に気づくことが、進行を食い止め、適切な対策を始めるための第一歩です。

頭皮の状態を確認する

手鏡で分け目を確認する男性

鏡を使って、ご自身の頭皮をじっくりと観察してみましょう。特に、いつも髪を結んでいる部分や、分け目、生え際などを中心に確認します。

チェックポイント 頭皮編

  • 頭皮が赤くなっていないか?
  • フケやかさぶたができていないか?
  • 毛穴が炎症を起こして赤く腫れていないか?
  • 頭皮が硬く、指で動かしたときに動きにくい感じはないか?
  • 特定の場所に痛みやヒリヒリ感はないか?

これらの症状が見られる場合、頭皮が何らかのダメージを受けている可能性があります。特に、髪を引っ張る習慣のある部分にこれらの症状が集中していれば、牽引性脱毛症のサインかもしれません。

抜け毛の量や質をチェック

シャンプー時や朝起きた時の枕元の抜け毛にも注意を払いましょう。抜け毛の量だけでなく、その質も重要な手がかりになります。

チェックポイント 抜け毛編

項目確認内容牽引性脱毛症の可能性
抜け毛の量以前と比較して明らかに増えたか増加していれば注意
抜け毛の太さ細く弱々しい毛が多いか、太く健康な毛が多いか太い毛が抜ける場合も牽引の可能性あり
毛根の状態毛根に白い付着物(毛根鞘)がついているか健康な抜け毛でも見られるが、量が多い場合は注意

牽引性脱毛症の場合、初期には比較的健康な太い髪の毛が、毛根から無理やり引き抜かれるように抜けることがあります。

他の脱毛症では細い毛が増えることが多いのに対し、これは一つの特徴と言えます。

特定のヘアスタイルとの関連を疑う

ご自身の生活習慣やヘアスタイルを振り返ってみることも大切です。以下の項目に当てはまるものがないか確認しましょう。

生活習慣・ヘアスタイルのチェック

  • 毎日同じ位置で髪をきつく結んでいる(ポニーテール、お団子、マンバンなど)
  • エクステンションやウィッグを長期間使用している
  • ヘルメットや帽子を長時間着用し、特定の部位が圧迫されている
  • 常に同じ分け目で髪をセットしている

これらの習慣があり、かつ頭皮や抜け毛に変化を感じる場合は、牽引性脱毛症の可能性が高まります。セルフチェックで気になる点があれば、早めに専門医に相談することをお勧めします。

日常に潜む危険、牽引性脱毛症を引き起こす原因

牽引性脱毛症は、日常生活の中に潜むさまざまな原因によって引き起こされます。多くの場合、無意識のうちに頭皮や毛根に負担をかけてしまっていることがあります。

ここでは、代表的な原因を詳しく見ていきましょう。

髪を強く結ぶ習慣

ポニーテール・マンバン・ドレッドが頭皮を引っ張る様子

髪を強く、そして長時間結び続けることは、牽引性脱毛症の最も一般的な原因です。

特に、ポニーテールやマンバン、お団子ヘアなどは、特定の方向に髪を強く引っ張るため、生え際や側頭部、後頭部などの毛根に持続的なストレスを与えます。

ポニーテールやマンバンのリスク

これらの髪型は、見た目にはすっきりとしていますが、結ぶ強さや位置によっては、頭皮に大きな負担をかけます。

毎日同じ位置で、ゴムなどで強く締め付けるように結んでいると、その部分の血行が悪くなり、毛根が弱ってしまいます。

仕事柄やスポーツをする際に髪をまとめる必要がある方も、結び方や頻度に注意が必要です。

重いエクステンションや髪飾り

ヘアクリップ・ヘッドバンド

おしゃれのためにエクステンションを付けたり、重い髪飾りを使用したりすることも、牽引性脱毛症の原因となり得ます。

エクステンションは、自毛に人工毛を結びつけたり編み込んだりするため、その重さで常に髪が下方向に引っ張られます。また、編み込む際の力も毛根への負担となります。

ヘアアクセサリーと頭皮への影響

アイテム主な原因影響が出やすい部位
エクステンション付け毛の重さ、編み込みの強さ頭部全体、特に編み込み部分
重い髪飾り・バレッタアクセサリーの重さ、固定する際の圧迫装着部分とその周辺
きついカチューシャ・ヘアバンド長時間の圧迫、摩擦こめかみ、生え際

