薄毛や抜け毛のお悩みは、多くの方が抱えるデリケートな問題です。一口に薄毛といっても、その原因や症状は多岐にわたります。
ご自身の状態を正しく理解し、適切な対策を講じるためには、まず薄毛の種類について知ることが大切です。
この記事では、男性に見られる代表的な薄毛の種類とその概要について、わかりやすく解説します。ご自身の状態を把握する一助となれば幸いです。
薄毛の種類
AGA(男性型脱毛症) | 円形脱毛症 | 休止期脱毛症 |
脂漏性脱毛症 | 抜毛症(トリコチロマニア) | 粃糠(ひこうせい)性脱毛症 |
内分泌異常に伴う脱毛症 | 瘢痕(はんこん)性脱毛症 | 薬剤性脱毛症 |
牽引性脱毛症 | 梅毒性脱毛症 | 頭部白癬性脱毛症(しらくも) |
栄養障害に伴う脱毛症 | 放射線による脱毛 | 先天性乏毛症・縮毛症 |
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
男性の薄毛は15種類+αある

薄毛と一言で言っても、その背景には様々な要因が隠されています。一般的に最もよく知られているのはAGA(男性型脱毛症)ですが、それ以外にも多くの種類の脱毛症が存在します。
自己免疫の異常が関わるもの、頭皮環境の悪化によるもの、生活習慣や精神的なストレスが影響するもの、あるいは特定の疾患や治療薬の副作用として現れるものなど、その原因は多岐にわたります。
これらを正確に識別することが、適切なケアや治療への第一歩です。原因が異なれば、当然対処法も変わってきます。
このセクションでは、どのような種類の薄毛があるのか、その全体像を掴んでいただくことを目的としています。
薄毛の主な分類
分類 | 主な特徴 | 代表的な脱毛症 |
---|---|---|
進行性・遺伝的要因 | 男性ホルモンや遺伝が関与し、徐々に進行する | AGA(男性型脱毛症) |
免疫関連 | 免疫系の異常により毛包が攻撃される | 円形脱毛症 |
頭皮環境関連 | 皮脂の過剰分泌や乾燥、菌の増殖などが原因 | 脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症 |
これらはあくまで一部であり、他にも様々な要因が複雑に絡み合って薄毛を引き起こすことがあります。次のセクションから、それぞれの脱毛症について詳しく見ていきましょう。
AGA(男性型脱毛症)
AGAは「Androgenetic Alopecia」の略で、日本語では男性型脱毛症と呼ばれます。成人男性に見られる進行性の脱毛症で、薄毛の悩みを持つ男性の多くがこのAGAに該当すると考えられています。
遺伝的要因や男性ホルモンの影響が深く関与しており、特に思春期以降に発症することが多いのが特徴です。
放置すると徐々に薄毛が進行していくため、早期の認識と対策が重要となります。
AGAの主な原因
AGAの発症には、主に遺伝的素因と男性ホルモンが関わっています。これらの要因が複合的に作用することで、毛髪の成長サイクルが乱れ、薄毛が進行します。
遺伝的要因
AGAの発症しやすさには、遺伝が影響していると考えられています。特に母方の家系に薄毛の方がいる場合、AGAを発症する可能性が高まるとの報告もあります。
しかし、遺伝的素因があるからといって必ずしも発症するわけではなく、他の要因との組み合わせが重要です。
男性ホルモンの影響
男性ホルモンの一種であるテストステロンが、体内の還元酵素「5αリダクターゼ」によって、より強力な男性ホルモンであるDHT(ジヒドロテストステロン)に変換されます。
このDHTが毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体と結合すると、毛髪の成長期を短縮させ、毛髪が太く長く成長する前に抜け落ちてしまう現象を引き起こします。これがAGAによる薄毛の主な仕組みです。
AGAの進行パターン

AGAの進行パターンにはいくつかの典型的な形があり、これらはハミルトン・ノーウッド分類などで類型化されています。
進行の仕方には個人差がありますが、代表的なパターンを知ることで、ご自身の状態を把握する手がかりになります。
- 額の生え際から後退していくタイプ(M字型)
- 頭頂部から薄くなるタイプ(O字型)
- 前頭部から頭頂部にかけて全体的に薄くなるタイプ(U字型)
これらのパターンが単独で現れることもあれば、複合的に進行することもあります。
AGA進行パターンと呼称
進行パターン | 主な特徴 | 初期の気づきやすい点 |
---|---|---|
M字型 | 額の両サイド(こめかみの上あたり)から徐々に後退していく | 以前より額が広くなったと感じる |
O字型 | 頭頂部(つむじ周辺)から円形に薄毛が広がる | 頭頂部の地肌が透けて見える |
U字型 | 前頭部の生え際全体が後退し、頭頂部の薄毛と繋がることがある | 生え際全体が後退し、M字とO字が複合したような形になる |
AGAの診断方法
AGAの診断は、主に問診、視診、触診によって行われます。医師が患者さんの脱毛の状況、家族歴、生活習慣などを詳しく聞き取り、頭皮や毛髪の状態を観察します。
ほぼマストで遺伝子検査はしたほうが良いと思います。また、必要に応じて、マイクロスコープで毛髪の状態を詳細に確認したり、他の脱毛症との鑑別のために血液検査を行うこともあります。
正確な診断が、その後の適切な治療計画の基盤となります。

