牽引性脱毛症の原因と検査方法

牽引性脱毛症は、持続的な物理的刺激によって髪が抜けてしまう脱毛症です。男性の場合でも、特定の髪型や習慣、職業などが原因で発症することがあります。

この記事では、牽引性脱毛症（けんいんせいだつもうしょう）を引き起こす具体的な原因と、クリニックで行われる専門的な検査方法について詳しく解説します。

髪型が原因？牽引性脱毛症を引き起こすヘアスタイル

特定のヘアスタイルは、髪の毛や毛根に継続的な張力を加え、牽引性脱毛症の主な原因となります。

特に長期間同じ髪型を続けることで、頭皮の特定部位に負担が集中し、抜け毛や薄毛が進行することがあります。

男性でも長髪を強く束ねる習慣がある場合や、ファッションとして特定のスタイルを維持する場合に注意が必要です。

持続的に髪を引っ張る髪型

髪を強く引っ張る状態が長く続くと、毛包がダメージを受け、髪の成長サイクルが乱れます。

初期には髪が細くなったり、切れやすくなったりする症状が現れ、進行するとその部分の髪が生えてこなくなることもあります。

長髪のまとめ髪（マンバン・トップノット）

近年、男性にも人気のマンバンやトップノットといったヘアスタイルは、髪を頭頂部や後頭部で強く束ねるため、特に生え際や側頭部に負担がかかりやすいです。

毎日同じ位置で、きつく結んでいると、その部分の毛根が弱り、抜け毛が増える原因となります。髪型の維持には、頭皮への配慮が大切です。

ドレッドヘア・コーンロウ

ドレッドヘアやコーンロウのように、髪を細かく編み込んだり、きつく縛り上げたりするスタイルも、広範囲の頭皮に強い張力を長時間与えます。

これらの髪型は、毛根への負担が大きく、牽引性脱毛症のリスクを高めることが知られています。

牽引性脱毛症を招きやすい髪型と特徴

髪型の種類	主な特徴	負担がかかりやすい部位
マンバン・トップノット	長髪をきつく束ねる	生え際、こめかみ、後頭部
ドレッドヘア	髪を固く編み込む、または絡ませる	頭皮全体、特に編み込みの根元
エクステンション（部分的なものも含む）	自毛に人工毛を結びつける重み	装着部分の毛根

エクステンションの利用と頭皮への影響

男性でも部分的にエクステンション（エクステ）を使用して髪のボリュームを増やしたり、長さを出したりする方がいます。しかし、エクステは自毛に直接装着するため、その重みや結びつける際の張力で毛根に負担がかかります。

特に長期間装着し続けると、装着部分の抜け毛や薄毛が目立つようになることがあります。エクステを使用する場合は、定期的に頭皮を休ませる期間を設けるなどの対策が重要です。

日常生活に潜む物理的な牽引要因

ヘアスタイル以外にも、日常生活の中には髪や頭皮に物理的な牽引力を加えてしまう要因が潜んでいます。

無意識の習慣や日用品の使用方法が、知らず知らずのうちに毛根にダメージを与え、薄毛を進行させる可能性があります。

無意識の癖や習慣

日常的に繰り返される些細な癖が、頭皮の特定部分に継続的なストレスを与えることがあります。

頻繁なブラッシングやコーミングの方向

髪を整える際のブラッシングやコーミングも、やり方によっては頭皮に負担をかけます。特に髪が濡れているときはキューティクルが開いており、ダメージを受けやすい状態です。

無理に髪を引っ張るようなブラッシングや、常に同じ方向に強く梳かす習慣は、分け目や生え際の薄毛を助長する可能性があります。

睡眠中の髪の引っ張り

寝ている間に無意識に髪が枕や寝具に引っ張られることもあります。特に長髪の男性が髪を結ばずに寝たり、寝返りが多い場合、髪が絡まりやすく、毛根に負担がかかることがあります。

シルク製の枕カバーを使用するなど、摩擦を軽減する工夫も一つの予防策です。

日常生活における牽引リスク

要因	具体的な行動	頭皮への影響
ヘアケア習慣	強く引っ張るブラッシング、きついタオルドライ	毛根への物理的ストレス、切れ毛
睡眠環境	寝具との摩擦、髪の絡まり	無意識下の持続的な牽引
帽子の着用	サイズの合わない帽子、長時間の圧迫	特定部位の血行不良、摩擦