間違ったヘアケアと頭皮への影響

日常的なヘアケアの方法も、牽引性脱毛症に影響を与えることがあります。

例えば、髪が濡れた状態で強くブラッシングしたり、ドライヤーで髪を引っ張りながら乾かしたりする行為は、毛根に余計な力を加えてしまいます。

また、頭皮マッサージも、やり方を間違えると逆効果になることがあります。ゴシゴシと強く擦るようなマッサージは、頭皮を傷つけ、抜け毛を助長する可能性があります。

頭皮に負担をかけるヘアケア習慣

健康な髪を育むためには、頭皮環境を整えることが重要です。しかし、良かれと思って行っているヘアケアが、実は頭皮に負担をかけていることもあります。

例えば、洗浄力の強すぎるシャンプーで必要な皮脂まで落としてしまうと、頭皮が乾燥し、バリア機能が低下します。その結果、外部からの刺激に弱くなり、抜け毛や薄毛のリスクを高める可能性があります。

ヘアケア製品の選択や使用方法にも注意を払いましょう。

専門医による検査で正確な診断を

セルフチェックで牽引性脱毛症の疑いがある場合や、抜け毛・薄毛の悩みが続く場合は、自己判断せずに専門医に相談することが重要です。

医師は専門的な知識と経験に基づいて、正確な診断と適切なアドバイスを行います。

視診と問診の重要性

医師がダーモスコープで男性の頭皮を診察する場面

クリニックでは、まず医師による視診と問診が行われます。視診では、頭皮の状態(赤み、炎症、毛穴の状態など)や髪の毛の密度、太さ、抜け方などを詳しく観察します。

問診では、いつから症状が気になり始めたか、どのようなヘアスタイルをどのくらいの期間続けているか、家族歴、生活習慣、既往歴などを詳しく尋ねます。

これらの情報は、診断を下す上で非常に重要な手がかりとなります。

問診で確認される主な内容

  • 脱毛の始まった時期や進行の速さ
  • 自覚症状(かゆみ、痛みなど)の有無
  • 日常的なヘアスタイルやヘアケア方法
  • 過去の病歴や現在治療中の病気、服用中の薬
  • 食生活や睡眠、ストレスなどの生活習慣

他の脱毛症との鑑別

薄毛や抜け毛の原因は一つではありません。男性型脱毛症(AGA)や円形脱毛症など、他の脱毛症との鑑別診断が重要です。

牽引性脱毛症は原因が物理的な牽引力であるのに対し、AGAは男性ホルモンや遺伝が主な原因であり、治療法も異なります。医師は、症状の現れ方や範囲、毛髪の状態などを総合的に判断し、他の脱毛症の可能性を排除していきます。

例えば、AGAでは主に頭頂部や前頭部の髪が薄くなるのに対し、牽引性脱毛症は髪が引っ張られている部分に限定して症状が現れることが多いです。

牽引性脱毛症とAGA(男性型脱毛症)の主な違い

特徴牽引性脱毛症AGA(男性型脱毛症)
主な原因物理的な髪への牽引男性ホルモン、遺伝
脱毛範囲牽引されている部分に限定的頭頂部、前頭部が中心
初期の抜け毛比較的健康な毛が抜けることも細く短い毛が増える

必要に応じて、マイクロスコープを用いた頭皮や毛髪の詳細な観察や、血液検査などが行われることもあります。これにより、より正確な診断が可能になります。

早期発見と治療開始のメリット

牽引性脱毛症は、早期に発見し、原因となる牽引力を取り除くことで、多くの場合、症状の進行を止め、改善させることができます。

治療の開始が早ければ早いほど、毛根へのダメージも少なく、髪が再び生えてくる可能性が高まります。逆に、長期間放置してしまうと、毛根が萎縮し、髪の再生が困難になることもあります。

そのため、少しでも気になる症状があれば、ためらわずに専門医の診察を受けることが、回復への近道となります。

回復するには?牽引性脱毛症の治療法

牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)の治療は、まず原因となっている髪への物理的な負担を取り除くことが基本です。

その上で、症状の進行度や頭皮の状態に応じて、さまざまな治療法が選択されます。

原因となるヘアスタイルの変更

きつい髪型をやめて外用薬を使い始めた男性のビフォーアフター

最も重要かつ基本的な治療法は、髪を引っ張る原因となっているヘアスタイルをやめることです。

ポニーテールやマンバンなどの髪型をしている場合は、結ぶ位置を頻繁に変えたり、結び方を緩めたりするだけでも効果があります。可能であれば、髪に負担のかからない髪型(例えば、ショートヘアなど)に変更することを検討しましょう。

エクステンションや重い髪飾りも、使用を中止するか、頻度を減らすことが大切です。この対策だけでも、初期の牽引性脱毛症であれば、数ヶ月から1年程度で改善が見られることがあります。