円形脱毛症

円形脱毛症は、ある日突然、頭髪の一部が円形または楕円形に抜け落ちる疾患です。
年齢や性別を問わず誰にでも起こりうる脱毛症で、一つだけできる場合(単発型)もあれば、複数できる場合(多発型)、さらには頭全体の毛が抜ける(全頭型)、全身の毛が抜ける(汎発型)など、症状の範囲は様々です。
多くの場合、自覚症状はほとんどありませんが、時に軽いかゆみや違和感を伴うこともあります。
円形脱毛症とは
円形脱毛症は、毛包組織に対する自己免疫反応が原因と考えられている脱毛症です。何らかのきっかけで免疫細胞が自身の毛包を異物と誤認し攻撃してしまうことで、毛髪が成長途中で抜け落ちてしまいます。
多くの場合、毛包自体は残っているため、症状が改善すれば再び毛髪が生えてくる可能性があります。
円形脱毛症の原因と考えられているもの
円形脱毛症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
自己免疫疾患説
現在最も有力視されているのが自己免疫疾患説です。リンパ球などの免疫細胞が、成長期の毛根を異物と誤認して攻撃し、破壊することで脱毛が起こるとされています。
甲状腺疾患や尋常性白斑などの自己免疫疾患を合併している場合があることも、この説を支持しています。
精神的ストレス説
強い精神的ストレスが引き金となって発症することがあると考えられています。ストレスが自律神経やホルモンバランスを乱し、免疫系に影響を与えることで発症に関与する可能性が指摘されています。
遺伝的要因
家族内での発症例も報告されており、遺伝的な素因も関与していると考えられています。特定の遺伝子を持つ人が円形脱毛症を発症しやすい可能性が研究されています。
円形脱毛症の症状と種類
円形脱毛症は、脱毛斑の数や範囲によっていくつかの種類に分類されます。
円形脱毛症の種類と特徴
種類 | 脱毛斑の状態 | 一般的な経過 |
---|---|---|
単発型 | 円形または楕円形の脱毛斑が1つだけ現れる | 自然に治癒することも多いが、拡大や再発の可能性もある |
多発型 | 脱毛斑が2つ以上現れる | 脱毛斑が融合して大きくなることがある |
全頭型・汎発型 | 全頭型は頭部全体の毛髪が、汎発型は眉毛やまつ毛、体毛など全身の毛が抜ける | 治療が長期にわたることが多い |
脱毛斑の境界は比較的はっきりしており、脱毛部分の皮膚は正常に見えることが多いです。初期には、脱毛斑の周囲の毛を軽く引っ張ると簡単に抜ける「断毛」が見られることもあります。

休止期脱毛症

休止期脱毛症は、毛髪の成長サイクル(毛周期)において、成長期にある毛髪が一斉に休止期に移行し、その結果として一時的に抜け毛が増加する状態を指します。
通常、全頭の毛髪が均等に薄くなるびまん性の脱毛として現れることが多いです。何らかの身体的または精神的な大きなストレスが引き金となることが知られています。
休止期脱毛症の概要
健康な状態では、毛髪の約85~90%が成長期にあり、約10~15%が休止期に入って自然に抜け落ち、新しい毛髪に生え変わります。
休止期脱毛症では、このバランスが崩れ、多くの毛髪が通常よりも早く成長期を終えて休止期に入ってしまいます。その結果、数ヶ月後に大量の抜け毛として自覚されるようになります。
休止期脱毛症を引き起こす主な要因
休止期脱毛症の引き金となる要因は多岐にわたります。代表的なものを以下に示します。
- 極端なダイエットや栄養失調
- 出産(分娩後脱毛症)
- 高熱を伴う疾患(インフルエンザなど)
- 大きな外科手術や重度の外傷
- 精神的な強いストレス
- 特定の薬剤の服用
これらの要因が身体に大きな負担をかけると、毛周期が乱れ、休止期脱毛症が誘発されることがあります。
休止期脱毛症の誘因と発症時期
主な誘因 | 脱毛が目立ち始める時期の目安 | 脱毛の特徴 |
---|---|---|
出産 | 産後2~3ヶ月頃から | 全体的に抜け毛が増える |
高熱、手術 | 原因事象から2~4ヶ月後 | 急激に抜け毛が増えることがある |
精神的ストレス | ストレスを受けてから数ヶ月後 | 徐々に、あるいは急に抜け毛が増える |
休止期脱毛症の特徴
休止期脱毛症の特徴は、原因となった出来事から2~4ヶ月程度の期間をおいて脱毛が始まることです。
抜け毛の量は一時的に増加しますが、原因が取り除かれれば、通常は6ヶ月から1年程度で自然に回復することが多いです。
ただし、原因が持続する場合や、他の脱毛症を併発している場合は、回復が遅れたり、慢性化したりすることもあります。

