牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)は、髪が継続的に引っ張られることで毛根に負担がかかり発生する脱毛症です。男性にとっても、特定の髪型や習慣が原因となることがあります。
この記事では、牽引性脱毛症の具体的な治療法と、日常生活で実践できる予防策を詳しく解説します。早期の対策と正しい知識で、頭皮と髪の健康を守りましょう。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
まずは原因除去から、牽引をやめることの重要性

牽引性脱毛症の治療と予防において、最も基本かつ重要なのは、髪と頭皮への物理的な引っ張りをなくすことです。原因となる行動を特定し、それを中止することが改善への第一歩となります。
この段階での適切な対応が、将来的な抜け毛の進行を食い止める上で極めて大切です。
牽引性脱毛症の根本原因の特定
牽引性脱毛症は、特定の髪型や習慣によって髪が長時間強く引っ張られることが主な原因です。
男性の場合、長髪をきつく結ぶ、エクステンションの装着、あるいは常に同じ分け目で髪をタイトにセットするなどが考えられます。
これらの行為は毛包に持続的なストレスを与え、炎症や血行不良を引き起こし、結果として抜け毛や毛髪の菲薄化を招きます。
ご自身の生活習慣やヘアスタイルを見直し、頭皮に負担をかけている可能性のある要因を特定することが治療の出発点です。

髪への物理的負担を止める具体的な対策
原因を特定したら、次はその負担を取り除くための具体的な対策を講じます。
例えば、ポニーテールやマンバンなどの髪型をしている場合は、結び方を緩める、結ぶ位置を頻繁に変える、あるいは髪を下ろす時間を増やすといった工夫が必要です。

エクステンションを使用している場合は、一時的に取り外すか、より負担の少ない装着方法を専門家と相談することを推奨します。日々の小さな心がけが、頭皮環境の改善に繋がります。
牽引を避けるための髪型変更のポイント
現在の髪型・習慣 | 推奨される対策 | 期待される頭皮への効果 |
---|---|---|
きついポニーテール・マンバン | 結び目を緩める、頻繁に位置を変える、髪を下ろす | 毛根への持続的な張力の軽減 |
重いエクステンション | 軽量なものに変更、装着期間を短縮、一時的な取り外し | 毛包への物理的負荷の低減 |
常に同じ分け目のタイトなセット | 分け目を定期的に変える、ソフトなスタイリング剤の使用 | 特定部位への集中的な負担分散 |

早期の対応が予防と改善のカギ
牽引性脱毛症は、初期の段階で気づき、迅速に対策を講じれば改善が見込めることが多い脱毛症です。しかし、長期間にわたり強い牽引が続くと、毛包が永続的なダメージを受け、毛髪が再生しなくなる可能性もあります。
抜け毛の増加、頭皮の痛みやかゆみ、特定の部位の地肌が透けて見えるなどのサインに気づいたら、自己判断せずに早めに専門のクリニックに相談することが重要です。

医師による正確な診断と指導のもと、適切な治療と予防策を開始することが、健康な髪を取り戻すための鍵となります。
頭皮に直接アプローチする外用薬による治療
牽引による物理的な負担を取り除いた後は、ダメージを受けた頭皮環境を整え、発毛を促すための治療が必要になる場合があります。
特にミノキシジルなどの成分を含む外用薬は、頭皮に直接塗布することで毛包に作用し、血行を促進して発毛をサポートする効果が期待できます。
クリニックでは、患者様の状態に合わせた適切な外用薬の選定と使用方法の指導を行います。
ミノキシジル配合外用薬の効果と役割

ミノキシジルは、もともと高血圧の治療薬として開発されましたが、その副作用として発毛効果が認められ、現在は脱毛症治療薬として広く用いられています。
頭皮に塗布すると、毛細血管を拡張させて血行を促進し、毛母細胞の活性化を促すと考えられています。これにより、休止期にある毛髪を成長期へと移行させ、細く弱った髪を太く健康な状態に育てる効果が期待できます。
牽引性脱毛症によってダメージを受けた毛包の回復を助け、抜け毛を減らし、新たな髪の成長をサポートします。ただし、効果の現れ方には個人差があり、継続的な使用が必要です。
ミノキシジル外用薬の主な作用
- 毛細血管の拡張による頭皮の血行促進
- 毛母細胞の活性化促進
- ヘアサイクルの正常化補助(休止期から成長期への移行促進)
外用薬の正しい使用方法と頭皮ケア
外用薬の効果を最大限に引き出すためには、正しい使用方法を守ることが重要です。通常、1日に1~2回、清潔な乾いた頭皮の気になる部分に直接塗布します。
塗布後は、薬剤がしっかりと浸透するように、指の腹で優しくマッサージすると血行促進にも繋がり、より効果的です。ただし、強く擦りすぎると頭皮にダメージを与える可能性があるため注意が必要です。