薬物療法による頭皮環境の改善

ヘアスタイルの変更だけでは改善が見られない場合や、炎症が強い場合には、薬物療法が行われます。

主に、頭皮の炎症を抑えるための外用薬(塗り薬)や、血行を促進し毛母細胞を活性化させるための外用薬が用いられます。

ミノキシジル外用薬の効果と使用期間

ミノキシジルは、毛細血管を拡張して頭皮の血行を促進し、毛母細胞に栄養を届けやすくする効果があります。また、毛母細胞そのものに働きかけて、発毛を促す作用も期待できます。

ミノキシジル外用薬は、医師の指示に従い、毎日継続して使用することが重要です。

効果が現れるまでの期間には個人差がありますが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度の継続使用で効果を実感し始める方が多いです。治療期間中も、原因となる牽引は避ける必要があります。

その他の薬物療法と頭皮ケア

治療薬・ケア期待される効果使用方法・注意点
抗炎症外用薬頭皮の炎症、かゆみ、赤みを抑える医師の指示通りに塗布。長期使用は注意。
保湿剤頭皮の乾燥を防ぎ、バリア機能を高めるシャンプー後など清潔な頭皮に使用。
育毛剤(医薬部外品)頭皮環境を整え、育毛をサポート製品の指示に従い使用。医薬品とは異なる。

HARG療法などの専門的な治療

症状が進行している場合や、薬物療法だけでは十分な効果が得られない場合には、より専門的な治療法が検討されます。その一つがHARG(ハーグ)療法です。

HARG療法は、毛髪再生に必要な成長因子やビタミン、アミノ酸などを直接頭皮に注入する治療法です。これにより、休止期にある毛根を刺激し、発毛を促す効果が期待できます。

治療期間や回数は症状によって異なりますが、通常は数ヶ月にわたって複数回の治療を行います。

他にも、クリニックによっては低出力レーザー治療など、さまざまな選択肢がありますので、医師とよく相談して、ご自身に合った治療法を選択することが大切です。

今日から始める牽引性脱毛症の予防対策

牽引性脱毛症は、原因がはっきりしているため、日常生活での心がけによって予防しやすい脱毛症の一つです。大切な髪と頭皮を守るために、今日からできる予防対策を始めましょう。

髪と頭皮に優しいヘアスタイル

最も効果的な予防策は、髪と頭皮に負担をかけないヘアスタイルを選ぶことです。

毎日同じ髪型を避け、定期的に分け目を変えたり、髪を結ぶ位置を変えたりするだけでも、特定の部位への集中的な負担を避けることができます。

予防のためのヘアスタイルの工夫

  • 髪を結ぶ際は、きつく締めすぎず、少し緩めにする。
  • ゴムよりも、シュシュや幅広のヘアバンドなど、圧力が分散されるアイテムを選ぶ。
  • 長時間同じ髪型でいることを避け、適度に髪をほどいて頭皮を休ませる。
  • 可能であれば、髪を下ろしている時間を長くする。

頭皮マッサージと血行促進

指の腹で優しく頭皮を揉みほぐすマッサージ

頭皮の血行を促進することは、健康な髪を育む上で非常に重要です。

適度な頭皮マッサージは、血行を良くし、毛根に栄養を届けやすくするだけでなく、頭皮の緊張を和らげる効果も期待できます。

自宅でできる簡単頭皮マッサージ

手順方法ポイント
準備指の腹を使う。爪を立てない。リラックスした状態で行う。
マッサージ生え際から頭頂部へ、側頭部から頭頂部へ、襟足から頭頂部へと、頭皮全体を優しく揉みほぐす。力を入れすぎず、心地よい強さで。
仕上げ頭全体を軽くタッピングする。血行促進をイメージする。

シャンプー時やお風呂上がりなど、頭皮が清潔で温まっている時に行うとより効果的です。ただし、強く擦りすぎたり、長時間やりすぎたりすると逆効果になることもあるので注意しましょう。

バランスの取れた食事と生活習慣

健康な髪は、健康な体から作られます。髪の主成分であるタンパク質をはじめ、ビタミンやミネラルなど、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。

特に、亜鉛や鉄分、ビタミンB群などは、髪の成長に深く関わっています。また、十分な睡眠時間を確保し、ストレスを溜め込まないようにすることも、健やかな頭皮環境を保つためには重要です。

喫煙は血行を悪化させるため、控えるようにしましょう。

他の脱毛症との違いと見分け方

牽引性・AGA・円形脱毛症の脱毛部位を比較した頭部シルエット

薄毛や抜け毛の悩みは、牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)だけでなく、さまざまな原因によって起こります。代表的なものに男性型脱毛症(AGA)や円形脱毛症があります。

これらの脱毛症との違いを理解し、適切に見分けることは、正しい対策や治療を選択する上で非常に重要です。

男性型脱毛症(AGA)との比較

AGAは、成人男性に最も多く見られる脱毛症で、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)が主な原因とされています。遺伝的な要因も大きく関わっています。

