「最近、抜け毛が増えた気がする」「髪のボリュームが減ってきた」と感じていませんか。その悩み、もしかしたら栄養障害が原因かもしれません。
髪の健康は、日々の食事から摂取する栄養素と深く関わっています。
この記事では、栄養障害がどのように脱毛症を引き起こすのか、その具体的な原因と、ご自身の栄養状態を把握するための検査方法について、専門的な観点から分かりやすく解説します。
髪の悩みの根本的な原因を理解し、適切な対策を見つけるための一助となれば幸いです。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
髪を作る栄養素の不足 – タンパク質と鉄分の重要性

髪の毛は、私たちが日々摂取する栄養素から作られます。特にタンパク質と鉄分は、健康な髪を育む上で非常に重要な役割を果たします。
これらの栄養素が不足すると、髪の成長が妨げられ、薄毛や抜け毛の原因となることがあります。
髪の主成分ケラチンとタンパク質
髪の毛の約80~90%は、「ケラチン」というタンパク質で構成されています。
ケラチンは18種類のアミノ酸から成り立っており、これらのアミノ酸は食事から摂取するタンパク質が分解・再合成されることで供給されます。
したがって、タンパク質の摂取量が不足すると、髪の主成分であるケラチンの生成が滞り、髪の健康に直接的な影響が出ます。
タンパク質不足が招く髪質の変化
タンパク質が不足すると、新しく生えてくる髪の毛が細くなったり、弱々しくなったりする傾向があります。髪のハリやコシが失われ、全体的にボリュームダウンした印象になることも少なくありません。
また、髪の成長サイクルが乱れ、成長期が短縮されることで抜け毛が増える可能性も指摘されています。質の良いタンパク質を十分に摂取することは、健康な髪を維持するための基本的な対策です。
良質なタンパク質を含む食べ物
タンパク質は、肉類、魚介類、卵、乳製品、大豆製品などに豊富に含まれています。これらの食品をバランス良く食事に取り入れることが大切です。
特に、必須アミノ酸をバランス良く含む「良質なタンパク質」を意識して摂取しましょう。
タンパク質を多く含む食品の例
食品カテゴリー | 代表的な食品 | ポイント |
---|---|---|
肉類 | 鶏むね肉、豚ヒレ肉、牛肉(赤身) | 脂肪の少ない部位を選ぶ |
魚介類 | 鮭、マグロ、アジ、エビ、イカ | 青魚は良質な脂質も豊富 |
卵・乳製品 | 鶏卵、牛乳、ヨーグルト、チーズ | ビタミンやミネラルも同時に摂取可能 |
大豆製品 | 豆腐、納豆、豆乳、きな粉 | 植物性タンパク質の良い供給源 |
鉄分と髪の成長サイクル
鉄分は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの主要な構成成分であり、全身に酸素を運搬する重要な役割を担っています。頭皮や毛母細胞も、髪を成長させるために十分な酸素と栄養を必要とします。
鉄分が不足すると、頭皮への酸素供給が滞り、毛母細胞の活動が低下して髪の成長が妨げられる可能性があります。
鉄欠乏性貧血と薄毛の関係
鉄分不足が進行すると、鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあります。
貧血状態になると、体は生命維持に重要な臓器へ優先的に酸素を供給しようとするため、髪や爪など末端部分への酸素供給が後回しにされがちです。
その結果、毛母細胞の働きが弱まり、抜け毛が増えたり、髪が細くなったりする原因となります。特に女性は月経により鉄分を失いやすいため、注意が必要です。
鉄分の吸収を高める食事の工夫
鉄分には、肉や魚に含まれる「ヘム鉄」と、野菜や穀物に含まれる「非ヘム鉄」の2種類があります。
ヘム鉄の方が吸収率が高いとされていますが、非ヘム鉄もビタミンCや動物性タンパク質と一緒に摂取することで吸収率を高めることができます。
バランスの取れた食事を心がけ、鉄分の吸収を助ける栄養素も意識して摂取しましょう。
鉄分補給におすすめの食材
鉄分を効率よく摂取するためには、鉄分含有量の多い食品を選ぶことが大切です。また、吸収率を高める工夫も取り入れましょう。
鉄分を多く含む食品と吸収を助ける栄養素
栄養素 | 多く含む食品 | ポイント |
---|---|---|
ヘム鉄 | レバー、赤身の肉、カツオ、マグロ | 吸収率が高い |
非ヘム鉄 | ほうれん草、小松菜、ひじき、大豆製品 | ビタミンCと同時に摂取で吸収率アップ |
ビタミンC | パプリカ、ブロッコリー、柑橘類、いちご | 非ヘム鉄の吸収を助ける |
ビタミン・ミネラル不足が髪に与える影響

髪の健康には、タンパク質や鉄分だけでなく、様々なビタミンやミネラルも関与しています。これらの栄養素は、それぞれが特有の働きを持ち、互いに協力し合って頭皮環境を整え、髪の成長をサポートします。
特定のビタミンやミネラルが不足すると、髪の成長サイクルに影響が出たり、頭皮トラブルを引き起こしたりして、抜け毛や薄毛の原因となることがあります。
髪の健康を支えるビタミン群
ビタミンは、体の機能を正常に保つために必要な有機化合物です。特に髪の健康に関しては、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなどが重要な役割を果たします。
ビタミンAの役割と頭皮環境
ビタミンAは、皮膚や粘膜の健康を維持し、細胞の成長と分化を促進する働きがあります。頭皮も皮膚の一部であり、ビタミンAが不足すると頭皮が乾燥しやすくなり、フケやかゆみの原因となることがあります。