脂漏性脱毛症

脂漏性脱毛症は、頭皮の皮脂が過剰に分泌されることによって引き起こされる脱毛症です。
過剰な皮脂は毛穴を詰まらせたり、頭皮の常在菌であるマラセチア菌の異常繁殖を招いたりして、頭皮環境を悪化させます。
これにより、頭皮に炎症(脂漏性皮膚炎)が生じ、健康な毛髪の育成が妨げられ、抜け毛や薄毛につながります。
脂漏性脱毛症とは
脂漏性脱毛症は、単に皮脂が多いだけでなく、その皮脂によって頭皮に炎症が起きている状態(脂漏性皮膚炎)を伴うことが特徴です。
この炎症が毛根にダメージを与え、毛髪の成長を阻害したり、抜けやすくしたりします。適切な頭皮ケアを行わないと、症状が悪化し、脱毛が進行する可能性があります。
脂漏性脱毛症の原因
脂漏性脱毛症の主な原因は、皮脂の過剰分泌と、それに伴う頭皮環境の悪化です。
皮脂の過剰分泌
皮脂の分泌量は、ホルモンバランス、食生活、ストレス、遺伝的体質など様々な要因に影響されます。特に、男性ホルモンは皮脂腺を刺激し、皮脂分泌を促進する作用があります。
また、脂肪分の多い食事や糖質の過剰摂取、不規則な生活、睡眠不足なども皮脂の分泌を増やす原因となりえます。
マラセチア菌の増殖
マラセチア菌は、誰の皮膚にも存在する常在菌(カビの一種)ですが、皮脂を栄養源として増殖します。
皮脂が過剰になるとマラセチア菌も異常に増殖し、その代謝物が頭皮を刺激して炎症を引き起こすことがあります。これが脂漏性皮膚炎の発症に関与します。
脂漏性脱毛症の症状
脂漏性脱毛症では、脱毛以外にも以下のような頭皮の症状が見られます。
- 頭皮の赤み、かゆみ
- 湿り気のある大きなフケ、または乾燥した細かいフケ
- 頭皮のベタつき、ニオイ
- 毛穴の詰まり、ニキビのような湿疹
脂漏性脱毛症の主な症状と頭皮状態
症状 | 頭皮の状態 | 関連する要因 |
---|---|---|
フケ(湿性・乾性) | ベタつき、またはカサカサしたフケが付着 | 皮脂の質、マラセチア菌 |
かゆみ・赤み | 炎症、湿疹が見られることがある | マラセチア菌の代謝物、皮脂の酸化 |
抜け毛の増加 | 毛根が弱り、髪が細くなることがある | 毛穴の詰まり、頭皮の炎症 |
これらの症状が見られる場合は、早めに専門医に相談し、適切な頭皮ケアや治療を開始することが大切です。

抜毛症(トリコチロマニア)

抜毛症(トリコチロマニア)は、自分自身の毛髪を繰り返し引き抜いてしまう精神疾患の一種です。この行為は意図的なものではなく、衝動的に、あるいは無意識のうちに行われることが多いとされています。
毛髪を引き抜くことで一時的な満足感や緊張の緩和が得られるため、やめたくてもやめられない状態に陥りやすいのが特徴です。主に頭髪が対象となりますが、眉毛やまつ毛などを抜く場合もあります。
抜毛症の定義
抜毛症は、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)において、「強迫症および関連症群」に分類されています。
単なる癖とは異なり、毛髪を抜く行為がコントロールできず、それによって著しい苦痛や社会生活上の支障が生じている場合に診断されます。
脱毛斑は、本人が抜きやすい部位に不規則な形で見られることが多いです。
抜毛症の原因
抜毛症の正確な原因は特定されていませんが、精神的なストレスや不安が大きく関与していると考えられています。その他、遺伝的要因や脳機能の偏りが影響している可能性も指摘されています。
精神的ストレスや不安
学校や職場での人間関係、家庭環境の問題、孤独感、退屈などが引き金となることがあります。
毛を抜く行為が、これらのネガティブな感情を一時的に和らげるための対処行動として習慣化してしまう場合があります。
習慣的な行動
特定の状況(例:テレビを見ている時、勉強中など)で無意識に毛を抜いてしまうこともあります。一度習慣化すると、意識的に止めようとしても難しい場合があります。
抜毛症の症状と影響
抜毛症の主な症状は、毛髪を繰り返し引き抜く行為と、それによる脱毛斑です。脱毛斑は、毛髪の長さが不揃いであったり、途中で切れた毛が混在したりするのが特徴です。
長期間にわたって毛を引き抜き続けると、毛根がダメージを受け、永久的な脱毛に至ることもあります。
また、抜いた毛髪を食べてしまう食毛症を伴うこともあり、その場合は消化器系の問題を引き起こす可能性もあります。
抜毛症の兆候と行動パターン
兆候 | 行動パターン | 心理的側面 |
---|---|---|
不自然な形の脱毛斑 | 特定の毛(太い毛、特定の色の毛など)を選んで抜く | 抜く前に緊張感、抜いた後に解放感や満足感がある |
短い切れ毛が多い | 無意識のうちに、または特定の儀式のように抜く | 行為を隠そうとする、罪悪感を感じる |
頭皮の傷や炎症 | 抜いた毛を調べる、遊ぶ、時には食べる | ストレスや不安を感じている時に行為が増える |
抜毛症は、本人の意志だけではコントロールが難しいため、精神科や心療内科などの専門家のサポートが必要です。行動療法や薬物療法などが検討されます。