また、外用薬の使用と並行して、頭皮を清潔に保つための適切なシャンプー選びや洗髪方法も大切です。刺激の少ないシャンプーを選び、優しく洗い上げることで、薬剤の浸透を助け、頭皮環境を健やかに保ちます。
外用薬使用時の注意点
項目 | 注意点 | 理由 |
---|---|---|
塗布量・回数 | 医師の指示通り、過不足なく使用する | 過剰使用は副作用リスク増、少量では効果不十分の可能性 |
頭皮の状態 | 清潔で乾いた頭皮に使用する | 汚れや水分は薬剤の浸透を妨げる可能性 |
塗布後のケア | 自然乾燥させ、すぐに洗い流さない | 薬剤が頭皮に留まり作用する時間が必要 |
治療効果を高めるためのポイント
外用薬治療の効果を高めるためには、薬の使用だけでなく、生活習慣全体を見直すことも大切です。バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理は、髪の成長に必要な栄養供給やホルモンバランスの安定に寄与します。
特に、髪の主成分であるタンパク質や、ビタミン、ミネラルを積極的に摂取することは、健康な髪を育む上で重要です。また、頭皮マッサージを日常的に行い、血行を常に良好に保つことも、外用薬の効果を補強し、頭皮環境全体の改善に繋がります。
クリニックでは、これらの生活指導も含めた総合的なアプローチで治療をサポートします。
体の内側から改善を促す内服薬による治療
牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)の治療において、外用薬と並行して、あるいは症状の程度によっては内服薬によるアプローチも検討されます。
内服薬は体内に吸収され、血流を通じて毛根に必要な栄養素を届けたり、発毛を阻害する要因に働きかけたりすることで、体の内側から頭皮環境の改善と発毛をサポートします。
ただし、内服薬の使用は医師の診断と処方が必要です。自己判断での使用は避け、必ず専門医にご相談ください。
発毛促進に関わる内服薬の種類と特徴

脱毛症治療に用いられる内服薬には、いくつかの種類があります。
代表的なものとしては、男性型脱毛症(AGA)治療薬として知られるフィナステリドやデュタステリドがありますが、これらは主にホルモンバランスに作用するものです。
牽引性脱毛症の場合は、直接的な原因がホルモンではないため、これらの薬剤が第一選択となることは少ないですが、複合的な要因が考えられる場合には検討されることもあります。
より一般的には、髪の成長に必要なビタミン、ミネラル、アミノ酸などをバランス良く配合したサプリメントや、血行を促進する作用のある内服薬が補助的に用いられることがあります。
これらの内服薬は、毛髪の成長サイクルを正常化し、健康な髪を育むための体内環境を整えることを目的とします。
主な内服アプローチと期待される効果
内服薬の種類(例) | 主な成分・作用 | 期待される効果 |
---|---|---|
栄養補助サプリメント | ビタミン群、亜鉛、ケラチン等 | 毛髪生成に必要な栄養素の補給、頭皮環境の改善サポート |
血行促進薬 | ビタミンE誘導体等 | 末梢血管の拡張、頭皮への血流増加 |
AGA治療薬(※医師判断) | フィナステリド、デュタステリド | 男性ホルモンの影響抑制(AGA合併時) |
内服薬の服用期間と副作用について
内服薬による治療効果を実感するまでには、一般的に数ヶ月単位の時間が必要です。
毛髪には成長サイクルがあり、薬の効果が新しい髪の成長に反映されるまでには時間がかかるため、根気強く継続することが大切です。服用期間については、症状の改善度合いや医師の判断によって異なります。
副作用については、薬剤の種類によって異なりますが、例えばAGA治療薬の場合、ごく稀に性機能関連の副作用や肝機能への影響が報告されています。
栄養補助的なサプリメントや血行促進薬の場合、重篤な副作用は稀ですが、体質によっては胃腸の不快感などが現れることもあります。
どのような内服薬であっても、服用を開始する前には医師から十分な説明を受け、理解した上で治療を進めることが重要です。気になる症状が現れた場合は、速やかに医師に相談してください。
クリニックでの処方と経過観察の重要性
内服薬による治療は、必ず医師の診断のもと、適切な薬剤を処方してもらう必要があります。
個人の症状や体質、他に服用している薬などを考慮せずに自己判断で薬を使用すると、期待した効果が得られないばかりか、思わぬ健康被害を招くリスクもあります。
クリニックでは、専門医が診察を通じて最適な内服薬を選定し、適切な用法・用量を指示します。また、治療開始後も定期的な経過観察を行い、効果の確認や副作用の有無をチェックし、必要に応じて治療計画を調整します。
安全かつ効果的に治療を進めるためには、医師との連携が欠かせません。
薬以外の選択肢、その他の治療アプローチ
牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)の治療は、原因除去や薬物療法が中心となりますが、それ以外にも頭皮環境を改善し、発毛をサポートするための様々なアプローチが存在します。
これらの治療法は、単独で行われることもあれば、薬物療法と組み合わせて行われることで、より高い効果を目指すこともあります。クリニックでは、患者様の状態や希望に応じて、これらの選択肢を提案します。
低出力レーザー治療