健康な頭皮環境は、丈夫な髪を育むための土台です。ただし、ビタミンAは脂溶性ビタミンのため、過剰摂取にも注意が必要です。
ビタミンB群と髪の成長促進
ビタミンB群には多くの種類があり、それぞれがエネルギー代謝や細胞分裂に関与しています。特に髪の成長には、ビタミンB2、B6、B12、ビオチン、パントテン酸などが重要です。
- ビタミンB2:皮膚や粘膜の健康維持、細胞の再生を助ける。
- ビタミンB6:タンパク質の代謝を助け、ケラチンの生成をサポートする。
- ビオチン:皮膚や髪の健康維持に関与し、不足すると脱毛の原因になることがある。
これらのビタミンB群は、互いに協力して働くため、バランス良く摂取することが大切です。食事からの摂取が基本ですが、抜け毛や薄毛対策としてサプリメントで補給することも検討できます。
ビタミンCとコラーゲン生成
ビタミンCは、強力な抗酸化作用を持つとともに、コラーゲンの生成に必要です。
コラーゲンは、皮膚や血管の弾力性を保つために重要で、健康な頭皮を維持し、毛細血管を丈夫にすることで毛根への栄養供給をスムーズにする働きがあります。
また、鉄分の吸収を高める効果もあるため、鉄不足による薄毛予防にも貢献します。
ビタミンEの血行促進効果
ビタミンEも強力な抗酸化作用を持ち、細胞の酸化を防ぎます。また、末梢血管を拡張して血行を促進する働きがあり、頭皮の血流を改善することで毛母細胞へ栄養を届けやすくします。
血行不良は薄毛の原因の一つと考えられるため、ビタミンEの摂取は頭皮環境の改善に役立ちます。
ミネラルの王様「亜鉛」の働き
亜鉛は、体内で約300種類以上の酵素の働きに関与する重要なミネラルです。細胞分裂や新陳代謝を活発にし、タンパク質の合成にも深く関わっています。
髪の主成分であるケラチンの合成にも亜鉛が必要であり、不足すると髪の成長が妨げられ、抜け毛や薄毛を引き起こす可能性があります。
亜鉛不足と脱毛の関連性
亜鉛が不足すると、毛母細胞の分裂が滞り、正常な髪の毛が作られにくくなります。また、免疫機能の低下や皮膚炎なども引き起こしやすく、頭皮環境の悪化にもつながります。
亜鉛は体内で生成できないため、食事から継続的に摂取する必要があります。特に、加工食品の摂取が多い現代人は亜鉛が不足しがちと言われています。
亜鉛を効率よく摂取する食事
亜鉛は、牡蠣、レバー、赤身の肉、ナッツ類、種実類などに多く含まれています。ビタミンCやクエン酸、動物性タンパク質と一緒に摂取すると吸収率が向上します。
インスタント食品や加工食品に含まれる食品添加物の中には、亜鉛の吸収を妨げるものもあるため、注意が必要です。
亜鉛を多く含む食品の例
食品名 | 100gあたりの亜鉛含有量(目安) | ポイント |
---|---|---|
牡蠣(生) | 約13-14mg | 非常に豊富 |
豚レバー | 約6-7mg | 鉄分も豊富 |
牛肉(赤身) | 約4-5mg | タンパク質も豊富 |
カシューナッツ | 約5-6mg | 間食にも良い |
その他の重要なミネラル
亜鉛以外にも、髪の健康に関わるミネラルは存在します。バランスの取れた食事を心がけることで、これらのミネラルも自然と摂取できます。
ケイ素(シリカ)と髪のハリ・コシ
ケイ素(シリカ)は、コラーゲンの生成を助け、髪や爪、皮膚の健康を保つために重要なミネラルです。髪の毛にハリやコシを与え、強くしなやかな髪質に導く効果が期待できます。
玄米や大麦などの全粒穀物、じゃがいも、海藻類などに含まれています。
セレンの抗酸化作用
セレンは、強力な抗酸化作用を持つミネラルで、ビタミンEと共に働くことでその効果を高めます。体内の活性酸素を除去し、細胞の老化を防ぐことで、頭皮や毛母細胞を健康に保つ役割があります。
魚介類や肉類、卵などに含まれていますが、過剰摂取には注意が必要です。
極端なダイエットが引き起こす栄養失調
体重を減らすための極端なダイエットは、体に必要な栄養素の不足を招き、結果として髪の健康を著しく損なう可能性があります。

特に若い女性の間で見られる無理な食事制限は、栄養失調による脱毛の大きな原因の一つです。
無理な食事制限のリスク
特定の食品だけを食べる単品ダイエットや、極端にカロリー摂取を抑えるダイエットは、体に必要なタンパク質、ビタミン、ミネラルなどが慢性的に不足する状態を引き起こします。
これらの栄養素は髪の成長に直接関わるため、不足すれば抜け毛の増加や髪質の悪化は避けられません。
急激な体重減少と抜け毛の増加
短期間で急激に体重が減少すると、体は生命維持を優先し、髪の毛のような末端組織への栄養供給を後回しにします。
これにより、毛母細胞の活動が低下し、休止期に入る毛髪が増加することで、一時的に抜け毛が急増する「休止期脱毛」を引き起こすことがあります。
これはダイエット開始から2~3ヶ月後に現れることが多いです。
栄養バランスの崩れが頭皮に与えるダメージ
栄養バランスが崩れると、頭皮環境も悪化します。例えば、脂質の摂取を極端に減らすと、頭皮が乾燥しやすくなり、フケやかゆみが発生することがあります。
逆に、糖質や脂質の多い食事に偏ると、皮脂の過剰分泌を招き、毛穴の詰まりや炎症の原因となることもあります。健康な頭皮は健康な髪の土台であり、栄養バランスの乱れはその土台を揺るがします。
ダイエット中の食事で気をつけるべきこと