AGAの症状と牽引性脱毛症の症状の違い

AGAの典型的な症状は、前頭部の生え際が後退していく(M字型)、あるいは頭頂部の髪が薄くなる(O字型)といったパターンです。進行すると、これらの部分の薄毛が繋がり、広範囲に及ぶこともあります。

髪の毛が細く、短く、弱々しくなる「軟毛化」も特徴です。一方、牽引性脱毛症は、髪が強く引っ張られている部分に限定して脱毛が起こります。

例えば、いつも同じ分け目にしているとその部分だけが薄くなったり、ポニーテールをしている場合は生え際や髪を結んでいる部分が後退したりします。

初期には比較的太い毛が抜けることもあり、AGAの軟毛化とは異なる点です。

円形脱毛症との比較

円形脱毛症は、自己免疫疾患の一つと考えられており、突然、円形または楕円形に髪が抜け落ちるのが特徴です。大きさは10円玉程度のものから、頭部全体に及ぶものまでさまざまです。

原因は完全には解明されていませんが、ストレスや遺伝的要因、アトピー素因などが関与していると考えられています。

円形脱毛症の主な特徴

特徴円形脱毛症牽引性脱毛症
脱毛の形状円形・楕円形に境界明瞭牽引部位に沿った形状、境界はやや不明瞭なことも
主な原因自己免疫異常、ストレスなど物理的な牽引
自覚症状かゆみや違和感を伴うことあり、無症状も多い牽引による痛み、かゆみ、赤みなど

円形脱毛症は、牽引とは関係なく発症し、脱毛斑の境界が比較的はっきりしていることが多いです。牽引性脱毛症は、髪を引っ張る習慣と脱毛部位が明確に関連している点が大きな違いです。

女性における牽引性脱毛症

高いポニーテールでこめかみが薄くなった女性の横顔イラスト

牽引性脱毛症は、男性だけでなく女性にも起こりうる脱毛症です。

特に女性は、ポニーテールやお団子ヘア、エクステンションなど、髪を強く引っ張るヘアスタイルを好む方が多く、男性よりも発症リスクが高い傾向にあります。

基本的な原因や症状、治療法は男性と共通していますが、女性の場合はFAGA(女性男性型脱毛症)との鑑別も重要になります。

FAGAは、女性ホルモンの減少などが原因で、頭部全体の髪が薄くなるびまん性の脱毛が特徴です。気になる症状があれば、男女問わず専門医に相談しましょう。

よくある質問

牽引性脱毛症に関して、患者様からよく寄せられるご質問とその回答をまとめました。

牽引性脱毛症は治りますか?

はい、早期に発見し、原因となっている髪への牽引を取り除けば、多くの場合、症状は改善し治る可能性があります。毛根へのダメージが軽度であれば、髪は再び生えてきます。

ただし、長期間放置して毛根が萎縮してしまったり、瘢痕化(はんこんか:傷跡のようになること)してしまったりすると、回復が難しくなることもあります。

治療期間は症状の程度や治療法によって異なりますが、数ヶ月から1年以上かかることもあります。

どのくらいの期間で症状が出ますか?

症状が現れるまでの期間には個人差が大きいです。髪を引っ張る力の強さ、頻度、継続期間、そして個人の頭皮の感受性などによって異なります。

早い方では数ヶ月で初期症状が見られることもありますが、多くは数年から10年以上かけてゆっくりと進行します。そのため、自覚症状がないうちから予防を心がけることが大切です。

女性でもなりますか?

はい、牽引性脱毛症は男性だけでなく、女性にも起こります。

むしろ、ポニーテールやエクステンションなど、髪を強く引っ張るヘアスタイルをすることが多い女性の方が、発症しやすい傾向にあります。

基本的な原因や症状、対策は男女共通です。

治療にはどんな方法がありますか?

まず最も重要なのは、原因となるヘアスタイルをやめることです。その上で、症状に応じて、頭皮の炎症を抑える外用薬や、発毛を促すミノキシジル外用薬などが用いられます。

進行している場合には、HARG療法などの専門的な治療も検討されます。どのような治療法が適しているかは、専門医が診断した上で判断します。

予防のために自分でできることは?

髪をきつく結ぶヘアスタイルを避け、毎日同じ分け目にしないなど、髪と頭皮に優しいヘアケアを心がけることが基本です。

定期的に髪型を変えたり、髪をほどいて頭皮を休ませる時間を作ったりしましょう。また、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な頭皮マッサージなども予防に繋がります。

続けて読んで欲しい記事

ご自身の症状が牽引性脱毛症かもしれないとご不安な方、または具体的なセルフチェック方法についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。

牽引性脱毛症の症状とセルフチェックの仕方

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