帽子の着用習慣と選び方

日常的に帽子を着用する習慣がある方も注意が必要です。

サイズの合わない帽子やヘルメットを長時間着用すると、頭皮が圧迫されて血行が悪くなったり、帽子の縁が当たる部分の髪が常に引っ張られたりすることがあります。

特に、きつい帽子は生え際や側頭部に負担をかけやすいです。帽子を選ぶ際は、通気性が良く、頭のサイズに合ったものを選び、適度に脱いで頭皮を休ませることが大切です。

職業や習慣が与える髪への継続的な負担

特定の職業やスポーツ、趣味など、日常的な活動が髪や頭皮に継続的な負担をかけ、牽引性脱毛症のリスクを高めることがあります。

これらの活動に伴う髪型や装備品の使用が、意図せず毛根にダメージを与えている場合も少なくありません。

特定の職業における髪への影響

職業によっては、安全や衛生のために特定の髪型を維持したり、帽子やヘルメットを長時間着用したりする必要があります。

ヘルメットや帽子の常時着用

建設業、製造業、警察官、消防士、料理人など、業務上ヘルメットや帽子を常に着用する職業では、頭皮が圧迫されたり、汗で蒸れたりすることで頭皮環境が悪化しやすくなります。

また、ヘルメットのあご紐や帽子のサイズ調整部分が髪を引っ張ることもあり、これが長期間続くと牽引性の抜け毛につながることがあります。

職業と牽引リスクの例

職業例	主な牽引要因	対策のポイント
料理人・医療従事者	衛生帽による圧迫、髪をきつくまとめる	適度な休憩、通気性の良い素材選択
アスリート（水泳、格闘技など）	スイムキャップ、ヘッドギア、髪をきつく結ぶ	用具の適切なサイズ選択、使用後のケア
ダンサー・俳優	役柄による特殊な髪型、ウィッグ装着	頭皮マッサージ、定期的なスタイル変更

スポーツや趣味活動による影響

スポーツや趣味活動においても、髪を強く引っ張る要因が存在します。

特定のスポーツにおける髪型や用具

水泳選手が着用するスイムキャップや、格闘技選手が使用するヘッドギアは、髪を強く圧迫したり引っ張ったりします。

また、バレエダンサーやフィギュアスケート選手など、髪をきつくまとめる必要がある競技では、生え際や分け目に大きな負担がかかります。

これらの活動を日常的に行う場合は、頭皮ケアや髪型の工夫が予防につながります。

ヘッドホンやイヤホンの長時間使用

音楽制作やゲーミングなどでヘッドホンを長時間使用する習慣も、頭頂部や側頭部の髪を圧迫し、血行を妨げる可能性があります。

特に重いヘッドホンやフィット感の強いものは、頭皮への負担が大きくなります。定期的に外して頭皮をマッサージするなど、血行を促す対策を心がけましょう。

髪質や頭皮の状態が発症リスクを高める要因

牽引性脱毛症は物理的な引っ張りが主な原因ですが、個々の髪質や頭皮の状態によって、その影響の受けやすさや進行度が変わることがあります。

元々髪が細い方や頭皮が敏感な方は、より注意が必要です。

髪の太さや強度の影響

髪の毛自体の特性も、牽引に対する抵抗力に関わります。

細毛や軟毛の場合

髪が細い方や柔らかい毛質（軟毛）の方は、太く硬い髪質の方に比べて、同じ力で引っ張られた場合でも毛根への負担が大きくなりやすい傾向があります。

そのため、少しの牽引力でも抜け毛や切れ毛が起こりやすく、牽引性脱毛症が進行しやすいと考えられます。日頃から髪を優しく扱うことが重要です。

頭皮の健康状態と感受性

頭皮の状態も、牽引性脱毛症の発症リスクに影響します。

乾燥肌や敏感肌の頭皮

頭皮が乾燥していたり、敏感肌であったりすると、外部からの刺激に対して弱く、炎症を起こしやすい状態です。このような頭皮は、物理的な牽引に対しても抵抗力が低く、毛根がダメージを受けやすくなります。

適切な保湿ケアや、刺激の少ないシャンプーを選ぶなどの頭皮ケアが、薄毛の予防にもつながります。

炎症や皮膚疾患の既往

過去に脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎などの頭皮トラブルを経験したことがある方は、頭皮のバリア機能が低下している可能性があります。

このような状態では、牽引による刺激が炎症を悪化させたり、抜け毛を促進したりするリスクが高まります。皮膚科医に相談し、頭皮の状態を良好に保つ治療や対策を行うことが大切です。