ダイエットを行う場合でも、髪の健康を損なわないためには、必要な栄養素をしっかりと摂取することが重要です。単に食事量を減らすのではなく、食事の質を見直すことが大切です。
最低限必要なカロリーと栄養素
基礎代謝量を下回るような極端なカロリー制限は避けるべきです。特に、髪の主成分であるタンパク質、細胞の働きを助けるビタミンB群、鉄分、亜鉛などは意識して摂取する必要があります。
これらの栄養素が不足すると、いくらカロリーを抑えても健康的なダイエットとは言えません。
健康的なダイエットのための食事プラン例
バランスの取れた食事とは、主食、主菜、副菜を揃え、多様な食品から栄養を摂取することです。以下に、食事の構成要素のポイントを示します。
バランスの取れた食事の構成要素
構成要素 | 役割・ポイント | 主な食品例 |
---|---|---|
主食(炭水化物) | エネルギー源。食物繊維も摂取できる玄米や全粒粉パンがおすすめ。 | ごはん、パン、麺類 |
主菜(タンパク質) | 髪や体の組織を作る。肉、魚、卵、大豆製品をバランス良く。 | 鶏肉、鮭、豆腐 |
副菜(ビタミン・ミネラル) | 体の調子を整える。緑黄色野菜や海藻類を積極的に。 | ほうれん草のおひたし、わかめの味噌汁 |
栄養失調による脱毛のサイン
栄養失調が原因で脱毛が起きている場合、髪質の変化や抜け毛以外にも、体に様々なサインが現れることがあります。
爪がもろくなる、肌が乾燥する、疲れやすい、集中力が低下するといった症状が見られる場合は、栄養不足を疑う必要があります。これらのサインに気づいたら、早めに食生活を見直すことが大切です。
消化吸収の問題 – 栄養が髪に届かない理由
バランスの取れた食事を心がけていても、摂取した栄養素が体内で適切に消化・吸収されなければ、髪の毛まで届きません。
胃腸機能の低下や特定の病気、薬剤の影響など、様々な要因が栄養の消化吸収を妨げ、結果として栄養不足による脱毛を引き起こすことがあります。

胃腸機能の低下と栄養吸収
胃や腸は、食べ物を消化し、栄養素を吸収するための重要な器官です。
これらの機能が低下すると、せっかく摂取した栄養素が十分に体内に取り込まれず、髪の成長に必要な成分が不足してしまう可能性があります。
胃酸の役割とタンパク質の消化
胃から分泌される胃酸は、食べ物を殺菌するだけでなく、タンパク質を分解する消化酵素「ペプシン」を活性化させる重要な役割を担っています。
胃酸の分泌が不足したり、働きが弱まったりすると、タンパク質の消化が不十分になり、アミノ酸の吸収効率が低下します。
髪の主成分であるケラチンもタンパク質から作られるため、胃腸でのタンパク質消化能力の低下は、薄毛や抜け毛の遠因となり得ます。
腸内環境の悪化が招く栄養不足
腸内には多種多様な細菌が生息しており、これら腸内細菌のバランス(腸内フローラ)が栄養素の吸収や免疫機能に影響を与えます。
悪玉菌が増え、腸内環境が悪化すると、栄養素の吸収効率が低下するだけでなく、有害物質が生成されやすくなります。
便秘や下痢を繰り返すなど、腸の調子が悪い状態が続くと、髪に必要な栄養素が十分に供給されず、頭皮環境の悪化や抜け毛の原因になることがあります。
栄養吸収を妨げる要因
胃腸機能の低下以外にも、栄養の吸収を妨げる様々な要因が存在します。これらを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
特定の薬剤の影響
一部の薬剤は、副作用として栄養素の吸収を阻害することが知られています。例えば、長期間にわたる制酸剤の使用は胃酸の分泌を抑制し、鉄分やビタミンB12の吸収を低下させる可能性があります。
また、一部の抗生物質は腸内細菌のバランスを乱し、栄養吸収に影響を与えることがあります。服用中の薬がある場合は、医師や薬剤師に相談し、栄養面での影響について確認することが大切です。
自己判断で薬を中断することは絶対に避けてください。
加齢による消化酵素の減少
加齢に伴い、唾液や胃液、膵液などに含まれる消化酵素の分泌量が減少する傾向があります。消化酵素が減ると、食べ物の分解が不十分になり、栄養素の吸収効率が低下します。
特にタンパク質や脂質の消化能力が影響を受けやすく、これが高齢者の栄養不足や体力低下の一因となることもあります。
消化の良い調理法を工夫したり、よく噛んで食べることを意識したりするなどの対策が考えられます。
消化吸収能力を高めるための対策
消化吸収能力を高め、摂取した栄養を効率よく髪に届けるためには、日々の食生活や生活習慣を見直すことが重要です。
食事の摂り方の工夫
よく噛んで食べることは、消化の第一歩です。唾液の分泌を促し、食べ物を細かくすることで、胃腸への負担を軽減し、消化酵素の働きを助けます。
また、食事の時間を規則正しくし、暴飲暴食を避けることも胃腸を健康に保つために大切です。冷たいものの摂りすぎは胃腸を冷やし、機能を低下させる可能性があるため注意しましょう。
腸内環境を整える食べ物
腸内環境を整えるためには、善玉菌を増やす食事を心がけることが有効です。発酵食品や食物繊維を積極的に摂取しましょう。
腸内環境改善に役立つ食品
栄養素・成分 | 働き | 多く含む食品 |
---|---|---|
プロバイオティクス(善玉菌) | 腸内で善玉菌として働く。 | ヨーグルト、納豆、味噌、キムチ、漬物 |
プレバイオティクス(食物繊維・オリゴ糖) | 善玉菌のエサとなり、増殖を助ける。 | 野菜類、果物類、豆類、きのこ類、海藻類、オリゴ糖 |
ストレスと食生活の乱れがもたらす悪循環