低出力レーザー治療(LLLT: Low-Level Laser Therapy)は、特定の波長のレーザー光を頭皮に照射することで、毛母細胞の活性化や血行促進を図る治療法です。
痛みや熱感を伴うことはほとんどなく、非侵襲的な治療として注目されています。
レーザー光が細胞内のミトコンドリアに作用し、エネルギー産生を高めることで、毛髪の成長期を延長させたり、休止期にある毛包を成長期に移行させたりする効果が期待されます。
ミノキシジル外用薬や内服薬との併用で、相乗効果が得られることも報告されています。クリニックで使用する医療用の機器のほか、家庭用のデバイスも存在しますが、効果や安全性については専門医に相談することが賢明です。
この治療は、特に初期の脱毛症や、薬物療法に抵抗がある方、あるいは薬物療法の効果をさらに高めたいと考える方に適している場合があります。
低出力レーザー治療のポイント
項目 | 内容 | 期待される作用 |
---|---|---|
原理 | 特定波長の低出力レーザーを頭皮に照射 | 毛母細胞のATP産生促進、血行改善 |
特徴 | 非侵襲的、痛みが少ない | 成長期の延長、休止期から成長期への移行促進 |
適用 | 初期の脱毛症、薬物療法の補助など | 抜け毛の抑制、髪のハリ・コシ改善 |
頭皮への注入療法(メソセラピーなど)
頭皮メソセラピーは、発毛促進効果のある有効成分(ビタミン、ミネラル、アミノ酸、成長因子、ミノキシジルなど)を、注射や特殊な電気パルス(エレクトロポレーション)を用いて頭皮の深部に直接導入する治療法です。
有効成分を直接毛根周辺に届けることで、より効率的に毛母細胞を活性化させ、頭皮環境を改善し、発毛を促すことを目指します。注入する薬剤の種類や組み合わせは、クリニックや患者様の状態によって異なります。
注射を用いる場合は多少の痛みを伴うことがありますが、エレクトロポレーションなどの針を使わない方法では痛みはほとんどありません。
薬物療法と組み合わせることで、治療効果を早めたり、高めたりすることが期待できます。この治療法は、特に薬剤の浸透を高めたい方や、集中的な頭皮ケアを望む方に適しています。
自毛植毛という選択肢とその適用
自毛植毛は、牽引性脱毛症が進行し、毛包が永続的なダメージを受けてしまい、薬物療法や他の治療法では十分な回復が見込めない場合に検討される外科的な治療法です。
後頭部や側頭部など、男性ホルモンの影響を受けにくく、比較的毛髪が残っている部位から自身の毛包を採取し、薄毛が気になる部分に移植します。
移植された毛髪は、元の部位の性質を保ったまま生着し、成長を続けるため、長期的な効果が期待できます。
ただし、外科手術であるため、費用やダウンタイム、リスクなどを十分に理解した上で決定する必要があります。
牽引性脱毛症の場合、まずは牽引の原因を取り除き、保存的治療で改善を目指すのが一般的ですが、広範囲にわたり毛髪が失われてしまったケースなどでは、最終的な手段として有効な選択肢となり得ます。
クリニックで専門医とよく相談し、適用かどうかを慎重に判断することが大切です。
治療期間と回復までの一般的な経過