粃糠(ひこう)性脱毛症

粃糠性脱毛症は、頭皮に大量の乾燥したフケ(粃糠様落屑)が発生し、それに伴って炎症や脱毛が生じる状態を指します。フケが毛穴を塞いだり、頭皮の正常なターンオーバーを妨げたりすることで、毛髪の成長に悪影響を与えます。
頭皮の乾燥が主な原因となることが多く、特にかゆみを伴うことが多いのが特徴です。適切な頭皮ケアと保湿が改善の鍵となります。
粃糠性脱毛症とは
「粃糠(ひこう)」とは、米ぬかのように細かく乾燥したフケのことを指します。この粃糠が頭皮全体に広がり、毛穴を塞いでしまうことで、毛根が弱り、髪が細くなったり抜けやすくなったりします。
脂漏性脱毛症が湿ったフケを特徴とするのに対し、粃糠性脱毛症は乾燥したフケが主体となります。
粃糠性脱毛症の原因
粃糠性脱毛症の主な原因は、頭皮の乾燥と、それに伴うバリア機能の低下です。
乾燥したフケの大量発生
頭皮が乾燥すると、角質層が剥がれやすくなり、大量のフケが発生します。
洗浄力の強すぎるシャンプーの使用、頻繁な洗髪、空気の乾燥(特に冬場)、アトピー性皮膚炎などの体質が乾燥を引き起こす要因となります。
頭皮の炎症
乾燥によって頭皮のバリア機能が低下すると、外部からの刺激に敏感になり、炎症を起こしやすくなります。また、フケ自体が刺激となって炎症を悪化させることもあります。
この炎症が毛母細胞の働きを弱め、脱毛につながります。
粃糠性脱毛症の症状
主な症状は、乾燥した細かいフケと、それに伴う頭皮のかゆみです。進行すると、頭皮全体が赤みを帯びたり、湿疹ができたりすることもあります。
脱毛は、特定の部位に集中するのではなく、頭部全体にびまん性に起こることが多いです。
粃糠性脱毛症の症状と対策のポイント
主な症状 | 頭皮の状態 | 基本的な対策 |
---|---|---|
乾燥した細かいフケ | カサカサしている、粉を吹いたよう | 保湿力の高いシャンプーの使用、頭皮用保湿剤の利用 |
強いかゆみ | 赤みや湿疹が見られることも | 掻かないように注意、刺激の少ないケア用品を選ぶ |
びまん性の脱毛 | 全体的に髪が細くなる、ボリュームダウン | 頭皮環境の改善、バランスの取れた食事 |
適切なシャンプー選びや洗髪方法の見直し、頭皮の保湿ケアが重要です。症状が改善しない場合は、皮膚科専門医に相談しましょう。

内分泌異常に伴う脱毛症

私たちの体には、ホルモンを分泌する多くの内分泌腺が存在し、これらのホルモンは体の様々な機能を調節しています。
内分泌系のバランスが崩れると、健康状態に多大な影響を及ぼし、その一つとして脱毛症が現れることがあります。
特に甲状腺ホルモンの異常は、毛髪の成長サイクルに直接的な影響を与えるため、脱毛の原因となりやすいです。
内分泌異常と脱毛の関係
毛髪の成長は、毛母細胞の分裂と増殖によってコントロールされていますが、この細胞活動は様々なホルモンの影響を受けます。
例えば、甲状腺ホルモンは全身の細胞の新陳代謝を活発にする働きがあり、毛母細胞の正常な活動にも必要です。
そのため、甲状腺ホルモンの分泌に異常が生じると、毛周期が乱れ、成長期が短縮されたり、休止期に移行する毛髪が増えたりして脱毛が起こります。
具体的な内分泌疾患
脱毛を引き起こす代表的な内分泌疾患には、甲状腺機能の異常があります。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態です。全身の代謝が低下し、毛母細胞の活動も不活発になるため、毛髪が細く、もろくなり、抜けやすくなります。
脱毛は頭部全体にびまん性に起こることが多く、眉毛の外側1/3が薄くなるのも特徴的な症状の一つです。
甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。代謝が異常に活発になることで、逆に毛周期が早まりすぎ、毛髪が十分に成長する前に休止期に入って抜け落ちてしまうことがあります。
こちらもびまん性の脱毛が見られることが多いです。
脱毛以外の症状
内分泌異常に伴う脱毛症の場合、脱毛以外にもそれぞれの疾患に特有の全身症状が現れることが一般的です。例えば、甲状腺機能低下症では、倦怠感、むくみ、体重増加、便秘、皮膚の乾燥、寒がりなどが見られます。
一方、甲状腺機能亢進症では、動悸、体重減少、多汗、手の震え、眼球突出(バセドウ病の場合)などが現れます。
甲状腺機能異常と関連症状
疾患名 | ホルモン状態 | 脱毛以外の主な症状 |
---|---|---|
甲状腺機能低下症 | 甲状腺ホルモン不足 | 倦怠感、むくみ、体重増加、寒がり、皮膚乾燥 |
甲状腺機能亢進症 | 甲状腺ホルモン過剰 | 動悸、体重減少、多汗、手の震え、イライラ感 |
原因となっている内分泌疾患の治療を行うことで、脱毛症状も改善する可能性があります。気になる症状がある場合は、内科または内分泌専門医の診察を受けることが大切です。