現代社会において、多くの人が何らかのストレスを抱えています。このストレスが、自律神経のバランスを乱し、食生活にも影響を与えることで、髪の健康を脅かす悪循環を生み出すことがあります。
ストレスと食生活の乱れは、それぞれが薄毛や抜け毛の原因となるだけでなく、相互に影響し合って問題を深刻化させる可能性があります。
ストレスが髪に与える直接的・間接的影響
過度なストレスは、心身に様々な不調を引き起こしますが、髪の健康にも大きな影響を与えます。
ストレスが原因で起こる脱毛症としては、円形脱毛症がよく知られていますが、それ以外にも髪の成長を妨げる要因となります。
ストレスによる血管収縮と血行不良
ストレスを感じると、交感神経が優位になり、血管が収縮しやすくなります。頭皮の毛細血管も例外ではなく、血流が悪化すると毛母細胞への酸素や栄養素の供給が滞ります。
これにより、毛母細胞の活動が低下し、髪の成長が妨げられたり、抜け毛が増えたりする原因となります。慢性的なストレスは、頭皮の血行不良を常態化させる可能性があります。
ストレスホルモンと髪の成長抑制
ストレスを感じると、副腎皮質からコルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。これらのホルモンが過剰になると、免疫機能の低下や炎症反応の亢進を引き起こすことがあります。
また、コルチゾールは髪の成長サイクルにも影響を与え、成長期を短縮させたり、休止期に移行する毛髪を増やしたりする可能性が指摘されています。
これにより、髪のボリュームが減少し、薄毛が進行することがあります。
食生活の乱れと栄養バランスの悪化
ストレスは食生活にも影響を及ぼします。ストレス解消のために暴飲暴食に走ったり、逆に食欲不振に陥ったりすることで、栄養バランスが大きく崩れることがあります。
また、忙しさから食事を簡単に済ませようとして、栄養価の低いインスタント食品やファストフードに頼りがちになることも問題です。
偏った食事と栄養不足
ストレス下では、甘いものや脂っこいもの、刺激物を好んで摂取する傾向が見られることがあります。
これらの食品に偏った食事は、ビタミンやミネラルの不足を招きやすく、髪の成長に必要な栄養素が十分に供給されなくなります。
特に、ビタミンB群や亜鉛、鉄分などはストレスによって消費量が増えるとも言われており、意識的な摂取が求められます。
外食や加工食品の注意点
外食や加工食品は、一般的に塩分、脂質、糖質が多く、ビタミンやミネラルが不足しがちです。
また、食品添加物の中には、特定の栄養素の吸収を妨げるものや、体内で活性酸素を増やす原因となるものもあります。
日常的にこれらの食品に頼る食生活は、栄養バランスの偏りを助長し、頭皮環境の悪化や髪の健康を損なう原因となります。
ストレスと食生活の負の連鎖を断ち切る
ストレスと食生活の乱れは、互いに影響し合い、抜け毛や薄毛を進行させる悪循環を生み出します。この負の連鎖を断ち切るためには、ストレスマネジメントと食生活の改善の両面からのアプローチが重要です。
ストレスマネジメントの重要性
ストレスを完全になくすことは難しいかもしれませんが、自分に合ったストレス解消法を見つけ、上手にコントロールすることが大切です。
- 十分な睡眠をとる
- 適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)
- 趣味やリラックスできる時間を持つ
- 信頼できる人に相談する
これらの工夫を取り入れ、心身のバランスを整えることが、間接的に髪の健康を守ることにもつながります。
バランスの取れた食事への改善策
ストレスを感じている時こそ、意識してバランスの取れた食事を心がけることが重要です。特定の栄養素に偏らず、主食・主菜・副菜を揃え、多様な食品から栄養を摂取するようにしましょう。
自炊が難しい場合は、コンビニエンスストアやスーパーの惣菜でも、野菜の多いものやタンパク質が摂れるものを選ぶなど、工夫次第で栄養バランスを改善できます。
食事は、体だけでなく心の栄養にもなります。食事を楽しむこともストレス軽減の一つです。
血液検査で分かる栄養状態 – 重要な検査項目

「栄養バランスが気になる」「もしかして栄養不足が抜け毛の原因かも?」と感じたとき、客観的にご自身の栄養状態を把握するための一つの手段が血液検査です。
血液検査は、体内の様々な物質の量を測定することで、健康状態や栄養バランス、特定の病気のリスクなどを評価することができます。
脱毛症の原因を探る上でも、血液検査は有用な情報を提供してくれます。
血液検査の目的と意義
脱毛や薄毛の相談で医療機関を受診した際に、血液検査を行うことがあります。これは、全身の健康状態を把握し、栄養不足や内科的な疾患が脱毛の原因となっていないかを確認するためです。
特に、鉄分、タンパク質、亜鉛などの不足は、髪の成長に直接影響を与えるため、これらの項目をチェックすることは重要です。
全身の健康状態と栄養バランスの把握
血液は、体内の様々な情報を運んでいます。血液検査によって、貧血の有無、肝臓や腎臓の機能、脂質や糖の代謝状態、炎症の程度など、全身の健康状態に関する多くの情報を得ることができます。
これらの情報は、栄養素の吸収や代謝に関わる問題点を発見する手がかりとなり、間接的に髪の健康状態を評価することにもつながります。
脱毛原因の特定への手がかり
血液検査の結果から、特定の栄養素の欠乏や過剰、あるいは甲状腺機能異常や自己免疫疾患といった内科的な問題が見つかることがあります。