頭皮状態と牽引性脱毛症リスク

頭皮・髪の状態	牽引に対する感受性	推奨されるケア
細毛・軟毛	物理的な力に弱い	優しいブラッシング、負担の少ない髪型
乾燥頭皮・敏感頭皮	刺激に弱く、炎症を起こしやすい	保湿ケア、低刺激シャンプーの使用
炎症・皮膚疾患の既往	バリア機能低下の可能性	専門医による治療、適切なスカルプケア

専門医による視診と問診で分かること

牽引性脱毛症の診断は、まず専門医による丁寧な視診と問診から始まります。これにより、脱毛のパターン、頭皮の状態、そして原因となりうる生活習慣や髪型などを把握します。

男性の薄毛には様々な原因があるため、正確な診断が治療の第一歩です。

視診による脱毛範囲とパターンの確認

医師が直接、頭皮と髪の状態を目で見て確認します。

脱毛部位の特定

牽引性脱毛症では、髪が引っ張られる力が最も強くかかる部位に脱毛が集中する傾向があります。

例えば、ポニーテールを日常的にしている場合は生え際やこめかみ、常に同じ分け目をしている場合はその分け目部分などです。

医師はこれらの特徴的な脱毛パターンを確認し、他の脱毛症との違いを見極めます。

頭皮の炎症や毛髪の状態

脱毛部位の頭皮に赤み、かゆみ、フケ、毛嚢炎（毛穴の炎症）などがないかを確認します。また、残っている毛髪の太さや密度、切れ毛の有無なども重要な所見です。

牽引によって毛包がダメージを受けると、髪が細くなったり、途中で切れたりすることがあります。

問診による生活習慣や病歴の聴取

患者さんからの情報収集も診断には欠かせません。

日常的なヘアスタイルやヘアケア方法

普段どのような髪型をしているか、髪を結ぶ頻度や強さ、使用している整髪料、シャンプーやブラッシングの方法などを詳しく聞き取ります。

エクステの使用経験や、ヘアアイロンの使用頻度なども重要な情報です。

職業、趣味、既往歴

仕事でヘルメットを着用するか、特定のスポーツや趣味で髪に負担がかかる習慣がないかなどを確認します。

また、過去の病気や現在治療中の病気、服用中の薬、家族歴（血縁者に薄毛の人がいるかなど）も、他の脱毛症との鑑別のために重要な情報となります。

問診で確認する主な項目

• 現在の髪型と変更履歴
• ヘアケア製品（シャンプー、育毛剤など）の使用状況
• 頭皮の症状（かゆみ、痛み、フケなど）の有無と時期
• 薄毛を自覚した時期と進行の程度
• 生活習慣（睡眠、食事、ストレス状況）

トリコスコピー検査による詳細な頭皮診断

視診と問診に加えて、より詳細に頭皮や毛髪の状態を調べるためにトリコスコピー検査（ダーモスコピー検査とも呼ばれます）を行います。

これは、特殊な拡大鏡やカメラを使って頭皮や毛穴、毛髪を数十倍から数百倍に拡大して観察する検査で、痛みは伴いません。

毛穴や毛髪の高倍率観察

トリコスコピーを用いることで、肉眼では確認できない微細な変化を捉えることができます。

毛穴の状態（炎症、角栓の有無）

毛穴の周囲に炎症（赤み）がないか、皮脂や角質が詰まっていないかなどを観察します。牽引性脱毛症では、持続的な刺激により毛穴周囲に軽度の炎症が見られることがあります。

毛髪の太さ、密度、形状の変化

生えている毛髪の太さが均一か、細くなっている毛（軟毛化）が混じっていないか、毛髪の密度が低下している部分はないかなどを評価します。

牽引性脱毛症（けんいんせいだつもうしょう）が進行すると、毛包が萎縮し、生えてくる髪が細くなったり、うぶ毛のようになったりすることがあります。

また、途中で切れた毛や、毛根部分が特徴的な形状（例：感嘆符毛）をしていないかも確認します。

トリコスコピーで観察される主な所見

観察項目	牽引性脱毛症でみられる可能性のある所見	他の脱毛症との鑑別点
毛髪の太さ	影響部位で細い毛が増加、切れ毛	AGAでは広範囲な軟毛化
毛穴の状態	毛穴周囲の軽度の赤み、毛包の消失（進行例）	脂漏性皮膚炎では黄白色のフケ
頭皮の色調	炎症による赤み、色素沈着	円形脱毛症では象牙色の頭皮も