瘢痕(はんこん)性脱毛症

瘢痕性脱毛症は、何らかの原因で毛包(毛を作り出す組織)が破壊され、その部分が瘢痕組織(はんこんそしき:傷跡のような硬い組織)に置き換わってしまうことで、永久的に毛髪が生えてこなくなる脱毛症です。
毛包が完全に失われるため、一度発症するとその部位からの発毛は期待できません。様々な皮膚疾患や外傷が原因となりえます。
瘢痕性脱毛症の概要
瘢痕性脱毛症は、毛包が不可逆的なダメージを受けることが特徴です。脱毛斑の皮膚は、つややかに光って見えたり、硬くなったり、逆に萎縮して薄くなったりすることがあります。
炎症を伴う場合は、赤み、かゆみ、痛み、膿疱などが見られることもあります。早期に原因を特定し、炎症を抑える治療を行うことで、瘢痕化の進行を食い止めることが重要です。
瘢痕性脱毛症の原因
瘢痕性脱毛症を引き起こす原因は多岐にわたります。
外傷や火傷
深い切り傷、裂傷、火傷などが頭皮に及んだ場合、治癒過程で瘢痕組織が形成され、毛包が破壊されることがあります。
皮膚疾患
以下のような皮膚疾患が原因となることがあります。
- 毛包炎(特に深在性のものや慢性的なもの)
- 頭部白癬(しらくも)の重症型
- 扁平苔癬(へんぺいたいせん)
- エリテマトーデス(特に円板状エリテマトーデス)
- 禿髪性毛包炎(とくはつせいもうほうえん)
これらの疾患は、毛包周囲に強い炎症を引き起こし、結果として毛包を破壊して瘢痕化を招きます。
瘢痕性脱毛症の特徴
瘢痕性脱毛症の最大の特徴は、毛包が破壊され、永久的な脱毛となる点です。そのため、治療の目標は、さらなる瘢痕化の拡大を防ぎ、現存する毛髪を保護することに置かれます。
活動性の炎症がある場合は、ステロイド外用薬や内服薬、免疫抑制剤などが用いられることがあります。原因疾患の治療が最優先されます。
瘢痕性脱毛症の原因となる主な疾患群
原因カテゴリー | 代表的な疾患・状態 | 瘢痕形成の機序 |
---|---|---|
物理的損傷 | 重度の火傷、外傷、手術痕 | 組織の直接的な破壊と修復過程での瘢痕化 |
感染症 | 重度の細菌性毛包炎、深在性真菌症(ケルスス禿瘡など) | 感染による強い炎症と組織破壊 |
自己免疫性・炎症性疾患 | 円板状エリテマトーデス、毛孔性扁平苔癬、フォリキュラー変性症候群 | 毛包を標的とした免疫反応や慢性炎症による破壊 |
瘢痕性脱毛症が疑われる場合は、速やかに皮膚科専門医の診断を受け、適切な検査と治療を開始することが極めて重要です。

薬剤性脱毛症

薬剤性脱毛症は、特定の医薬品の副作用として起こる脱毛症です。原因となる薬剤の服用を開始してから数週間から数ヶ月後に脱毛が始まることが一般的です。
脱毛の程度や範囲は、薬剤の種類、投与量、投与期間、個人の感受性などによって異なります。
原因薬剤の中止または変更によって改善することが多いですが、薬剤によっては永続的な脱毛を引き起こす可能性も稀にあります。
薬剤による脱毛の発生
多くの薬剤は全身に作用するため、毛母細胞の活動にも影響を与えることがあります。特に細胞分裂が活発な毛母細胞は、薬剤の影響を受けやすい組織の一つです。
薬剤が毛母細胞の分裂を抑制したり、毛周期を乱したりすることで脱毛が引き起こされます。
原因となる薬剤の例
脱毛を引き起こす可能性のある薬剤は数多く存在します。代表的なものには以下のようなものがあります。
- 抗がん剤(細胞増殖抑制薬)
- 免疫抑制剤
- 抗凝固薬(ワルファリンなど)
- 高脂血症治療薬(一部のスタチン系薬剤など)
- 降圧剤(β遮断薬、ACE阻害薬など)
- 抗てんかん薬
- インターフェロン製剤
- 一部の抗うつ薬や精神安定剤
これらはあくまで一部であり、他の薬剤でも脱毛が起こる可能性があります。新しい薬剤を服用し始めてから脱毛が気になりだした場合は、自己判断で中止せず、処方医に相談することが重要です。
薬剤性脱毛症の種類
薬剤性脱毛症は、主に「成長期脱毛」と「休止期脱毛」の2つのタイプに分けられます。
成長期脱毛
抗がん剤など、細胞分裂を強力に抑制する薬剤によって引き起こされます。毛母細胞の分裂が急激に停止するため、薬剤投与後比較的早期(数日~数週間)に広範囲な脱毛が起こります。
毛髪は途中で折れたり、細くなったりして抜け落ちます。
休止期脱毛
多くの薬剤でみられるタイプで、薬剤の影響で成長期にあった毛髪が早期に休止期に移行し、薬剤投与開始から2~4ヶ月後に抜け毛が増加します。脱毛は比較的軽度で、びまん性に起こることが多いです。
薬剤性脱毛症のタイプと特徴
タイプ | 主な原因薬剤 | 脱毛の開始時期 | 脱毛の程度 |
---|---|---|---|
成長期脱毛 | 抗がん剤、免疫抑制剤など | 薬剤投与後数日~数週間 | 高度な脱毛が多い |
休止期脱毛 | 抗凝固薬、降圧剤、高脂血症薬など多数 | 薬剤投与後2~4ヶ月 | 軽度~中等度が多い |
薬剤性脱毛症が疑われる場合は、まず処方医に相談し、原因薬剤の特定と、可能であれば代替薬への変更や減量を検討します。
多くの場合、原因薬剤の中止後、数ヶ月から半年程度で毛髪は再生します。