これらは脱毛の原因となる可能性があるため、血液検査は脱毛原因を特定し、適切な治療方針を立てる上で重要な役割を果たします。
例えば、フェリチン(貯蔵鉄)の値が低い場合は鉄欠乏が示唆され、鉄分の補給が薄毛改善の一つの対策となり得ます。
主要な検査項目とその見方
脱毛に関連してチェックされる血液検査の項目は多岐にわたりますが、ここでは特に栄養状態の評価に重要な項目をいくつか紹介します。
血球計算(赤血球、白血球、血小板)
赤血球数やヘモグロビン値は、貧血の指標となります。貧血があると、頭皮への酸素供給が不足し、髪の成長に影響が出ることがあります。白血球数は、炎症や感染、免疫状態の評価に役立ちます。
タンパク質関連(総タンパク、アルブミン)
総タンパクやアルブミンは、体内のタンパク質の栄養状態を反映します。
髪の主成分はタンパク質であるため、これらの値が低い場合はタンパク質不足が疑われ、髪の成長に必要な材料が不足している可能性があります。
鉄関連(血清鉄、フェリチン)
血清鉄は血液中の鉄の量を、フェリチンは体内に貯蔵されている鉄の量を反映します。特にフェリチンは、潜在的な鉄欠乏状態を把握する上で重要な指標です。
フェリチン値が低い場合は、鉄分の積極的な補給を検討する必要があります。これが抜け毛や薄毛対策の鍵となることもあります。
血液検査における主要な栄養関連項目と基準値の目安
検査項目 | 主な役割・関連 | 基準値の目安(施設により異なる) |
---|---|---|
ヘモグロビン (Hb) | 酸素運搬、貧血の指標 | 男性: 13.0-17.0 g/dL, 女性: 12.0-15.0 g/dL |
フェリチン | 貯蔵鉄、鉄欠乏の指標 | 男性: 20-250 ng/mL, 女性: 10-150 ng/mL (薄毛対策では50ng/mL以上を目指すことも) |
総タンパク (TP) | 全身の栄養状態 | 6.5-8.2 g/dL |
アルブミン (Alb) | タンパク質の栄養状態 | 3.8-5.3 g/dL |
亜鉛 (Zn) | タンパク質合成、細胞分裂 | 70-130 µg/dL (薄毛対策では80µg/dL以上が望ましいとされることも) |
注意:基準値は検査機関や測定方法によって異なります。必ずご自身の検査結果と、検査を受けた医療機関が示す基準値を照らし合わせて確認してください。
ビタミン・ミネラル関連(ビタミンD、亜鉛など)
ビタミンDは免疫機能や細胞増殖に関与し、亜鉛はタンパク質の合成や細胞分裂に必要です。これらの栄養素の不足も、髪の健康に影響を与える可能性があります。
特に亜鉛は、髪の主成分であるケラチンの合成に不可欠であり、不足すると脱毛のリスクが高まります。食事からの摂取が難しい場合は、サプリメントによる補給も検討されます。
検査前の注意点
血液検査を受ける際には、いくつかの注意点があります。正確な検査結果を得るために、医師の指示に従いましょう。
食事制限の有無
検査項目によっては、検査前の食事が結果に影響を与えることがあります(例:血糖値、中性脂肪など)。
栄養状態を評価する検査の場合、通常は空腹時採血が推奨されることが多いですが、医師から特別な指示がない場合は、普段通りの食事で問題ないこともあります。事前に確認しておきましょう。
服用中の薬の申告
常用している薬やサプリメントがある場合は、事前に医師に申告してください。薬の種類によっては、検査結果に影響を与える可能性があるためです。
特にビタミン剤やミネラルサプリメントを服用している場合は、正確な栄養状態の評価のために、一時的に中断を指示されることもあります。
毛髪ミネラル検査 – 髪から読み取る栄養バランス

血液検査と並んで、体内の栄養バランスを知るための一つの方法として「毛髪ミネラル検査」があります。
この検査は、髪の毛を少量採取し、そこに含まれるミネラルの種類と量を測定することで、過去数ヶ月間の体内のミネラル蓄積状況や有害金属の汚染度などを評価するものです。
血液検査が「現在」の栄養状態を反映するのに対し、毛髪ミネラル検査は「長期間」の栄養状態の傾向を知るのに役立ちます。
毛髪ミネラル検査とは
毛髪は、血液から栄養を取り込んで成長します。そのため、血液中のミネラル成分が毛髪に取り込まれ、記録されていきます。
毛髪は1ヶ月に約1cm伸びるため、例えば根本から3cmの毛髪を検査すれば、過去約3ヶ月間の体内のミネラルバランスを推定することができます。
検査の仕組みと特徴
採取した毛髪を特殊な方法で洗浄・溶解し、ICP質量分析法などの高感度な分析機器を用いて、毛髪に含まれる必須ミネラル(カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、セレンなど)や有害ミネラル(水銀、鉛、カドミウム、ヒ素など)の濃度を測定します。
これにより、特定のミネラルの過不足や、有害金属の蓄積の有無を把握することができます。この検査は、抜け毛や薄毛の原因を探る上で、食事内容や生活環境の影響を評価する一つの手がかりとなります。
血液検査との違いと補完関係
血液検査は、主に血液中を循環しているミネラルの量を測定するため、直近の食事内容や体調によって数値が変動しやすいという特徴があります。
一方、毛髪ミネラル検査は、長期間にわたって体内に取り込まれ、蓄積されたミネラルの状態を反映するため、慢性的な栄養バランスの偏りや有害金属の蓄積傾向を把握するのに適しています。