牽引性脱毛症の治療を開始してから効果を実感し、満足のいく状態まで回復するには、ある程度の期間が必要です。
毛髪には成長サイクルがあり、治療によってそのサイクルが正常化し、新しい健康な髪が生え揃うまでには時間がかかります。
ここでは、一般的な治療期間の目安と、回復過程で見られる変化について解説します。
初期反応と効果が現れるまでの期間
治療を開始してすぐには、劇的な変化が見られないことが一般的です。例えば、ミノキシジル外用薬を使用した場合、初期に一時的な抜け毛の増加(初期脱毛)が見られることがあります。
これは、休止期にあった古い毛髪が新しい毛髪に押し出されるために起こる現象で、治療が効き始めているサインの一つとも考えられます。
通常、治療開始から3ヶ月~6ヶ月程度で、抜け毛の減少や産毛の発生、髪のハリやコシの改善といった初期の効果を感じ始める方が多いです。
ただし、これはあくまで目安であり、個人の症状の程度、治療法の種類、生活習慣などによって効果の現れ方や時期には差があります。
治療開始後の一般的な変化の目安
期間 | 見られる可能性のある変化 | ポイント |
---|---|---|
治療開始~1ヶ月 | 初期脱毛(一部の治療法)、特に変化なし | 焦らず継続することが重要 |
1ヶ月~3ヶ月 | 抜け毛の減少傾向、頭皮環境の改善感 | 効果判定にはまだ早い時期 |
3ヶ月~6ヶ月 | 産毛の発生、既存毛のハリ・コシ改善 | 目に見える変化が出始める時期 |
毛髪サイクルの正常化と見た目の改善
治療を継続することで、乱れていた毛髪の成長サイクル(成長期・退行期・休止期)が徐々に正常化していきます。特に、成長期が長くなることで、髪が太く長く成長するようになり、見た目のボリュームアップに繋がります。
産毛が太く硬い毛に成長し、地肌の透け感が目立たなくなるまでには、一般的に6ヶ月~1年以上の期間を見込む必要があります。この期間中も、医師の指示に従い、根気強く治療を続けることが大切です。
また、治療効果を持続させるためには、原因となった牽引行為を再開しないこと、そして健康的な生活習慣を維持することが重要です。
治療効果の維持と長期的な視点
牽引性脱毛症は、原因である物理的な引っ張りを排除すれば、多くの場合改善が見込めます。しかし、一度改善したからといって油断は禁物です。
再び髪を強く引っ張るような髪型や習慣に戻れば、再発する可能性があります。治療によって得られた良好な状態を維持するためには、長期的な視点でのケアが求められます。
定期的にクリニックで頭皮の状態をチェックしてもらい、適切なアドバイスを受けることも有効です。また、薬物療法を行っている場合は、医師の指示に従って継続するか、徐々に減らしていくかを相談しながら進めます。
自己判断で治療を中断すると、再び症状が悪化することもあるため注意が必要です。
今すぐ見直したい髪型と結び方の工夫