牽引(けんいん)性脱毛症

牽引性脱毛症は、長期間にわたって毛髪が物理的に引っ張られることによって、毛根や頭皮に負担がかかり、その結果として毛が抜けたり、生え際が後退したりする脱毛症です。
特定の髪型やヘアアクセサリーの使用が主な原因となります。
初期の段階であれば、原因となる牽引を中止することで改善が見込めますが、長期間放置すると毛包がダメージを受け、永久的な脱毛に至ることもあります。
牽引性脱毛症とは
ポニーテール、お団子ヘア、編み込み、エクステンションなど、毛髪を強く結んだり引っ張ったりする髪型を日常的に続けていると、特定の部位の毛根に持続的な張力がかかります。
この張力が毛乳頭や毛母細胞の活動を阻害し、毛髪が細くなったり、抜けやすくなったりします。特に生え際や分け目など、力がかかりやすい部分に症状が現れやすいのが特徴です。
牽引性脱毛症の原因
牽引性脱毛症の直接的な原因は、毛髪への物理的な牽引です。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- きつく結ぶポニーテールやお団子
- 編み込み(コーンロウ、ブレイズなど)
- ヘアエクステンションの装着
- 毎日同じ分け目にする
- 重い髪飾りやヘルメットの長時間使用
これらの習慣が長期間続くことで、徐々に毛根へのダメージが蓄積し、脱毛が進行します。
牽引性脱毛症の予防と対策
牽引性脱毛症の最も効果的な予防・対策は、原因となる牽引を避けることです。
牽引性脱毛症の主な原因と対策
原因となる習慣 | 影響を受けやすい部位 | 推奨される対策 |
---|---|---|
きついポニーテール、お団子 | 生え際、こめかみ | 髪型を頻繁に変える、緩めに結ぶ |
ヘアエクステンション | 装着部位周辺 | 長期間の連続使用を避ける、定期的に休ませる |
毎日同じ分け目 | 分け目部分 | 分け目を定期的に変える |
具体的には、髪型を頻繁に変える、髪を緩めに結ぶ、エクステンションの装着期間を短くする、分け目を定期的に変えるなどの工夫が有効です。
また、頭皮マッサージなどで血行を促進することも、頭皮環境の改善に役立ちます。
初期の段階であれば、これらの対策で改善することが多いですが、脱毛が進行している場合や、改善が見られない場合は専門医に相談しましょう。

梅毒性脱毛症

梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌によって引き起こされる性感染症です。感染後、いくつかの病期を経て進行し、様々な全身症状が現れます。
梅毒性脱毛症は、主に梅毒の第2期に見られる症状の一つで、特徴的な脱毛パターンを示すことがあります。梅毒自体の治療を行うことで、脱毛症状も改善します。
梅毒と脱毛の関係
梅毒が進行し、第2期に入ると、梅毒トレポネーマが血流に乗って全身に広がり、皮膚や粘膜に様々な症状を引き起こします。
この時期に、頭皮の毛包周囲にも炎症が及ぶことで、毛髪の成長が妨げられ、脱毛が生じると考えられています。梅毒性脱毛症は、梅毒の他の皮膚症状(バラ疹など)と同時期に現れることが多いです。
梅毒性脱毛症の症状
梅毒性脱毛症には、いくつかの特徴的な脱毛パターンがあります。
びまん性脱毛
頭部全体の毛髪が均等に薄くなるタイプです。AGAや休止期脱毛症と区別がつきにくいことがあります。
虫食い状脱毛(まだら状脱毛)
後頭部や側頭部を中心に、不規則な小さな脱毛斑が多数現れ、まるで虫に食われたように見えるのが特徴です。このパターンは梅毒性脱毛症に比較的特有とされています。
その他、眉毛やまつ毛が抜けることもあります。かゆみや痛みなどの自覚症状は伴わないことが多いです。
梅毒の病期と脱毛症
梅毒の病期 | 脱毛症の出現頻度 | 主な脱毛パターン |
---|---|---|
第1期(感染後約3週間~3ヶ月) | まれ | 通常見られない |
第2期(感染後約3ヶ月~3年) | 比較的多い | びまん性脱毛、虫食い状脱毛 |
第3期以降(感染後3年以上) | まれ | 通常見られない(他の合併症による可能性はあり) |
梅毒の治療と脱毛の回復
梅毒性脱毛症は、原因である梅毒を治療することで改善します。梅毒の治療は、主にペニシリン系の抗菌薬が用いられます。適切な治療を行えば、通常、数ヶ月から半年程度で毛髪は再生し始めます。
ただし、治療が遅れた場合や、炎症が強かった場合には、一部で永久的な脱毛が残る可能性も否定できません。
梅毒が疑われる症状(性器のしこりや潰瘍、全身の発疹など)がある場合や、特徴的な脱毛が見られた場合は、速やかに医療機関(皮膚科、泌尿器科、性感染症内科など)を受診し、検査と治療を受けることが重要です。