両者は異なる側面から栄養状態を評価するため、互いに補完し合う関係にあります。両方の結果を総合的に見ることで、より詳細な栄養評価が可能になります。
毛髪から分かること
毛髪ミネラル検査では、健康維持に必要な必須ミネラルの過不足だけでなく、体に悪影響を及ぼす可能性のある有害金属の蓄積レベルも評価できます。
体内ミネラルの蓄積状況
カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、銅、マンガン、セレン、クロム、モリブデンといった必須ミネラルの体内レベルを評価します。
これらのミネラルは、それぞれが体の様々な機能に関与しており、バランスが崩れると健康問題や髪のトラブルを引き起こす可能性があります。
例えば、亜鉛や鉄の不足は、薄毛や抜け毛の直接的な原因となることが知られています。
毛髪ミネラル検査で測定可能な主なミネラル
ミネラルの種類 | 主な役割・毛髪への影響 | 不足時の主な症状(髪以外も含む) |
---|---|---|
亜鉛 (Zn) | タンパク質合成、細胞分裂。不足は脱毛、髪質の低下。 | 味覚障害、皮膚炎、免疫力低下 |
鉄 (Fe) | 酸素運搬。不足は毛髪への栄養供給低下、脱毛。 | 貧血、疲労感、息切れ |
銅 (Cu) | 鉄の利用促進、メラニン色素生成。バランスが重要。 | 貧血、毛髪の色素異常(過不足双方で) |
セレン (Se) | 抗酸化作用。不足は頭皮環境悪化の可能性。 | 心筋障害、爪の異常 |
有害金属の蓄積レベル
水銀、鉛、カドミウム、ヒ素、アルミニウムなどの有害金属は、知らず知らずのうちに食事や環境から体内に取り込まれ、蓄積されることがあります。
これらの有害金属は、必須ミネラルの働きを阻害したり、細胞にダメージを与えたりすることで、健康に悪影響を及ぼし、脱毛の原因となることもあります。
毛髪ミネラル検査は、これらの有害金属の蓄積度を評価し、デトックス(解毒)の必要性を判断する材料にもなります。
検査のメリットとデメリット
毛髪ミネラル検査には、他の検査にはないメリットがある一方で、結果の解釈には注意が必要な点もあります。
長期間の栄養状態を反映
最大のメリットは、数ヶ月単位での平均的なミネラルバランスを把握できる点です。これにより、一時的な食事内容に左右されない、慢性的な栄養状態の傾向を知ることができます。
これは、生活習慣病の予防や体質改善、そして長期的な薄毛対策を考える上で非常に有用な情報となります。
検査結果の解釈の難しさ
毛髪中のミネラル濃度は、食事だけでなく、パーマやカラーリング、使用しているシャンプー、生活環境など様々な要因の影響を受ける可能性があります。
そのため、検査結果の解釈には専門的な知識が必要です。単に基準値と比較するだけでなく、個々の生活習慣や他の検査結果と合わせて総合的に判断することが重要です。
自己判断せず、必ず医師や専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
検査を受ける際の注意点
毛髪ミネラル検査を受ける際には、いくつかの点に注意することで、より正確な結果を得やすくなります。
検査機関の選び方
検査の精度や評価方法は検査機関によって異なる場合があります。信頼できる検査機関を選ぶことが大切です。医療機関で実施している場合は、医師に相談して適切な検査機関を選んでもらいましょう。
検査項目や費用、結果の報告形式なども事前に確認しておくと良いでしょう。
結果の評価と食事改善への活用
検査結果が出たら、医師や専門家から詳しい説明を受け、内容を正しく理解することが重要です。不足しているミネラルがあれば、それを補うための食事指導やサプリメントの提案が行われることがあります。
また、有害金属の蓄積が見られる場合は、その排出を促すための対策が検討されます。検査結果を具体的な食事改善や生活習慣の見直しに繋げることが、薄毛予防や健康増進に役立ちます。
医師による問診と視診のポイント

薄毛や抜け毛の悩みで医療機関を受診すると、まず行われるのが医師による問診と視診です。
これらは、患者さんの状態を把握し、脱毛の原因を探るための基本的な診察であり、その後の検査や治療方針を決定する上で非常に重要な情報源となります。
患者さん自身も、自分の状態を正確に伝えることが大切です。
問診で確認する内容
問診では、医師が患者さんから脱毛の状況や生活習慣、既往歴などについて詳しく聞き取ります。これにより、脱毛の原因や考えられるリスク因子を絞り込んでいきます。
生活習慣(食事、睡眠、ストレス)
日々の食事内容(好き嫌い、外食の頻度、栄養バランスなど)、睡眠時間や質、仕事や私生活におけるストレスの状況などを詳しく確認します。
これらの生活習慣は、髪の健康に大きく影響するため、栄養障害やストレス性の脱毛を疑う上で重要な情報となります。正直に、できるだけ具体的に伝えることが、的確な診断につながります。
既往歴や家族歴
過去にかかった病気や現在治療中の病気、服用中の薬、アレルギーの有無などを確認します。特定の疾患や薬剤が脱毛の原因となることがあるためです。
また、両親や兄弟姉妹に薄毛の人がいるかといった家族歴も、遺伝的な要因が関与するAGA(男性型脱毛症)などの可能性を考える上で参考になります。
抜け毛の始まった時期や進行度
いつ頃から抜け毛が気になり始めたか、抜け毛の量や範囲はどのように変化しているか、特定の季節や状況で悪化するかなどを詳しく伝えます。