牽引性脱毛症の予防と改善において、日々の髪型や髪の結び方を見直すことは非常に重要です。
頭皮や毛根への負担を軽減するための具体的な工夫を取り入れることで、抜け毛のリスクを減らし、健康な髪を維持することができます。
ここでは、特に注意したい髪型と、頭皮に優しい結び方のポイントを紹介します。
頭皮に負担をかける髪型とその理由
特定の髪型は、持続的に毛根を引っ張り、頭皮に大きな負担をかけます。
例えば、きつく結んだポニーテール、マンバン(お団子ヘア)、コーンロウ、ドレッドヘア、そして重いエクステンションなどは、牽引性脱毛症の代表的な原因となります。
これらの髪型は、毛髪を一定方向に強く引っ張り続けるため、毛包に炎症が生じたり、血行が悪くなったりします。その結果、毛根が弱り、抜け毛や切れ毛、さらには毛髪の成長サイクルの乱れを引き起こします。
特に、毎日同じ髪型で同じ部分にテンションがかかり続けると、その部分の脱毛が進行しやすくなります。
注意すべき髪型と主な負担箇所
- ポニーテール・マンバン:生え際、結び目周辺
- コーンロウ・ドレッドヘア:編み込み部分全体、生え際
- エクステンション:装着部分の毛根
髪と頭皮に優しい結び方・スタイリングのコツ
髪を結ぶ際には、できるだけ頭皮への負担を避ける工夫をしましょう。まず、髪を結ぶ強さを緩めることが基本です。きつく縛るのではなく、少しゆとりを持たせるだけで、毛根への負担は大きく軽減されます。
また、毎日同じ位置で髪を結ぶのではなく、結ぶ高さを変えたり、分け目を変えたりすることも有効です。これにより、特定の部分に集中していた負担を分散させることができます。
スタイリング剤を使用する場合は、髪や頭皮に優しい成分のものを選び、使用量も最小限に抑えるように心がけましょう。
ヘアアイロンやドライヤーの熱も、使い方によっては頭皮や髪にダメージを与えるため、使用時間や温度設定に注意が必要です。
頭皮に優しいスタイリングのポイント
工夫のポイント | 具体的な方法 | 期待される効果 |
---|---|---|
結ぶ強さ | 緩めに結ぶ、ゴムの代わりにシュシュなどを使用 | 毛根への物理的張力の低減 |
結ぶ位置・分け目 | 日によって変える、長時間同じにしない | 特定部位への負担集中を避ける |
スタイリング剤 | 低刺激性のものを選ぶ、使用量を控える | 頭皮への化学的刺激の軽減 |
熱器具の使用 | 低温設定、短時間使用、頭皮から離す | 熱による髪と頭皮のダメージ予防 |
エクステンションやウィッグの賢い利用法
エクステンションやウィッグは、髪のボリュームアップやスタイルチェンジに便利なアイテムですが、使い方を誤ると牽引性脱毛症の原因や悪化に繋がることがあります。
エクステンションを選ぶ際は、できるだけ軽量なものを選び、装着する本数も最小限に留めることが大切です。また、装着期間を適切に守り、定期的に取り外して頭皮を休ませる期間を設けることが重要です。
ウィッグを使用する場合は、通気性の良いものを選び、長時間連続して装着するのを避け、こまめに外して頭皮の蒸れを防ぐようにしましょう。
装着する際には、固定用のクリップやピンが頭皮を強く圧迫したり、髪を引っ張ったりしないように注意が必要です。
これらのアイテムを使用する際は、専門の美容師やクリニックに相談し、頭皮への負担が少ない方法を選ぶことをお勧めします。
頭皮への負担を減らす日常生活の改善ポイント

牽引性脱毛症の予防や改善には、髪型だけでなく、日常生活全般における頭皮への配慮が重要です。睡眠習慣、食生活、ストレス管理など、日々の小さな積み重ねが頭皮環境に影響を与え、髪の健康を左右します。
ここでは、頭皮への負担を軽減し、健やかな髪を育むための生活習慣の改善ポイントを解説します。
睡眠中の頭皮ケアと寝具の選び方
質の高い睡眠は、髪の成長と修復に不可欠な成長ホルモンの分泌を促します。睡眠不足はホルモンバランスの乱れや血行不良を引き起こし、頭皮環境を悪化させる可能性があります。
毎日同じ時間に就寝・起床するなど、規則正しい睡眠リズムを心がけましょう。また、寝具の選び方も頭皮ケアに影響します。
枕カバーは、摩擦が少なく通気性の良いシルクやコットン素材のものを選ぶと、睡眠中の髪の絡まりや頭皮への刺激を軽減できます。
枕の高さや硬さも、首や肩への負担、ひいては頭部への血行に関わるため、自分に合ったものを選ぶことが大切です。
髪が長い場合は、軽くまとめて寝ることで、寝返りによる摩擦や絡まりを防ぎ、毛根への余計な負担を避けることができます。
食生活の見直しと髪に良い栄養素
健康な髪は、バランスの取れた食事から作られます。特に、髪の主成分であるタンパク質(肉、魚、大豆製品、卵など)の摂取は基本です。
また、亜鉛(牡蠣、レバー、ナッツ類など)はタンパク質の合成を助け、毛髪の成長に重要なミネラルです。
ビタミン類も髪の健康に深く関わっており、特にビタミンB群(緑黄色野菜、魚介類など)は頭皮の新陳代謝を促し、ビタミンC(果物、野菜など)はコラーゲンの生成を助け、ビタミンE(ナッツ類、植物油など)は血行を促進する効果が期待できます。
これらの栄養素を偏りなく摂取することを心がけ、インスタント食品や脂質の多い食事は控えめにすることが、内側からの頭皮ケアに繋がります。
髪の健康をサポートする主な栄養素と食品例
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分、毛髪の構築 | 肉類、魚介類、卵、大豆製品 |
亜鉛 | タンパク質の合成補助、細胞分裂促進 | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 |
ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝促進、皮脂バランス調整 | レバー、魚介類、緑黄色野菜、穀類 |
ビタミンE | 血行促進、抗酸化作用 | ナッツ類、植物油、アボカド |
ストレス管理とリフレッシュ方法
過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させて頭皮の血行不良を引き起こす可能性があります。また、ストレスはホルモンバランスにも影響を与え、抜け毛を助長することがあります。
日常生活でストレスを完全に避けることは難しいかもしれませんが、自分に合ったストレス解消法を見つけ、心身をリフレッシュする時間を意識的に作ることが大切です。
適度な運動、趣味への没頭、十分な休息、親しい人との会話などが有効です。深呼吸や瞑想なども、手軽にできるリラックス方法としておすすめです。
ストレスを溜め込まない生活を心がけることが、巡り巡って頭皮と髪の健康を守ることに繋がります。
髪と頭皮を守るヘアケア方法