頭部白癬性脱毛症

頭部白癬(とうぶはくせん)は、一般的に「しらくも」とも呼ばれ、皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)というカビ(真菌)の一種が頭皮や毛髪に感染して起こる皮膚疾患です。
この感染により、炎症やフケ、かゆみ、そして脱毛が生じることがあり、これを頭部白癬性脱毛症と呼びます。特に小児に多く見られますが、成人でも発症することがあります。
感染力が比較的強く、人から人へ、あるいはペットから人へとうつることがあります。
頭部白癬(しらくも)とは
頭部白癬は、白癬菌が頭皮の角質層や毛髪内部に侵入し、増殖することで発症します。感染した部位では、円形または不整形の脱毛斑ができ、その表面には細かいフケやカサブタが見られることがあります。
炎症の程度によっては、赤みや腫れ、膿疱(うみを持った水疱)を伴うこともあります。
頭部白癬性脱毛症の原因
主な原因は、白癬菌(皮膚糸状菌)の感染です。代表的な菌種には、トリコフィトン属やミクロスポルム属などがあります。
これらの菌は、感染した人や動物(特に犬や猫)との接触、あるいは汚染されたタオル、帽子、櫛などを介して感染します。
感染経路と主な菌種
- ヒトからヒトへの感染(例:柔道やレスリングなどの格闘技、家族内感染)
- 動物からヒトへの感染(例:ペットの犬や猫からの感染)
- 感染者が使用した物品を介した間接的な感染
頭部白癬性脱毛症の症状
頭部白癬の症状は、感染した菌の種類や個人の免疫状態によって様々です。主な症状としては、円形の脱毛斑、フケ、かゆみが挙げられます。
脱毛斑の内部では、毛髪が途中で折れて黒い点のように見える「ブラックドット」が観察されることもあります。
炎症が強い場合は、ケルスス禿瘡(とくそう)と呼ばれる、腫れ上がってジクジクした状態になることもあり、この場合は瘢痕性の永久脱毛を残す可能性があります。
頭部白癬の主な症状と所見
症状 | 頭皮・毛髪の状態 | 診断の手がかり |
---|---|---|
円形・不整形の脱毛斑 | 境界が比較的明瞭な脱毛、時に拡大傾向 | 特徴的な脱毛斑の形状 |
フケ、鱗屑(りんせつ) | 乾燥した細かいフケ、または厚いカサブタ状 | KOH直接鏡検法による真菌の検出 |
ブラックドット | 脱毛斑内で毛髪が毛穴の高さで折れている | 毛髪の脆弱化を示す |
診断は、脱毛斑のフケや毛髪を採取し、顕微鏡で真菌の存在を確認する検査(KOH直接鏡検法)や真菌培養検査によって行います。治療は、抗真菌薬の内服が基本となり、必要に応じて外用薬も併用します。
家族内やペットからの感染が疑われる場合は、同時に検査や治療を行うことが再発防止のために重要です。

栄養障害に伴う脱毛症

毛髪は、私たちが摂取する栄養素を基に作られています。
そのため、極端な食事制限によるダイエットや偏った食生活、あるいは消化吸収機能の低下などによって、毛髪の成長に必要な栄養素が不足すると、健康な毛髪が育たなくなり、脱毛や毛質の悪化(細くなる、パサつくなど)を引き起こすことがあります。
これを栄養障害に伴う脱毛症と呼びます。
栄養と髪の健康
毛髪の主成分はケラチンというタンパク質です。このケラチンを合成するためには、タンパク質そのものはもちろん、亜鉛や鉄分、ビタミン類など、様々な栄養素が協調して働く必要があります。
これらの栄養素のいずれかが慢性的に不足すると、毛母細胞の活動が低下し、毛周期が乱れたり、丈夫な毛髪が作られなくなったりします。
不足しやすい栄養素
特に毛髪の健康に重要で、現代の食生活で不足しやすいとされる栄養素には以下のようなものがあります。
タンパク質
毛髪の主成分であるケラチンの材料です。肉、魚、卵、大豆製品などから良質なタンパク質を摂取することが大切です。
亜鉛
ケラチンの合成を助ける重要なミネラルです。また、細胞分裂や免疫機能にも関与します。牡蠣、レバー、牛肉などに多く含まれます。
鉄分
血液中のヘモグロビンの成分となり、全身に酸素を運ぶ役割を担います。頭皮や毛母細胞への酸素供給にも重要です。レバー、赤身の肉、ほうれん草などに多く含まれます。
ビタミン類
特にビタミンB群(ビオチン、パントテン酸など)は頭皮の新陳代謝を促し、皮脂のバランスを整える働きがあります。ビタミンCはコラーゲンの生成を助け、鉄分の吸収を高めます。
ビタミンEは血行を促進し、抗酸化作用があります。
栄養素と毛髪への役割
栄養素 | 主な役割 | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 毛髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
亜鉛 | ケラチン合成の補助、細胞分裂促進 | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 |
鉄分 | 酸素運搬、毛母細胞への栄養供給 | レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじき |
栄養バランスの重要性
特定の栄養素だけを大量に摂取するのではなく、バランスの取れた食事を心がけることが最も重要です。過度なダイエットや偏食は避け、主食、主菜、副菜を揃え、多様な食品から栄養を摂取するようにしましょう。
もし食事だけで十分な栄養を摂ることが難しい場合は、医師や管理栄養士に相談の上、サプリメントの活用も検討できますが、基本は食事からの摂取です。
栄養状態の改善には時間がかかるため、根気強く食生活を見直すことが大切です。