脱毛のパターンや進行速度は、原因を推測する上で重要な手がかりとなります。例えば、急激に抜け毛が増えた場合は、休止期脱毛や円形脱毛症などが考えられます。
視診による頭皮と毛髪の状態評価
問診に続いて、医師が実際に頭皮や毛髪の状態を目で見て確認します。これにより、脱毛の範囲や程度、頭皮の炎症の有無などを客観的に評価します。
頭皮の色や炎症の有無
健康な頭皮は青白い色をしていますが、炎症や血行不良があると赤みがかっていたり、黄色っぽくくすんでいたりすることがあります。
フケの量や質、湿疹、かさぶた、脂っぽさなどもチェックし、脂漏性皮膚炎や接触性皮膚炎など、頭皮トラブルの有無を確認します。これらは抜け毛を助長する原因となります。
毛髪の太さや密度、毛穴の状態
毛髪一本一本の太さやハリ、コシの状態、全体の密度などを観察します。特定の部位だけ毛が細くなっていたり、密度が低下していたりしないかを確認します。
また、毛穴の詰まりや炎症の有無も重要なチェックポイントです。
- 頭皮の色(正常、赤み、黄色み)
- フケの有無と状態(乾燥性、脂性)
- 皮脂の分泌状態
- 毛髪の太さ、ハリ、コシ
- 毛髪の密度(部位による差)
これらの視診所見は、脱毛の種類を判断する上で役立ちます。
マイクロスコープ検査の活用
視診をより詳細に行うために、マイクロスコープ(ダーモスコピー)を用いることがあります。
これにより、肉眼では確認しにくい頭皮や毛穴の状態、毛髪の太さなどを数十倍から数百倍に拡大して観察することができます。
頭皮や毛穴の詳細な観察
マイクロスコープを使うと、毛穴の詰まり具合、皮脂の酸化状態、頭皮のキメの細かさ、毛細血管の状態などを詳細に観察できます。
これにより、より正確な頭皮環境の評価が可能となり、適切なスカルプケアや治療法の選択に繋がります。栄養不足による頭皮の乾燥や、皮脂の過剰分泌による毛穴トラブルなども明確に捉えることができます。
脱毛のパターンの確認
毛髪の太さが均一か、細い毛(軟毛)が増えていないか、一本の毛穴から生えている毛髪の本数(通常2~3本)が減っていないかなどを確認します。
AGA(男性型脱毛症)では、毛髪の軟毛化が特徴的な所見として観察されます。マイクロスコープ検査は、脱毛の進行度やパターンを客観的に評価し、治療効果の判定にも用いられます。
検査結果の見方 – 基準値との比較方法

血液検査や毛髪ミネラル検査などを受けた後、結果の数値が何を意味するのか、どのように解釈すればよいのかは非常に気になるところです。
検査結果は、一般的に「基準値(参照範囲)」と比較して評価されますが、その見方にはいくつかのポイントがあります。自己判断せずに、必ず医師からの説明を受けることが最も重要です。
基準値(参照範囲)の理解
検査結果の報告書には、各検査項目の測定値とともに「基準値」または「参照範囲」という数値が記載されています。
これは、健康な人の集団の検査結果から統計的に算出された範囲であり、多くの健康な人がこの範囲内に収まることを示しています。
基準値の意味と設定根拠
基準値は、一般的に「健康な人の95%が含まれる範囲」として設定されます。つまり、健康な人でも5%の人は基準値から外れることがあるということです。
また、基準値は検査機関や測定方法、検査機器によって若干異なる場合があります。そのため、ご自身の検査結果は、その検査を実施した機関が設定している基準値と比較することが基本です。
基準値は絶対的な「正常」と「異常」の境界線ではなく、あくまで一つの目安として捉えることが大切です。
個人差や体調による変動要因
検査結果の数値は、年齢、性別、人種、生活習慣(食事、運動、睡眠、喫煙、飲酒など)、採血時の体調、服用中の薬など、様々な要因によって変動します。
そのため、基準値からわずかに外れていたとしても、必ずしも病気や異常があるとは限りません。
逆に、基準値内であっても、自覚症状がある場合や、過去の自分の数値と比較して大きな変動がある場合は注意が必要です。
自分の検査結果と基準値の比較
検査結果を受け取ったら、まずは各項目の数値が基準値の範囲内にあるか、それとも範囲外(高いか低いか)にあるかを確認します。そして、その結果が何を意味するのかを医師に尋ねることが重要です。
基準値から外れている項目の特定
基準値から外れている項目があった場合、それがどの程度外れているのか、また、その項目がどのような体の状態を反映しているのかを理解する必要があります。
例えば、フェリチン(貯蔵鉄)が基準値よりも低い場合は鉄欠乏が疑われ、これが抜け毛や薄毛の一因となっている可能性があります。医師は、他の検査項目や問診、視診の結果と合わせて総合的に判断します。
検査結果の解釈例 – 低値・高値の場合に考えられること(栄養関連)
検査項目 | 基準値より低い場合 | 基準値より高い場合 |
---|---|---|
フェリチン(貯蔵鉄) | 鉄欠乏性貧血、潜在的鉄欠乏(抜け毛の原因) | 鉄過剰症、炎症、肝疾患など |
亜鉛 | 亜鉛欠乏(脱毛、味覚障害、皮膚炎の原因) | サプリメントの過剰摂取など(まれ) |
総タンパク・アルブミン | 栄養不良、肝疾患、腎疾患(タンパク質不足で髪の材料不足) | 脱水など |
これはあくまで一般的な例であり、個別の解釈は必ず医師に確認してください。
複数の検査結果の総合的な評価
多くの場合、単一の検査項目の異常だけで診断が確定するわけではありません。複数の検査項目の結果や、問診、視診、その他の検査結果を総合的に考慮して、医師が診断を下します。