毎日のヘアケアは、頭皮環境を健やかに保ち、牽引性脱毛症の予防や進行抑制に繋がる重要な習慣です。
正しいシャンプーの選び方や洗髪方法、そして頭皮マッサージなどを実践することで、髪と頭皮へのダメージを最小限に抑え、健康な状態を維持することができます。
ここでは、具体的なヘアケア方法について詳しく解説します。
正しいシャンプーの選び方と洗髪テクニック
シャンプー選びは、ご自身の頭皮タイプ(乾燥肌、脂性肌、敏感肌など)に合ったものを選ぶことが基本です。洗浄力が強すぎるシャンプーは、頭皮に必要な皮脂まで奪い去り、乾燥やバリア機能の低下を招くことがあります。
アミノ酸系やベタイン系など、マイルドな洗浄成分のシャンプーは、頭皮への刺激が少なくおすすめです。洗髪時は、まずお湯で髪と頭皮を十分に予洗いし、汚れやホコリを浮かび上がらせます。
シャンプーは手のひらでよく泡立ててから髪に乗せ、指の腹を使って頭皮を優しくマッサージするように洗います。爪を立ててゴシゴシ洗うのは、頭皮を傷つける原因になるため避けましょう。
すすぎは、シャンプー剤が残らないように、時間をかけて丁寧に行うことが大切です。特に生え際や耳の後ろなどはすすぎ残しが多い部分なので注意が必要です。
シャンプー選びのポイント
- 頭皮タイプに合った洗浄成分(例:乾燥肌なら保湿成分配合のアミノ酸系)
- 刺激の少ない成分(例:無香料、無着色、パラベンフリーなど)
- シリコンの有無(ノンシリコンは洗い上がりが軽いが、きしむことも。髪質に合わせて)
頭皮マッサージのやり方と血行促進効果
頭皮マッサージは、頭皮の血行を促進し、毛根に栄養を届けやすくする効果が期待できます。また、頭皮の緊張を和らげ、リラックス効果も得られます。
シャンプー時や、育毛剤を塗布した後などに行うのがおすすめです。指の腹を使い、頭皮全体を優しく揉みほぐすようにマッサージします。
生え際から頭頂部へ、側頭部から頭頂部へといったように、下から上へ向かって行うと効果的です。強く押しすぎたり、爪を立てたりしないように注意しましょう。
1回数分程度、毎日続けることで、頭皮環境の改善に繋がります。頭皮マッサージは、抜け毛予防だけでなく、肩こりや眼精疲労の緩和にも役立つことがあります。
簡単な頭皮マッサージの手順
ステップ | マッサージ方法 | ポイント |
---|---|---|
準備 | 指の腹を頭皮に密着させる | リラックスした状態で行う |
側頭部 | 耳の上あたりから頭頂部に向かって円を描くように揉む | 心地よい強さで |
前頭部・頭頂部 | 生え際から頭頂部に向かって引き上げるように揉む | 頭皮全体を動かすイメージ |
後頭部 | 首の付け根から頭頂部に向かって揉み上げる | 血行促進を意識する |
ヘアアイロンやドライヤーの適切な使用法
ヘアアイロンやドライヤーの熱は、髪のタンパク質を変性させたり、頭皮を乾燥させたりする原因となり、過度な使用は髪や頭皮にダメージを与えます。
ドライヤーを使用する際は、髪から15cm以上離し、同じ場所に熱風を当て続けないように注意しましょう。まずはタオルドライで髪の水分をしっかり取り、ドライヤーの時間を短縮することも大切です。
温風である程度乾かしたら、最後に冷風を当てるとキューティクルが引き締まり、髪のまとまりが良くなります。
ヘアアイロンを使用する場合は、髪が完全に乾いた状態で、できるだけ低温(150℃以下が目安)で、短時間で済ませるように心がけましょう。
頻繁な使用は避け、使用する際には熱から髪を守るためのスタイリング剤(ヒートプロテクト剤)を併用することも有効な対策です。
定期的なチェックと早期対応の重要性

牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)は、早期に発見し、適切な対応をすることで改善が期待できる脱毛症です。
しかし、自覚症状が乏しい初期段階では見過ごされやすく、気づいた時にはある程度進行してしまっているケースも少なくありません。そのため、日頃から自身の頭皮や髪の状態に関心を持ち、定期的なチェックを習慣づけることが重要です。
そして、何らかの異常を感じた場合には、自己判断せずに速やかに専門のクリニックを受診し、専門医のアドバイスを受けることが、健康な髪を維持するための鍵となります。
セルフチェックで気づける頭皮のサイン
日常生活の中で、自身の頭皮や髪の状態を意識的に観察することで、牽引性脱毛症の初期サインに気づくことができます。
例えば、特定の髪型をした後に頭皮に痛みやかゆみを感じる、シャンプー時やブラッシング時の抜け毛が以前より増えた、髪の分け目が広がってきた、特定の部位の髪が細くなったり地肌が透けて見えたりする、といった変化は注意すべきサインです。
特に、いつも同じ場所で髪を結んでいる方は、その周辺の頭皮を入念にチェックしましょう。鏡を使って頭頂部や後頭部など、自分では見えにくい部分も確認する習慣をつけると良いでしょう。
これらのサインに気づいたら、まずは髪型やヘアケア方法を見直すとともに、専門医への相談を検討してください。
クリニックでの専門的な頭皮診断
セルフチェックで気になる点があった場合や、より正確な頭皮の状態を知りたい場合は、専門のクリニックで頭皮診断を受けることをお勧めします。
クリニックでは、マイクロスコープなどを用いて頭皮や毛穴の状態、毛髪の太さや密度などを詳細に観察し、脱毛症の種類や進行度を客観的に評価します。
また、医師による問診を通じて、生活習慣やヘアケア方法、既往歴などを把握し、総合的に診断を下します。これにより、牽引性脱毛症であるかどうかの判断はもちろん、他の脱毛症との鑑別や、適切な治療法・予防法の選択に繋がります。
自己判断では見逃してしまうような微細な変化も、専門的な診断によって明らかになることがあります。
クリニックでの頭皮診断でわかること
検査項目例 | 内容 | 判断できること |
---|---|---|
マイクロスコープ検査 | 頭皮、毛穴、毛髪の状態を拡大して観察 | 毛穴の詰まり、炎症、皮脂量、毛髪の太さ・密度など |
問診 | 生活習慣、既往歴、自覚症状などの聞き取り | 脱毛の原因推定、リスク因子の特定 |
ダーモスコピー検査 | 特殊な拡大鏡で頭皮の色素沈着や血管パターンを観察 | 炎症の程度、毛包の状態評価 |
早期発見・早期治療がもたらすメリット
牽引性脱毛症に限らず、多くの脱毛症は、早期に発見し、早期に治療を開始することで、より良好な治療効果が期待でき、回復までの期間も短縮できる傾向にあります。
牽引性脱毛症の場合、毛包へのダメージが軽微な初期段階であれば、原因である牽引を中止し、適切なケアを行うだけで自然に回復することも少なくありません。
しかし、長期間にわたり強い牽引が続き、毛包が萎縮したり、瘢痕化したりすると、毛髪の再生が困難になることもあります。
早期に専門医の診断を受け、適切な治療や予防策を開始することで、毛包への永続的なダメージを防ぎ、健康な髪を取り戻せる可能性が高まります。
手遅れになる前に、勇気を出して専門医に相談することが大切です。
よくある質問
Reference
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