放射線による脱毛

放射線脱毛症は、がん治療などで放射線療法を受けた際に、照射された部位に起こる脱毛です。
放射線は細胞分裂が活発な細胞に強く作用するため、毛髪を作り出す毛母細胞もその影響を受けやすく、脱毛が引き起こされます。
脱毛の程度や範囲、回復の可能性は、照射された放射線の総量、1回あたりの線量、照射範囲、個人の感受性などによって異なります。
放射線治療と脱毛
放射線治療は、がん細胞を破壊したり増殖を抑えたりするために行われますが、正常な細胞にもある程度の影響を与えます。
毛母細胞は細胞分裂が盛んなため、放射線の影響を受けやすく、照射されると細胞分裂が抑制されたり、細胞自体が破壊されたりします。これにより、毛髪の成長が止まり、脱毛が起こります。
脱毛の程度と範囲
脱毛は通常、放射線治療を開始してから2~3週間後に始まり、照射された部位に限定して起こります。
例えば、脳腫瘍の治療で頭部に放射線が照射されれば頭髪が、喉頭がんの治療で頸部に照射されれば髭や首の毛が抜けることがあります。
放射線の線量
一般的に、照射される放射線の総量が多いほど、また1回あたりの線量が大きいほど、脱毛の程度は重くなります。
一定量以上の放射線が照射されると、毛包が永久的なダメージを受け、毛髪が再生しなくなることもあります。
照射部位
脱毛は、放射線が直接照射された範囲に起こります。照射野から外れた部位の毛髪が抜けることはありません。
脱毛後の毛髪の再生
多くの場合、放射線治療が終了してから数ヶ月(通常3~6ヶ月)で毛髪は再生し始めます。しかし、再生した毛髪は、以前と比べて細くなったり、色が薄くなったり、くせ毛になったりすることがあります。
照射された放射線の総量が非常に多い場合や、特定の条件下では、毛髪が再生しない、あるいは部分的にしか再生しない永久脱毛となることもあります。
放射線量と脱毛・再生の目安
放射線総量(グレイ: Gy) | 脱毛の状況 | 毛髪再生の可能性 |
---|---|---|
20 Gy 未満 | 一時的な脱毛が多い | 多くの場合再生する |
20~40 Gy | 一時的または部分的な永久脱毛 | 再生するが、細毛化や量の減少が見られることも |
40 Gy 以上 | 永久脱毛の可能性が高い | 再生は困難な場合が多い |
放射線治療を受ける際には、担当医から脱毛の可能性や程度、ケア方法について事前に十分な説明を受けることが大切です。治療中や治療後の頭皮ケアについても指示に従い、優しく扱うようにしましょう。

先天性乏毛症・縮毛症

先天性乏毛症(せんてんせいぼうもうしょう)および先天性縮毛症(せんてんせいしゅくもうしょう)は、生まれつき毛髪の数が少なかったり、毛髪の形状や質に異常が見られたりする遺伝性の疾患です。
これらの状態は、単独で現れることもあれば、他の先天的な異常(皮膚、歯、爪、汗腺などの異常)を伴う症候群の一部として現れることもあります。
原因となる遺伝子変異が特定されているものもあります。
先天性乏毛症とは
先天性乏毛症は、出生時から、あるいは生後間もなくして、全身または局所的に毛髪が著しく少ない、あるいは全くない状態を指します。毛髪は細く、短く、色素が薄いことが多いです。
成長しても毛髪の量が増えないか、あるいは思春期頃にわずかに増える程度にとどまることが多いです。
縮毛症と毛髪構造
先天性縮毛症は、毛髪が著しく縮れている状態を指します。
単に「くせ毛」というレベルではなく、毛髪が捻じれていたり、節くれだっていたり、非常に脆くて切れやすかったりするなど、構造的な異常を伴うことが多いです。代表的なものに以下のようなものがあります。
捻転毛 | 毛幹がその長軸に沿って不規則に捻じれている。 |
---|---|
連珠毛 | 毛幹が数珠のように太い部分と細い部分が交互に現れる。細い部分で折れやすい。 |
環状毛 | 毛幹に気泡が入り、輪のように見える。 |
これらの構造異常により、毛髪は光沢がなく、乾燥しやすく、ブラッシングなどで容易に切れてしまいます。
遺伝的背景
先天性乏毛症や縮毛症の多くは遺伝性であり、原因となる遺伝子変異が関与しています。常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖遺伝など、様々な遺伝形式をとります。
原因遺伝子が特定されている疾患も増えてきており、遺伝子診断が可能な場合もあります。
先天性毛髪異常の例と特徴
疾患・状態名 | 主な毛髪の特徴 | 遺伝形式の例 |
---|---|---|
先天性乏毛症(孤発性) | 全体的に毛髪が少ない、細い、短い | 常染色体劣性など |
捻転毛 | 毛が捻じれ、切れやすい、光沢がない | 常染色体優性など |
連珠毛 | 毛幹が数珠状、細い部分で切れやすい | 常染色体優性 |
これらの疾患に対する根本的な治療法は現在のところ確立されていません。対症療法として、毛髪や頭皮を優しく扱うこと、刺激の少ないヘアケア製品を選ぶこと、そして精神的なサポートが重要となります。
遺伝カウンセリングが有用な場合もあります。

まとめ
この記事では、男性に見られる様々な種類の薄毛とその概要について解説しました。
AGA(男性型脱毛症)が最も一般的ですが、円形脱毛症、脂漏性脱毛症、休止期脱毛症など、原因や症状が異なる多様な脱毛症が存在することを理解いただけたかと思います。
また、薬剤の副作用や栄養障害、さらには先天的な要因によっても薄毛は起こりえます。
薄毛の悩みは一人ひとり異なり、その原因も様々です。自己判断で誤ったケアを続けると、かえって症状を悪化させてしまう可能性もあります。
大切なのは、ご自身の状態を正確に把握し、原因に応じた適切な対策を講じることです。そのためには、まず専門医に相談し、的確な診断を受けることが第一歩となります。
ご自身の頭髪の状態について、「もしかして薄毛が始まっているのでは?」とご不安に感じていませんか。
初期のサインに気づき、早めに対処することが大切です。こちらの「薄毛の症状とセルフチェック」ページで、具体的な症状やご自身で確認できるチェックポイントを紹介しています。
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