他の脱毛症との鑑別診断への活用

トリコスコピーは、牽引性脱毛症と他の脱毛症（例えばAGA：男性型脱毛症や円形脱毛症など）とを見分ける上でも非常に有用です。

それぞれの脱毛症には特徴的なトリコスコピー所見があり、これらを総合的に判断することで、より正確な診断が可能になります。

例えば、AGAでは毛髪の太さが不均一になる「毛径不同」が顕著に見られますが、牽引性脱毛症では特定の部位に集中した所見が特徴です。

病理検査で確定診断が必要なケース

ほとんどの牽引性脱毛症は、視診、問診、トリコスコピー検査で診断がつきますが、診断が難しい場合や、他の脱毛症との鑑別が困難な場合には、頭皮の一部を採取して顕微鏡で調べる皮膚生検（病理検査）を行うことがあります。

これは、より確実な診断を下すための検査です。

皮膚生検の実施判断

皮膚生検は局所麻酔下で行う小手術であり、全ての患者さんに行うわけではありません。

診断が困難な非典型的な症状

脱毛のパターンが典型的でない場合や、複数の脱毛症が合併している可能性が疑われる場合など、他の検査だけでは診断を確定できない際に検討します。

例えば、広範囲にわたる脱毛や、炎症所見が強い場合などです。

他の皮膚疾患との鑑別

円形脱毛症、瘢痕性脱毛症（毛包が破壊され再生しなくなる脱毛症）、頭部白癬（水虫菌による感染症）など、治療法が大きく異なる他の皮膚疾患との鑑別を確実に行う必要がある場合に実施します。

これらの疾患は、初期症状が牽引性脱毛症と似ていることもあります。

病理組織学的所見による診断

採取した頭皮組織を特殊な染色を施し、顕微鏡で詳細に観察します。

毛包周囲の炎症細胞浸潤

牽引性脱毛症の初期では、毛包の周囲にリンパ球などの炎症細胞が集まっている像が見られることがあります。これは、持続的な物理的刺激に対する体の反応と考えられます。

毛包の萎縮や線維化

病状が進行すると、毛包自体が小さく萎縮したり、毛包の周囲が硬い線維組織に置き換わったりする（線維化）所見が見られます。

線維化が高度に進むと、毛髪の再生能力が失われ、永久的な脱毛に至ることがあります。このため、早期の対策と治療が重要です。

病理検査が必要となる状況の例

• 治療への反応が乏しい場合
• 急速に脱毛が進行する場合
• トリコスコピーで診断が確定できない場合

他の脱毛症との鑑別に必要な検査項目

男性の薄毛の原因は多岐にわたるため、牽引性脱毛症と他の脱毛症を正確に区別（鑑別診断）することが、適切な治療方針を立てる上で非常に重要です。

特にAGA（男性型脱毛症）や円形脱毛症との鑑別が求められます。

AGA（男性型脱毛症）との比較

AGAは成人男性に最も多く見られる脱毛症で、遺伝的要因や男性ホルモンの影響が関与しています。

脱毛パターンと進行様式の違い

牽引性脱毛症は物理的な力がかかる部位（生え際、分け目など）に限定して脱毛が起こるのに対し、AGAは前頭部や頭頂部から徐々に薄毛が進行する特徴的なパターンを示します。

問診や視診でこれらの違いを確認します。

トリコスコピー所見の比較

トリコスコピーでは、AGAの場合、毛髪の太さが不均一になる「毛径不同」や、一つの毛穴から生える毛の本数が減少する所見が特徴的です。

牽引性脱毛症では、特定の部位での切れ毛や毛包の炎症が目立つことがあります。

円形脱毛症との比較

円形脱毛症は、自己免疫反応が関与していると考えられている脱毛症で、突然円形や楕円形の脱毛斑が現れます。

脱毛斑の形状と境界

円形脱毛症の脱毛斑は、境界が比較的明瞭な円形または楕円形を呈することが多いです。牽引性脱毛症では、引っ張られるラインに沿った脱毛が見られることが一般的です。

特徴的な毛髪（感嘆符毛など）の有無

円形脱毛症の活動期には、毛根側が細く、毛先側が太い「感嘆符毛」と呼ばれる特徴的な毛髪が見られることがあります。トリコスコピーでこれらの毛髪の有無を確認します。

主な脱毛症との鑑別ポイント

脱毛症の種類	主な原因	特徴的な脱毛部位・パターン	トリコスコピーでの主な所見
牽引性脱毛症	物理的な牽引	髪型や習慣による特定部位（生え際、分け目など）	切れ毛、毛包周囲の炎症、毛包の消失（進行例）
AGA	遺伝、男性ホルモン	前頭部、頭頂部	毛径不同、軟毛化、単毛毛包の増加
円形脱毛症	自己免疫異常	円形・楕円形の脱毛斑	感嘆符毛、黒点、黄色点