例えば、ヘモグロビン値が低く、フェリチン値も低い場合は鉄欠乏性貧血の可能性が高いと判断されますが、他の要因も考慮して治療方針が決定されます。
栄養状態の評価においても、特定の栄養素の不足だけでなく、全体のバランスを見ることが重要です。
栄養状態の評価と改善策の検討
検査結果に基づいて、現在の栄養状態を評価し、問題があればその改善策を検討します。これが、栄養障害による脱毛症の対策の第一歩となります。
不足している栄養素の特定
検査結果から、特に不足している栄養素(例:鉄、亜鉛、タンパク質など)が明らかになった場合、まずは食事内容の見直しを行います。
どの食品にその栄養素が多く含まれているか、どのように調理すれば効率よく摂取できるかなど、具体的なアドバイスを医師や管理栄養士から受けることができます。
食事からの改善が難しい場合は、サプリメントの利用も検討されます。
過剰な栄養素や有害物質の有無
毛髪ミネラル検査などでは、特定のミネラルの過剰摂取や、有害金属の蓄積が明らかになることもあります。
この場合は、過剰な栄養素の摂取を控える、あるいは有害金属のデトックスを促すような食事療法や生活習慣の改善が指導されることがあります。
バランスの取れた栄養状態を目指すことが、髪の健康を取り戻すための鍵です。
追加検査の必要性 – より詳しく調べる場合

血液検査や毛髪ミネラル検査、医師による問診・視診を行っても、脱毛の原因がはっきりと特定できない場合や、他の疾患の可能性が疑われる場合には、さらに詳しい追加検査を行うことがあります。
これらの検査は、より専門的な観点から原因を絞り込み、適切な治療法を見つけるために重要です。
血液検査や毛髪ミネラル検査で原因が特定できない場合
基本的な栄養スクリーニング検査で明らかな異常が見つからないものの、脱毛が進行している場合や、他の症状を伴う場合には、以下のような検査が検討されることがあります。
ホルモンバランス検査
男性ホルモンや女性ホルモン、甲状腺ホルモンなどのバランスの乱れは、脱毛に影響を与えることがあります。例えば、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)はAGA(男性型脱毛症)の主な原因物質です。
また、女性でもホルモンバランスの変動(出産後、更年期など)によって脱毛が起こることがあります。これらのホルモン値を測定することで、ホルモン性の脱毛症の診断や治療方針の決定に役立てます。
特に、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など、特定の婦人科系疾患が疑われる場合にも重要です。
甲状腺機能検査
甲状腺は、体の新陳代謝をコントロールするホルモンを分泌する器官です。甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)や甲状腺機能低下症(橋本病など)といった甲状腺の病気は、脱毛を引き起こすことがあります。
血液検査で甲状腺ホルモン(TSH、FT3、FT4など)や自己抗体(抗TPO抗体、抗Tg抗体など)を測定し、甲状腺機能に異常がないかを確認します。
甲状腺疾患が原因であれば、その治療を行うことで脱毛の改善が期待できます。

自己免疫疾患の疑いがある場合
円形脱毛症のように、自己免疫反応が関与していると考えられる脱毛症の場合、関連する自己抗体の検査を行うことがあります。
抗核抗体検査など
抗核抗体(ANA)は、自己免疫疾患のスクリーニング検査の一つです。全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病では、脱毛が症状の一つとして現れることがあります。
抗核抗体が高い場合、さらに詳細な自己抗体の検査(抗ds-DNA抗体など)や、専門医(リウマチ科など)への紹介が検討されます。
ただし、抗核抗体は健康な人でも陽性になることがあるため、結果の解釈には注意が必要です。
専門医との相談の重要性
脱毛の原因は多岐にわたり、時には複数の要因が複雑に絡み合っていることもあります。
自己判断でサプリメントを摂取したり、民間療法を試したりする前に、まずは皮膚科や薄毛治療専門のクリニックを受診し、専門医に相談することが重要です。
検査結果に基づく総合的な診断
医師は、問診、視診、各種検査結果を総合的に評価し、脱毛の原因を診断します。栄養障害が主な原因であると判断された場合でも、その背景にある生活習慣や他の疾患の可能性も考慮に入れます。
正確な診断が、効果的な治療への第一歩です。
個別化された治療計画の立案
診断に基づいて、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立案します。栄養指導、内服薬や外用薬の処方、生活習慣の改善アドバイスなど、多角的なアプローチで治療を進めます。
追加検査が必要と判断された場合も、その目的や内容について十分に説明を受け、納得した上で検査を受けるようにしましょう。
医師との信頼関係を築き、二人三脚で治療に取り組むことが、薄毛改善への近道です。
よくある質問 (FAQ)
この記事では栄養障害に伴う脱毛症の原因と検査方法に焦点を当てて解説しました。具体的な治療法や予防策についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
より深い理解と実践的な対策のヒントが見つかるはずです。
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