必要に応じた追加検査

上記以外にも、甲状腺機能異常や膠原病などの全身性疾患が薄毛の原因となることもあります。疑わしい場合には、血液検査などを行い、全身状態を評価することもあります。

適切な育毛剤の選択や治療法の決定には、これらの鑑別が大切です。

検査結果から分かる重症度と今後の見通し

一連の検査結果を総合的に評価し、牽引性脱毛症の重症度を判断します。重症度に応じて、今後の見通しや推奨される対策、治療法が異なります。

早期に原因を取り除けば改善する可能性が高いですが、進行してしまうと回復が難しくなることもあります。

重症度の分類と判断基準

牽引性脱毛症の重症度は、脱毛の範囲、毛髪密度の低下具合、毛包のダメージの程度などから総合的に判断します。

初期（軽症）

脱毛範囲が限定的で、毛髪が細くなったり、切れやすくなったりしているものの、毛包の機能はまだ保たれている状態です。

この段階であれば、原因となる物理的な牽引を中止し、適切な頭皮ケアを行うことで、多くの場合、毛髪の回復が期待できます。

中期（中等症）

脱毛範囲が広がり、明らかに毛髪密度が低下している状態です。毛包の一部が萎縮し始めている可能性があり、回復には時間がかかることがあります。

原因除去に加え、育毛剤の使用や専門的な治療を検討することがあります。

後期（重症）

長期間にわたる強い牽引により、毛包が広範囲に破壊され、線維化（瘢痕化）してしまっている状態です。この段階になると、毛髪の再生は非常に困難となり、永久的な脱毛に至ることがあります。

治療の選択肢も限られてきます。

牽引性脱毛症の重症度と特徴

重症度	主な所見	回復の見込み
軽症	限定的な脱毛、切れ毛、毛髪の菲薄化	原因除去で良好な回復期待
中等症	明らかな毛髪密度低下、一部毛包萎縮	時間と治療を要するが回復の可能性あり
重症	広範囲な脱毛、毛包の瘢痕化	毛髪再生は困難な場合が多い

回復の可能性と治療期間の目安

回復の可能性は、重症度や牽引を受けていた期間、個人の毛髪再生能力などによって異なります。

早期発見・早期対策の重要性

牽引性脱毛症は、原因が明確であるため、早期に発見し、原因となる髪型や習慣を改めることで進行を食い止め、改善させることが可能です。

抜け毛や薄毛、生え際の後退に気づいたら、早めに専門医に相談することが大切です。

治療期間とフォローアップ

治療期間は症状の程度により数ヶ月から1年以上かかることもあります。軽症であれば、原因除去後数ヶ月で改善が見られることもありますが、中等症以上ではより長期間のフォローアップが必要です。

定期的に頭皮の状態をチェックし、必要に応じて治療法を見直します。

よくあるご質問

牽引性脱毛症は男性でもよくあるのですか？

一般的には女性に多いとされていますが、男性でも長髪をきつく結ぶヘアスタイル（マンバンなど）や、特定の職業（ヘルメット着用など）、エクステの使用などにより発症することがあります。

薄毛の原因の一つとして認識しておくことが大切です。

牽引性脱毛症の検査に痛みはありますか？

主に行われる視診、問診、トリコスコピー検査には痛みは伴いません。トリコスコピーは特殊な拡大鏡で頭皮を観察するだけです。

診断が非常に難しい場合に検討される皮膚生検（病理検査）では、局所麻酔を使用するため、麻酔注射の際にチクッとした痛みがありますが、検査自体は痛くありません。

検査結果はどのくらいで分かりますか？

視診、問診、トリコスコピー検査の結果は、通常、検査当日に医師から説明があります。皮膚生検（病理検査）を行った場合は、結果が出るまでに1～2週間程度かかるのが一般的です。

牽引性脱毛症に市販の育毛剤は効果がありますか？

まず最も重要なのは、原因となっている物理的な牽引を取り除くことです。原因を放置したまま育毛剤を使用しても、十分な効果は期待しにくいです。

原因除去後に、頭皮環境を整えたり、発毛をサポートしたりする目的で育毛剤の使用を検討する場合は、専門医に相談し、ご自身の頭皮状態に合ったものを選ぶことが重要です。

牽引性脱毛症を予防するために、日常生活でできることはありますか？

はい、髪をきつく結ぶ髪型を長時間続けない、分け目を定期的に変える、サイズの合った帽子を選ぶ、頭皮マッサージで血行を促進するなどの対策が予防につながります。

また、バランスの取れた食事や十分な睡眠も健康な頭皮環境には必要です。

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